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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第一章 俺が親善大使?

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1.依頼?

第二部の登場人物紹介を修正しました。

 ユマさんの予告通り、翌週には王政府から正式な召喚状が届いた。

 俺が近衛騎士の承認を受けた、あのお城に来いという内容だ。

 何を言われるのかについては書いてなかった。

 その日の夕食会でユマさんが説明してくれた。

 出席者はジェイルくんを除くヤジマ商会組とユマさんだけだ。

 ジェイルくん、最近メチャクチャに忙しいんだよね。

 すまん。

 ラナエ嬢はセルリユ興業舎の仕事に忙殺されているらしいし、ミラス殿下や近習は用があるとかで参加していない。

 少し寂しいかな。

「貴族に公式の命令を伝えるための儀式です。

 大規模な公共工事の指揮者として任命したり、軍隊の将軍に任じる場合もあります」

「将軍っているんですか?」

 戦争もないのに。

「国境警備隊には将軍位を持つ軍人が赴任することになっています。

 アレスト市の南方の帝国国境にもありますが、大規模な砦の指揮官は将軍ですから」

 そうか。

 戦争してなくても、重要な拠点の指揮官は高位の軍人なのか。

「で、これって」

「はい。

 先日お話した通り、マコトさんを親善大使に任じるためのものですね」

 やっぱり。

 こっちの意思は関係ないのかよ。

 まあ俺も子爵なんだから、ソラージュの貴族制度にどっぷりハマッているわけだしな。

 貴族という身分は、ただ平民より偉いというだけじゃなくてソラージュという組織における正規職員のようなものだ。

 つまりトップである王陛下の部下だね。

 だから、命令されたら従わなければならない。

 それは判るけど。

 面倒くさいなあ。

「普通の貴族なら強制ですが。

 実は、マコトさんの場合は少し特殊です」

 ユマさんが笑いながら言った。

「それはどういう?」

「先日もお話したと思いますが、王政府から公式に命令された場合、貴族に拒否権はありません。

 せいぜい病気と称して爵位を譲って引退するか、あるいは嫡子を代理として送り出すくらいですね。

 ですが、マコトさんは子爵であると同時に近衛騎士で、しかも『迷い人』ですからその気になれば王政府の命令を拒否できます」

 そうなんですか!

 だったら。

「もっとも王政府にも面子というものがありますから。

 予め打診して、断られそうなら命令を引っ込めることになるわけです。

 ですが、マコトさんは了承するとお返事してしまいました」

「え?

 俺はそんなこと、全然知りませんが」

 ユマさんは申し訳なさそうに頭を下げた。

「ですから私が非公式に打診したわけです。

 ちゃんと断ってもいい、と言いましたよね?

 でもマコトさんは断らなかったので」

 あれか!

 ユマさんが王政府からの打診を俺に伝えたわけか!

 酷い罠だ。

 てことは。

「はい。

 王政府は既にマコトさんが了承したという前提で話を進めています。

 この時点でひっくり返すのは大変ですよ。

 出来なくはないですが」

 はいはい。

 判りましたよ。

 つまり、今俺が嫌だと言えばそれは通るだろうけど、政府に大恥をかかせることになる。

 そして、その責めはユマさんに向かう訳か。

 しょうがないなあ。

 俺としてもユマさんに責を負わせるわけにはいかないからね。

 面倒だけど、どうしても嫌というほどでもないから。

 まあいいか。

「判りましたよ。

 でも、ユマさんがここまでやるということは、裏があるんでしょう?」

 俺が当てずっぽうで言うと、ユマさんがほおっとため息をついた。

「さすがです、マコトさん。

 我が(あるじ)として申し分なく……」

「それはいいから」

 何か言いかけたユマさんを、慌てた様子のヒューリアさんが遮った。

 何?

「まあ、いいでしょう。

 機会はこれからいくらでもありますし。

 実は、既にハスィーやジェイルさんにはお話してあるのですが、マコトさんには近日中にセルリユ、いやソラージュから離れて頂きたいのです」

 唐突な。

「理由を聞いても?」

「もちろんです。

 この間の『襲撃』で敵方の姿がはっきりしてきたわけですが、これからお互いに戦争状態(こうしょう)に入ることになります。

 その際、弱みは少ないほど良い」

 なるほど。

 こっち側は俺自身が弱みなわけか。

 確かに俺は指揮官でもなければ戦闘員でもない。

 はっきり言って戦争には必要がないものだ。

 しかも俺の存在はヤジマ陣営にとってはジークフリートの背中の弱点のようなもので、ピンポイントで叩かれたらその時点で負けてしまったり、あるいはヤジマ商会側がキレて全面戦争に突入してしまうかもしれない。

 だから避難させようと。

「申し訳ないのですが」

「いえ、当然のことです。

 つまり戦争が終わるまではむしろ俺の存在が邪魔になるわけですね」

 ユマさんが目を伏せた。

「こんなことを申し上げるのは心苦しいのですが、明確な弱点をそのままにして()り合うのは不利です。

 敵の目標はヤジマ商会でもヤジマ学園でもなく、マコトさん個人なのですから」

 そうなんだろうな。

 例えば今俺が死んだら、ヤジマ商会はそれだけで瓦解する。

 会舎組織のふりをしているけど、ヤジマ商会は未だに俺個人と言ってもいいんだよね。

 ハスィーやジェイルくん、あるいはラナエ嬢なども重要な存在ではあるけど、ある意味代替がきくコマでしかない。

 しかも、俺自身はもはやヤジマ商会の業務にそれほど関与してないから、王都にいなくても別に支障は出ないと(泣)。

 金を集めているだけで。

 さらに言えば、よく考えたら俺は別にソラージュにいなくても良さそうじゃないか。

 ていうか、むしろ外国で債券を売りまくるとかも有り?

「了解しました。

 つまり、親善大使の仕事を引き受けることで合法的にソラージュを脱出できるということですね」

「はい。

 王政府の命令なのですから、非難される筋合いはありません。

 むしろ、マコトさんがソラージュの臣民としての義務を果たすということで賞賛されるはずです」

 これもユマさんの大戦略のひとつなんだろうな。

 よし判った。

 ていうか、むしろ楽しそうじゃない?

 前にも思ったけど、俺ってこっちの世界はソラージュのアレスト市と王都しか知らないんだよな。

 外国を見て回れる口実が出来たと思えば。

 いや待てよ。

 見るからに面倒くさそうだけど、親善大使って何をするんだ?

「特にないですわね」

 ヒューリアさんが言った。

「強いて言えば、お愛想を振りまくことでしょうか」

 何それ。

 ユマさんが補足した。

「普通なら、大使などの特別任命職は王政府から任務を与えられてそれを達成する義務がありますが、今回の任命は北方諸国からの要請に基づくものです。

 つまり、マコトさんが親善大使として訪問すること自体が任務で、何をするかについてはフリーハンドとなります。

 そもそも親善大使は『大使』とついてはいますが、別にソラージュを代表する外交官というわけではなく、外交特権もかなり制限されます。

 文化交流のための箔が付いた民間人といった所ですね」

 何その都合がいい設定?

 仕事はないって?

 観光旅行してればいいってこと?

「王政府が何を言ってくるかは判りませんが、私が聞いた所では特に問題はなさそうかと。

 行く先なども、マコトさんに任せられると思います。

 これを機会に、ヤジマ商会の海外進出を進めてみても良いかもしれませんね」

 聞いたところじゃなくて、ユマさんが全部計画したんじゃ?

 「略術の戦将」の大戦略がどこまで伸びているのか知らないけど、これはまず間違いないだろう。

 まあいいか。

 俺に不利になることをユマさんがするはずがないしな。

 俺としては、ユマさんの戦略に乗って粛々と歩めばいいわけだ。

「判りました。

 受けます」

「それは重畳です。

 ではそのように」

 すると、ずっと黙っていたフレアちゃんが口を挟んだ。

「マコトさん、親善大使として北方に行かれるのですか?」

「そうなりそうだね」

「でしたら、この際ハスィー様とご結婚なされて、新婚旅行をされたらいかがでしょうか。

 親善大使でしたら奥様を同行された方が絶対に良いと思いますよ?」

 結婚?

 俺は思わずハスィーを見た。

 ハスィーの白い頬が、みるみるうちに染まっていく。

 これはもう、詰んだ?

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