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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第八章 俺が経営コンサルタント?

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23.威力偵察?

「で、一体何だったんですか?」

 俺の第一声に、その場にいるみんなは顔を見合わせた。

 全員、知っているらしい。

 俺だけ蚊帳の外?

「わたくしもよく判りません。

 説明して下さい」

 俺の隣に座って、俺の手を握りしめているハスィーが押し殺したような声を上げる。

 緊張が走った。

 傾国姫って、マジで恐れられているな。

 いやむしろ畏れられているのか。

 逆らったら祟られそうで。

「ハスィー、落ち着いて。

 今話すから」

 さすがのユマさんも多少は慌てているらしい。

 視線を合わそうとしないし、口調に焦りが感じられる。

 そんなに怖いんだったら、最初から全部打ち明けておけばいいのに。

 いや、それでは作戦に支障を来すのか。

 俺は、改めて回りを見回した。

 ここはヤジマ商会のメインリビングルーム。

 ソファーが配置された広い部屋だ。

 普段はイザカヤ形式の夕食会で使われているが、今はまだ夕食の時刻には早い。

 今回の事件に関する説明を求めたところ、外出していた人が戻るのを待って集合がかかったのだ。

 ここにいるのはまず俺、アレスト伯爵邸から戻ってきたハスィー、ジェイルくんにヒューリアさんのヤジマ商会組。

 フレアちゃんはミラス殿下が保護している。

 いや、ヤジマ学園で残務整理とかして貰っているんだけど。

 ヤジマ学園にも襲撃があったので、ミラス殿下が断固として離さないのだ。

 その方が都合がいいので、お任せした。

 王太子のそばにいれば、おそらくソラージュでも二番目くらいには安全だろうし。

 司法管理官のユマさんは当然として、急遽駆けつけてきたノールさんもいる。

 どうも、ノールさんから離れたのはユマさんの独断だったようで、ノールさんは無表情ながら相当怒っているご様子。

 ユマさんが気まずそうに視線を逸らせていた。

 後で叱られそうだな。

 その他にはカールさんとナレムさんの主従も出席していた。

 ナレムさんはハマオルさんやリズィレさんと並んで壁際に立っているけど。

 まあこの人たちは「(あるじ)殿」の前で座るなんてことは、死んでもしなさそうだからしょうがない。

 そして王太子府からはグレンさんが参加していた。

 どうも、この人も最初から噛んでいたっぽい。

 司法省や王太子府を巻き込んだ大作戦だったわけだ。

 もちろん、指揮はユマさんだろうな。

「マコトさんのご質問に答えますと、威力偵察とその迎撃、といった所でしょうか」

 ユマさんがおっとりと言った。

 口調と内容が全然合ってませんよ。

「威力偵察ですか」

 あれが?

 俺の書斎は大地震の後みたいだったし、ヤジマ警備の警備員の人たちにも負傷者が出ているんだよ。

 ヤジマ商会の一階部分も、かなり壊されたらしいし。

 覆面集団が強引に突入してきた時に、ドアとかが破られたと聞いている。

 それが偵察?

「はい。

 軽傷者は出ましたが、誰も死んでおりませんし、被害も軽微でした」

 軽微ね。

 俺の書斎も軽微な損害か。

 まあ、屋敷ごと倒壊させられたり、燃やされたりするのに比べたらマシだったけど。

「それで?

 そもそも、なぜ威力偵察なのでしょうか」

 ハスィーが俺の疑問を代言してくれた。

「敵が、こちら側の覚悟や防衛体制を試したのですよ。

 どれくらいの防御力があるか。

 情報はどの程度漏れているか。

 そして、マコトさんの警護体制はどうなっているのか」

 そうか。

 確かに、俺を確実に仕留めるのが目的だとしたら、今回の襲撃は不十分だった。

 ジェイルくんやユマさんが何もしてなかったら俺は殺られていたかもしれないけど、事前に準備していれば簡単に防げる程度の攻撃でしかなかったよね。

 まあ、一階から攻め上ってくるのと同時に屋根から窓を破ってピンポイントで俺の書斎に侵入してきたりしていたけど。

「防げなかったのですか?」

 ハスィーが糾弾する。

 傾国姫はかなり怒っているな。

 ヤジマ商会にみすみす侵入されて、俺を危険に曝したという事以外にも、自分が何も知らされないままアレスト伯爵邸に避難させられていたことが気にくわないのだろう。

 でも、ハスィーの安全が一番だからね。

 その判断は支持する。

 ハスィーが怖いから、口には出さないけど。

「防いでしまうと情報を得られません。

 さらに、次の攻撃の予測が難しくなります。

 幸い捕虜を確保出来ましたし、ある程度は牽制にもなりました」

 ユマさんが淀みなく説明した。

 あいかわらず明快だけど、ハスィーのお気には召さないだろうな。

 これ以上傾国姫を刺激しないために、俺は慌てて割って入った。

「それは判りました。

 今後のために、必要なことであったと了解しました。

 ということで、何か判りましたか?」

 ユマさんは、テーブルにあるコップから水を一口飲んだ。

「まず、敵対者はこちらが想定していたより大規模で、組織化されていることが判明しました。

 指揮系統がしっかりしている、というよりは資金源と実行部隊は別ですね」

「と言われますと?」

「今回、ヤジマ商会を襲撃したのはプロです。

 もちろん暗殺部隊といったものではありませんが、軍隊に準ずるくらい統制がとれた私兵集団だった可能性があります」

 そうなのか。

 つまり、私兵を持てるほど規模が大きな組織が敵ということか。

「いえ、言葉が足りませんでした。

 傭兵集団が襲撃を行い、それを雇ったのはまったく関係がない組織または個人だということですね。

 つまり、襲撃自体はビジネスだったと」

 凄いなあ。

 ゴルゴみたいなのが俺を襲ってきたのか。

 いや違うか。

「マコト殿の書斎に侵入してきたのは、それ専門の者だったらしいぞ。

 ナレム、説明を」

 カールさんの言葉に、壁際のナレムさんが静かに言った。

「明らかに、非合法襲撃に慣れた者どもでしたな。

 練度も高い。

 ドアごしの私の闘気に反応して、それ以上の攻勢を止めております。

 引き際も鮮やかでした」

 厨二だ。

 やっぱ、ナレムさんは「気」だけで敵を足止めしたのか。

 アニメやラノベの世界って、ホントにあるんだなあ。

 するとジェイルくんが口を挟んだ。

「捕虜が何人か出たわけですが」

「あれは捨て駒というか、生贄ですね」

 ユマさんが素っ気なく応える。

「カモフラージュと言いましょうか、襲撃の主体をこちらに誤認させるための囮です。

 それもあわよくばと言った所で、ほとんど期待もされていないと思いますよ」

 ややこしくなってきたなあ。

 もっと詳しく説明して欲しい。

「確かに、プロの傭兵との練度の乖離が大きすぎますが」

 ハマオルさんの説明では、襲撃してきた覆面の男たちは無理することなく、攻勢を阻まれるとお互いに連携しながら素早く引き上げたそうだ。

 捕虜になったのは、ユマさんを襲ったあの何とか言う王太子の元近習を含めて、その連携から外されていた者だけだったらしい。

 最初から置いて行かれる予定だったのか。

 グレンさんが口を開いた。

「レベリオやソロンの他は、やはり貴族の子弟たちでした。

 ヤジマ学園を退学になったり、入学試験に落ちた者で、ヤジマ商会系列の企業との競合に敗れて倒産した商会の者もいるようです」

「その方たちは、本命ではないと?」

 ヒューリアさんの質問に、グレンさんが肩を竦めた。

「間違いない。

 ちょっと聞いてみたが、要するにヤジマ商会やヤジマ学園に私怨があっただけで、そこをうまく利用されたんだろう。

 正直、あまりにも愚かで弁解のしようもない行動だ。

 賭けてもいいが、今回の襲撃の企画者たちのことは何も知らないだろうな」

 囮って、そういうことか。

 襲撃自体が失敗することも織り込み済みで、その犯人として差し出されたということで。

 そんな連中が、俺の敵対者と繋がっているはずがない。

 そして、それが見抜かれることも想定済みなんだろうな。

 高度な情報戦というわけか。

「今回の事件は、表面的には取り押さえられた者たちの犯行として処理されます。

 もちろん『戦争』はこれからです。

 これでお互いの覚悟と意図が判明したわけですから、今後は本腰を入れていく必要がありますね」

 「戦争」って言ったよ!

 ユマさん、戦る気満々ですね。

 俺としては、ある程度は妥協してでも何らかの平和条約を結びたいところなんですが。

「もちろん、そのつもりですよ?

 全面戦争はお互いに望んでいません。

 ただ、本当に戦る覚悟と準備がないと、話し合いにもならないということです」

 勘弁してよ!

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