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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第八章 俺が経営コンサルタント?

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17.学祭?

 それにしても、ヤジマ学園にも俺に敵意を持つ者がいるのか。

 ホスさんが言っていたけど、俺と直接会わずに行動の結果だけ聞いたり、ヤジマ商会の商売で実家の事業が打撃を受けたりしている人は、最初から悪感情を持つことがあるということだな。

 タルゴ男爵家のソフィエさんなんかも、最初は俺が野生動物を搾取していると勘違いして怒鳴り込んできたし。

 そういう人って結構いるのかも。

 嫌だなあ。

 そんな人にまでは、責任持てないよ。

「視線に込められている程度の悪意では、直接危険があるとは考えにくいでしょう。

 しかし、手引きされたり情報を漏らされたりする可能性はあります。

 そういう事は私どもが対処いたしますので、(あるじ)殿が気にすることではありません」

 ハマオルさんが言ってくれたけど、気になるよね。

 あー、嫌だ嫌だ。

 だから事業なんかやるもんじゃない。

 俺はただのサラリーマンなんだよ!

 支配者とか為政者とかじゃないのだ。

 責任なんか取れないって。

「マコトさんは正しいことをされておりますよ。

 それに、マコトさんの行動によって幸せになったり生活が上向いたりした人の方が、ずっと多いのですから」

 ハスィーが慰めてくれたけど、そういうことじゃないんだよ。

 俺が弱いのがいけないのだ。

 こんなことじゃ駄目だな。

 ハスィーも守れない。

 俺も立派な社会人なんだから、自分のケツは自分で拭かないと。

 気を取り直してモレルさんに聞く。

「教養学部基礎コースは大体判りました。

 他をお願いします」

「かしこまりました」

 モレルさん、口調が違ってきている気がするんですけれど。

 俺はたかが成り上がりの子爵ですよ?

 侯爵の嫡子だったモレルさんの方が、立場的には遙かに上でしょう。

「今の私は、貴族家のものというだけです。

 それに対してマコト殿は、最初からご自分のみの力で立っておられる。

 憧れます」

 装甲擲弾兵総監が何を!

 聞かなかったことにしよう。

「次は教養学部の専門学科です」

 モレルさんを先頭にゾロゾロと集団で移動する。

 大名行列というか、大昔の映画であった「白い巨○」とかいうのに出てくる検診みたいだな。

 あんな権威の権化みたいなのが、俺に関係してくるとは思ってなかったなあ。

 ヤジマ学園は総合大学方式で運営されていて、つまり学部ごと用途ごとに建物がほぼ独立している。

 同じ敷地にあるんだけど、校舎は別なんだよね。

 教養学部は基礎コースと専門コースに分かれていて、基礎コースを修了した人が専門コースに進むわけだ。

 このため、専門コースの校舎は基礎コースとは別になっている。

 ていうよりは、そもそも目的が違うので建物の構造自体が違う。

 専門コースの部屋は研究室なんだよね。

 これもまた、日本の大学に習って俺が指示したことなんだけど。

 ホスさんたちが自分の研究室をよこせというので、それならばということで、専門コースは全部個室にしてしまったのだ。

 何、そんな特別な部屋ではない。

 基礎コースより狭い部屋をたくさん作っただけだ。

 今のところは文系だけで、工作機械とか実験装置などはいらないので簡単だった。

 理工学部は別の所に作らないとね。

 出来ればだけど。

 モレルさんが案内してくれているけど、実を言えば俺はこの建物をよく知っている。

 俺の設計だから。

 まあ、ジェイルくんに口頭で伝えただけなんだけど。

 それでも見ていると、俺の話したことが見事に再現されていた。

 正直、俺の大学に戻ったんじゃないかと思うくらいだ。

 新築のはずなのにもう廊下には色々なものがゴタゴタと放り出されているし、ポスターなのか告示なのか判らない紙がやたらに壁に貼ってある。

 変な臭いも漂っているぞ。

 ドアが開いている部屋があったので覗いてみたら、山のような資料があちこちに積んであった。

 まさしく、研究室だ。

「おお。

 マコト殿ではないか」

 声がかかったので見ると、ホスさんが手招きしていた。

「ちょっと寄っていかんか」

 せっかくのお誘いなので、モレルさんに断って入室する。

 俺とハスィーにモレルさん、それに護衛としてハマオルさんとリズィレさんだ。

 ホスさんは文句を言わない。

 この人も近衛騎士だからね。

 貴族の面倒くささは判っている。

 ホスさんの歴史研究室は、結構広かった。

 ヤジマ商会の顧問で、ヤジマ学園の理事という立場を利用したらしい。

 好きにして。

 小さなテーブルにつくと、ホスさん自らがお茶を入れてくれた。

 弟子の人たちはいないようだ。

「弟子たちはまだ呼んでおらん。

 奴らが来たら、あっという間にこの静寂が破られるのが目に見えておる」

 だろうな。

「良いお部屋ですね。

 窓が大きくて明るい」

 ハスィーが褒めた。

 うん。

 ステータスが必要だと思って、研究室には高価なガラス窓とかを使っているんだよね。

 日本の大学では研究室というと狭くて暗くてが当たり前だったけど、こっちでは権威の象徴だから。

「満足しておるよ。

 資料の搬入を手伝わせたわしの弟子たちも、争ってここに詰めたがっておる」

「学生はいかがですか?」

「現在、第一期生の志望者を選んでおるところだ。

 希望者多数なのは嬉しい。

 まあ、使い物になるかどうかは別じゃが」

 これからも次々に基礎コース修了者が現れるはずなので、慎重に選ぶつもりだ、とホスさんは語った。

 順調そうだな。

 それからしばらく当たり障りのない話をしてから、俺たちはホスさんの研究室を辞した。

 別れ際にホスさんが言ってきた。

「ヤジマ学園も人が増えて、色々策謀しておる連中がおるようだ。

 気をつけてな」

 やっぱりそうか。

 まあ、いつまでもみんな仲良しというわけにはいかないんだろうな。

 専門コースは他にも色々な学科があるが、大抵の部屋は鍵がかかっていた。

 まだ本格的に稼働していないらしい。

 引っ越しの最中と思われる研究室もあった。

「教授連が揃うのは、数ヶ月後になりそうです。

 その頃には教養学部基礎コースの修了生も揃っていますので、本格稼働はそれからですね」

 モレルさんが説明してくれたけど、それはいいのだ。

 続いて経営学部や野生動物学部の校舎も視察したが、まだ本稼働にはほど遠い状態だった。

 しょうがないよね。

 始まってからまだ半年くらいだし。

「やっと、学内がまとまってきた所です。

 もっとも学部ごとにバラバラで、統一感がないのが悩みです。

 ヤジマ学園の仲間であるという認識を持って貰いたいところですが」

 モレルさん、マジでもう完全に学園長化してない?

 俺はつい、言ってしまった。

「それなら学園祭をやりましょうよ」

「『学園祭』、ですか」

 モレルさんの目が光った。

 失敗(しま)った。

 またやった。

「それはどういうものでしょうか」

 もう駄目か。

「『学園祭』は一種のお祭りで、学内の研究室や学科単位、あるいはサークルが毎年の成果を発表するんです。

 その期間はすべての講義やテストなどをお休みにします。

 また、学園の活動を広く知って貰うために、学外からも人を招いて見て頂きます」

 学祭の正式な定義って、そんな所だろう。

 まあ日本の大学の学祭は完全にお祭りと化していて、真面目に研究発表している所なんかあまりないけど。

「もっと詳しく」

 モレルさんの目が据わっていた。

 いつの間にか、ジェイルくんと同じようなメモ帳とペンを構えている。

「ジェイル殿の業務ツールが素晴らしかったので、同じものを譲って頂きました」

 さいですか。

 もうしょうがないな。

「そもそもヤジマ学園に限らず『学校』というものは、社会から切り離されて孤立してしまう可能性が高い組織なわけです。

 よって、毎年学外の一般市民にもその成果を……」

 話しながら、諦観の念が心を満たしていくのが判った。

 これでまた、とんでもない事になるんだろうなあ。

 まあいいか。

 俺には関係ないし。

 なるようになるさ。

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