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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?

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4.納品?

 しばらく沈黙が続いた後、シルさんが「よーし、朝のミーティングを始めるぞ」と言うと、全員がぞろぞろと出て行った。

 ミーティングといっても、会議室のような所でやるのではなく、それぞれのパーティごとなのだろう。

 考えてみれば当たり前で、チームのすべての人が集まって今日の予定を話し合う、などという不必要なことをする必要はない。

 俺が前にシステムの設置を手伝った中小企業では、毎朝それをやっていたけどな。

 俺も巻き込まれて、隅の方で全員が何か言うのを拝聴していたけど、みんな自分の予定がどうのと言うだけで、他の人との関係が皆無だから、実に無駄だった。

 ああいうのって、社長の趣味というか経営理念によるんだろうな。情報を共有したい、と考えていたら、ああいう結果に繋がる。

 無意味だけどね。

 『栄冠の空』は、冒険者のチームといっても、多分パーティはそれぞれのリーダーの元で独自に動いているはずだ。

 チーム全体の情報は、それこそリーダーと副リーダーあたりが知っていればいいわけで、それ以外の人には関係のない話である。

 今回は、多分新入り(俺)のために集められたんだろうな。

 迷惑をかけてしまった。

 シルさんが声をかけてきた。

「マコト。とりあえず、君が所属するパーティを紹介する。こっちだ」

 ジェイルくんと一緒に奥のドアに向かう。

 まだ引率対象なんだよな、俺。

 早く巣立ちしたい……じゃなくて、そういう手続きか。

 高校の時の友達が正社員になれなくて、派遣会社の契約社員をやっていたんだけど、新しい派遣先に最初に行く時は、派遣会社の営業担当に引率されていくと聞いたことがある。

 派遣社員は商品なわけで、派遣会社の営業が商品を正式に派遣先に引き渡すための儀式みたいなものだと。

 もちろん、一度行ってしまえばもう、営業なんか関係ないらしいが。

 俺は派遣されたことがなかったけど、多分これと同じだろうな。

 マルトさんの商会が派遣元で、ジェイルくんが営業というわけだ。なんか、しっくり来すぎて痛い。

 ここで俺が何か失敗すると、マルトさんの評判が落ちるわけで、足が重くなってきた。

 膝がガクガクする。

 くそっ。

 うちの会社に内定したとき、もうこんなのは終わったと思っていたんだが。

 しかも、今度は正社員じゃなくてバイト、いやインターンか。研修生だからなあ。はっきり言って身内じゃないし、多分俺を育ててやろうなどという考えはまったくないだろう。

 バイトは即戦力が基本だ。

 使えないのなら首だ。

 ううっ。

「マコト、こちらがパーティ『ハヤブサ』のリーダー、ホトウだ。ホトウ、今日からパーティに加わるヤジママコトだ」

 目を上げると、すらりとした体形の男がいた。

 何ですか、この人。

 目が怖い!

「ヤジママコトくん。僕はホトウ・クルカだ。ホトウと呼んでくれ」

「あ、ヤジママコトです。ヤジマは家名です。マコトと呼んでください。よろしくお願いします」

 何とか声を絞り出した。

 だって怖いんだよ、この人。

 目が。

 猛禽の目なんだよ!

「パーティ名は『ハヤブサ』だ。というか、僕がリーダーの場合はそうしている。パーティのメンバーは固定されていないからね。仕事に合わせて、組み替えている」

 ホトウさんを、改めて観てみた。

 年齢は、俺の判断では30代前半だ。

 こっちの人の老け具合が判らないので、断言できないんだけどね。そもそも、技術の進歩と寿命はかなり相関があるらしいし。

 日本でも、江戸時代の平均寿命は50代だったそうだ。信長なんか50で終わると謡っていたらしいし。

 その頃の20代は、おそらく今の30代に見えただろうし、30代が壮年、40代ともなればもう初老だっただろう。

 こっちの世界の文明は、失礼だが日本で言うと江戸時代と同レベルに見える。つまり、俺が30くらいだと感じたら、20代の中頃とかそのあたりである可能性が高い。

 でも、そんなことはいいんだよ。

 圧倒されている。

 細いけど、スゲー鍛えてるぞ、この人。

 服の上からでもはっきり判る。ぴったりとした服とズボンを履いているんだけど、筋肉がうねっているのが見えるのだ。

 細マッチョという奴だな。

 ラノベではよく聞くけど、実際にそんな人を見るのは初めてかもしれない。大抵の人は細いモヤシか、太くてゴリラだもんな。

 身体も凄いけど、顔はもっとだ。

 細面で、どちらかというと優しそうなんだけど、目がすべてを裏切っている。物凄く鋭いというか、突き刺さるような視線を感じるのだ。

 ゴル○13が現実にいたら、こんな目をしているんじゃないだろうか。

 いや、俺も入社してから色々な人に会ってきたけど、こんな現役のスナイパーみたいな目をした人はいなかったよ!

 俺が立ちすくんでいる間にも、ホトウさんはジェイルくんと挨拶したり、シルさんと話したりしていた。

 ジェイルくんは平然と応対している。度胸あるなあ。というか、前から知り合いなんだろうな。

 社会に出ると、意外に自分の会社の人より取引先や顧客の人とよく知り合うものだ。特にIT産業の場合、同じ会社の人だけで仕事するということはまずない。

 俺の知り合いで、大手の派遣会社でIT技術者をやっている人から聞いたところによると、例えば銀行さんのシステム部なんかは、10人のグループだとほとんどが違う会社の社員だったりすることも珍しくないそうだ。

 銀行の行員さんは一人だけ(お飾りのリーダー)で、あとはその銀行のシステム子会社の社員が一人か二人、それ以外は全員違う会社から派遣されてきた技術者だったりするらしい。

 長期派遣の場合、自分の会社に帰る(むしろ行く)ことは月に1回くらいで、あとはずっと銀行のシステム部で過ごすわけだから、下手すると自分の会社の人で知っているのは直属の上司しかいない、ということも有り得る。

 その代わり、一緒に仕事している人たちとは毎日会って話して協力するわけで、人脈が広がっていくとか。

 まあそれは極端な例だけど、マルトさんの商会が『栄冠の空』と頻繁に取引しているとすると、ジェイルくんが打ち合わせとかでよく会っている可能性が高い。

 俺をインターンとして預けるくらいだから、多分ホトウさんはよくマルト商会の仕事をやっているのだろう。

 俺が異世界人だと知っているのは、『栄冠の空』でも限られた人だけだろうし。

 ということは、おそらくホトウさんは知らされている。それだけ『栄冠の空』およびマルト商会の信頼が厚いということだ。

 怖いけど、俺の上司になる人だしな。

 ここはひとつ、早急にうち解ける必要はあるかもしれない。

 印象と違って優しい人かもしれないし。

 いや、ジェイルくんがいるからかも。

 いなくなった途端、ホトウズブートキャンプが始まったりして。

 不安だ。

 ジェイルくんが振り向いて言った。

「それでは、私は引き上げます。マコトは一人で帰れますよね?」

「はい、大丈夫です」

 多分。

 子供じゃないんだから、何とでもなるだろう。

 ジェイルくんは手を振って出て行った。

 これで、俺という商品がマルト商会から『栄冠の空』に引き渡されたことになる。

 さて、どうなるのか。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>日本でも、江戸時代の平均寿命は50代だったそうだ。信長なんか50で終わると謡っていたらしいし。 主人公が誤って覚えてる表現なのかもしれないけど、敦盛は、人間(じんかん、現世の事)の50…
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