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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第八章 俺が経営コンサルタント?

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7.賄い?

 とりあえず、その日はそこで引き上げることになった。

 資料などは後で届けて貰うことにする。

 といっても大したものはないだろうな。

 あっても交易に関するものがせいぜいだろうから、俺が考えている事業には役に立たないし。

「もう、何か考えつかれているようですね」

 ジェイルくんが言ってきた。

「判る?」

「もちろんです。

 私はヤジマ子爵家の第一の家臣ですよ。

 (あるじ)のお考えを察せなくては勤まりません」

 大番頭じゃなかったのか。

「大番頭はヤジマ商会の役職です。

 それとは別に、私はヤジマ子爵家の重臣のつもりですから」

 ジェイルくん、君も次々に肩書きが増えるね。

 しかも自分で増やしているという。

「マコトさんの側近は競争が激しいので。

 常に先手を打っていかないと、置いて行かれますから」

 さいですか。

 まあいい。

 みんなでヤジマ商会、じゃなくて隣の「ヤジマ経営相談(コンサルティング)」に戻り、そのまま会議室に集合すると、俺は言った。

「ご苦労様でした。

 決定事項として、オランダリ通商の相談案件は受けることにします」

 スタッフのみんなは緊張して俺を見つめている。

 照れるから止めて。

「とりあえずみんなにも現状を見て貰ったんだけど、海豚をメインに据えた事業を考えて欲しい。

 もちろん俺にも案はあるんだけど、まずみんなの提案を聞きたいんだ。

 あ、別に提案の出来不出来で評価が変わるわけじゃないから安心して。

 むしろ、どんな馬鹿げた事でも、やれそうだと思ったらどんどん出してくれ」

 しーん。

 まあ、そうだろうな。

 俺だって、北聖システムの社長からいきなりそんなことを言われても、反応しようがないし。

 変な事を言って社長の機嫌を損ねたくない事も判る。

 でもそれでは前に進めないんだよ。

 俺が面倒くさくなる。

「今すぐじゃなくてもいい。

 というよりは、オランダリ通商から資料が届くまでは、正式な事業化案をまとめようがないだろう。

 だから、叩き台みたいなものを作ってくれないか。

 個人ごとでもいいし、誰かと組んででもいい」

「質問、よろしいでしょうか」

 俺の正面に座っている小柄な男が手を上げた。

「君は?」

「フルス・ワリです。

 ヤジマ学園教養学部基礎過程を修了しました」

 フルスくんね。

 多分覚えないけど。

「ワリ家は食料関係の商人です。

 王都ではベスト5に入ります」

 ジェイルくんがサポートしてくれた。

 ホントに助かる。

 まあ、自分で選んだんだから知っていて当然か。

「どうぞ」

「我々が作るのは、事業化案と考えてよろしいのでしょうか」

 いきなりかよ。

「いや、それは最終的に作るから、とりあえずは事業の方向性くらいかな。

 採算性や投資金額、あるいは実現性なんかは、もっと調査しないと出てこないだろうし。

 ある意味、無責任でもいいからなるべくたくさんの提案を出して欲しいんだ」

「ティナ・フルーネです。

 荒唐無稽な案でもいいのですか?」

 ティナさんか。

 見事なプラチナブロンドだな。

 しかも眼鏡をかけている。

 ラノベ的だ。

「それは駄目だ。

 叩き台にしても、少なくとも自分では実現性があると思えるものにしてくれ。

 みんなの前で披露しても恥ずかしくないレベルで」

 ちょっと待ってみたが、誰も何も言わないのでそこで切り上げることにした。

 締切日を3日後にして、レポートの形で提出して貰うことにする。

 発表会でもするか。

 解散を告げると、スタッフのみんなは興奮した様子で会議室を出て行った。

 歩きながら、既に議論を始めている人もいるぞ。

 熱心だなあ。

 日本のサラリーマンとは違うな。

 俺なんかとてもそんなこと出来ない。

 というより、したくない。

「お見事です。

 マコトさん」

 ジェイルくんが書類を片付けながら言った。

「何が?」

「連中のやる気を引き出して見せましたね。

 私が選んだのは、ヤジマ学園の基礎過程を修了して経営学部に進学を希望している者が大半です。

 しかも、全員が次男や次女以下で実家の家業を継げる可能性が少ない。

 いずれ自分で事業を立ち上げるか、あるいは有力な商家などに雇用される必要がある者ばかりなんですよ」

 なるほど。

 つまり、今回の案件、というよりは「ヤジマ経営相談(コンサルティング)」は彼らの踏み台になるのか。

「そうです。

 出資はヤジマ商会ですから、連中にしてみればもの凄いチャンスなわけです。

 しかも、今回は自ら提案できるのですから、うまく行けばそのまま立ち上がる事業に参加できる。

 提案者はトップではないにしても、その事業において主要な立場に立てるでしょう。

 つまり、いきなり事業の経営に関われます。

 あ、すみません。

 こんなことは、マコトさんにとっては自明の理ですね」

 いや、知らなかったけど。

 でもまあ、そんな事だろうとは思っていたけどね。

 ジェイルくんのことだから、ヤジマ商会の発展に繋がるなら何でもやるだろうし。

「でも連中に提案させるとは思いませんでした。

 マコトさんの案が既にあるのでは?」

「もっといい提案があれば、それを採用するよ。

 俺の案が最高かどうか判らないしね」

 だって面倒くさいじゃないか。

 そもそも「ヤジマ経営相談(コンサルティング)」という会舎で受ける仕事なんだから、別に俺が全部やる必要はないわけで。

 張り切っている人がいるのなら、やって貰いたい。

「その辺が、私にはどうしても追いつけない所ですね。

 将の将というか、人の上に立つ風格というか。

 見習いたいです。

 私は、どうも自分一人でやってしまう癖があるので」

 ジェイルくん。

 自分一人で出来てしまうのなら、それに越したことはないと思うよ。

 俺はそんなこと出来ないし、そもそもやりたくないから。

「いいんですよ。

 私はマコトさんについて行くだけです」

 ジェイルくんは爽やかに笑うと去って行った。

 何か誤解しているみたいだけど、訂正するのも面倒だからいいか。

 忘れよう。

 さて、とりあえずこれで3日くらいは仕事が入ってこなくなるはずだ。

 暇って自分で作るもんだな。

 ハスィーでも誘ってまたデートしようか。

 そう思いながらヤジマ商会、じゃなくてヤジマ家の屋敷に戻ると、ちょうど昼になった所だった。

 メイドさんに今日はここで昼飯を食う旨を伝えて、とりあえず書斎に入る。

 外出着からゆったりとした室内着に着替えて、手と顔を洗う。

 ひとっ風呂浴びたいところだけど、それはいいや。

 さて昼飯だ。

 ここで、俺専用のランチが用意されるかと言えば、実は違う。

 昼飯については、屋敷で食うときは使用人と同じでいいと命じてあるのだ。

 つまり、賄いだ。

 子爵閣下のお食事がそれでは、と随分反対されたけど、そこは通し押した。

 もちろんお客様を招いての正式なビジネスランチは別だけど、普通の日の昼飯は俺も使用人の皆さんと一緒に使用人食堂のテーブルで食うのだ。

 子爵閣下が食うかもしれないので、賄いといえどきちんと予算を取って、毎回割合豪華なメニューになっている。

 いや豪華といっても多彩という意味だけど。

 これは使用人の皆さんには大好評で、ヤジマ商会の雇用希望者を激増させる結果になったらしい。

 ジェイルくんも呆れていたけど、彼も喜んで賄い飯を食っていたからな。

 それどころか、今は隣の屋敷に執務室がある元ギルド総評議長のカールさんや、フルー貴族院議員なんかもちょくちょく賄い飯を食べに来るほどだ。

 大量に作るから費用対効果が高いし、ビッフェ方式なのでいつ食ってもいいようにしてあるから、交代で食事をとる使用人の人たち向きでもある。

 これは俺が達成した偉業の一つである、と自負している。

 やっぱ、飯が美味いのが一番だよね?

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