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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第八章 俺が経営コンサルタント?

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4.連中?

 オランダリ通商は貿易会舎らしく港のそばにあった。

 広場で馬車を降りて、そこからは歩きだということだった。

 交通の邪魔になるからね。

 海が近いらしく潮の香りがきつい。

 道から家の隙間越しに貨物船のマストが見えるほどだ。

 こっちでも海の水は塩辛いのか。

 そういえば、俺こっちに来てから海って見たことなかったっけ。

 俺とジェイルくんの前と左右を護衛が取り囲んでゾロゾロと歩く。

 貴族だということが丸わかりだな。

 スタッフたちも続いている。

 後ろは悪いけど、このスタッフたちが肉の壁となって守ってくれるらしい。

 嫌だなあ。

「この辺は貿易会舎の事務所が集まっているようですね。

 税関が近いですから。

 倉庫などは別の地区にあります」

 ジェイルくんが教えてくれた。

 こっちにも税関があるのか。

 まあ、そうだろうな。

 会舎があって国があるんなら、どうしたって税関は必要になってくる。

 国の重要な収入源だからね。

 俺の好きな海洋小説で読んだけど、例えばナポレオン戦争時代のフランスだと、戦争で負傷したり軍務に耐えられなくなった軍人が優先的に税関職員として採用されていたらしい。

 高収入で危険もなく安定した公務員だから、ご褒美として雇っていたようなんだよね。

 つまりそれだけ国際的な貿易が盛んだったということだ。

 税金は国の基礎だからな。

「詳しいですね。

 あちらでは、その関係のお仕事を?」

 ジェイルくんが聞いてくるけど、違うよ。

 趣味だ趣味。

「そうですか。

 マコトさんの知識はあらゆる方面に渡っているんですね。

 私も精進しなければ」

 ジェイルくんの言葉に深く頷く随行のスタッフたち。

 いや、そんなんじゃないから。

 「オランダリ通商」の事務所は、最初見逃しかけたほど小さかった。

 とても男爵家の会舎とは思えない。

 日本のアパートみたいなドアに「オランダリ通商」と書かれたプレートがついている。

「ここですね」

「本当にここ?

 小さすぎるんじゃ」

「事務所ですから」

 ジェイルくんがしたり顔で言うのを尻目に護衛の人がドアをノックする。

 すぐに若い事務員が顔を出した。

 手早く会話して事務員が引っ込んだかと思うと上着をひっかけてすぐに出てくる。

「オロマスから言いつかっております。

 ご案内します」

 ここではないらしい。

 その若い舎員は狭い道を通って海の方に向かった。

 ハマオルさんが、さりげなく俺の前に移動する。

 両側は建物の壁なんだげと、ラノベとかだとこういう狭い道では襲撃があるからな。

 魔法で転移してきたりして。

 まあ、こっちではあり得ないけど。

 道を抜けるとそこは港だった。

 というか長屋みたいな建物がずっと続いていて、その向こうが海らしい。

 なるほど。

 大型の貨物なんかは無理だけどボートに乗る程度の貴重品はここから荷揚げするのか。

 「オランダリ通商」の舎員はまっすぐに正面の建物に向かう。

 扉が大きく開いた建物の内部はガランとしていた。

 窓もないのに明るいのは反対側の壁も開いていて、その向こうに海と空が見えるからだ。

 いいね。

 こういうの好きだな。

 いかにも海洋貿易の拠点というかんじで。

「少々お待ち下さい」

 若い舎員が俺に断って小走りで海の方に向かう。

 なかなか有能な舎員のようだ。

 俺が子爵だと判っているはずなのに臆する様子もない。

「ん?

 あの人は」

 ジェイルくんがちょっと不審そうに言ったが、すぐにあの舎員が背の高い男と一緒にこっちに向かってきたので立ち消えになった。

「ヤジマ子爵!

 ご足労すまない。

 オロマス・オランダリだ」

 長身の男がそう言って握手を求めてきた。

 多分男爵その人だよね?

 だって俺が貴族と知りながら対等に話しかけてくるんだもんな。

 実はこの辺、結構厳密な慣習がある。

 俺が子爵なのに対してオランダリさんは男爵だから、マナー的には俺から話しかけるべきなのだ。

 位が高い方に主導権があるからね。

 でも実際にはそんなことを守っている貴族は少ない。

 特に男爵・子爵といった下級貴族は俺やオランダリ男爵みたいな商人が多く、忙しいのにマナーなんかいちいち守っていられるか、という風潮が強いのだ。

 これは下級貴族に限らない。

 さすがに伯爵以上になると特に人目がある時にはマナー優先になるけど、密室とかだと公爵あたりでもざっくばらんが当たり前らしい。

 ララネル公爵やミクファール侯爵もそうだったしね。

 そもそもミラス殿下なんか王族なのにアレだし。

「ヤジママコトです。

 ヤジマは家名なので、マコトと呼んで下さい」

 近衛騎士から子爵になっても、この挨拶は変わらない。

 楽だし。

「承知した。

 私のことはオロマスと」

 やはりそうか。

「それから、これが娘のサラサだ。

 今回の件を担当させる」

 え?

 俺たちを案内してくれた若い舎員が帽子をとってペコリと頭を下げた。

「サラサです。

 よろしくお願いします。

 ヤジマ子爵閣下」

 女の子?

 いやボーイッシュなのでてっきり。

 いかんいかん。

 シイルの時もそうだったけど、こっちの働く女性はスカートなんか履かないので細身の男にしか見えないことが多いのだ。

 ハスィーみたいな女性らしい体形やラナエ嬢のようにフリフリスカートなら間違えようがないけど、シルさんだって最初はイケメンの男だとばかり思っていたからね。

「あ、どうも。

 サラサさん。

 私のことはマコトで」

 間の抜けた声になってしまったが、オランダリ男爵父娘は気にしていないようだった。

「お茶のひとつも出してもてなしたい所だが、ちょうど今来て貰っているから、さっさと紹介してしまおう。

 いいかね?」

 いや、いいかと言われても何のことやら判らないので。

「お父さん。

 それじゃ訳がわからないと思う。

 ヤジマ閣下……マコトさんが戸惑っていらっしゃるよ?」

 サラサさんの方は常識人だったらしい。

「それもそうか。

 だが、やはり会って貰った方がいい。

 説明しなくてもすぐに判るはずだからな」

「もう」

 サラサさんは、困った顔はしたがそれ以上は反対しなかった。

 女性だから小柄ということはないな。

 ほぼミラス殿下と同じくらいの身長とみた。

 短い髪は黒、瞳は緑で、いかにも俊敏そうな体形だ。

 つまりあまり胸はない。

 年の頃はラナエ嬢よりちょっと下か?

 いやハスィーも同い年だけど、俺の嫁は外見的には成熟した美女に見えるからな。

 サラサさんはエルフでもドワーフでもないから、ハスィーたち「学校」仲間より年下といった所だろう。

 でもやっぱり美少女なんだよね。

 ボーイッシュなんだけど正体を知った今は美少年には見えないな。

「ヤジマ子爵、こっちだ」

 ぼんやりとしていたら声をかけられた。

 いかん。

 ここには仕事で来ていたんだっけ。

 ええと、名前忘れたけどオランダリ男爵が手招きする方に進む。

 建物の反対側の扉を抜けると、そこはもう海岸だった。

 といっても砂浜ではなく荷役作業用の桟橋が続いている。

「ここはオランダリ通商の専用桟橋だ。

 連中の休憩所にもなっている」

 連中?

 サラサさんが階段を降りて浮き桟橋の上に立った。

 指を口にくわえて、ピィィッというような音を出す。

 何?

 すると、サラサさんの前の海面が盛り上がって、でかい身体が浮上してきた。

 海豚?

 キュィィィーッ!

「よお。

 サラサ。

 何か用か?」

 明確な言葉が聞こえた。

 こういう鳴き声でも話は通じるのか。

「ケトリ、ケロイ。

 紹介したい人がいるんだけど」

 サラサさんが普通に話すと、でかい海生生物がこっちを向いた。

「ああ、そういやそんなことを言っていたな。

 ヤジママコトか?」

「へえ、ヤジママコトってホントにいたんだ。

 てっきりデマだと思っていたんだけど」

 俺を知ってるの?

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