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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第七章 俺が学園理事長?

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21.ビジネスランチ?

 俺たちの食事は特別室に用意してあるというので、みんなで揃って食堂になっている建物に向かった。

 用意されていたのは、フローリングが剥き出しの何もない部屋だった。

 なるほど、椅子や机といった調度はドルガさんたちには合わないからね。

 にんげんたちは全員靴を脱いで上がり、それぞれ用意されていたお膳の前に胡座(あぐら)をかく。

 座布団みたいな敷物が人数分あった。

 この辺、日本的な生活様式が取り入れられている。

 大昔に日本人の「迷い人」がいたのかもしれない。

 ちなみに、こっちには日本の正座に当たる座り方はないので、こういう場合は女性でも胡座(あぐら)が主流だ。

 これは女性にスカートを履く習慣があまりないためで、パンツ丸見えなどという状況があり得ないことから容認されているらしい。

 もっとも、上流階級の婦人はまずこのような状況で座る機会自体がないし、どうしてもという場合は横座りをする。

 実際、ハスィーやソフィエさんは横座りをしていた。

 聞いてみると、ソフィエさんの場合はドルガさんたちと日常的につきあっているので、こういった機会が多くあって自然に覚えたらしい。

 男爵閣下にしては砕けていると思っていたけど、そういうことか。

 なお、ラナエ嬢は堂々と胡座(あぐら)をかいていた。

 この人もある意味、徹底しているよね。

 ドルガさんとセノンさんの前にも俺たちと同じお膳があった。

 俺たちの飯にはパンがついているんだけど、ドルガさんたちにはそれがなくて、代わりに肉のようなものが載った皿がある。

 俺もあっちの方がいいかも。

「あれは、犬類の方たちが好む食材です。

 人間が食べてもあまり美味しくないらしいですよ」

 俺の隣に座ったジェイルくんが教えてくれたけど、だとするとラナエ嬢はわざわざドルガさん向けの食材を用意していたことになる。

 あらかじめ準備していたのか。

 これは失敗できないな。

 さあ食事だ、と言うときに不意にソフィエ男爵閣下が俺に向かって頭を下げた。

「先ほどの暴言、誠に申し訳ありませんでした。

 お詫びいたします」

「ああ、気にしないで下さい。

 もう誤解は解けたわけですし」

「ありがとうございます」

 一同、ほっとした空気が流れる。

 気にしていたのか。

 俺は忘れていたのに。

「それでは、東地区犬類連合とヤジマ商会の顔合わせを祝って」

 ラナエ嬢がよく判らない音頭をとって、飯にかかった。

 ビジネスランチにしてはあまりにも和式で、どっちかというと戦国武将の和解の儀式みたいな印象だが、ドルガさんやセノンさんの雰囲気はやはりヤクザだ。

 水杯とか出てきそうだなあ。

 だが、話される内容はビジネスそのものだった。

「すると、ソフィエさんの方でも犬類連合の事業支援をなさっておられると?」

 俺とソフィエさんが世襲貴族、ジェイルくんが近衛騎士なんだけど、今回は全員「さん」で通すことになっている。

 でないと面倒だし、そもそもドルガさんたちには通じないからね。

「事業というほどではないのです。

 犬類でも出来るお仕事があれば、紹介や仲立ちをしているくらいで。

 ただ、こういった契約は前例がなく、仕事と言えるほどにはなっておりません。

 せいぜい、友人同士の口約束で」

 そうだろうな。

 子供を犬にお守りして貰ったり、倉庫の警備をやってもらっても契約するという考えはないだろう。

「わしらも、つい『恩義に報いる』とか『義理で』とか考えてしまって、報酬を貰おうなどという所まではいかないのでの。

 人間(ヒト)とは『良き友』で通してきておるもので、今更金銭のやりとりは恥ずかしいというか、無粋だと思う者も多い」

 マジでヤクザ者というか、昔の任侠だな。

 実にイメージに合っている。

 セノンさんが砕けた口調で言った。

「その点、あの猫の事業には感心というか、感嘆しました。

 あれだけのハコや設備を用意する以上、顧客が報酬を払うのは当然と言えますが、やっていることは無形のサービス提供です。

 本来なら金銭のやりとりが発生するようなものではありません。

 ですが、それが自然に出来てしまう状況を構築している」

 まあ、猫撫でがあれほどの事業になるとは、誰も思わないよね。

 ていうか、俺だって予想もしてなかったし。

 猫喫茶というのは、もっと小規模零細な仕事のはずなんだが。

「それだけではないぞ。

 ニャルー殿の話では、『ニャルーの(シャトー)』から派生した新しい事業を次々に展開しておるそうではないか。

 恐るべし猫類、と思い入った」

 ドルガさんが変な事を言うのでジェイルくんに無言で問いかけると、ヤジマ商会(うち)の大番頭は事も無げに言った。

「事実です。

 前にマコトさんが指示したヤジマ芸能の『猫マネージャ』事業や、個人のお宅に猫撫で要員が訪問するお仕事、あるいは長期派遣事業などを展開しております。

 また、セルリユの中心部や地方都市への『猫喫茶』施設展開事業も動き始めていて……」

 何それ!

 俺知らないよ!

 いや、口に出しては言えないから黙っていたけど。

 でもラナエ嬢やヒューリアさんが平然としているということは、多分俺以外には周知の事実なんだろう。

 ハスィーも落ち着き払っているが、このエルフはそういう細かい事には関心がなさそうだからね。

 もっと大局的な見地からみて、俺に害がなければ放置する傾向がある。

「とまあ、猫どもが自慢するのは当然であるし、我々の若い(いぬ)が目の色を変えるのもまた当たり前じゃ。

 ヤジマ商会の依頼の件、納得してくれんかのう」

 ドルガさんが、隣で黙々と飯を食っているソフィエさんに話しかけた。

 なるほど。

 説得すべきなのはソフィエさんであって、俺たちじゃないということか。

 おそらく、ラナエ嬢やジェイルくんたちとは話がついているに違いない。

 俺は事後承諾ということで(泣)。

「……言いたいことは納得したけど。

 でもいいの?

 下手をすると、犬類連合(むれ)がヤジマ商会にいいように使われることになるのよ?」

「猫やフクロオオカミの実情を見ると、それはまず、ないと思うのう。

 ヤジマ商会の立場は、おぬしと同じじゃよ。

 何者も、犬類連合を縛ることはできん。

 我らは思うがままに動くのみじゃ」

 いや、契約したら従っていただかないと駄目なんですが。

 でも今の考え方って、やっぱり任侠だな。

 間違っても商人じゃない。

 つまり、一度信頼を結べばまず裏切ったり逃げたりはしないということだ。

 その点、人間より信用できるかも。

 敵に回したら厄介そうだけどね。

「判った」

 ソフィエさんが短く言った。

 セノンさんが、小さくため息をつく。

 この(いぬ)も大変だな。

 若頭ってのは苦労するものらしい。

 マジで日本のヤクザ映画みたいだけど、それがこっちの現実(リアル)なんだろうな。

 でもまさか、犬にこれほど複雑な事情があろうとは。

 ニャルーさんの時も思ったんだよね。

 フクロオオカミなんかは田舎者だからか単純思考みたいだけど、セルリユという大都市でやっていくためには、犬も猫もそれなりに大局的かつ繊細な判断力が必要ということなのかもしれない。

 実際、セルリユの動物って言葉? が最初から明晰で、カタコトなんか聞いたこと無いからな。

 みんな読み書きできたりして。

「いえ、お恥ずかしい話ですが、人間の文字を読めるのはごく一部です」

 セノンさんが言ってきた。

 一部ってことは、読める(いぬ)もいるのか。

 ていうか、心を読まないでよ!

「これは失礼。

 ですが、実際問題として人の文字を読めなければ、ただ生活するだけならともかく事業を行うのが難しいわけです。

 これからは、若い(いぬ)にも読み書きを学ばせようと考えております」

 凄いね。

 既に事業化とその後について考えていらっしゃるわけか。

「何。

 猫に教えられたのよ。

 ニャルー殿の指示で、既に絵本による学習会が始まっておるそうじゃよ」

 そうなの?

「はい。

 先日、『ニャルーの(シャトー)』より大量の絵本の発注がございました」

 ラナエ嬢、そういうのは先に教えて。

「ヤジマ商会にもヤジマ学園を通じて『小学校』の教師派遣依頼が来ております。

 現在、要員の手配を行っているところでございます」

 ヒューリアさんも知っていたわけね。

 俺、マジでいらなくね?

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