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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第七章 俺が学園理事長?

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19.女男爵?

 飛び込んで来たのは女性だった。

 年齢は、ぱっと見たところ二十代半ば、つまり俺と同じくらいだ。

 色白で燃えるような赤毛なので、エルフやドワーフではない。

 つまり、見たとおりの年齢だと思っていいだろう。

 活動的なツナギを着ていて、まあこれは女性が野外活動する時の定番だから、特徴がないとも言える。

 女性の後ろからセルリユ興業舎の作業服を着た数人の男たちが雪崩れ込んできた。

 ラナエ嬢に頭を下げる。

「申し訳ありません!

 こちらの方が無理矢理」

 ラナエ嬢が答える間もなく、その女性は大声で怒鳴った。

「あなたがヤジママコトね!

 野生動物を食い物にするペテン師!」

 ペテン師か。

 そういう名称がこっちの世界にもあるんだな。

 でも、間違えてますよ。

 その人、俺じゃないです。

 名指しされたフォムさんが、困って俺たちを見る。

 ロッドさんが吹き出したかと思うと、あっという間にその場にいた全員が笑い出した。

 犬の人たちまで笑っているぞ。

 ただ一人、笑っていないのはもちろん赤毛の女性だ。

「何が可笑しいのよ!

 ドルガまで!」

「いや……ソフィエ、その方はマコト殿ではないぞ」

 ドルガさんが咳き込みながら吼えた。

 この組長じゃなかった総長も笑いに発作に襲われているらしい。

「え、違うの?

 このペテン師づらがてっきりそうだと」

「ひでえ」

 フォムさんが笑いながら呻いた。

 うん。

 ペテン師は言い過ぎかもしれないけど、確かにフォムさんはいかにもそれらしいイメージがあるからね。

 なんか、俺のことを悪徳商人だと思い込んでいるみたいだし。

 のほほんとした俺やイケメンのジェイルくん、そして騎士服を着たロッドさんは、見たところは対象外だ。

 ハマオルさんたちは護衛なのが見え見えだしね。

 しかし、ここでこんなラノベ的な状況が発生しようとは。

「えっ?

 でも他にそれらしい人は」

 いや、ハスィーとラナエ嬢に挟まれて、ソファーの真ん中に座っている俺が目に入らないって、どれだけ先入観持ってるんだよ。

 俺は笑いを堪えながら立ち上がり、身体の向きを変えてその女性に相対した。

 貴族同士の作法に従って、軽く頭を下げる。

 従業員が「この方」と言ったということは、間違いなく貴族か大商人のはずだ。

「私がヤジママコトです。

 ヤジマは家名ですので、よろしければマコトと呼んで下さい」

 その女性は、はっと気をつけの姿勢を取って同じく礼をした。

「ソフィエ・タルゴです。

 タルゴ男爵を拝爵しております」

 やはり。

 女男爵か。

 珍しいな。

 ソラージュは女性の爵位継承を認めているので、何人かは存在すると聞いていたんだけど。

 ちなみに認められてはいるが、実際になるのは難しいらしい。

 男尊女卑というよりは、女性の役目として次代の後継者を産むということが重視されているからだそうだ。

 妊娠および出産の時期は、どうしても貴族としての役目がおろそかになりがちだという理由だけど、それは表向きなんだろうな。

 単に男社会で女性がやっていくのが困難ということだ。

 それでも他に適当な後継者がいないとか、やたらに優秀で代えがたいとかいう理由があれば、女性が爵位を継ぐことがあるらしい。

 ララネル公爵家のレオネさんが言っていたように、婿を取って次代を作ればいいわけで。

 ユマ閣下の場合、ララネル公爵家を継ぐのならそうするべきなんだろうな。

 でもまあ、あの人のことだからそんな仕事はやりたくないと思うけど。

 長男であるレオネさんもいるしね。

 ということで、このソフィエさんも何らかの理由で男爵家を継いだんだろう。

 男爵といえば世襲貴族の最下位だけど、それでも立派な貴族であることは間違いない。

 それが、なんだって単独で郊外にあるセルリユ興業舎に殴り込んでくる必要があったのか。

 従者らしい人もいないし。

「まあ、お掛け下さい」

 俺がとりあえず誘導すると、ソフィエ女男爵は毒気が抜かれたような顔付きで大人しく従った。

 ドルガさんの隣にペタンと座る。

 興奮は冷めたみたいだな。

 まずは、俺の両側の美女と美少女を紹介する。

 大番頭も忘れてはいけない。

「では改めて。

 私がヤジマ商会のヤジママコト。

 副会長のハスィー・アレストと、セルリユ興業舎舎長のラナエ・ミクファール。

 あと、こちらが近衛騎士でヤジマ商会大番頭のジェイルです」

「ハスィーです」

「ラナエでございます」

「ジェイル・クルトと申します。

 男爵閣下」

「あ、どうも。

 ソフィエ・タルゴです……」

 なんか覇気が消えてしまったような。

 初めてハスィーに気づいて一瞬硬直していたし。

 興奮で回りが目に入っていなかったのか。

 俺は、それから回りに立っている人たちを一人一人簡単に紹介した。

 ソフィエさんは恐縮した表情で応対していたが、一応の紹介が終わると隣に座っているドルガさんに聞いた。

「ねえ、どうなっているの?

 私はドルガがヤジマ商会の軍門に降ると聞かされて、飛んできたんだけど」

「それは間違っておらんが。

 東連合がマコト殿に助力を求めたというだけだが?」

「でも、ヤジマ商会といえばアレスト興業舎を乗っ取って、野生動物を酷使している悪徳業者という噂よ。

 そんな所に関わったら、ドルガたち犬類が食い物にされるんじゃないかと思ったんだけれど」

 なるほどね。

 俺って、そんな風に思われているのか。

 野生動物を支配下に置いて、いいように使っているんだとしたら、確かに悪の権化だな。

 そんなことはないんだけど、説明しにくいなあ。

「それは誤解じゃ。

 猫の会舎があるじゃろう。

 わしはそこの舎長と話してきた」

 そうなのか。

 もう、ニャルーさんと話したと。

 思っていたよりアグレッシブだな、この犬の人たちは。

「ヤジマ商会は、資金援助の他に経営指導や要員派遣はするが、基本的に経営自体には干渉してこないそうじゃ」

「でも……」

「ソフィエたちには感謝しておる。

 真の犬類の友じゃ。

 だが、それはあくまで好意でしかない。

 我々犬類連合も、自分の足で立ちたいのじゃよ」

 うーん。

 マジで、そこら辺の人間より凄いぞ。

 もう犬だとか動物だとか思わない方がいいかもな。

 ニャルーさんが猫又だったように、ドルガさんも犬神とかそういう種類の存在だと考えた方がいいか。

 ソフィエさんが黙ってしまったので、俺はドルガさんとの会話を再開した。

「お話の続きですが、つまり東地区犬類連合としては、猫の方たちのような会舎組織での事業を望んでおられるということでしょうか」

 ドルガさんは、何だったっけか白い犬の方を向いた。

 細かい所は若頭に任せるのか。

 若頭が淀みなく話し始める。

「『ニャルーの(シャトー)』は立派な事業であると思いますが、我々にはああいった施設の運営は難しいでしょう。

 サービス業は、出来なくはないでしょうが種類が限られますし」

 さすが若頭。

 この(いぬ)もただ者じゃないよね。

 すると、ジェイルくんが進み出た。

 俺にいいでしょうか、と無言で問いかけてくるので頷く。

 向こうが若頭なら、こっちは大番頭に話を任せるとするか。

「ヤジマ商会大番頭のジェイルと申します。

 よろしいでしょうか?」

 ソフィエさんがドルガさんに告げた。

「最近、近衛騎士に叙任された方よ。

 ヤジマ商会の事業の陣頭指揮は、この方がされていると思う」

「おお。

 もちろんですじゃ。

 セノン」

「セノンです。

 この件について、ドルガ様より担当を申しつけ頂いております。

 よろしくお願いいたします」

 そうだ、セノンさんだ!

 つまり、セルリユ東地区犬類連合でのセノンさんとドルガさんの関係は、ヤジマ商会におけるジェイルくんと俺みたいなものか。

 ドルガさんはまさしく総長の器だしね。

 俺みたいな案山子の会長と違って(泣)。

 すると、ラナエ嬢が口を挟んだ。

「話が長くなりそうですわね。

 せっかくソフィエ男爵閣下もお越しになられたのですし、ご一緒にお食事はいかがでしょうか」

 ビジネスランチかよ!

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