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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第七章 俺が学園理事長?

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9.身分差?

 ミラス殿下が下がり、ジェイルくんがよろけながら立ち上がると、回りの人たちが一斉に拍手した。

 新しい貴族の誕生だからね。

 もちろん、俺もハスィーと一緒に精一杯手を叩いた。

 いやー、良かった良かった。

 これで貴族のめんどくささを共有できる仲間が増えた。

「……ありがとうございます。

 でも、どうして私に?」

 ジェイルくんが当然の疑問を発すると、ミラス殿下があっさりと答えた。

「マコトさんの腹心だから。

 それが理由だよ」

 俺の?

 いや、確かにジェイルくんは俺の腹心というか、むしろヤジマ商会の大黒柱だけど。

 でもそれだけ?

「マコトさんが世襲貴族になった以上、従者ならともかく公的な代行者が平民では無理があるんですよ」

 グレンさんが丁寧に説明する。

 ああ、そうか。

 グレンさんは子爵家の嫡男ではあるけれど、その権利を放棄したから今はただ貴族家の出というだけの半ば平民だからね。

 近衛騎士になったジェイルくんの方が、身分が高いのだ。

「今後は従者としてだけではなく、マコトさんの名代として動く必要が出てくると思います。

 近衛騎士なら、とりあえずは軽視されずに対応できるでしょう」

「そういうこと。

 もちろん、君は近衛騎士なんだから何をしようが自由だ。

 別にマコトさんのサポートに回る必要はないけどね」

 ミラス殿下も意地が悪いな。

 案の定、ジェイルくんは一瞬で立ち直った。

 ニヤリと笑う。

 この国のNO.2に向かっていい度胸だ。

 やっぱ君はパネェよ、ジェイルくん。

「了解しました。

 ありがとうございます。

 近衛騎士として、思うがままに精一杯努めさせて頂きます」

 凄い。

 王太子殿下に向かって「了解しました」はないと思うけど、出来てしまうのだ。

 近衛騎士は自由だから。

「うん。

 よろしくね」

 ミラス殿下の言い方も変だよね。

 何をよろしくするんだろう。

 まあいいか。

 俺はジェイルくんに歩み寄って、両手を掴んで振った。

「改めておめでとう!

 俺なんかより近衛騎士に相応しいといつも思っていたんだよ。

 むしろ遅すぎたくらいで」

「ありがとうございます。

 ヤジマ子爵閣下。

 これまでと同様、これからもよろしくお願いします」

「こっちこそ」

 それだけ言って離れる。

 その他の人たちが、一斉に殺到してきたからね。

 ジェイルくん大人気。

 俺はハスィーと一緒に少し離れてジェイルくんを見守った。

 いや、今日はいつもよりさらにイケメンだわ。

「そういえば、演説良かったよ」

 ふと思いついて隣のハスィーに言うと、美貌のエルフは頬を染めた。

 ラノベじゃないんだから、いちいち萌えさせないで欲しい。

「マコトさんの名代ですから、頑張りました。

 懐かしかったです」

「懐かしい?」

「はい。

 わたくしたちが『学校』に入ったのも、あの生徒さんたちと同じ頃でしたから。

 わくわくしながら、びくびくもしていました」

 こちらでは前代未聞な体験だっただろうからな。

「ハスィーたちに比べたら、ヤジマ学園の生徒たちはもう見本がいるから、随分楽なんじゃないか」

「そうですね。

 わたくしたちも、できる限りサポートしなければと思います」

 でもハスィーはあまり表に出て行かない方がいいんじゃないのか。

 「学校」でも、クラスにハスィーがいるせいで気もそぞろだった生徒さんが結構いたのではないかと思う。

 それが先生で出てきたら、授業中のメモリーがハスィーの顔だけになってしまうかもしれない。

「わたくしは授業を担当しませんよ?」

「そうなの?」

「最初は何かお役に立てればと思っていたのですけれど、なぜか皆さんが揃って反対されて、担当を外されてしまいました。

 わたくしだって、『学校』では一応優等生の方だったのですが」

 ご不満そうだ。

 いや、多分それ教師としての出来は関係ないから。

 それにしても、さすがにみんな判っているんだな。

 傾国姫は危険物だからね。

 むしろ劇薬?

 今のところ基礎課程の教師は足りているし、そもそもハスィーの学校仲間たちが役に立てる講座はあまりない。

 マナーとかダンスとかの知識や技能は、やはり本職の家庭教師に任せた方が安心だし。

 よそ様の子弟を預かって教育する以上、学園側もいいかげんなことは出来ないからな。

 ま、それ以前に俺たちとしてはミラス殿下とフレアちゃんが接触できればいいわけで。

 そういうことをぼんやり考えながらハスィーと話していると、ヒューリアさんが来た。

「そろそろ帰ろうかということですが」

「そうだね」

 もちろんミラス殿下の都合が最優先だけどね。

「その……ミラスがヤジマ商会を訪ねてみたいと」

「あー、そうか」

 そういえば、ヤジマ商会はまだ拝謁の栄に浴していなかったっけ。

 まあ、王太子が一介の民間団体を訪ねるって大事(おおごと)なんだよ。

 日本の皇太子殿下が、例えばエンタテイメント系の新興会社を訪問することを考えてみればいい。

 マスコミは大騒ぎだぞ。

 でもいいのか。

 ミラス殿下はヤジマ商会が経営する教育機関の名誉学園長になったわけだから、その親会社を訪問しても不自然ということはない。

 ちょっと肩入れしすぎという印象はあるけど、そこら辺は駄目ならグレンさん辺りが止めるだろうし。

 ミラス殿下の本心は、多分フレアちゃんとなるべく長く一緒にいたいというだけなんだろうけどね。

「いいよ。

 ミラス殿下のご都合が良ければ」

「判りましたわ。

 今日は予定がないので、これからご一緒したいということですけれど」

 そこまで。

「了解した。

 ジェイルくん……って、今は駄目か」

 丸投げしようとして、気がついた。

 この場の主役を使ったらイカンか。

「マコトさん、何でしょう」

 素早く駆け寄ってくるジェイルくん。

 俺の呟きをキャッチしたというのか。

 あの喧噪の中で。

 置き去りにされた人たちが、一様に苦笑している。

 非難の色がないのが幸いだけど、みんな寛大だね?

「あー。

 ミラス殿下がヤジマ商会をご訪問なされたいと……」

「判りました。

 すぐに手配します」

 このイケメンくん、近衛騎士になったら動作が20パーセントくらいクロックアップしたような。

 マグネティックコーティングでもされたか?

 すぐにグレンさんたちに駆け寄ってあれこれ打ち合わせを始めるジェイルくんをよそに、その他の人たちは整然と動き始めていた。

 この会合はお開きになったらしい。

 ミラス殿下はと見ると、すでにフレアちゃんと話し込んでいた。

 フレアちゃんも自然体だな。

 ムト子爵の正体がミラス殿下だったことについては、気にしていないみたいだ。

 帝国皇女からしたら、王太子も子爵もあまり変わらないのかもしれない。

 だって、自分の身分がほぼ頂点なんだから、相手によって対応を変える必要ってないからね。

 ミラス殿下ですら、身分的にはフレアちゃんと同等か少し上という所だ。

 改めて考えたら、フレアちゃんやシルさんって普通なら口もきけないくらい俺とは身分差があるはずなんだよなあ。

 近衛騎士どころか子爵だって、直接口をきいたら無礼になるレベル差ではないか。

 いや、カールさんだってそうだし。

 ユマさんやラナエ嬢、あるいは俺の隣で落ち着いているハスィーだって、近衛騎士だった時にはそうなんだよね。

 今までは気づかなかったというか、回りの寛大さに甘えていたけど、これからは子爵としてのマナーを要求されるのだろうか。

 こんなんで、大丈夫なのか俺?

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