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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第七章 俺が学園理事長?

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6.嬌声?

「ありがとうございました」

 とりあえず、礼を述べる。

 そうした方がいいような気がしたもので。

 まあ、普通世襲貴族の爵位を授与されたらそうするしかないよね。

 でも、俺にとっては不意打ちというか、全然予期すらしてなかったことなので。

 嬉しいどころか混乱状態が続いている。

 ていうか、俺、そんなこと全然望んでなかったんですが!

 近衛騎士の時もそうだったけど、こっちの人って当人の意思に関係なく話を進めるんだよなあ。

 貴族なんて、面倒くさいだけなのに。

 ため息をついていると、回りに立っていた人たちが部屋から出て行く気配がした。

 残っているのは、ルディン陛下とその側近らしい二人の貴族、そして初老の人だけだ。

 名前忘れた。

 ていうか、覚えている余裕なんかないって。

「どうだ?

 世襲貴族になった気分は」

 ルディン陛下が面白そうに尋ねてくるけど、俺は「はあ」とか言うしかない。

「陛下もお人が悪い」

 偉そうな人の片方が言った。

「何の前触れもなく叙爵されたりしたら、茫然自失になるのは当然ですよ。

 陛下の愚行は私から謝罪させて頂きます。

 ヤジマ子爵。

 私はロム・メサと言います。

 今後ともよろしく」

 ロムさんと名乗ったのは、二人のうち若い方の人だった。

 若いといっても40代だろうけど、威厳はあるのに何とも言えない親しみやすい雰囲気の人だ。

 口調も、下っ端貴族を相手にしているとは思えないくらい柔らかい。

 言いながら握手を求めてきたので、思わず手を握り返す。

 いい人なんだろうな。

 さらにイケメンだ。

 この人、モテるだろうなあ。

 確か伯爵閣下だっけ。

 いや侯爵か?

「私からもお詫びする。

 ヤジマ子爵」

 もう一人が言った。

 こっちは渋い中年といった雰囲気の人だ。

 その分、厳めしさが段違いでルディン陛下より威厳があるかもしれない。

 やっぱりイケメンだけど。

「トゥーレ・ロクラスだ。

 このロムと共に、陛下の好き勝手の後始末に追われているうちに、この歳になってしまった。

 勘弁して貰いたい」

 威厳はあるけど、やっぱ基本はおふざけ派のようだ。

 それにしても二人とも国王陛下を平気でこき下ろすと思ったら、これはアレか。

 ミラス殿下がグレンさんやモレルさんと軽口を叩き合うのと同じだな。

 その証拠にルディン陛下はニヤニヤしているばかりで、咎めようともしない。

 ひょっとして、ここはルディン陛下のプライベート空間と化しているのか?

「ヤジマ子爵。

 私は王政府の審議官を務めるサマレス・ウィドです。

 混乱している所を申し訳ありませんが、確認させていただきます。

 ヤジマ子爵は、子爵位の授爵を是としますか?」

「あ……はい。

 受けさせて頂きます」

「了解しました。

 これで、手続きはすべて終了です。

 今この瞬間から、ヤジママコト殿はソラージュ王国の子爵となりました」

 まだなってなかったのか?

 ていうか、今断れた?

「無理だな」

 ルディン陛下が言った。

「国王が直々に授爵させたのだぞ。

 断ると言うことは、国家への反逆に当たる」

 やっぱりかよ!

 良かった、受けといて。

「そうだ。

 ほれ」

 ルディン陛下がポイと投げてよこしたので反射的に受け止めると、見覚えがある勲章だった。

「ラミット勲章だ。

 さっきも言ったが、いつでも会いに来い。

 使い方は判っているな?」

 判ってますけど……有難味がないんですが。

「こんな陛下だが、見捨てないでやってくれ。

 ちなみに我々もヤジマ子爵の味方だ。

 何かあれば言ってこい」

「またそんな言い方を。

 すみませんね。

 この方たちは長いこと思い通りにやってきたもので、まともな口の利き方を忘れてしまっているのです。

 そのうち慣れますが、当分は我慢して下さい。

 あ、今度一緒に食事でもしましょう。

 繁華街にいい店があるんですよ」

 軽い!

 軽すぎる!

 この人たち、俺を何だと思っているのか。

 オモチャ?

「それでは失礼する。

 ちなみに、我々は非公式のお忍びであるので、ここにはいなかったことになっているからそのつもりで」

 謹厳実直に見えたトゥーレさんが真面目に言ったけど、それって高度なお笑い芸ですよね?

 唖然としているうちに、国王陛下一行は部屋から出て行ってしまった。

 俺はどさっとソファーに座り込んで、胸にかかっている二つの勲章を眺めた。

 片方は見覚えがあるラミット勲章だ。

 そしてもう一方はアレだ。

 子爵位の証か。

 何てこった。

「マコトさん。

 大丈夫ですか?」

(あるじ)殿!」

 ドアが開いて、ジェイルくんとハマオルさんが飛び込んできた。

 ようやく結界が解除されて、入ってこれるようになったらしい。

「ちょっと駄目かも」

「何を……マコトさん!

 それは」

「ああ。

 子爵にされちまった」

 絶句するジェイルくん。

 対称的に、ハマオルさんは一歩引いて片膝をついた。

「おめでとうございます。

 (あるじ)殿」

「あ。

 おめでとうございます」

 ジェイルくんが追随するのに、力なく微笑んでみせる。

 パ○ラッシュ、僕はもう疲れたよ。

 ジェイルくんは素早く立ち直ると、ハマオルさんに一言囁いて、部屋を飛び出していった。

 凄いなあ。

 俺なんかもう、今日は閉店だよ。

 帰りたい。

 風呂に入って寝たい。

 ハマオルさんが油断なくドアや窓に注意を払っているうちに、ジェイルくんが戻ってきた。

「式典が始まりそうです。

 どうしますか?」

 帰っていいの?

 駄目だよね。

 王太子殿下まで呼んでおいて、理事長が逃げたでは済まないだろうし。

 最後にハスィーが挨拶するはずなので、それは見ないと。

 一緒に帰ることになっているし。

「いいよ。

 少し休めば、終わるまでくらいは持つと思う」

「では、静かな場所を用意させます。

 というか、その意味ではこの部屋が一番静かで落ち着けそうですが」

 ジェイルくんが部屋を見回して言った。

 確かに、ここはヤジマ学園の理事長室、つまり俺の部屋だ。

 でも、さっきまで国王陛下が陣取っていたと思うと、落ち着かない。

「式典が見える場所に行こう。

 どこかある?」

「そうですね。

 教務棟からなら見えるはずです」

「じゃあそこで」

 というわけで、俺たちは手早く移動した。

 事務棟はがらんとしていて、人の気配がない。

 ついさっきまで、国王陛下とその配下の人たちに制圧されていたとは思えない静けさだ。

 廊下を歩き、階段を下っている時も誰にも会わなかった。

「そういえばジェイルくんは、陛下にお会いした?」

「いえ。

 近侍の方に命令されました。

 国王陛下の紋章を見せられてはいかんともしがたく、申し訳ありません」

「いや、下手に逆らったら国家反逆罪らしいから。

 言う通りにしてくれて、助かったよ」

 サラリーマンはお上に逆らってはならない。

 貴族ならなおさらだろう。

「本当に国王陛下がいらっしゃったのですか?」

「うん。

 理事長室が乗っ取られていて、陛下の臨時執務室になっていた」

 権力って怖いよね。

「その場で子爵に叙爵ですか。

 凄いことをなさいますね。

 陛下も」

「お忍びだと言っていたから、そんなことはなかったことになるらしい。

 ヤジマ子爵なんてのも、なしになればいいのに」

「駄目でしょうね。

 その場に審議官はおられましたか?」

「そういえばそう名乗っていた人がいたな。

 最後に、子爵になるかどうか聞かれた」

「で、承諾したと。

 それで決まりです。

 今回は略式だったようですが、場所や状況に関係なく形式に従って授爵されたのなら、それは正式なものです。

 増して国王陛下から直接子爵位の(しるし)を授けられたとあっては」

 やっぱそうだよなあ。

 あの人たち、全体的にはおちゃらけていたけど、仕事はきっちりやるタイプだったしな。

 グレンさんがあのまま成長したら、あの側近の人たちみたいになるのかもしれない。

 モレルさんは違う気がするけど。

 ホントにもう、面倒くさい。

 事務棟を出て渡り廊下を通り、教務棟に入る。

 ちらっと見えた校庭に、たくさんの人がいるのが見えた。

 屋外でやっているらしい。

 まだ体育館的な建物が出来ていないので、みんなが一度に集まれる場所がないと聞いた覚えがある。

 ヤジマ学園はまだ建設中なのだ。

 教務棟の階段を上り、最上階の教師休憩室の窓から外を見ると、ちょうど式典が始まった所だった。

「それではまず最初に、当ヤジマ学園の名誉学園長に就任されたミラス・ソラージュ王太子殿下からご挨拶を頂きます。

 ミラス殿下、どうぞ!」

 司会の声に促されて、ミラス殿下が講演台に昇る。

 その途端、ずらっと並んだヤジマ学園教養学部第一期生の列から歓声が上がった。

 いや、むしろ悲鳴か?

「キャーッ!」

「ミラス殿下ーーっ!」

「ステキーっ!」

 女生徒らしい声が聞こえる。

 ああ。

 ごめんなさいミラスさん。

 もうこれ、学園ものの乙女ゲーム状態だわ。

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