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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第七章 俺が学園理事長?

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2.朝食?

 ジョギングというよりはマラソン大会と化している朝の運動から戻ると、俺たちはヤジマ邸の中庭に作ったちょっとした広場に立ち寄った。

 一見何が目的なのか判らない構造物がいくつか立っていて、俺が叫びながら全速力で走り寄ってそれを木刀でぶっ叩くという行為を繰り返すのだ。

 ちなみに、これは基本的に俺しかやらない。

 警備の人たちは、なんちゃって示現流を練習してもあまり使い道がないからね。

 俺がやっている理由は、例えば敵に囲まれた時にとりあえず包囲網の一角を破って逃走するのに都合がいい剣法だからだ。

 つまり逃げるための技だ。

 警備の人たちは、むしろ立ち止まって相手の攻撃を食い止める必要があるため、示現流的な技は必要ないんだよね。

 まあ、例えばハマオルさんなんかは別に練習しなくても俺の数倍の威力の斬撃を放てるわけだが。

 ハスィーやヒューリアさんには向かない剣法だし、ジェイルくんは商人特有の護身術を身につけているので、別の場所でその練習をする。

 ちなみにハスィーたちも「学校」である程度の護身術は習ったそうだけど、貴族令嬢はもともと格闘戦などはしないそうで、せいぜい受け身や自分の身を守るための型くらいのものだということだ。

 それはそうだよね。

 貴族令嬢が自分の手を汚す事は、まずないと言っていいわけで。

 シルさんみたいに冒険者でもやっていれば別だけど、ラノベに出てくるような、貴族令嬢でありつつ戦闘の達人などというのは現実には厨二の妄想に過ぎないだろう。

 いや、シルさんはマジでやっているけど、あれはごく特殊な例であって、異端だから。

 もっともヒューリアさんなんかは、ドワーフの(パワー)を生かした技を身につけているそうで、これは商人としてやや危険な場所にも行かなければならないかららしい。

 ジェイルくんの護身術と同じようなもので、地球に比べて厳しい世界だから仕方がないとか。

 尚、シルさんやヒューリアさんの人種について、俺にはなぜドワーフと聞こえるのかはまだよく判らない。

 ハスィーたちエルフみたいに、なかなか老けないといった明確な身体的特徴があるわけでもないんだよね。

 確かに普通の人に比べたら総じて身体的な力はあるし、浅黒い皮膚の色も共通しているようだけど、それだけで「人間」と違うとは言い切れないと思う。

 そもそも「人間」の特徴すらよく判らない。

 まあ、いずれは判るだろうということで放置しているんだけど。

 それに、こっちの世界では人種差別や区別があるわけじゃないみたいだしな。

 ハスィーたちエルフも、エルフだと呼ばれているだけで別に尊重されたり忌避されたりすることはない。

 いや、綺麗なので好まれてはいるけど。

 ドワーフが劣っているということもない。

 この辺、地球と比べて実に理想的な社会が出来ていると思う。

 その理由としては、やはり何といっても魔素翻訳で言葉が通じることだろうな。

 人類同士どころかスウォークや野生動物といった完全な異類とすら意思の疎通が可能なのだ。

 野生動物も優秀な個体は時として人間の知性を凌駕したりするらしいし。

 スウォークに至ってはむしろ崇拝されていたりして。

 こんな状態では、差別なんかしようがなかったのだろう。

 貴族がいる事自体が不思議なほどだ。

 その貴族も、俺は仕事で結構たくさんの人たちと会ったんだけど、それで判ったことがある。

 地球では貴族と言えば力でのし上がるのが本筋で、つまり強さが基本だったと思う。

 逆に言えばそれ以外の情とか知性とか共感能力などというものはないがしろにされていた、というよりはむしろない方が貴族として生きやすかったはずだ。

 残虐な貴族が恐怖で民衆を支配するのは一番効率がいいからね。

 でも、こっちではその方法は駄目なのだ。

 魔素翻訳で、感情や思考が丸わかりになってしまうから。

 残酷で自己中心な人には、誰も従わない。

 人を支配するためには、情を持ってしなければならないのだ。

 馬鹿でも駄目だ。

 そういう状態で貴族として生きるためには、原則として人に支持されるタイプでなければならない。

 つまり、結論を言えば貴族って人に好かれなければ、というよりは嫌われたらやっていけないんだよ。

 そして、それは主に性格と知性による。

 強さも重要だけど、それはせいぜい中堅くらいまでだ。

 確かに本当に能力がある人なら、一時的には「いい人」を装うことは可能だろう。

 魔素翻訳は完璧じゃないし、意思や感情を隠すこともできなくはないからね。

 でも四六時中は駄目だ。

 とても持たない。

 というわけで、少なくとも貴族の爵位を持って当主をやっているほどの人たちは、俺が会った限りにおいてはみんな優れていい人たちだった。

 人当たりが柔らかくて、話していてこっちに嫌な思いをさせることがあまりない。

 王太子殿下の所で会った例の近習たちは、貴族の嫡子だから任命されたと言われていたけど、むしろ駄目だから選ばれたんじゃないかな。

 間違っても王太子に気に入られて腹心になったりしないように。

 グレンさんやモレルさんは、王政府と王太子側の妥協の産物かもしれない。

 ハスィーやラナエ嬢たちの任命を拒むかわりに、ミラス殿下に譲ったとか。

 そんなことをつらつら考えながら朝の運動を終了し、俺たちは一丸となってヤジマ邸に戻った。

 男女に分かれて風呂場でお湯を浴びる。

 ちなみに俺の命令で、風呂場には常にお湯、あるいはぬるま湯が用意されている。

 これは一般的に言ってもの凄い贅沢で、貴族でもやっている人はあまりいないそうだ。

 俺が金に糸目はつけるなと命令したのだ。

 Mじゃあるまいし、朝から冷水をかぶる趣味はない。

 用意されている着替えを着て、俺たちは食堂に集合してやっと朝食だ。

 朝っぱらからエネルギーを使うので、みんなよく食うんだよね。

 その頃にやっと起きてきたフレアちゃんも合流し、和気藹々と話しながら飯を食うんだけど、結構楽しい。

 俺はボッチが似合うと今でも思っているのだが、ここにいる人たちはみんないい奴ばかりだからなあ。

 あるいは、俺が甘やかされているだけかもしれないけど。

「今日の俺の予定は何だったっけ?」

「午前中に2件、面談が入っています。

 投資額などは決まっていて、もう手続きは済んでいますので、いつものように処理して下さい」

 パンを頬張りながら聞くと、ヒューリアさんが応えてくれた。

 俺の社交秘書なのだが、最近は普通の秘書としても動いてくれている。

 ソラルちゃんがヤジマ芸能に出向しているからね。

 本人はそろそろ戻って来たがっているらしいけど、後任が決まらないのだ。

 相変わらず人手不足で。

「いつものってお話しして最後に握手でいい?」

「十分です。

 先方はそれだけで満足しますから」

 俺、会いに来る人たちにどう思われているんだろうね?

 まあ投資してくれるんだから、低評価ではないだろうけど。

 ヤジマ商会はまだ成長を続けていて、ジェイルくんの必死の努力にも関わらず、初年度から大幅な黒字を記録してしまったのだ。

 おかげで投資家の皆さんに高金額の配当を配らなければならなくなり、そのためにヤジマ商会の評判が上がって、さらに金が集まってきている。

 今年から配当の利率を下げたらしいけど、まったく効果なし。

 聞くところによると、それでもソラージュの債権業界ではトップの配当率ということで、申し込みが殺到しているらしい。

 俺は知らん。

 あえて聞かないようにしているのだ。

 だって、投資ってつまりは俺の借金だぞ?

 そんなのが増えて嬉しいはずがあるか!

「ハスィーは?」

「ギルドの方で少し。

 わたくしがアレスト市ギルドの執行委員だったことが知られてしまって、どうしても一度会って欲しいと」

「やるの?」

「とんでもありません!

 わたくしはヤジマ商会の渉外担当役員ですよ。

 ギルドの立場と両立できるはずがありません」

 出来なくはないと思うんだけどね。

 王都のギルドとしても、傾国姫を取り込めたら色々な意味で勢力を伸ばせると思っているのだろうな。

 でも俺の奥さん(予定)はそんなことでコントロールできるタマじゃないんだけどなあ。

 むしろ、ハスィーをギルドなんかに入れたら実効支配されてしまうかもしれないぞ。

「マコトさん。

 今日は午後からアレですので」

 ジェイルくんが言ってきた。

 そうかアレか。

 思い出してしまった。

 せっかく忘れていたのに。

 面倒くさいなあ。

「王太子殿下もいらっしゃいますし、やむを得ないかと」

「そうだよね」

 しょうがない。

 いよいよ始まるのだ。

 「ヤジマ学園教養学部」が。

 で、俺が理事長だってさ!

 マジ?

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