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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第七章 俺が学園理事長?

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1.朝の行事?

 俺、というよりはこっちの世界の人たちの朝は早い。

 江戸時代と一緒で、有効な光源がないために夜中まで起きているメリットがなく、みんな早寝するからだ。

 ランプの明かりじゃ大したことは出来ないからね。

 よって、大抵の人は夜明けと共に活動を開始する。

 ただし、セルリユは王都だけあって地方みたいに早朝から畑を耕したりすることはなく、みんな比較的寝坊してから仕事を始めるのが通例だ。

 俺もそれに習って朝はゆっくりしたいんだけど、そうもいかない事情が出来てしまったんだよな。

 目が覚めると、いつものようにハスィーが俺にしがみついていた。

 こっちの寝間着は日本のパジャマに近い物で、手首足首と首から上以外は身体を包む形だ。

 寝苦しくないようにゆったりしているが、今は冬なだけあって結構生地が厚い。

 だから体形なんかはよく判らないはずなのに、ハスィーの場合は胸や腰のラインがはっきり見えてしまっている。

 凄いスタイルなんだよ。

 おまけに眠っている時でもあまり顔が弛緩しないので、起きて見る度に衝撃(ショック)を受ける。

 とんでもない美貌だからね。

 今はまだ俺も若いからいいけど、これって高齢化したら心臓に悪いんじゃないだろうか。

 自分の妻の顔を見て心臓発作というのはいただけない。

 ちなみにハスィーが俺にしがみついているのは、別に愛情が深すぎるからではなく、単に寝相が悪いからだ。

 俺に絡むだけじゃなくて時々ベッドから落ちていたり、俺の頭の横にハスィーの足があったりすることもある。

 一緒に住むようになってからも、なかなか同衾に雪崩れ込まなかった理由は、俺の自覚がなかったこともあるけど、むしろハスィーが自分の寝相に悩んでいたことが原因だったらしい。

 何とか寝相を治してから俺と一緒に寝ようと思っていて、あれこれ努力したらしいのだが、治らないうちにタイムアウトになってしまったと。

 実は初夜の翌朝にかなりアレな格好で目覚めて、泣きながら謝られた。

 可愛いからいいと言っても、なかなか信用して貰えなかったんだよなあ。

 次の日からやっぱり自分の部屋に戻ると言うのを何とか宥めて、ようやく嫌われていないと判ったハスィーは輝く笑顔を見せてくれて、つい襲ってしまったくらいで。

 それ以来、ハスィーは俺の前では平気で乱れた寝姿を見せるようになった。

 もちろん使用人やその他の人には内緒だ。

 だから、俺たちが起きるまでは誰も部屋に入らないように厳命している。

 貴族が主人公のラノベみたいに、主人が寝ている所にメイドが入ってきてカーテンを開いて起こすとか、そういう事はヤジマ邸では起こらないことになっている。

 でもそれが変に誤解されたらしくて、俺の寝室では毎夜何か途轍もないことが繰り広げられている、という噂があるらしい。

 そんなの知らん。

 尚、ハスィーは寝付きはいいが寝起きはイマイチで、つまり低血圧だ。

 だから、大抵俺が先に起きてハスィーを起こすことになる。

「ハスィー、朝だ」

「……」

「起きろ。

 せめて、その腕を放してくれ。

 俺が起きられない」

「……ふぁい」

 起きていれば完璧な傾国姫も、寝ている時はこんなものだ。

 可愛いからいいけど。

「……お早うございます」

「お早う。

 いいから手を放してくれ」

 毎朝のことだけど、ハスィーが起動するまでは俺も動けないんだよなあ。

 もちろん、いったん目が覚めたらハスィーは高機動傾国姫に変身する。

 寝室に付属している洗面所で顔を洗い、まとめていた豪奢な金髪を一度解いてから改めてポニーテール気味にまとめ直すと、ハスィーは寝間着を脱いで運動着に着替えた。

 下着を含めてだ。

 いや、俺の前でも全然臆することがないんだよなあ。

 貴族だからなのかもしれないけど、それ以前にどうも俺には何も隠す必要がないと考えているらしい。

 ていうか、自分でそう言っていた。

 恥ずかしがりながら着替えることも出来ますよ、と言われたけどそんなわざとらしい演技を見ても萌えないから断った。

 絶世の美女の着替えを毎朝間近で鑑賞できる機会は逃したくないしね。

 毎回襲いたくなるが、ここは我慢だ。

 当然だが、ハスィーが用意している間に俺も顔を洗って着替えている。

 別に隠さないよ?

「じゃあ、行くか」

「はい」

 何かリア充しているな、俺。

 でもやっているのはスポ根なんだけど。

 二人で部屋を出ると、控えていたメイドさんたちが入れ替わりに入っていった。

 毎朝、部屋を整えてくれるのだ。

 俺たちが起きるまで、部屋の前で待機しているらしい。

 悪いから止めてくれと言っても聞かないんだよね。

 それで給料貰っているんだからと。

 ジェイルくんにもやんわり釘を刺されたので、放置している。

 原則庶民の俺には嫌な習慣だけど、仕方がない。

 貴族って、面倒が多いのだ。

 並んで廊下を歩く。

 夜が明けたばかりなので酷く寒いけど、これでもマシになった方だ。

 もう暦では春だから普通に動けるけど、ちょっと前まではベッドから出るだけで一苦労だったもんな。

 寒さでハスィーがしがみついてきて、というよりはのし掛かってきて、何度も悪夢を見た。

 ガチガチ震えながら起き上がって、まだ暗いのに無理に出かけたっけ。

 なぜそんな苦労をするのかって?

 ハマオルさんたちが、庭で待っているんだよ。

 俺とハマオルさんは、もともと毎朝の体操とジョギングを習慣にしていた。

 その前は俺一人でやっていたんだが、あの頃はフクロオオカミに乗って山脈に登ったり、ギルド警備隊の隊長と決闘したりしなきゃならなくて、体力的に危機感があったからやれていたのだ。

 王都に出てきてからはハマオルさんが加わったんだけど、その頃はもう春になっていて暖かかったからね。

 特に苦労はなかったんだけど。

 ハスィーが俺の部屋で寝るようになると、当然毎朝起きてすぐに出かけることが知られた。

 ハスィーはまったく迷わなかった。

「わたくしも一緒にやります。

 どうかお連れ下さい」

 それ、真冬の事なんだけど。

 でもハスィーの決心が固かったので、以来朝の習慣も共有しているというわけだ。

 庭に出ると、結構な人数の人影があった。

 まずハマオルさん。

 この人は、俺がどんなに早く起きてもそれ以前に準備して待っている。

 護衛としては当然らしいけど、ひょっとしてあまり寝てないのでは?

 次にハスィーの護衛であるリズィレさん。

 起きている時は常にハスィーに従っているから、当然朝の体操とジョギングにもつきあってくれている。

 そしてジェイルくんとヒューリアさん。

 この人たちは色々理由があってヤジマ邸に同居しているんだけど、最初はもちろん朝の行事には参加していなかった。

 知らなかったから当然だけど。

 でも、ある時俺たちが走っているのに気がついて、(あるじ)がやっているのならその配下も当然やるべきでしょうとか言いながら参加してきたのだ。

 最初はついてこれなくて途中でへばっていたんだけど、二人ともそういうのには我慢できないタイプらしくて、すぐに俺と遜色ないくらいの体力をつけた。

 特訓でもしたのかも。

 それはともかくメインはこのくらいなんだけど、俺たち以外にもかなり多くの参加者がいる。

 ハマオルさん配下のヤジマ警備の人たちで、むしろ自主的に来ているらしい。

 ハマオルさんは別に命令はしなかったようだけど、俺とハスィーだけならともかく、ジェイルくんやヒューリアさんといったヤジマ商会の幹部も一緒に走るようになったからね。

 やはり相応の警備が必要でしょう、と言うことになったらしいのだ。

 実際には傾国姫を見て眼福しようという下心があるようだけど。

 最初はみんなでついて来ようとして、どっかのマラソン大会みたいになってしまったので、ハマオルさんが一緒に走る人数を制限した。

 今はローテーションで回しているらしい。

 だけじゃなくて、身体を鍛えるためにはやはり毎日走った方がいいということで、俺たちが走る前後を時間差で走ってくれている。

 露払いと後始末ということで。

 というわけで、ヤジマ邸の付近は毎朝結構な人数が走る名所になってしまっていた。

 さすがに見物に来る人はいないけど、回りの屋敷の人たちはよく知っていて、俺たちが走るとメイドさんや庭師の人たちが手を振ってくれるのだ。

 何か変だけど、実害があるわけじゃないから放置している。

 それに、俺だけならともかくハスィーの安全を考えれば、これだけの人数で動いていることは心強い。

 何せ一緒に走っている人たちは、ほぼ全員が警備担当者なのだ。

 万一襲われたとしても、まず大丈夫だろう。

 というよりは、そもそもこの集団を襲うためには少なくとも同人数が必要だろうしね。

 だからこれでいいのだ。

 みんなが揃った所で、ハマオルさんが指揮をとって全員で体操をする。

 これは俺がうろ覚えのラジオ体操を伝授したもので、多分間違っているだろうけど、それに帝国中央警備隊が行っている身体訓練の様式を加えた柔軟体操になっている。

 身体がほぐれた所で、まず露払いグループが出発。

 数分後に、俺たちが走り出す。

「行こうか」

「はい」

 俺とハスィーを中心にして動き出す集団。

 何だかなあ。

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