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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

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17.留学生?

「ちょっと待って。

 それは王太子の近習全体の考えなの?」

 ヒューリアさんが疑問を投げかけた。

 確かに、グレンさんならそう考えるだろうけど、近習って他にもいるからね。

 俺に難癖をつけてきた、あの何ていうんだったかの馬鹿な貴族の嫡子たちなんかは平気で反対しそうだ。

「そうだ。

 俺とモレルの考えは一致している」

 グレンさんは平然と応えたけど、それだけじゃないでしょう。

「実は俺とモレル以外の近習は全員、任を解かれました」

 グレンさんが笑いながら言った。

「そうなのですか」

「ああ。

 ミラスの奴、傾国姫の問題が解消された途端、本性を現しやがった。

 そろそろ爵位継承のための準備にかかった方が良くないか、とほのめかしただけだったけどな。

 もちろん裏から手を回して、奴らの父親たちを誘導したんだが」

 それは凄い。

 まあ貴族の嫡子なんだから、いずれは後を継ぐわけだけどね。

 王太子殿下の近習という立場は、それは凄いけど貴族の爵位に比べたら迷うまでもないだろう。

「あなたはいいんですの?」

 ラナエ嬢が聞くと、グレンさんは肩を竦めた。

「俺は爵位を辞退したよ。

 たかが子爵だからな。

 弟がいるから、ルワード家は心配いらない」

 何と。

「それに、このままミラスの近習やっていた方が、むしろ高位に上がれそうだと思わないか?

 最低でも伯爵くらいにはなれそうだし」

 獰猛に笑うグレンさん。

 やっぱこの人も半端ないなあ。

 貴族の爵位云々は照れ隠しだろうけど。

「そうですね」

 ユマ閣下が指を唇に当てて言った。

「正しい決断だと思いますよ。

 パラダイムの変化が加速しているこの状況なら、ミラスにくっついていた方が生き残れる確率は高くなるでしょう。

 ましてミラスはマコトさんに取り込まれています。

 それだけで、チップを丸ごと賭けても大丈夫かと」

 何それ?

 みんな頷いたりして。

 俺みたいなのに賭けても、ろくな事にはならないよ?

 ていうか、俺がミラス王太子殿下を取り込んでいるって何よ。

 逆でしょう。

 そんな俺の思いは無視された。

「近習で残ったのは、グレンとモレルだけですのね。

 でもモレルは侯爵の嫡子でしょう。

 それなのに爵位の継承を放棄したんですの?」

 ラナエ嬢が聞くと、グレンさんは呆れた顔で答えた。

「あいつは『忠臣』だからな。

 侯爵位を放棄することなんぞ、何とも思っちゃいない。

 レベーリ侯爵閣下も勝手にしろと仰せだ。

 奴にも弟がいるから心配はいらん」

 やっぱり。

 モレルさんは弁慶なんだろうなあ。

 ミラス王太子殿下が義経で。

 だとするとグレンさんは金売りの吉次か?

 いや違うな。

 もっと近い人物だろう。

「というわけで、近習の目的ははっきりしている。

 ミラスには、是非ともこの恋を成就して貰いたい。

 だから知恵を貸してほしいんだ。

 もと『学校』仲間としても、ソラージュの臣民としても、将来変なのが王妃になるよりはマシだろう?」

 グレンさん、ひょっとして意識してやってない?

 悪ぶっているけど、あまり板についてないような。

 みんなもそれは判っているようだった。

 ラナエ嬢さんがため息をついて言った。

「それもそうですわね。

 わたくしは賛成します」

「私も。

 フレアはいい娘だし、何といってもシルレラの妹ですからね」

 ヒューリアさん、そっちの方が重要なの?

「いいでしょう。

 私も協力します」

 ユマ閣下が賛成したのなら、決まりだね。

 そっちが勝つ。

「マコトさんはどうしますか?」

 ジェイルくんが聞いてきた。

「わたくしは、マコトさんに従います」

 ハスィー、どうでもよさそうだね。

「マコトさん、よろしくお願いします!」

 グレンさんが頭を下げてきた。

 いや、だから何で俺?

「それはもちろん、マコトさんが賛成するかどうかで決まるからです」

 ユマ閣下、冗談は止めて下さい。

 俺の意見なんか、関係ないと思いますが。

 でもまあ、俺だってフレアちゃんやミラス殿下には幸せになって欲しいからな。

 だから、まずは釘を刺しておく。

「フレアさんはどうお考えなのでしょうか」

「それは……ご本人に聞くわけにもいきませんし」

「今のところは、何も考えていないと思いますわ」

 ヒューリアさんが言った。

「外国に来て、生まれて初めて『仕事』について、懸命に働いている段階で恋愛にまでは気が回らないはずです。

 落ち着くまでは興味もないでしょうね」

「だが、落ち着いてきた時にミラスと親しくなっていれば、可能性は高くなる」

 グレンさんが言う。

「フレア様も皇族ですから、ご自分のご結婚については覚悟をお持ちかと思います。

 全然知らないどこかの国の貴族に嫁ぐより、ある程度は親しいソラージュの王太子の方がいいのではないでしょうか」

 グレンさん、必死?

 やっぱ近習なのか。

 あるいは、友情かもしれない。

 でも確かにその通りだね。

「判りました。

 私も協力します」

「ありがとうございます!」

 グレンさん、頭を下げすぎ!

「ということで、ミラスに協力することが決まったわけですが」

 ラナエ嬢が仕切った。

「具体的には何を?」

「そうですね」

 やはり、ここは「略術の戦将」の出番だろう。

 我らが作戦参謀だ。

 常勝の。

「まずは、ミラスとフレア様が不自然でなくお会いできる環境の整備が必要です。

 現状、『ニャルーの(シャトー)』で働いているフレア様に、王太子の立場にあるミラスが頻繁に会いに行く、という状況は問題です」

「それはそうですね。

 王太子殿下のお顔は比較的知られてはいないとはいえ、『ニャルーの(シャトー)』には一般人だけではなく貴族も出入りしています。

 発覚は時間の問題でしょう」

 ジェイルくんの分析も凄い。

 ユマ閣下の次くらいには、作戦地図が読めるんじゃないか?

「では、フレア様を他に移しますか?」

「同じ事です。

 どちらにしても、フレア様のいらっしゃる所にミラスが行くことになります。

 誤魔化せませんよ」

「ヤジマ商会に堂々と来られても困ります」

 ハスィーが口を挟んだ。

「マコトさんとわたくしがいる所に、ミラスが頻繁に来るのは問題です。

 変な噂が立ちかねません」

 ハスィー、結局俺と自分のことしか考えてないんじゃない?

 いや嬉しいけど。

 でも否定意見では問題は解決しないんだよ。

「いっそ、フレア様を王太子府で引き取るというのはどうでしょうか」

 ヒューリアさんが大胆な意見を述べた。

 この人も、あまり真剣に考えてないな。

 シルさん以外はどうでもいいのだろう。

 でもまあ、確かにミラス殿下が保護するのが一番安全かもなあ。

 この国のNO.2なんだし。

「無理だ。

 そんなことをしたら、ミラスがフレア様をその時点で『俺の嫁』宣言したことになってしまう。

 まだ何の準備も整っていないからな。

 王政府や帝国政府が黙っちゃいないぞ」

 グレンさんが吼えた。

 まあ、ラノベじゃないんだしな。

 王族や貴族が、正当な理由なく未婚の貴族令嬢を公けに迎え入れる。

 それだけで、色々な手続きをすっ飛ばしていきなり婚約したことになるようなのだ。

 貴族、いや王族や皇族の世界ではそれが常識らしい。

 無茶すぎるぞ。

 大体、フレアちゃんの意見を聞いてないし。

 本人の反発はそれどころじゃないはずだ。

 シルさんも、何て言うか。

「ではどうすれば?」

 ジェイルくんが締める。

 すると、なぜか全員が一斉に俺を見た。

 丸投げ?

 まあいいけど。

 俺はジェイルくんに聞いた。

「『ヤジマ学園』って、どれくらいで開園できる?」

「あ、はい。

 ほぼ準備は整っています。

 教師の人選も終わっています。

 カリキュラムは当面教師の方に任せるとして、後は生徒を募集するだけです」

「『ヤジマ学園』?

 例の『小学校』ではなくて?」

 ラナエ嬢の質問に、ジェイルくんが簡単に説明する。

「その上の段階というか、発展系の教育機関です。

 皆さんが行かれた『学校』ほどの密度ではありませんが、ある程度の技能や医療などの専門家(プロ)を育てることを目的とする予定です」

「『ヤジマ学園』ですか。

 なるほど。

 さすがマコトさんですね。

 お見事です」

 ユマ閣下が手を叩いてくれた。

 あれだけで判ったのか。

 あいかわらずパネェな。

「何なのでしょう?」

 ラナエ嬢の質問に、ユマ閣下が俺を伺うのでどうぞと手を広げてみせた。

 俺より上手く説明できそうだし。

「その『ヤジマ学園』に、何らかのコースを作ってフレア様を在籍させます。

 この時点で、フレア様は正式にソラージュに留学したことを発表します。

 私たち『学校』の卒業生は、『ヤジマ学園』の関係者として訪問できます。

 ミラスは合法的かつ不自然にではなく、フレア様といくらでもお会いできることになります」

 さすが。

 ついでに付け加えておく。

「フレアさんの護衛として、現在帝国中央護衛隊の元従士長がついていますが、この人およびその配下の人たちも警備員や用務員として採用します。

 学園の警護を担当してもらうので、ミラス殿下やフレアさんの安全も守れます」

 一瞬、場が静まりかえる。

 次の瞬間、全員が拍手してくれた。

「ブラボォー!」

「マコトさん凄い!」

「見事です!」

 それほどのもん?

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