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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

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14.手駒?

 ヤジマ商会に戻ってハスィーたちを先に屋敷に帰すと、ハマオルさんがリズィレさんに一言二言命じて追い払うのが見えた。

 まだ何か?

 ハマオルさんは、俺に近寄ってくると囁くように言った。

(あるじ)殿。

 リズィレやその他の者どもには聞かれたくありませんので、どうかこれからの話は内密にして頂けませんか」

「いいですが……教団の話なら、別に恥になるようなことでもないでしょう。

 俺にも似たような経験がありますし」

 そう、あの顧客とはもう二度と会いたくない。

 システム本稼働で担当を離れたので助かったけど、でなかったら辞めるか鬱になっていたかも。

「実は、(あるじ)殿だけにはお話しさせて頂きますが、私が14歳で救護院を離れて冒険者の師匠に弟子入りしたのは、何としてでもあの暴虐から逃れたかったからでございます」

「そうだったんですか」

「はい。

 師匠の訓練は、それは厳しいものでしたが、師匠の『救護院に帰りたいか』の一言で、どんな辛い訓練も花園に変わりました。

 他の弟子たちが逃げ出した時も、私が踏みとどまれたのは、あの方々のおかげかもしれません」

「……」

「私がたった数年で剣鬼と呼ばれた師匠から免許皆伝を許されたのには、そういう理由がありまして。

 サリムなどの教護院時代からの仲間は知っておりますが、その他の者にはどうか内密に願います」

「それはもちろんですが……サリムさんも?」

「はい。

 あの頃の救護院の仲間たちが、全員ひとかどの者になっているのは、おそらくそのせいでございましょう。

 同時に、全員がラヤ僧正様に心服し、在家信者となっているのもそれが理由です。

 あの方々の暴虐から庇って下さったラヤ様の優しさ……。

 そして、それぞれの希望に応じて弟子入り先を探して下さったそのお心。

 我々は全員、ラヤ様に返そうとしても返しきれない恩義があるのでございます」

 ハマオルさんは、それだけ言うとすっと離れていった。

 完璧超人に見えるハマオルさんの黒歴史か。

 人は皆、人には言えない重い過去を背負っているものだなあ。

 それを話してくれたということは、つまり以後は絶対にこの話題を持ち出してくれるな、ということだろうね。

 よし判った。

 ハマオルさんの秘密は、俺が墓まで持って行こう。

 その日の夕食会の話題は、当然だけど猫喫茶じゃなくて「ニャルーの(シャトー)」の話になった。

 正確に言えば、ミラス王太子殿下の件だけどね。

 でもフレアちゃんがいるので、正面から取り上げるわけにはいかない。

 勢い、「ニャルーの(シャトー)」の状況から入ることになる。

 ちなみに、教団の大教堂の件はなんとなく後回しになった。

 ヒューリアさんが拒否反応を示すもので。

「『ニャルーの(シャトー)』はそんなに流行っているのですか」

 ユマ閣下はご存じなかったらしく、興味深げに聞いてきた。

 今のところ、あまり司法省とは関わりがないからね。

 まあ、いずれは風紀紊乱とか違法行為の可能性とかで関係してきそうだけど。

 猫喫茶は今のところ競合する団体や商会がないので、商人の間でも反発は起きていないらしい。

 これも、儲かると判れば誰かが業界に参入してきそうだな。

 ジェイルくんは判っているようで、頷いていた。

 もうすっかり慣れて、夕食会でも違和感なく溶け込んでいる。

 男が増えて嬉しいけど、イケメンだからなあ。

 ちなみにノール司法管理補佐官を初めとするユマ閣下のお付きの方々は、別室で歓待を受けている。

 これって饗応だよね?

 もう司法管理官とヤジマ商会の癒着に近いけど、ソラージュ王都で司法管理官に文句を言える人なんか存在しない。

 日本と違って民主国家じゃないし、スクープ狙いのパパラッチもいないからだ。

 司法管理官を詰問できるのは司法長官とか王政府の高官くらいなものだろうけど、ユマ閣下のことだからどうせ言い訳を用意してあるのだろう。

 ハスィーとはまた別の意味で、無敵の存在だ。

「わたくしの所からも、有能な職員を何人も引き抜かれましたわ」

 ラナエ嬢、じゃなかったセルリユ興行舎のラナエ舎長が言った。

「即戦力が必要なのは判るのですが。

 こちらもサーカス団の立ち上げなどで、人がいくらいても足りない状況です。

 シルレラ様にお願いして、また補充を送って頂かなければ予定が遅れるばかりです」

 ラナエ嬢も、フレアちゃんの手前シルさんのことを「様」付けで呼んでいる。

 面倒くさいけど、仕方ないよな。

 ちなみに、シルさんはもうアレスト市に引き上げた。

 フレアちゃんは寂しがっていたが、ヤジマ芸能や「ニャルーの(シャトー)」の仕事が忙しくて、いつまでも引きずるほどではないみたいだ。

 成長したね、フレアちゃん。

「お姉様(シルさん)の所も、野生動物が増えててんてこ舞いだそうです。

 むしろ人員補充が必要だと聞きましたわ」

 フレアちゃんの反論に、ユマ閣下が答えた。

「シルレラからの要請で、王都中央騎士団から何人か、出向要員を送りました」

 ユマ閣下は幼なじみの特権で、シルさんのことは呼び捨てか。

 フレアちゃんもそれは判っているのか、何も言わない。

「アレスト市騎士団に着任はするものの、今度は最初からフクロオオカミなどの野生動物との共同運用を目的としたアレスト興業舎派遣の研修生です。

 向こうでは既に、本格的な運用が始まっているはずです。

 それに同行して実務的な経験を積むことになっています」

「それ、都落ちではありませんの?」

 ヒューリアさんが聞く。

 まあ、地方に飛ばされて野生動物係というのは、普通左遷だよね。

「とんでもありません。

 むしろ、将来の幹部候補です。

 騎士団の通常任務に比べて今後大いに発展が見込まれる分野ですし、上がつかえていない分、昇進も早いですから」

 そうなのか。

 うん、確かに。

 野生動物との共存というよりは共同作業は、今後どんどん増えていくだろうからな。

 騎士団はその最先端だ。

 もともと辺境におけるパトロールや人命救助も騎士団の任務なんだけど、野生動物を戦力に組み込むことが出来れば、効率が飛躍的に上昇する。

 警備隊でも野生動物との共同作業が始まっているらしい。

 王都の警備隊は動きが遅いけど、それは仕方がないな。

 王都には野生動物ってあんまりいないし。

 でも、犬や猫なら十分ギルド警備隊の役に立つんじゃないかなあ。

 そこら辺、ジェイルくんに言って提案してみるか。

「そういえば、アレスト興業舎にいたロッド殿が王都の中央騎士団に戻りましたよ」

 ユマ閣下がふと思いついたように言った。

 ロッドさんがこっちに戻って来ているのか。

 フクロオオカミにハマッて、騎士団を辞めてアレスト興業舎に入ると言うので、みんなで何とか説得したあのイケメン騎士か。

 一緒に山に登って難民を救助したっけ。

 あれ、むしろあの人が立役者なのになあ。

 あの事件を元にしてアレスト興業舎で出した絵本では、ロッドさんの役は省かれていた。

 本人がどうしても嫌がって、削除されたらしい。

 羨ましい。

 俺なんか知らなかったから、まんまと掲載されてしまったもんな。

 でもあの絵本のイケメン近衛騎士、どう見ても俺じゃないよね?

「ロッド殿は、王都中央騎士団の野生動物導入担当として呼ばれたと聞きました。

 着任と同時に昇進しています。

 騎士長ですわね」

 ユマ閣下は他人事のように言うけど、どうせ後ろで糸を引いているのもユマ司法管理官なのだろう。

 ホントにもう、この人は。

 野生動物に関わった人の出世が早い、という実例を持ってきたわけね。

 それは志願者も出やすくなるわけだ。

 それにしても騎士長か。

 ヤジマ芸能に臨検に来たあの何とかいう偉そうな騎士の人と同じ階級になったのか。

 ロッドさんは上級職(キャリア)らしいからもともと出世が早いだろうけど、それにしても破格の昇進なんだろうな。

 ユマ閣下の謀略は着実に進行している。

 王都が制圧される日も近い。

 ララネル公爵殿下の危惧も、今になってみるとよくわかるな。

 いえ、俺は別に世界征服とかソラージュ撲滅とか考えてないですから!

 俺はきちんとした会舎で正社員やりたいだけなんだよ!

「マコトさんの手駒が、これで王都の中央騎士団にも出来ましたわね」

 無理か。

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