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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

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12.大教堂?

 「ニャルーの(シャトー)」の従業員がいる前でする話じゃないので、俺たちは黙って退館した。

 ヒューリアさんも帰舎するというので、一緒に馬車に乗り込む。

 余った馬車には、先に帰って貰った。

 美女二人と一緒に馬車に揺られていても、心が浮き立たない。

 帰りに教団施設の建設現場近くを通ったけど、マジででかい建物になりそうだった。

 基礎部分だけでも凄いんだよ。

 金がかかっているなあ。

 ここがカリ僧正様たちの大聖堂になるというのか?

「大聖堂ではなくて、大教堂です。

 別に神を祭る場所ではないので。

 教団の拠点ですわね。

 現在の所、帝国の大教堂に次いで世界でも二番目に大規模なものになるということです」

 そんな凄いものを作っちゃうの?

 俺、2DKくらいのこじんまりとした家を想像していたんだけど。

「カリ僧正猊下も、最初はご自分たちが執務できる程度の事務所を考えておられたようです。

 ヤジマ商会の敷地内に建てるおつもりだったらしく」

「それがどうしてこんなことに」

「ジェイルさんに決済を求めたところ、『ヤジマ商会がそんなみみっちい寄進をしたと知られたら恥になります』とおっしゃられて。

 急遽ラヤ僧正猊下などにご希望を聞いて、大番頭権限で即断されました」

 ジェイルくんのせいか!

 俺に何の相談もなかったのはなぜ?

「マコトさんの裁可は降りているということで。

 確かにそうでしたし」

 何てことを!

 2DKでいいと言っているんだから、そうすればいいのに!

「ジェイルさんは、不気味な微笑みを浮かべながら『これで今年度の決算を赤字に出来る』と呟いていらっしゃいました。

 私も少し引きました」

 ジェイルくん。

 済まなかった。

 君がそこまで追い詰められていたとは、思いも寄らなかったんだよ。

 俺が不甲斐ないばっかりに、苦労をかけるなあ。

 じゃなくて、なんでそんなに金を使いたがるんだよ!

 黒字化って、そんなに恐ろしいことなのか?

 ジェイルくんがそう言うのなら、そうなんだろうけど。

「まあいいや。

 ヤジマ商会の金の使用用途についてはジェイルくんに任せてあるんだし、別に経営が危なくなるほどでもないんだよね?

 ジェイルくんも思い通りになったんだから、少しは気が休まっただろうし」

 俺が言うと、ヒューリアさんは困ったように首を傾げた。

「それが……まず、土地の件はもともとヤジマ商会が将来を見越して購入していた地所ですので、新しい経費はかかりませんでした。

 大教堂の建設費も、教団が負担するということでヤジマ商会の支出はありません。

 さらに」

 もっとあるの?

「ヤジマ商会が土地を教団に寄進したということで、税金の控除対象になることが判明しました。

 つまり節税になってしまったということで、ジェイルさんの落胆ぶりは酷いものでしたわ」

 そうなのか。

 何も言えないけど、まあ気にしないでくれジェイルくん。

 君にも失敗はあるさ。

 どっちにしても、カリ僧正様たちへの義理は果たしたわけで、いいか。

 しかし、あの大教堂が出来るまでには結構時間がかかるんじゃないのか?

 その間、カリ僧正様たちは「楽園の花」のあの部屋に居続けるんだろうか。

「その件につきましては、私の方で手を打っておきました」

 ヒューリアさんが言った。

「ヤジマ商会の前庭に、ほんの十部屋程度の小さな家を建てて、教団の出張所として使って頂くことになっております。

 僧正猊下の執務所としては小さすぎて心苦しいのですが、カリ僧正猊下がそれで良いとおっしゃられるもので」

 十部屋って、何LDKだよ。

 やっぱ感覚が違うな。

 でも、だったら最初からそれで良かったじゃないか!

 もともとそういう話だったんだし。

 まあいい。

 もう終わったことだ。

 考えるのはよそう。

 全部、大番頭と社交秘書が勝手にやったことだ。

 俺は知らん。

「すると、ヤジマ商会には教団の僧正猊下が常駐して下さることになるわけですか」

 ずっと黙っていたハスィーがほうっとため息をついた。

「これほどの栄誉は、どこの王族でも望めないかもしれません。

 マコトさんの名声が益々高まります」

 そうなの?

 ていうか、どうしてそうなるんだよ。

 俺は何もしてないだろう。

「マコトさんも近衛騎士ですから自由ですが、スウォークはさらに自由なのです。

 例え王家のご威光をもってしても、教団の僧正猊下を従わせることは出来ません。

 まして、お会いしたい時にいつでも会えるような立場になるなど、夢のようです」

 ハスィーがうっとりしている。

 スウォークって、それほどのものなのか。

 まあ、確かにこっちの世界では神様の次くらいに格が高そうだけどね。

 キリストとか釈迦が自分ちの庭に詰めてくれているようなものなのかもしれない。

 でも俺、割合頻繁に会っているんだけどなあ。

 それも、どっちかというと向こう側の意向で顔を合わせている気がする。

 毎回奢られるし。

 自分から僧正様に会いに行ったのって、一回か二回くらいなもんだけど。

「マコトさんが特殊なだけですわ。

 普通の人は、どんなに望んでも、僧正様に直接お会いするのは困難です。

 貴族でも簡単にはいきません。

 あくまで、スウォークの方々の意向が尊重されますから」

「でもハマオルさんは、ラヤ僧正様と親しいと言ってませんでしたか?」

 俺が御者席のハマオルさんに声をかけると、ハマオルさんが振り返って言った。

「私がお世話になっていたのは、教団の救護院でしたからな。

 言わば身内です。

 庶民や普通の孤児では、僧正様にお会いできる伝手もありませんので、まず一生お目にかかることはないでしょう」

 そうなんだ。

 ていうか、普通の人はスウォークの存在自体をよく知らないとか誰かが言っていたっけ。

 傾国姫と同じようなもので、聞いたことはあるけど物語の中にいて、自分とは関係がないものだと認識されているのかもしれない。

 まあ、普通の生活をしていたら一生縁がない存在だろうな。

「教団の救護院では、スウォークの方が指導して下さるのですの?」

 ヒューリアさんが聞いた。

 もともと貴族だから、そういう下々の事については知らないんだろう。

 仕事でもそういう人たちと接触する機会がなかったのかもしれない。

 交易をしているといっても、会うのはトップかその下くらいだろうし。

 ハマオルさんが答えた。

「私のいた救護院を経営している教団支所は、皇帝家と縁が深いところでしたので。

 私どもでも、普通に僧正様にお目にかかることができました。

 僧正様も、時々私どもを集めてお話をして下さいました。

 皇弟殿下の伝手で私のような者も入れましたが、そうでなければ孤児が僧正猊下とお会いできるはずがございません」

 ハマオルさん、自分の事なのにずいぶん客観的だな。

 でも、それについては俺も興味がある。

 プライベートを暴くようで悪いけど、聞いてみようか。

「ハマオルさん、俺も聞きたいんですが、いいですか?」

 ハマオルさんが笑った。

「何なりと。

 (あるじ)殿」

 良かった。

 気を悪くしてはいないようだ。

(あるじ)殿。

 ご遠慮なさる必要はまったくございません。

 どんなことでもお答えいたします。

 貴顕の護衛とは、そういうものです」

 隣で手綱をとっているリズィレさんも頷いている。

 いや、俺は貴顕じゃないし。

「マコトさんは近衛騎士で、爵位持ちの貴族なのです。

 ご身分に伴う権利と義務を、しっかりと認識してください」

 ハスィーに釘を指されてしまった。

 そうは言ってもね。

 21世紀の日本の平サラリーマンなんだよ、俺は。

 この認識はもう、一生変わらないと思うぞ。

「そこがマコトさんの素敵な所でもあるのですが、私もハスィーと同意見ですわよ。

 お気をつけなさいませ」

 ヒューリアさんもか。

 まあいい。

 俺は気を取り直して、ハマオルさんに聞いた。

「帝国では、孤児はみんな救護院に入るのですか?」

 だとしたら凄いけど。

「とんでもございません。

 教団の救護院は、何らかのコネや伝手がある者だけを受け入れる施設です。

 私は帝国の街道で行き倒れているところをシルレラ皇女殿下に拾われ、皇弟殿下の伝手で収容して頂けました。

 望外の幸運でございました。

 もしシルレラ様にお会いできなかったとしたら、今頃は良くてゴロツキ、悪ければとうに死んでいたでしょうな」

 パネェ。

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