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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

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11.ご紹介?

 従業猫の純白(ピュアホワイト)さんは既に引き上げた後らしかった。

 他のお客さんもいない。

 混んでいるという話だったが、ミラス殿下が何かやったのか。

 策士な上に、この国のNO.2だからな。

 その気になれば、何だって出来るだろう。

 改めてミラス殿下と向かい合って座る。

 グレンさんはミラス殿下の後ろに立っていた。

 こっちはハスィーと並んで座っているけど。

 身分的にいいのか?

「俺は従者の立場なので。

 気にしないで下さい」

 グレンさんはそう言うけど、気になるよね。

「グレンも、そういう所は細かいからなあ」

「抜かせ。

 お前が気を抜きすぎなんだよ」

 態度は同格だな。

 まあいい。

「それで、お話というのは」

 「お願い」だと聞くしかなくなるので、そこは慎重に言い回しを変える。

 この辺りは北聖システムで覚えた。

 中小零細企業の親父の中には、そういう技を使ってくるのが結構いるんだよ。

 世間話のふりをして、後で営業に「でも八島くんはそう言っていたよ」とかねじ込んできたりして。

 何度も怒られたからな。

 取引相手には、言質を与えてはならない。

 これが仕事の鉄則だ。

 ミラス殿下もそれは判っているようで、苦笑していたが何も言わない。

 ま、その気になれば関係ないけどね。

 王太子殿下なのだ。

 俺は近衛騎士、つまり貴族だからミラス殿下の配下にあたる。

 命令されたら断れないんだよね。

 ただ、理不尽なことをしたら長期的にはミラス殿下の損になるので、まず無茶は言わないと思うけど。

「そんなに構えないで下さいよ。

 言い出しにくいじゃないですか」

「いえ、これは地です」

 微妙な雰囲気になってしまった。

「それでミラス、何なのでしょうか」

 ハスィーが突破してくれた。

 傾国姫は無敵だ。

 ミラス殿下もちょっと引いているぞ。

 かつて憧れた絶世の美女エルフは、さすがのミラス殿下も苦手か。

「うん。

 ごめん。

 率直にいいます。

 帝国のフレア皇女殿下のことなのですが」

 そんなことは判っているんだが。

「マコトさん、フレア殿下とはどのようなご関係なのでしょうか」

 それかよ!

「姉君のシルレラ皇女殿下より、保護を言いつかっております」

「それだけですか?」

 何を言いたいんだ。

 いや判っているけど。

 こんなに面倒くさい人だったのか、ミラス殿下って。

 さすがにキレかけるぞ。

「私はフレア殿下の保護者で、それ以上でも以下でもありません。

 そもそも、私にはハスィーがいます」

 俺は、言いながら手を伸ばしてハスィーの肩を抱いた。

 ハスィーが嬉しそうに身を寄せてくる。

 いい抱き心地だ。

 肩だけど。

「そうですか」

 ミラス殿下は明らかにほっとしていた。

 グレンさんが視線を逸らせたのに対して、全然俺たちのことなど気にしていない。

 重傷だな。

 もう駄目かもしれない。

 ミラス殿下は、何度か躊躇ってから決心したように頷いて言った。

「マコトさん、僕にフレア殿下を紹介して貰えませんか」

 やっぱり。

 ま、それ以外にはないよね。

「構いませんが、ご自分で自己紹介した方が良いのでは」

 ちょっと意地悪だったかなあ。

 でも、このくらいは言わないと。

「あ、いえ、いずれはそうするつもりなのですが」

 ミラス殿下は赤くなっていた。

 恋って凄いよね。

「いきなりでは、フレア殿下も引くんじゃないかと。

 だから、とりあえずは僕のことをマコトさんの知り合いの貴族として紹介して頂きたいんです」

「ムト子爵閣下として、ですね」

「はい。

 ヤジマ商会とかで、偶然を装って、こうさりげなく」

 純情な割に策士が出てしまっている。

 面倒くさいなあ。

 よし判った。

「いいですよ」

「本当ですか!

 ありがとうございます!」

 大げさに喜ぶミラス殿下をおいて、俺は無言で立ち上がると廊下に通じるドアに向かう。

 案の定、ハマオルさんが廊下で待機していた。

(あるじ)殿。

 何か」

「すみません。

 フレアさんに、至急ここに来るように伝えて貰えませんか」

「了解しました」

 さすがハマオルさん。

 無駄がないな。

 俺はドアを閉めてソファーに戻った。

「マコトさん、何を」

「今、フレアさんをここに呼びました。

 ご紹介させていただきます」

「え。

 あ、あの」

 ミラス殿下が狼狽えているが、無視する。

 グレンさんが笑いをかみ殺していた。

 ハスィーは俺が隣に戻るとすぐに身を寄せてきた。

 俺と自分以外はどうでもいいらしい。

 どいつもこいつも自己中だ。

 ミラス殿下が赤くなったり青くなったりしている以外は、特に何も起こることなく時間が過ぎる。

 ノックの音がして、フレアちゃんが入ってきた。

 怪訝な表情だ。

「マコトさん?

 お呼びですか」

「ああ、フレアさん。

 実はご紹介したい人がいまして」

 俺は立ち上がってフレアちゃんを迎え、背中に手を回してソファーに向かう。

 ミラス殿下も立ち上がっていた。

「あ、先ほどは」

 フレアちゃんが言いかけるのを遮るようにして、俺は言った。

「こちらは私の友人のムト子爵殿です。

 お世話になっているフレアさんに、ご挨拶したいということで、来て貰いました」

 あ~、面倒くさい。

「ミラス・ムトです」

「あ、はい。

 『ニャルーの(シャトー)』のフレアと言います。

 いつもご利用、ありがとうございます」

 フレアちゃん。

 凄いよ。

 「ニャルーの(シャトー)」の舎員になり切っているじゃないか。

 つまり、ミラス殿下の事は何とも思ってない訳ね。

 まあそれはそうだ。

 フレアちゃんにしてみれば、ミラス殿下はよく来る客の一人に過ぎないわけだし。

 一応フォローはしておくか。

「ムト殿は帝国に興味があるらしいんだ。

 フレアさんは最近まで帝国にいたんだし、色々話して差し上げたら。

 ムト殿はヤジマ商会にとっても大切な取引相手だから、頼みます。

 『ニャルーの(シャトー)』の仕事は俺の方から言っておくから」

「……マコトさんがそうおっしゃるのでしたら」

 フレアちゃんは、躊躇いがちに了承してくれた。

 よし。

 これで借り一つは返したぞ。

「じゃあ、俺たちは用があるので」

 俺が立ち上がると、グレンさんが続けた。

「俺も、ちょっとマコトさんと話したいことがあるから。

 ムト、戻るまで待っててくれ」

 唖然とするミラス殿下。

 その隙に、俺たちは二人を残してゾロゾロと部屋を脱出した。

 後は知らん。

 自分の恋路は自分で切り開くものですよ、ミラス殿下。

 廊下では、ハマオルさんとサリムさんが立ち話をしていた。

 それともう一人、知らない顔の若い男。

「あいつの護衛役です」

 グレンさんが言うと、男は無言で頭を下げた。

 どこといって特徴がない、つまり護衛にぴったりの人だ。

 多分、ハマオルさんやサリムさんとタメを張るくらいの手練れなんだろうな。

「俺とこいつが隣で待機しています」

 サリムさんが言うので、俺たちはそのままハマオルさんに従って廊下を進んだ。

「これからどうしますか?」

 俺が聞くと、グレンさんは頷いた。

「俺は、しばらく喫茶エリアで時間を潰してからあいつの所に戻ります」

「失礼じゃなかったですかね?」

「いいんですよ。

 あいつの願い通りになったわけですし。

 後は、あいつの問題です」

 廊下だから、ミラス殿下の名前は出さない。

 誰がどこで聞いているか判らないからね。

 やっぱ切れ者だわ、グレンさん。

 階段を降りた所でグレンさんと別れた俺たちは、とりあえずエントランスに向かった。

 特別室には近寄らない方がいいだろうしね。

 フレアちゃんが仕事を外れることも言っておかないと。

 でも、ハスィーが人目についたらまた面倒なことになりそうだなあ。

 誰とは判らなくても、これほどの美貌は隠せないからな。

 今日はもう、引き上げるか。

 ハスィーに聞くと、了承してくれた。

 デートとしてはイマイチだったけど、それなりに色々なことがあったし、気晴らしにはなったよね。

 途中で従業員に聞いて、エントランスに出る前に事務室に入る。

「あら、マコトさん」

 ヒューリアさんがいた。

 今日はこっちに来ていたのか。

「フレアは勤務表から外しておきましたわ。

 特別室も、使用中止にしました」

 簡潔な報告だ。

 ミラス殿下の名は出さない。

 従業員がいるからな。

 あいかわらず凄いね。

「ありがとうございます。

 ヒューリアさんは今日はこちらに?」

「別件でこちらに来て、ついでなので寄っただけですわ」

「別件ですか」

 何かあったっけ?

「マコトさんの命令ですわよ。

 教団のカリ猊下から、土地のご用意をお願いされましたでしょう」

 そんなこともあったっけ。

 でも、あれはヤジマ商会の敷地内では?

「カリ猊下のご希望で、土地を用意させて頂きました。

 ヤジマ商会で購入して、寄進させていただくという形で」

「……どこですか?」

「この隣ですわ。

 もう大教堂の建設が始まっています。

 マコトさん、ここに来るときにご覧になりませんでした?」

 あれかよ!

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