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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

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9.プリンス・ミーツ・プリンセス?

 まさかミラス殿下が猫撫でにハマッていたとは。

 この国のNO.2を麻薬中毒にしてしまったのか。

「違いますよ。

 確かにストレス解消にはなりますが、やらずにはいられないほどではありません。

 今日はまあ、暇つぶしです」

 絶対嘘だ。

 王太子殿下に暇なんかあるはずがない。

 俺にラミット勲章を授与して、つまりハスィーの婚約者と敵対するものではないことを内外に示した結果、ミラス王太子は貴族たちのターゲットに戻ってしまったと聞いている。

 つまり、もうハスィーに未練がないんだったらそろそろ王妃候補と会ってやってくれませんか、という話が山のように持ち込まれているという噂が聞こえてきているのだ。

 てことは、多分逃げだな。

 逃げ込んだ先が「ニャルーの(シャトー)」だったということか。

「確かに最近は働き過ぎだったから、気晴らしは必要なんだが」

 グレンさんがブツブツ言いながら紙袋をテーブルに置いた。

 食料を調達してきたのか。

「マコトさん。

 せっかく会えたんだし、ちょっと話していきませんか」

 ミラス王太子殿下、なんかテンションが高いな。

 グレンさんは渋い顔をしているし。

 悪かったかな?

 俺が遠慮しようとした瞬間、ドアがノックされた。

「失礼します。

 マコトさんが来ていらっしゃるとお聞きしたのですが」

 入ってきたのはフレアちゃんだった。

 純白の美しい猫を抱いている。

「フレアさん」

「あ、やっぱりマコトさん!

 いらっしゃるなら、そうおっしゃってくださればいいのに」

「突然思いついたもので、すみません。

 フレアさんはお仕事ですか?」

「はい。

 私は特別室の担当で、御用聞きのようなことをしています」

 ニャルーさん、帝国皇女に何てことをやらせてるんだよ!

 本人は楽しんでいるみたいだけど。

 正体がバレたら、ただじゃ済まないぞ。

 恐る恐るミラス王太子殿下とグレンさんの様子を伺うと、案の定バレているくさかった。

 ミラス殿下は満面の笑みで、グレンさんは困ったような表情でそっぽを向いている。

 この国のNO.2とその側近だからね。

 情報が入っていないわけがない。

 正統の帝国皇女が猫喫茶で働いていることなど、とっくに調査済みだろう。

「ニャルーさんに言っておかないと」

 そんな俺の呟きを気にすることなく、フレアちゃんは抱いていた猫をソファーに放して、ミラス王太子殿下に丁寧に挨拶した。

「お待たせしました。

 ご指名の『純白(ピュアホワイト)』さんをお連れしました」

「ありがとう。

 『純白(ピュアホワイト)』さんも、お忙しい所をすみません」

「いえ、仕事ですから」

 白い猫は澄まして答えると、ひょいとテーブルに飛び乗った。

 ミラス王太子殿下と正対する。

 その間にフレアちゃんは俺たちに丁寧に挨拶すると、さっさと出て行ってしまった。

 つまり、それがフレアちゃんの仕事か。

 御用聞きというよりは送迎だな。

「マコトさん、すみません。

 僕はちょっと『純白(ピュアホワイト)』さんにお聞きしたいことがあるので、待っていていただけないでしょうか?

 マコトさんにはお願いしたいこともありますので」

 何だろう?

「いいですよ」

 そう言うしかないよね。

 相手はこの国のNO.2で、俺にラミット勲章をくれた方で、しかも「ニャルーの(シャトー)」の特別なお客様なのだ。

 経営者として、礼を尽くさずにはおれない。

「じゃあ、俺がマコトさんと打ち合わせしているから」

 グレンさんが言ったが、ミラス殿下はもう俺たちのことなんか眼中にないようで、ちょっと手を振っただけだった。

 どうみても俺たちに出て行って欲しそうなので、俺とハスィーはグレンさんに従って奥のドアを抜けた。

 こっちは少し小さな部屋で、個室になっているらしい。

 ますます売春宿的な雰囲気になってきたなあ。

 ドアを閉め、ソファーに向かい合って腰掛けると、グレンさんがいきなり頭を下げた。

「マコトさん。

 ハスィー。

 すみません。

 ミラスが失礼してしまって」

「いえ、別に失礼されたとは思っていませんが……ミラス殿下はあの『純白(ピュアホワイト)』さんにご用なんですか?」

 純白の猫だから「ピュアホワイト」か。

 二つ名なんだろうな。

 いや源氏名かもしれんが。

 某ゴンドラ漕ぎの人たちも、プリマになれば二つ名で呼ばれていたし。

「ええ。

 いえ、別にあの猫に関心があるわけではないんですが……うん。

 ここでマコトさんやハスィーに会えたのはむしろ僥倖か。

 お知らせしておきたいことがあります」

 何だろう。

「ミラスのことですか?」

 ハスィーが初めて口を開いた。

 グレンさんに呼び捨てにされることに抵抗はないようだ。

 男友達とまではいかなくても、昔の同級生だからな。

「そうだ。

 ああ、まずはハスィーに謝らなきゃならないな。

 あんな噂を放置してすまなかった。

 おかげで、ハスィーに都落ちまでさせてしまった」

「それはいいんです。

 そのためにマコトさんにお会いできたんですから、むしろ感謝するべきなのかもしれません」

「そう言って貰えるとありがたい。

 ミラスはあのせいで時間を稼げたからな。

 でなければ今頃は変な嫁を押しつけられて大変だっただろうし」

 そうか。

 「学校」が終わった直後に王妃候補が押しかけてきていたら、その時点では何の実績もないミラス殿下はかなり弱い立場に追い込まれたはずだ。

 だが、まがりなりにも王太子府を立ち上げて、ギルド総括としての責務を果たしてきたわけで、その分だけ王政府に対する発言力が増しているのだろう。

 現時点なら何かを押しつけられそうになっても、十分対抗できるということか。

「今は大丈夫なんですか?」

 俺が聞くと、グレンさんはニヤッと笑った。

「まずまず、ですね。

 少なくともいいようにやられることはありません」

 うーん、つくづくカッコいい。

 タイプは違うけど、うちのジェイルくんと同レベルとみた。

 俺が感心して見つめていると、なぜか咳き込んで視線を逸らせた後、グレンさんは真剣な顔付きになった。

「マコトさんに、ご相談したいことがあります。

 ハスィーも聞いてくれ」

「はあ」

「いいですけれど……王政府のことなら、わたくしたちはあまり力になれませんよ」

 ハスィーも用心深いな。

 当然か。

 ここで王族のゴタゴタに巻き込まれても、いいことは何もないし。

 うーん、と呻きながら、グレンさんは頭を掻いた。

「そうじゃないんです。

 いえ、間接的というか最終的にはそうなるんですが。

 マコトさんにも無関係ではないです」

「何なのでしょうか」

 不安になってきたぞ。

 王政府に関係していて、しかも俺とも繋がりがあるって、一体何なのだ。

 グレンさんは、不意に決心したように姿勢を正した。

「ぶっちゃけますと、ミラスは今恋をしています」

 恋?

 何それ?

 俺とハスィーは顔を見合わせた。

 あまりにも意外な台詞を言われると、思考が停止するようだ。

「……ええと、さっきの『純白(ピュアホワイト)』さんにですか?」

「違います。

 いくらミラスでも、猫に恋したりはしませんよ」

 それはそうだろうけど、「いくらミラスでも」ってグレンさんもよく言うよ。

「そうではなくて、その、先ほどのフレア様にです」

 えーーーっっっ!

 フレアちゃんを?

 つまり「ニャルーの(シャトー)」に遊びに来て見染めたと?

「そうです」

 グレンさんはため息をついた。

「最初は本当に息抜きのつもりで、流行のスポットである『ニャルーの(シャトー)』にお忍びで遊びに来たんですよ。

 マコトさんが立ち上げた施設ということで関心もありましたし。

 そこでミラスはフレア様に出会ってしまった」

 ラノベのようだ。

 エルフの血を引く王子様が、猫喫茶で働くドワーフの女の子に恋をする。

 ところがその女の子は、何と帝国の正統皇女だったのです!

 そんなことって本当にあるのか。

「出会っただけですか?」

 ハスィーの質問に、グレンさんは肩をすくめた。

「さっきみたいに猫従業員を連れて部屋に入ってきた時、少し話したんですよ。

 そのときは、フレア様の正体はもちろんこっちも知りませんでした。

 フレア様も、当然ミラスの身分はご存じなかったでしょう。

 俺も意外でしたが、フレア様は庶民というか従業員としての対応を完璧になさることが出来るんですね。

 それでいて、帝国皇女としての芯もしっかり持っている」

「フレアさんも、色々あるので」

 俺の呟きは聞こえなかったらしい。

 グレンさんは、疲れ果てた声で言った。

「今までミラスが会ったことがあるのは、地位や自分の顔目当てに露骨に寄ってくる女性ばかりでしたからね。

 しかし、フレア様にはまったくその気配がない。

 さらに、庶民的な接客の裏に見え隠れする帝国皇族の毅然とした態度が新鮮だったようです」

「それで惚れてしまった、と」

「はい。

 ハスィーと正反対の美少女で、これまでミラスが会ったことがないタイプのお姫様ですし、ね」

 パネェ。

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