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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

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8.遭遇?

 廊下ではかなりの人とすれ違った。

 といってもここは従業員用の通路らしく、お客さんではない。

 みんな制服を着て台車などを押していた。

 忙しそうだな。

 人間だけではない。

 十人【匹】くらいの猫の群れが、ニャーニャー鳴き交わしながら通り過ぎて行く。

「「「支配人さん、おはようございます!」」」

「はい。

 おはようございます」

 オーソンさんも大真面目に返礼していた。

 もう午後なのに『おはようございます』か。

 芸能界?

 猫の大群は、賑やかに会話しながら去って行った。

 みんなシッポを立てている。

 シフト勤務のウェイトレスさんの集団みたいだな。

 ここはそういう場所か。

 それにしてもあの猫たち、みんな揃いの法被みたいな服を着ていたぞ。

 フクロオオカミの警備隊用制服みたいなものか。

「あの方たちは交代の猫撫要員ですな。

 ローテーションで回しておりますので、一日に数回、入れ替えがあります」

 オーソンさんが説明してくれた。

 猫従業員もしっかり働いているらしい。

 俺の戯れ言がここまで来るとはなあ。

 猫喫茶って、そんなもんじゃないはずなのに。

 ハスィーが興味津々で聞いた。

「従業猫はどれくらいいらっしゃるのでしょうか」

「今のところ親方(マスター)が百、職人(ジャーネーマン)がその三倍くらい、その他は見習いというところですか。

 常時募集しておりますので、どんどん増えております」

 何、そのマスターとかジャーネーマンとかいうのは。

 ていうか、俺にはそう聞こえたんだけど。

 確か、中世ヨーロッパの職人の階級だったっけ。

 つまり親方と一人前の職人ということかな。

親方(マスター)職人(ジャーネーマン)はどう違うのですか?」

 ハスィーが質問してくれた。

親方(マスター)は指導員資格を持つ(かた)です。

 つまり、他の(かた)を指導してお客様を接待できる方ですね。

 職人(ジャーネーマン)親方(マスター)の指導の下で接客できる能力を持つと認められた(かた)です。

 見習いは、原則として正式なお客様の接待を許されておりません。

 待機部屋などで、臨時にお客様と遊ぶ程度の業務しか出来ないことになっております」

 資格なんかあるのか。

 猫撫でに。

「資格試験があるのですか」

「そうですな。

 親方(マスター)猫の下に職人(ジャーネーマン)と見習いがついて、指導を受けます。

 親方(マスター)が習熟度などを見て、昇格を決めます。

 何か試験があるらしいですが、私はよく存じません」

 猫だからな。

 それにしても、何か聞いたことがあると思ったらアレじゃないか!

 猫が社長の会社の話。

 でもあれは、ゴンドラを漕ぐ観光案内役の資格として一人前(プリマ)片手袋(シングル)両手袋(ダブル)だったはずなんだが。

 どうしてそういう風に魔素翻訳されないんだろう。

「猫の皆さんは、男女半々なのでしょうか」

「いえ、女性【雌】が8割ほどですな。

 こういった仕事には、女性の方が向いておるようです」

 ああ、男【雄】もいるからプリマとかはないわけか。

 あいかわらず正確だな、魔素翻訳。

 大体判ったよ。

 多分だけど間違いなく、ニャルーさんは「グランドマスター」と呼ばれているんだろう。

 三大妖精猫とか呼ばれる連中もいるのかもしれん。

 で、それぞれ弟子を取ってその弟子たちの物語が。

「よくご存じですな。

 さすがヤジママコト近衛騎士様。

 猫喫茶の発案者だけのことはございますな」

 本当にいるのかよ。

 いや、いいです。

 聞きたくないので、話さないで下さい。

 そんなことを話している内に、目的地に着いたらしい。

 いつの間にか、廊下が広くて豪華になっていた。

 客用のスペースに入っていたのか。

「ここは貴顕の方がお忍びで遊興される場所です。

 特別料金がかかるのはもちろんですが、『ニャルーの(シャトー)』の審査に合格した方か、その方のゲストしか入場できないことになっております」

 オーソンさんが説明してくれたが、何となくいかがわしいイメージがつきまとうのはなぜなのだろうか。

 ここは「ニャルーの(シャトー)」、猫を撫でるための施設で、別に売春宿とかそういう所ではないはずなんだが。

「猫撫では麻薬でございます」

 オーソンさんが声を落として言った。

「一度味わった者は、もう二度と離れることはできません。

 猫撫でに取り憑かれ、しかし立場上そのことを公言できない方は、この特別室をご利用になられます。

 中毒患者になると、週に二、三度は通ってこられますよ」

 アイドルヲタクみたいだな。

 グッズも揃えるんだろうか。

「そうですな。

 特定の(かた)にこだわる方は、そんなに多くはないようでございます。

 もっとも、どうしても猫従業員とお客様の相性がありまして、それぞれ贔屓の(かた)がいるようですな」

 やっばツンデレとか萌え系とかいるのか。

 もともと猫の奴隷になりたいとかいう奴もいるだろうし、怖い世界だ。

 ていうか、そんな人っているのか。

「どんどん増えておりますよ。

 現在でも既に手狭で、拡張を計画中です」

 ますますいかがわしくなってくるなあ。

 こんな所にハスィーを連れていて良かったのだろうか。

「あら、わたくしはとても面白く思っておりますよ」

 ハスィーがくすくす笑って俺の腕をとった。

「早く猫の方を撫でてみたいものです。

 わたくし、考えてみたら生まれてから一度も猫を撫でたことがありませんでしたので」

 それはヤバいな。

 ハスィーが猫撫でにハマらないことを願うしかないか。

「本日は混んでおりますので、他のお客様と出会うこともあろうかと思います。

 なるべくかち合わないように調整いたしますが、もし他の方に出会ってしまった場合は、そのことを公言しないようにお願いいたします」

 オーソンさん、笑っている?

 顔が少し黒いぞ。

 何か企んでいるわけでもなさそうだけど、サプライズくらいはありそうな。

「こちらでございます」

 オーソンさんがドアを開けてくれたので、俺とハスィーが入室した。

 ハマオルさんとリズィレさんは、別室で待機になるようだ。

 まあ、ここで襲われることもあるまいしね。

 多分、事前にチェックが入っているのだろう。

 そういえばフレアちゃんがいるってことは、漏れなくサリムさんもいるわけか。

 つまり施設全体が高度な警備体制下にあるわけだ。

 ヤジマ商会の警備部隊が警戒しているのなら、安心だ。

 そんなことを考えながら進むと、そこはソファーがいくつか置いてあるだけの広い部屋だった。

 ソファーごとに猫が一人【匹】ずつ寝そべっていて、こっちには無関心で毛並みを整えたり眠ったりしている。

 特別室だからといって、別に猫が過剰にサービスしてくれるわけでもないようだ。

 いい仕事だなあ。

 これで住み込みで三食食えて給料が貰えるとしたら、人間が代わりたいくらいだろうな。

 お客さんは、俺たちの他には一人いるだけのようだった。

 こっちに背中を向けて、一心に猫を撫でている。

 猫は気持ちよさそうに寝ているだけだ。

 ホントにいい仕事だ。

 邪魔しては悪いと思って、そっと別のソファーに腰掛けた途端に、俺たちが入ってきたのとは別のドアが開いた。

「食い物、貰ってきたぜ!

 猫撫でもいいけど何か食っといた方が……」

 言葉を途切らせて棒立ちになる青年。

 見覚えがある、じゃなくてグレンさん?

 王太子殿下の近習がなぜここに?

「マコトさん……とハスィー?

 何でこんな所に」

「え?

 マコトさんとハスィーが来たの?」

 ソファーに座って猫を撫でていた小柄な男が振り向く。

 輝く金髪にアイスブルーの瞳。

 満面の微笑みを浮かべている。

 プライベートモードだ。

「王太子殿下?」

「ミラスなの?」

 硬直した俺たちに構わず、ミラス王太子殿下が楽しそうに言った。

「マコトさん!

 それにハスィー!

 お久しぶりです!

 いやあ、猫喫茶サイコーですよ!」

 違うでしょう、ミラス王太子殿下!

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