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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

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7.支配人?

 とりあえず湖畔のデートは堪能したので、どこかで軽くお茶することにしたのだが、そこでふと気がついた。

 ハスィー、メチャクチャ目立つんじゃない?

 王都中心部の喫茶店とか行ったら、人が集まってきてどうしようもなくなるのでは。

 かといってこのままヤジマ商会に戻るのもなあ。

 俺が悩んでいると、ハマオルさんが言ってくれた。

(あるじ)殿。

 人目を集めず、ゆっくり出来る場所であれば良いのですかな」

「そうですね。

 でも、そんな場所ありますか?」

「ございます。

 『ニャルーの(シャトー)』はいかかでしょうか」

 おお、あそこがあったっけ。

 今ではとてもそうは思えないけど、もともとは猫「喫茶」だしな。

 でも、人目が多いし大盛況で予約しないと利用できないんじゃ?

(あるじ)殿は親会社のオーナーですから、特別待遇を期待してよろしいかと。

 聞くところによれば、目立ちたくないお客様のための設備も完備しているそうです。

 私の手の者を走らせて、部屋を用意するように伝言いたします」

 ハマオルさん、よく知っているな。

 貴顕の護衛は、あらゆることを考慮して対応できるようにしなければならないと聞いたことがあるけど、それか。

 しかし。

 いいのかなあ。

 まあ、確かにあそこには個室があるし、偉い人が突然やってきた時のための豪華な部屋も用意してあった気がする。

 他に場所もなさそうだしな。

 よし、行くか。

 駄目だったら別の場所に行けばいいし。

「ではお願いします」

「了解いたしました。

 (あるじ)殿」

 ハマオルさんは、隣に控えていたリズィレさんに何か指示した。

 リズィレさんが頷いて、素早く護衛の馬車の駆け寄る。

 伝言ゲームなのか、護衛の馬車から人が離れて駆け去って行くのが見えた。

 走っていくのか。

 タフだな。

「それでは、我々はゆっくり参りましょう」

「お願いします。

 ハスィーもいいね」

「はい。

 そういえば、わたくしはまだその『ニャルーの(シャトー)』を見てませんでした。

 楽しみです」

 ハスィーも期待してくれているようで、良かった。

 それから俺たちの馬車はお供を従えてゆっくり進んだ。

 人がほとんどいないので通行の邪魔にはならないんだけど、道が凸凹で速度を出せないのだ。

 舗装されてないどころか、石ころだらけで馬車がひっきりなしに揺れる。

 日本ってインフラが凄かったんだな。

 文明が発達していない影響は、こういう所で露骨に出るよね。

 1時間くらいかかって、ようやく辺りが見覚えのある風景になってきた。

 同時に人や馬車が増えてくる。

 この辺り、かなり郊外のはずなんだが。

「これって」

「皆さん、『ニャルーの(シャトー)』のお客様なのでしょうか。

 こんなに流行っているのですか」

 ハスィーだけじゃなくて、俺も驚いた。

 話には聞いていたけど、マジで大盛況ではないか。

 でもよく見ると、ちょっと違う。

 人より資材などを積んだ馬車なんかの方が目立つのだ。

 その流れは「ニャルーの(シャトー)」の隣の敷地に向かっているように見える。

「あれは?」

「何か作っているようですね」

 あそこは空き地だったはずだが。

 もともとこの辺りは他に何もない場所で、潰れた健康ランド(違)をヤジマ商会が安く買い上げて「ニャルーの(シャトー)」を作ったと聞いている。

 少し離れた敷地は、ラナエ嬢が舎長を務めるセルリユ興業舎がサーカスを建設するために確保してあるはずだが、それはまだ青写真段階だし。

「ハスィーは何か聞いている?」

「いいえ。

 わたくしは王都に来たばかりですので」

 それはそうか。

 でも、もうその敷地は整備されて建物の基礎が出来ているような。

 それにしてもでかいな。

 敷地もずいぶん広いようだ。

 まあ、この辺りの地価は大したことないらしいけど。

 不思議がっているうちに、俺たちの馬車は「ニャルーの(シャトー)」の門をくぐった。

 もともと郊外型の施設だっただけに、駐馬車場はかなり広い。

 だが、その敷地には馬車がずらっと並んでいて、盛況ぶりが窺える。

 それだけ裕福な人が来てくれているということか。

「満員みたいだね。

 これは駄目かな」

「大丈夫です。

 (あるじ)殿」

 ハマオルさんが言った。

「先ほど手の者が戻りまして、特別室を手配できたとのことです」

 さすが。

 俺たちは駆け寄ってきた「ニャルーの(シャトー)」の従業員に案内されて、目立たないように裏に回った。

 名前や顔が知れていて、あまり人目につきたくない人のために、裏から入れるようになっているそうだ。

 猫喫茶じゃなかったのかよ。

 何かもう、VIPの隠れ里的な施設機能も追加されているような。

「もともと生活に余裕がある階層向けの施設ですから。

 むしろ庶民用の設備が不足しまして、大急ぎで増築しているところです。

 これほどまでに急速に人気が出るとは考えておりませんでしたので」

 案内してくれている「ニャルーの(シャトー)」の従業員が説明してくれた。

 立派な制服を着ている。

 中年のおじさんで、穏やかそうな人だ。

 詳しいな。

 ハスィーが聞いた。

「お名前をお聞きしても?」

「失礼いたしました。

 私はオーソン・メリドといって、この施設の支配人を拝命しております。

 ハスィー・アレスト伯爵公女様」

 何と支配人自ら俺たちの案内を!

 詳しいはずだ。

「すみません。

 初対面ですよね?」

 忘れていたら大恥だ。

「もちろんでございます。

 ヤジママコト近衛騎士様が視察にいらっしゃられた時には、私はギルド対応で奔走しておりました。

 ご挨拶が遅れまして、申し訳ありません」

「とんでもないです。

 今日も、いきなり来てしまって」

「何の。

 『ニャルーの(シャトー)』の親会舎であるヤジマ商会の会長でしたら、ここのオーナーではありませんか。

 ヤジママコト近衛騎士様専用の設備がないのがおかしいくらいでございます」

 感覚が違うな。

 それにしても、こんな支配人さんがいたとは。

 ニャルーさんが店長じゃなかったのか?

「ニャルー様は『ニャルーの(シャトー)』の舎長でございます。

 私は第一号店の支配人で、既に第二号店の計画も動き出しております」

 あの猫又、いつの間に!

 俺の知らない所で金を使いまくってやがるな。

 俺の借金を。

 まあいいか。

 儲かっているみたいだし。

 それにしても、放置しているうちにここも判らないことだらけになっているなあ。

 建物に入り、廊下を歩きながら質問を続ける。

「オーソンさんは、どういった経緯で『ニャルーの(シャトー)』に?」

「私は潰れた大浴場の事務長をしておりましたので。

 施設や設備に詳しく、運営に慣れているということで、『ニャルーの(シャトー)』に雇って頂きました」

「ああ、ここの前の施設ですか」

「さようでございます。

 あの事業の発想は良かったと思いますが、今思えばインパクトに欠けておりましたな。

 大きな風呂に入れるというだけでは、一過性の興味を引くのがせいぜいでございました。

 オーナーは早々に手を引き、会舎は倒産してしまいました」

「そうだったんですか」

「従業員は全員首になり、他の仕事をしておりましたが、ヤジマ商会の投資で『ニャルーの(シャトー)』が立ち上がり、前従業員をほぼ全員雇って頂きました。

 みな感謝しております」

 それは良かった。

 なるほど。

 施設だけじゃなくて、従業員もコミで手に入れたわけか。

 だからこんなに早く立ち上げが出来て、しかも運営がスムーズだと。

 やるなあ。

 ここの担当ってキディちゃんだったっけ。

「キディ様は、『ニャルーの(シャトー)』の運営担当執行役員でございますな。

 アレスト興業舎には、優秀な職員が揃っていると評判でございます。

 猫関連事業管理部長のフレア様を双璧として、ニャルーの(シャトー)は盤石の体勢です」

 オーソンさんは、本気で感心しているようだった。

 キディちゃんとフレアちゃん、いつの間にそんなに出世していたんだ。

 キディちゃんなんか、アレスト興業舎では主任か何かじゃなかったっけ?

 フレアちゃんに至ってはバイトのはずだが。

 まあ、確かに親会社から子会社に出向になると、階級が上がるのが常識なんだけどね。

 それにしても極端な。

「『ニャルーの(シャトー)』は今後もどんどん事業を拡張してゆくと聞いております。

 ニャルー様も、猫の身であの指導力。

 傑物ですな」

 猫又だよ!

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