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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

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6.皇子妃?

 ある意味「迷い人」の真相より衝撃的な「結婚」についての解説だったが、判ったからといって何が変わるものでもない。

 現時点ではどうしようもないしな。

 まずはハスィーと結婚してからだ。

 でも、俺にはハーレム願望なんかないんだよなあ。

 だって面倒くさいだろう?

 色々な女と一度に、という状態は気が散っていけないと思うんだよね。

 そもそも俺に、そんな器量はない。

 大体そこら辺の女ならともかく、ハスィーを初めとして全員超弩級の美女・美少女たちなんだよ!

 それぞれタイプは違うけど。

 俺の好みはハスィーだし。

 そのハスィーだけでも、俺の手に余るってのに。

 そんなことをグチグチ考えていると、ハスィーが俺の腕に手を絡めてきた。

「マコトさんが悩むことはないですよ。

 わたくしもよく判りませんが、多分自然に任せていれば、なるようになるのではないかと思います。

 マコトさんはいつもそうやってきたわけですし」

 見透かされているなあ。

 これほどの女が俺のものになると言ってくれているんだし。

 悩むのは止めるか。

「判った。

 このことはもういいや。

 で、ちょっと話しておきたいことがあるんだけど」

「何でしょうか」

「ホスさんの紹介で、元ギルド総評議長のカールさんに会ってきたんだけどね」

 俺は、それからカールさんの正体とヤジマ商会への雇用、さらにカールさんの身分について話した。

 ハスィーは、カールさんが「迷い人」であることや、ヤジマ商会非常勤顧問への採用については何も言わなかったが、帝国の皇族名簿の件には驚いたようだった。

「そうなのですか。

 知りませんでした」

「あまり世の中に広めることじゃないだろうしね。

 カールさんも自分からは言わないだろうし。

 でも、皇族名簿は公開されているから、ソラージュ王政府は知っていると思う。

 その上で、干渉しないようにしているんじゃないかな」

 ハスィーが指を唇に当てて言った。

「『迷い人』については、『学校』の講義でもさらっと触れただけでした。

 皇族名簿も、帝国にはそういうものがある、とだけしか習わなかったと思います。

 わたくしたちにはあまり関係がないことなので、誰も気にしなかったのですが」

「意図的にぼやかしたんだろうな。

 実際、普通なら貴族でもほとんど関係ないだろうし。

 王政府で偉くなって初めて教えられるんだと思う」

「そうですね。

 ユマは知っていたみたいですけれど」

「あの人は特別だろう」

 「略術の戦将」だからというわけではなく、ユマ閣下は公爵家の名代でアレスト市の司法官だったわけで、帝国の事情を知らないでは済まされなかっただろうからね。

 特にユマ閣下がアレスト市に来たのは、帝国の動乱対策だという話だし。

 でも、そんなユマ閣下もシルさんがアレスト市にいるという事実は、会って初めて知ったみたいだったな。

 情報網に穴があるのか。

「というよりは、おそらく帝国の皇族というだけでは政治的な監視対象にはならないのだと思います。

 『迷い人』と一緒で、社会的な影響力が小さいうちは無視されているのかもしれません」

「そうか。

 ああいうのって、突然出てきて勢力を拡大するってないだろうしね。

 その予兆を確認してからでも間に合うと」

 ハスィーは悪戯っぽく笑った。

「たまには例外もありますけれど。

 マコトさんは、ソラージュの王政府にとっては青天の霹靂だったと思いますよ」

 そう?

 俺なんか大した勢力があるわけでもないし、何かあったら親指でひねり潰せばいいだけなんじゃ。

「マコトさんは『迷い人』ですし、気がついたらアレスト興業舎の中心にいて、うかつに手が出せなくなっていたわけです。

 ユマが近衛騎士に叙任したことで、身分的にも無視できなくなってしまいました。

 王政府にしてみれば、気が気では無いでしょうね。

 自由が信条の近衛騎士なのですから、王政府が何かを強制することは貴族制度への干渉に当たりますから」

 そうなのか。

 ラッキー。

「でも、貴族制度の枠組みに入れられてしまったということでもあるよね」

「現時点では、むしろ守られていると考えた方がいいと思います。

 ミラスがラミット勲章を授与したのも効いていますね。

 つまりミラスは、あれでマコトさんを自分の紐付きだと宣言したわけです。

 こうなってしまうと、他の王族や貴族もうかつに手を出せません。

 それに」

 ハスィーは目を光らせた。

 凄い。

 この美貌のエルフが、ただの絶世の美女というだけではない理由(わけ)の片鱗が見え隠れしているぞ。

 ユマ閣下やラナエ嬢、あるいはシルさんがハスィーに一目置いている原因はこれだな。

 凄味が尋常じゃないんだよ。

 普段は落ち着いた真面目なお嬢さんという雰囲気なんだけど、こういう時のハスィーは戦士の迫力がある。

「その、カルさんという方がおっしゃられたように、いずれ帝国はマコトさんを皇族名簿に載せるでしょう。

 そうなってしまったら、もはやマコトさんはソラージュだけの存在ではなくなります。

 その前に、王政府が何か仕掛けてくるかもしれません」

 ビビるから、怖いこと言わないで欲しい。

「仕掛けてくるって、何を?」

「近衛騎士叙任はララネル家に取られたわけですし、おそらく世襲貴族への昇爵かと」

 えええっ!

 でもそうか。

 帝国も似たようなことをするわけだもんな。

「でも、領地とか無理だろう」

「そうですね。

 法衣貴族になると思います。

 男爵か、子爵くらいでしょうか」

「そんなに簡単に貴族を増やせるの?

 理由もないし」

 そこら辺は、何せ俺は現代日本のペーペーのサラリーマンなわけで、まったく無知ですから。

 しかし貴族にするとか簡単に言うけど、世襲貴族を新しく増やすってのは大変なことなんじゃないの?

「そうでもありません。

 領地を与えなくてもいいのなら、理論的には貴族などいくらでも増やせます。

 国を動かせるほどの大商人などは、国にしてみれば貴族にしてしまった方が管理しやすいこともありますから」

 なるほど。

 そういえば、バレル男爵もそんなことを言っていたっけ。

「それに、マコトさんには既に実績があるのですから何とでも理由はつけられます。

 短期間にこれだけソラージュの経済を活性化させ、野生動物との共存の道を開き、王国の教育制度自体を根本から変えようとしている。

 どれをとっても昇爵理由には十分でしょう」

 それ、全部俺がやったことになっているのか。

 全然違うのに!

 俺が知らないうちに、シルさんとかラナエ嬢とか、もっと言えばハスィーがやったことだろう!

「全部、マコトさんが中心にいました。

 マコトさんがいなければ、すべて存在しなかったわけです。

 実績とはそういうものです」

 凄いこと言うなあ。

 10代の女の子の台詞じゃないよね。

 でも、ここにいるのは比類無き美貌を持つエルフで、伯爵令嬢で、ギルドの執行委員にまで自力で上りつめた女傑だ。

 言うことに嘘はないだろう。

 俺の嫁さんだし。

「今のお話は、わたくしたちもある程度予想はしていたことなのですが、もっと時間がかかるものと思っておりました。

 でも帝国が動くとなると、ソラージュもそれに釣られて状況を加速させる可能性が考えられますね。

 早急に、みんなを集めて検討する必要があります」

 ああもう。

 こんなのデートじゃないよ!

「判った。

 もうこの話は止めよう。

 それより、本来の目的を進めたいね。

 俺たちデートしているんだぜ」

 俺が言うと、ハスィーは張り詰めた表情を緩めて微笑んでくれた。

「そうですね。

 マコトさんとわたくしがもっとよく知り合うための時間でした。

 申し訳ありません。

 無粋な話を持ち込んでしまって」

「持ち出したのは俺だから。

 それはいいから、一般的な話をしたいね。

 どっかの喫茶店でお茶でもしながら」

「いいですね。

 行きましょう」

 そういうわけで、俺とハスィーは馬車まで歩いて行って乗り込んだ。

 ハマオルさんやリズィレさんは何も言わなかったけど、この人たちはプロだからね。

 それにしても、俺たちが話している間中、ホントに誰も来なかったぞ。

 マジで人払いしていたのか。

 あんまり人に迷惑をかけないようにしないとな、とか思っていると、隣に座っているハスィーが不意に俺にもたれかかってきた。

 デートしているんだよな、俺たち。

 いい香りがする。

 ハスィー、蕩れ~。

「そういえば」

 突然、ハスィーが言った。

「マコトさんが帝国の皇族名簿に記載されたら、身分は帝国皇子になるわけですね」

「そ、そうかな」

「その場合、わたくしは皇子妃ということになるのでしょうか。

 少し、憧れてしまいます。

 『傾国姫』などという不吉な二つ名は、いい加減に捨てたいものです」

 ハスィー、そういうの止めて。

 もっと一般的な話をしようよ!

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