表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

295/1008

5.結婚?

 俺は急いで頭の中を整理した。

 「結婚」があまりにも当たり前に通じたので、地球と同じかと思っていたけど、どうも概念に食い違いがあるような気がする。

 でも、前にハスィーに結婚の意味を聞いた時は、俺の考えている通りだと言っていたしなあ。

 とりあえず、聞いてみよう。

「ハスィー、どうも俺が勘違いしていたみたいなんだが、結婚について聞きたい」

「はい?

 何でしょうか」

「まず、結婚って二人でするものだよね?」

「もちろんです。

 マコトさんが夫で、わたくしが妻です」

 いや、それはそうだけど。

「子供って、結婚して作るものだよね?」

「そうとは限りません。

 むしろ、結婚していない夫婦が多いのではないでしょうか」

 何それ?

 結婚してない夫婦って、矛盾してない?

 ハスィーは淡々と説明した。

「そもそも『結婚』とは、生まれてくる子供に家名を継がせるために行う儀式です。

 子供が夫または妻の家名を継ぐには、原則として両親が正式に『結婚』している必要があります。

 もっとも、認知したり養子にしたりといった裏技もありますが、やはり正統的な家名の継承には両親の『結婚』が不可欠ですね。

 特に貴族は」

「結婚って、そういうものなのか」

「マコトさんの世界では違うのですか?」

「俺の世界、というよりは日本では、入籍することを結婚って言うんだ。

 そうしなくても一緒に暮らすことはできるけど、それは結婚しているとは言わない」

「一緒に暮らしたり、夫婦になったりするためには『結婚』は必ずしも不可欠ではありません。

 そもそも『結婚』とは、夫または妻が相手の家名を名乗ることを意味します。

 その家に入るわけですね。

 家名がない人たちは、そういう意味では『結婚』自体ができません」

 そうか。

 こっちが江戸時代だってことを忘れていた。

 日本だって、明治維新までは家名がないような人たちがたくさんいたもんなあ。

 特に農村には。

 そういう人たちって、夫婦になるのはどうやったんだろうか。

 よく知らないけど、庄屋さんか神社の神主さんあたりに「お前たちは夫婦だ」とか宣言して貰って、それで夫婦ということになっていたのかもしれない。

 それって結婚か?

「すると、夫婦ってあまり多くないの?」

「たくさんいますよ?

 夫婦になるだけなら、別に結婚する必要はありませんから。

 家名があっても、『結婚』しないで一緒に暮らしている人も多いと聞いています。

 それらも夫婦ですね。

 でも貴族は違います。

 『結婚』したことを宣言して、ギルドに届け出ないと夫婦になったと認められません」

 うーん。

 まあ、貴族は判るんだよね。

 爵位があるからな。

 爵位を継承するためには、結婚して正当な嫡子であると宣言されていないと駄目なのか。

「もちろん、不慮の事故などで跡継ぎが絶えてしまった場合などは、『結婚』せずに作った子供が継承することもありますよ。

 関係ない人を養子にしてもいいですし。

 でもそれは緊急避難的な方法ですね。

 一般的ではない、ということです」

「すると、ハスィーと俺の結婚もそのためか」

「第一義はそうです。

 わたくしが産んだ子供が、ヤジマ家の正当な跡継ぎになります。

 でも、絶対ということではないです。

 世襲貴族の場合は、結婚しないで作った子供に爵位を継がせるということも有り得ます」

「あ!

 じゃあ、アレスト興業舎でやった『傾国姫物語』で言っていたのって」

「そうですね」

 ハスィーは嫌なことを思い出したのか、ちょっと顔を顰めながら言った。

「あれはもちろん、ラナエの戯れ言なのですが……傾国姫役の人が悩むのは、王太子に正室つまり正式に『結婚』した妻がいるのに、自分の子供を後継者にしようとしていると思ったからでしょう。

 そんなことをしたら、国の乱れの元になるだけですから」

 そうか。

 嫉妬とかそういう感情だけじゃないんだな。

 後で国が割れるような状態になることを恐れたということだ。

 だから『傾国姫』なのか。

 思っていたより深い劇だったらしい。

 まあ、ハスィーの言う通り戯れ言だけどね。

 そもそもミラス殿下にはそんなつもりがまったくないだろうし。

 大体、王太子殿下はまだ未婚だぞ?

 ああ、だから劇では「正室がいる」ことにしたのか。

 謎が解けていくなあ。

 正直あの劇で、なぜ傾国姫が王太子に(とつ)がないのか、不思議だったんだよね。

 正室がいたって、側室になるとか色々方法があるはずだし。

 それってむしろ出世なんじゃないのか、と考えていたんだけど、こっちの世界では違うらしい。

 正室ってのは、つまり「跡継ぎを産む人」なわけだ。

 側室がそれにとって変わることはあり得ないと。

 俺は自分の頭を叩きながら言った。

「うん、大体判った。

 ハスィーは俺と結婚して、ヤジマの跡継ぎを産むわけだよね」

「はい!」

 そんなに嬉しいのか?

 いやいや、まだ終わってないぞ。

「判らないことがあるんだけど。

 ラナエさんとかユマ閣下が俺にどう関係してくるの?」

「もちろん、彼女たちも自分の子供を欲しがるからです。

 ラナエはミクファール家から離れて、自分の家を立ち上げたいと言っていました。

 家名をどうするのかはまだ決めていないようですが」

「家名って、ミクファールじゃなくて?」

「経済的に自立していれば、自分で家名を選べますから。

 ミクファールの分家にするか、あるいはヤジマを選ぶか」

 ハスィーは悪戯っぽく笑った。

「その場合、ヤジマ家の係累が増えますわね」

 いやいやいや!

 変でしょう!

 ラナエ嬢ほどの人なら、どこにでも嫁に行けるはずだし!

 それが嫌なら、婿を取ってもいい。

 何でわざわざシングルマザーになるの?

「マコトさんと繋がっていたいからに決まっているではありませんか。

 第二夫人になるなどと言い出さないのがラナエの思慮深さです。

 わたくしはそれでもいいと言ったのですが、遠慮されてしまいました」

 ハスィー。

 君の感覚はおかしい。

 いや、こっちの世界では俺の方がおかしいのかもしれないけど。

 そんな俺に構わず、ハスィーは淡々と続けた。

「ラナエがヤジマ家に入ろうとしないのは、混乱の元になると判っているからです。

 それを許したら、野望に燃える女の人が何人押し寄せてくるか判ったものではありませんので」

 そうなのか。

 何で?

 ラノベだよそれ。

 ハーレムエンドを選ばなくていいのは嬉しいけど、浮気は必須なんだよね?

「マコトさん。

 浮気は許さないと申し上げたはずです。

 本気で愛して下さい。

 生まれてくる子が可哀想です」

 浮気の概念も地球と違うのか。

 貞操を守るって、こっちにはないのか?

 ハスィーは赤くなった。

「もちろんあります!

 わたくしは、マコトさん以外の殿方には絶対肌を許しはしません!」

 そんなに露骨に。

 傾国姫って、マジこんな人だったのか。

 神秘的なエルフだと思っていたのが嘘みたいだ。

 でも良かった。

 この(ひと)となら、一緒にやっていけそうだ。

 でも、浮気じゃなくて本気は出来れば勘弁して欲しいんですけど。

「それは、交渉次第ですわね」

 ハスィーは頷いた。

「ラナエははっきり言っていましたが、ユマやシルレラはまだ未確認です。

 ヒューリアは間違いないと思いますけれど」

 そんなにいるの?

 勘弁して。

「主だった者はそれくらいですけれど、もっとたくさんいることは確実です。

 シイルさんやソラルさんもそうでしょうし、わたくしが把握していない方も多いでしょう。

 ヤジマ芸能でも、正舎員になって家名を持つことが出来る人が増えたようですし、ご用心なさいませ」

 笑わないでよハスィー!

 君はそこで笑う立場じゃないはずだよ!

「わたくしは、マコトさんの背中を支えるだけです。

 『結婚』して頂けるのは嬉しいですが、立場的にはラナエたちとそう変わらないのですよ。

 マコトさんは、ご自分の思う通りにやればいいのです。

 どんなことになろうとも、わたくしたちはマコトさんについて行きますから」

 重い!

 ハスィーだけでも背負えるかどうか判らないのに、みんななんて無理だよ!

 ていうか、なんでみんな俺がいいの?

 俺、主人公じゃないんだよ?

「それでもです」

 ハスィーは笑顔で答えた。

「マコトさんを愛しています。

 それだけです」

 どうしようもないなあ。

 これじゃ、ラノベじゃなくて純文学なのでは。

 違うか(泣)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ