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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第六章 俺が恋愛仕掛け人(マリッジ・プランナー)?

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4.ヤジマを継ぐもの?

 それでも風光は明媚だし、あまり人もいないので、デートには最適かもしれなかった。

 地面の下に何があるのかなんて、掘らない限り判らないもんね。

 ハマオルさんに頼んで、適当な場所に馬車を止めて貰う。

 リズィレさんが飛び降りて馬車のドアを開けてくれたので、まず俺が降りてからハスィーに手を貸して降ろした。

 うーん、こんな貴族みたいな事を俺がするようになるとは。

 似合わん。

 それでもハスィーが楽しそうなので癒やされる。

 美貌のエルフとデートなんて、ラノベでもなければ起こりえないことだしね。

 しかも婚約者。

 ハーレムアニメだと、逆にそういうのはないもんな。

 婚約するにしても、一度に複数の相手とかそういうお約束になる。

 良かった、ラノベじゃなくて。

 状況自体はラノベなんだが。

「変わっていませんね。

 懐かしいです」

 ハスィーが言った。

「前にも来たことが?」

「はい。

 『学校』の講義で、ソラージュの歴史の一部である戦争について学んだ時に。

 ここは古戦場で、そういった歴史も学んでおく必要があるという話でした」

「歴史を学ぶのに、実際の場所を尋ねたのか?」

「生徒は皆貴族家のものばかりでしたので。

 ソラージュの歴史は、貴族の歴史でもあります。

 争いがなぜ起こったか、これがどうやって始まり、どのように終結したのかを学ぶ必要があるのだ、とホス(せんせい)はおっしゃいました」

 おや。

 ホス(せんせい)って、あのホスさん?

「はい。

 ホス・ヨランド近衛騎士様(せんせい)です。

 とても博識な方で、しかも講義方法が型破りなもので、王政府の『学校』担当者は渋い顔をしていましたけれど、わたくしたちはホス(せんせい)の講義を楽しみにしていたものです」

 ハスィーはそう言って、いたずらっぽく笑った。

「まあ、わたくしのような少数の変わり者以外には、ホス(せんせい)の魅力が判らなかったようですが」

 あー。

 そうだろうな。

 あの引退した冒険者みたいなホスさんなら、さぞかし貴族御用達ではない講義を繰り広げたことだろう。

 王政府側も、出来ればホスさんみたいな異端の学者は使いたくなかっただろうけど、ホスさんはその分野では最高峰だろうし、自説を封印させた弱みもある。

 近衛騎士にも叙任してしまっているし。

 教師として招聘しない理由がなかったんだろうな。

 王政府も大変だなあ。

 そうか。

 ホスさんって教師の経験があるんだから、ヤジマ学園でも上級講座を受け持って貰えばいいんだ。

 弟子とかもいるだろうから、少なくとも歴史部門はこれで大丈夫だろう。

 アドナさんも、非常勤講師として雇えるし。

 うん、コネってありがたいね。

 まあそれはいい。

 俺はデートの目的を果たさなければならない。

 ハマオルさんに「少し離れて、俺たちを見ないようにしてくれますか?」と聞くと、ハマオルさんは微笑んでから深く頷いた。

「承知いたしました。

 (あるじ)殿。

 ご武運を」

 判ってるな、ハマオルさん。

 みんな切れるなあ。

 だからここに連れてきてくれたのかも。

 回り中に展開していた護衛の人たちが、スルスルとどこかに消えていく。

 俺が見えない所にいるんだろうけど、こっちからは判らないからいいのだ。

 俺はハスィーの肩を抱いて、湖の方に向かった。

 ハスィーも素直に俺の肩に頭を載せてくる。

 何かリラックスしているな。

 というよりは、俺を信頼してくれているのか。

 結婚というよりは、ハスィーの中ではむしろ俺への従属みたいなものになっているのかもしれない。

 俺の背中を支えるとか言っていたし。

 でも、それって結婚じゃないのよね?

 湖のそばに、ちょっとした広場みたいになっている所があったので、そこのベンチに並んで腰掛ける。

 人がいないな。

 ひょっとしたら、ハマオルさんに払われてしまったのかも。

 すまん、ここにいたかもしれない人。

 ちょっとだけ、二人きりにさせて下さい。

 用が終わったらすぐに消えますから。

 俺は念のために回りを見回して、誰も見てないのを確認してから言った。

「ハスィー」

「はい」

「キスしてもいい?」

「……はい!」

 喜んでいる?

 良かった。

 本当に良かった。

 いや、ここまできて義務みたいに思われていたら、俺の心は折れていたかも。

 ハスィーが顔をこっちに向けて目を閉じたので、俺は顔を近づけた。

 良かった。

 これは「感触というかキス自体が良かった」という意味の「良かった」だ。

 まあ、俺も未経験というわけでもないので、予想通りだった、というところか。

 でもハスィーは初めてだったみたいで、頬を押さえて俯いてしまった。

「ハスィー?」

「ごめんなさい。

 その……嬉しくて」

 ああ、俺はもう駄目だろうな。

 完全に取り込まれた。

 やっと、この美しいエルフと結婚するんだという確信が持てた。

 今までは、どうも夢の中にいるみたいな印象がぬぐえなかったんだよなあ。

 ホスさんやカールさんの話を聞かされても、パニックにならなかったのはそのせいもあるかもしれない。

 だってハスィーだよ!

 王太子殿下すら憧れるだけで近寄れなかった傾国姫だよ!

 日本で言うと、地球のどっかの国の王家の王女やハリウッドスターみたいなレベルの方なのだ。

 俺みたいなペーペーのサラリーマンとは、100%住む世界が違う存在なのに。

 その至高のお方と俺が結婚とか。

 でも冗談とか間違いじゃないんだな。

 覚悟を決めないと。

「嬉しいです」

 ハスィーが言った。

「こうやって、きちんとわたくしに向き合って下さって。

 殿方に触れられたのは、初めてです」

 それほど?

 まあ、そうか。

 幼い頃からこの美貌だったとしたら、普通の男は向き合うどころか、近寄ることもできなかっただろうし。

 純潔の処女なんだろうな。

 精神的な意味でも。

 でも、その割にはきちんと社会に適応していたような。

 ギルドでも普通に仕事していたし。

「お仕事なら大丈夫です。

 でも、わたくしに仕事で出会った皆様はなぜかあまり事案に集中できないようなのです。

 そのおかげで、交渉などは凄くスムーズに進むのですが」

 あー。

 これはアレスト市ギルドのレト支部長の作戦勝ちだな。

 ハスィーを執行委員にして、渉外を全部任せたのはそのためか。

 傾国姫に逆らえるような男がいるはずがないからね。

 交渉ごとでは、無敵の存在だったのだろう。

「しばらくたつと、交渉の場にはなぜか女性の方が多く出てくるようになったのですが、それでも同じでした」

 同性でも駄目なのか。

 むしろ、もっと酷いかもしれない。

 美貌は性別を超える。

「だから」

 ハスィーは俺を見上げながら微笑んでくれた。

「マコトさんがこうやって、わたくしを妻として扱ってくださるのが嬉しくて。

 マコトさんがギルドで最初に出会ったのが、わたくしで本当に良かった」

「俺の方こそ、ハスィーに出会えて嬉しいよ。

 アレスト市のギルドで、面接してくれたのがハスィーで良かった」

「あの時は、マルトのおじ様が連絡して下さったんです。

 『迷い人』が現れたから、お前が面接しろとおっしゃって下さって。

 わたくしが煮詰まっていたのをご存じだったみたいでしたから」

 そうなのか。

 それもそうか。

 ハスィーはギルドの執行委員なんだから、普通なら面接担当として出てくるはずがないもんね。

 日本の会社で言うと、アルバイトの面接に取締役営業本部長が出てくるようなものだ。

 ラノベじゃあるまいし、格が違いすぎる。

「それで、ハスィーの煮詰まりは解消された?」

 俺が聞くと、ハスィーは嬉しそうに笑った。

「当然です!

 マコトさんに嫁げて、マコトさんの家名を継ぐ子を産めるのですよ!

 今この瞬間にも、嬉しさのあまり踊り出しそうです!」

 そんなに?

 何か感覚が違うな。

「ラナエやユマ、それにシルレラには悪いけれど、ヤジマの家名を継ぐのはわたくしの血を受けた子です!」

 え?

 いや、結婚したら子供を作るのは当たり前だけど、今ちょっと気になることを言わなかった?

 なぜここでラナエ嬢やユマ閣下の名前が出てくる?

 シルさんまで?

「もちろん、彼女たちもマコトさんの子供を産むわけですけれど、ヤジマの家名は継げませんでしょう?

 その子たちを認知するにしても、傍系のヤジマ家になりますし」

 ちょっとちょっと!

 認識が違う!

 俺は浮気なんかするつもりはないぞ?

「もちろん、浮気は許しませんよ。

 本気でなければラナエたちに失礼ではありませんか」

 バネェ。

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