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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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25.インターミッション~トムロ&テム~

 ええと、俺の名前はトムロだ。

 家名はないんだけど、こないだアレスト興業舎の正舎員に昇格したから、近いうちに決めろと言われている。

 信じられない大出世だ。

 だって、俺の家は代々家名なんかなしでやってきたんだよな。

 もちろん、先祖の誰かは家名を持っていたはずだけど、跡継ぎじゃない場合は名乗れないから。

 いや名乗ろうと思えば出来るんだけど、そうしたらギルドの納税者名簿に載ってしまう。

 つまり、ただ生きているだけで税金を取られるようになってしまうんだ。

 もちろん税金額は収入で決まるから、ろくな稼ぎがないのなら税金も大したことないけど、それでもなけなしの金をわざわざギルドに貢ごうとする奴はいない。

 ああ、商売やっていたり、何かでギルドの恩恵を受けられる立場ならそうせざるを得ないだろうけど、俺の家みたいに日雇いやその場凌ぎで食っている連中はそんなの真っ平だからな。

 でも世間に認められた企業の正規舎員なら、家名がなくちゃいけない。

 自分で税金を払わないような奴は、雇って貰えないからだ。

 つまり信用問題だ。

 まあ、俺もよく知らないんだけど、とにかく正舎員になったら家名をつけなければならないということだけは知っている。

 でもこれ、単にギルドの納税者名簿に載るというだけじゃないんだよ。

 家名を持つ意味とは、一家を立ち上げるということなんだ。

 トムロが単なるトムロじゃなくなって、トムロ家……じゃなくてまだ決めてないけど新しい家の家長になるということだ。

 凄いことなんだよ。

 え?

 いやまだ言いたいことが。

 判ったよ。すぐ交代しろよ。

 僕、テムです。

 トムロの相棒というか、相方です。

 小さい頃からの腐れ縁で、ずっと一緒にやって来ました。

 いいじゃないか腐れ縁で。

 赤い糸とかそういう気持ちの悪いことは言うなよ!

 あー、僕もトムロと一緒にアレスト興業舎の正規舎員に昇格して、家名をつけなければなりません。

 親が近くにいなくて良かったです。

 絶対首突っ込んでくるに決まっているから。

 あ、僕たちは今王都にいます。

 生まれ育ったのはアレスト市っていうソラージュの辺境の街ですけど、アレスト興業舎っていう会舎の見習い舎員になって、王都の出張所に赴任して、色々あって正舎員になれたわけです。

 だから親はまだアレスト市にいます。

 トムロと同じで、僕の家にも家名はありません。

 先祖代々、といってもお祖父ちゃんくらいまでしか知らないんですが、やっぱり家名はありませんでした。

 うちの家は昔商売をやっていたらしくて、その頃は何とかいう家名を名乗っていたそうですが、店が潰れるとギルドに税金を払うのが嫌で家名を捨てて逃げちゃったそうです。

 お祖父ちゃんのお父さんの代だったそうで、だからそれ以来家名がないわけで。

 でも、僕の世代で家名復活です。

 新しくつけてもいいんですが、やっぱり昔名乗っていた家名がいいんじゃないかと思って、今家に問い合わせています。

 親父、どう思うだろうかなあ。

 これというのもマコトさんが……。

 いや、今いいところで。

 しょうがないなあ。

 俺、トムロね。

 テムの奴が相棒とか腐れ縁とか言っていたけど、違うからな。

 こいつはガキの頃から俺の跡にくっついてきただけで、アレスト興業舎に入ったのだって俺の。

 いてっ!

 いや、判ったって。

 訂正する。

 俺とテムは、アレスト市で貧乏なガキのグループに入っていたんだ。

 弱者は団結しないとやっていけないから。

 同い年にシイルという奴がいて、こいつがリーダーだった。

 すばしこくて喧嘩が強くて、ピカイチの「(おとこ)」だったんだよ。

 まあ、後になってそれは間違いだったことが判るんだけど。

 とにかく、俺たちの上の世代がガキを卒業して日雇いの仕事に行ってしまうと、シイルを初めとする俺たちが年少のガキどもをまとめて毎日何とかやっていた。

 俺たちも、近いうちに「卒業」するはずだったんだけどな。

 そんなある日、広場で絵本を読んでいる怪しい冒険者がいるという噂が聞こえてきて。

 シイルの奴がその男に声をかけてから、すべてが始まったんだ。

 あの時、もしシイルの奴が「絵本を読ませてくれ」と言わなかったらどうなっていたことか。

 大人の冒険者に向かって、そんな恐ろしいことを言える奴はもう、尊敬するしかない。

 だから……。

 僕、テムです。

 トムロの要領を得ない話ではさっぱり判らないと思うので、詳しく説明しますね。

 事の起こりは、当時アレスト市のギルド上級職員だったマコトさんが新しい事業を始めるために、人を集めようとしたことでした。

 もちろんギルドのハローワークを通じて募集しても良かったんです。

 でもマコトさんはユニークな考え方をする人で、今までになかった事業をやるにはまだ何にも染まっていない子供を使ったらいいんじゃないかと思ったらしいです。

 その方法というのが、冒険者の格好で日中外で絵本を読むというもので、そんな変な事をしたら噂が飛びますよね。

 仕事がある人や裕福な人たちはそんな噂を聞いてもスルーするだけでしょうけど、僕たちみたいな文盲の子供は引きつけられます。

 みんな貧乏で、字を習いたくてもそんな余裕がないし、絵本なんか見たこともないから。

 そうやって子供たちを引きつけておいて、マコトさんは事もあろうに「教育」を始めたんです。

 もの凄く効率的な方法で、これまで誰もやったことがないやり方でした。

 まず僕やテムみたいな年長組に基本的な字を教えてくれて、後は僕たちが年少組に教えるように、と。

 この方法の凄いところは、人に教えることで自分もさらによく理解できるようになる、ということです。

 もちろん、教えられる方も覚えます。

 そうやってどんどん字を読める子供を増やしていって、ある程度読めるようになった子が増えた時、マコトさんは字を書けた方がいいだろうと言って筆記練習用の板を配りました。

 それからはみんな夢中で。

 そこからは俺が話すから!

 トムロだ。

 今テムが語ったように、俺たちがある程度読み書きが出来るようになると、マコトさんは冒険者のチームを通じて俺たちをアレスト興業舎に紹介してくれたんだよ。

 「栄冠の空」というアレスト市でも一流のチームで、マコトさんが一時身を置いていたところらしいんだけど、マコトさんは実際にはアレスト市ギルドの上級職員だったんだ。

 全然、そんな風には見えなかったんだけど。

 本当に出来る人って、そうなんじゃないかな。

 その後、マコトさんはアレスト興業舎でサーカスを立ち上げたり、野生動物のフクロオオカミを部下にしたり、帝国の難民を救助したりして、ララネル公爵様の近衛騎士に叙任されるんだけど、まあ当然だな。

 俺たちは判っていたもんね。

 でもそれだけじゃない。

 近衛騎士なんていうレベルで終わる人じゃないんだよ、マコトさんは。

 その証拠に、王都に出てきてからあっという間に色々な事業を立ち上げた。

 ソラージュの王太子殿下と直接会って、ラミット勲章っていう凄い名誉な勲章を貰ったりした。

 ヤジマ商会は今、王都で一番勢いがある会舎だって言われている。

 だから俺たちは。

 テムです。

 トムロの長すぎる話を聞いていると、いつまでたっても終わらないので、まとめます。

 僕たちはアレスト興業舎の王都出張所所属の見習い舎員のまま、ヤジマ商会に出向して御者とか給仕とかの雑用をやっていたんです。

 色々失敗したりしながらも楽しく仕事していたんですが、ある日ヤジマ芸能という会舎で「青空教室」の続きをやれと言われて、教師をやったらそれが評価されたらしくて、正規舎員に昇格できました。

 でも、そのせいでヤジマ商会の雑用を離れてしまって残念です。

 だって、ヤジマ商会で働いているってことは、マコトさんの直参ですよ!

 シイルたち仲間から、ずいぶん羨ましがられていたんです。

 ずっと続けたかった。

 でも、アレスト興業舎の正規舎員になれたってことは、もっと実績を上げればマコトさんに近づけるってことですよね。

 僕もトムロも、それを夢見て頑張ります。

 でもみんなそう思っているから、大変だろうな……。

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