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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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24.帝国騎士?

 カールさんの話は驚きの連続だったけど、特に最後の反乱を起こした「迷い人」の話は衝撃だった。

 なるほど、それでララネル公爵殿下がああもしつこく言ったわけか。

 「迷い人」が国を滅ぼした実例というか、その危険性を知っていたのだろう。

 確かに、「迷い人」が革命に走ったら夥しい被害が出る可能性はあるなあ。

 一国の社会体制に影響を与えるほどの「迷い人」なら、ひょっとしたら国をひっくり返すことくらい出来るかもしれない。

 実際、初代帝国皇帝は新しい国を作ってしまったわけだし。

 だが、危険だからといって下手に「迷い人」に手を出すと、逆にこじれる可能性もある。

 「迷い人」本人はともかく、その周囲が暴走するかもしれないからだ。

 だったら影響が少ない内に排除すればいいと思うけど、ある程度大きくならないと「迷い人」だとは判らないしね。

 カールさんの場合、直接的に社会に変化を起こしたわけではなかったので、ギルドの評議員になるまではバレなかったわけか。

 しかも思想的にも穏健で、ソラージュにとって害になるものではないと判明した時には、帝国に先を越されてしまっていたと。

 本当は取り込むために、近衛騎士か何かに叙任したかったのかもしれないな。

 でも帝国が皇族に認定してしまった後では手遅れだったんだろうね。

 後付けで叙任なんかしたら、あまりにもあからさますぎるし。

 それで、密かにサポートする方針を維持したと。

 難しいもんだなあ。

 聞いている限りでは、そんな危ない存在は見つけ次第潰してしまってもいいような気がするけど、そうしたら「迷い人」がもたらすかもしれない恩恵を受けられなくなる。

 使いようによっては強力な武器にもなるからな。

 例えば未だに信じられないんだけど、俺なんかがそうらしい。

 俺がトリガーとなって、ソラージュの経済が活性化していると王太子殿下が言っていたんだよね。

 まあ、俺の名前で借金して集めた金を、ジェイルくんたちが使いまくっているからな。

 ハスィーが立ち上げたアレスト興業舎も、多分だけど俺がいなければ存在しなかったわけだし。

 そういう風に考えると、ソラージュとしては「迷い人」を慎重に見守りつつ泳がせておくのが正しい方策と言える。

 面倒な。

 まあいい。

 俺には関係ない。

 俺は、ただ安楽に暮らしたいだけなんだよ。

「大丈夫か?

 いっぺんに聞かされて、衝撃なのは判るが」

「何とか」

「今日はここまでにしておこうか。

 これからも機会はある。

 ということで、わしからお願いがあるのだが」

 またかよ。

 何となく、内容はわかる気がしますが。

「わしをマコト殿の会舎、ヤジマ商会といったか。

 そこで雇ってくれんかね?」

 やっぱり。

 前アレスト伯爵閣下で貴族院議員の次は、元ギルド総評議長閣下か。

 いや帝国皇子殿下だったっけ。

 もう何でもいいけど、シルさんやフレアちゃんの例もあるし、身分がどうとかでは断れなくなっているよね。

 まあ、カールさんを入舎させても贔屓だとか言われることはなさそうか。

 どうするかなあ。

 俺が黙っていると、カールさんは少し慌てて続けた。

「いや、別に権限を持たせろというわけではない。

 わしも悠々自適の身だが、少し退屈しておって、マコト殿をそばで見守りたいと思ったのだよ。

 無理にとは言わんが」

 退屈しのぎかよ!

 同じ「迷い人」だから興味があるのは判るけど。

 それに、確かに俺というかヤジマ商会からすると、これほど強力なコネを逃すのは惜しい。

 増して、向こうから入れてくれと言ってきているのだ。

 なら、いいか。

 ジェイルくんも反対はすまい。

「判りました。

 非常勤の顧問ということでいかがでしょうか。

 ヤジマ商会に執務室を用意しますので、お好きな時に出勤して頂ければ」

「おお!

 そうかね。

 ありがたい。

 お役に立たせて貰おう」

 カールさん、喜びすぎ。

 しかも雇用条件すら聞いてこない。

 そんなのはどうでもいいのか。

 よほど退屈だったらしいな。

「それでは、後日契約書などをお持ちしますので」

「うむ。

 待っておるよ。

 ところで、お近づきの印に昼飯を一緒にどうかね?

 ゆっくり話したいのだが」

「ありがとうございます。

 頂きます」

 俺ももっと先輩の「迷い人」の話を聞きたいし。

 カールさんは頷いて、テーブルに載っていた小さな鐘を鳴らした。

 すぐにドアが開く。

「ここに」

「食事にする。

 マコト殿も一緒だ」

「かしこまりました」

 あの執事さんだった。

 ハマオルさんはどうしたんだろう。

 そう思っていると、そのハマオルさんが入ってきていきなり片膝をついて頭を下げた。

「失礼いたします。

 元帝国中央護衛隊ハマオル従士長でございます。

 カル・シミト皇子殿下とは知らず、先ほどは申し訳ございませんでした」

「よい。

 初対面なのだから、知らなくて当然だ。

 ハマオルと言ったか。

 マコト殿をよろしく頼む」

「光栄にございます」

 形式くさいな。

 そうか。

 ハマオルさんから見たら、カールさんってもとの主筋だからね。

「ナレム。

 ハマオルを歓待してやれ」

「承知いたしました」

 執事さん、ナレムさんと言うのか。

 ハマオルさんが大人しく従っている。

 凄い人なんだろうな。

 ナレムさんとハマオルさんが出て行ってしまうと、カールさんが言った。

「マコト殿の付き人かね。

 中央護衛隊はエリート部隊だ。

 いい護衛を持っているな」

「ハマオルはシルレラ皇女殿下の部下で、私についてくれています。

 私などにはもったいない腕利きで、本当に助かっております」

「そういうことか。

 マコト殿は本物の『迷い人』らしいな。

 なるほど、これは面白くなってきた」

 何が面白いんでしょうか。

 知りたくないような。

 俺は、それからカールさんと一緒に昼飯を食った。

 ごくあっさりした普通の飯で、ドイツ人だからと大量のソーセージとかビールが出てくるようなことはなかった。

 もう地球を離れて半世紀たっているんだから、ドイツの食事など忘れてしまったのかもしれない。

「祖国の食事を作ろうとはなさらなかったんですか?」

「わしは当時独り身で、食事なんぞ作れん。

 作り方も知らんしな。

 最初は口が寂しかったが、そのうちに慣れて何とも思わなくなった」

 そうだろうな。

 俺も、どうしても米の飯が食いたいとか味噌汁が飲みたいとか思わないからね。

 異世界もののラノベでよくあるのが、日本食が食いたくて自分で豆腐を作ったり米を探して田圃作ったりするエピソードだけど、人間は普通そんなことはしないものだ。

 やるとしても生活に余裕が出来て、現在と将来の安全が保証されてからの話だよ。

 人間はどんな環境にも慣れるからなあ。

 俺みたいに山のような借金を抱えている状態では、精神的に余裕がなくてとても手が出せない贅沢だ。

 飯の間中、俺はカールさんにこれまでの地球の歴史と現在の世界情勢などを話し続けた。

 カールさんがことさら聞きたがったのは、当然だけどドイツの状況で、特にベルリンの壁が壊された時の状況を詳しく知りたがった。

 カールさんが転移した時点では、まだ壁が出来たばかりで変なことをするなあとしか思ってなかったそうだ。

 でも東ドイツ内の西ドイツということで、興味は持っていたらしい。

 秘密警察(シュタージ)が怖くて話題に出来なかったけど、ああいうのがあるせいで自分が囚人だという気持ちが抜けなかったとか。

「確か1989年だったかに壊されましたよ。

 次の年にドイツが統一されました」

「そうか。

 長かったな」

 感無量そうだったけど、よく考えたらもう無関係だしね。

 それ以上は引きずることもなく、飯が終わると俺は解放された。

 別れ際に、出来るだけ早く就任したいのでヤジマ商会の自分の部屋が用意できたらすぐに知らせるようにと念を押された。

 調度は自分で持ち込むので用意しなくていいそうだ。

 居座る気満々かよ!

 また面倒くさい人が増えそうだなあ。

 カールさんと執事さんに見送られ、馬車で帰宅するとハマオルさんが言ってきた。

「申し訳ありませんでした。

 (あるじ)殿」

「何がでしょうか」

(あるじ)殿を一人にしてしまいました。

 護衛として失格ですが、カル皇子殿下に命じられてはいかんともしがたく」

 それはそうだろうな。

「ああ、気にしないで下さい。

 カールさんは大丈夫ですから。

 ところで、ハマオルさんはあの執事さんに遠慮していたみたいですが、どのような人なんですか?」

 むしろ萎縮しているようにすら思えたんだよね。

 ハマオルさんが実力で押されるというのは信じがたい。

「ナレム殿は、元帝国近衛団所属の『帝国騎士』です。

 貴顕直属の護衛ですな。

 戦場における貴顕の早駆けを務めます。

 既に引退しておられますが、攻勢に特化した戦闘の実力は私の及ぶ所ではありません。

 少しお話したところ、カル皇子殿下に心酔して近衛団を退団し、自ら望んで執事となったそうです。

 カル皇子殿下の行くところ、常にナレム帝国騎士ありでしょうな」

 帝国騎士(ライヒスリッター)

 また厨二なのが出てきた。

 やっぱラノベかよ!

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