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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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22.皇帝の資格?

「ちょっと待って下さい。

 すると、カールさんの身分は帝国の皇族なんですか?」

「そういうことになっておる。

 だが大したことではないよ。

 別に手当が出るとか、領地があるとか、生活するにおいて特権があるとかいうわけでもない」

 そうなのか?

 日本の場合、宮内庁からお手当が出たり、政治的な行事に参加したりするみたいだけど。

「ああ、勘違いしたかもしれんが、わしのは本当に名前だけだ。

 実際、国籍は今もソラージュだ」

「帝国の皇族なのにですか」

「ホルム帝国には皇族名簿というものがあってだな」

「あ、それは聞いたことがあります。

 皇族名簿に載っている人は、帝国の皇族と見なされるんですよね?」

「知っておるのか。

 そういえば、マコト殿の部下に皇女殿下がいると聞いたな。

 シルレラ殿下と言ったか?」

 情報は掴んでいるということか。

 さすが元ギルド評議会総議長閣下。

 いや皇子なんだから殿下か?

「シルレラ皇女殿下は私の部下というよりは」

「まあいい。

 で、そのシルレラ殿下には帝国から俸給のたぐいが出ていたかね?」

「……出ていないと思います。

 それどころか、シルレラ殿下は帝国から姿を隠していたみたいで」

 ハマオルさんも居場所を知らなかったらしいからね。

 帝国がシルさんを公的に探そうとした気配も無い。

 つまり放置か。

「それと同じだよ。

 帝国の皇族名簿に載るということは、極めて限られた場における特権を付与されるにすぎん。

 例えば、わしがソラージュか帝国の宮廷に出かけていって皇子だと名乗れば、それなりの礼儀を持って迎えられるだろう。

 だが、それによって何か得るものがあるかというと、何もないな」

 そういうことか。

「ホルム帝国は、なぜそのようなことを?」

「初代皇帝陛下の命令だと言っておったな。

 紋章院という組織が、これと決めた者を名簿に載せるのだそうだ。

 皇帝家の血筋と関係ないどころか、帝国以外の国の人間でもおかまいなしだと」

 シルさんもその名簿に載ったから皇女なんだっけ。

 まあ、シルさんの場合は皇弟殿下の血を引いているんだから判らなくもないけど、カールさんはまったく無関係だ。

 なぜ?

「そう思うだろう?

 わしも不思議に思って聞いてみたら、『迷い人』だからだと言われた。

 そこで初めて、わしは自分が『迷い人』としてそれなりに知られていることを知ったわけだ。

 ソラージュのギルド評議員にまでなった異世界人として、な」

 それでか。

 カールさんは出世したことで当局の目を引いたということだ。

 おそらく、それまでは見過ごされていたんだろうな。

 ギルドの評議員にまでなった人については、国としても身元を調査するのは当然だ。

 国家の重要情報にアクセスできる立場に、得体の知れない人を置いておくわけにはいかないからね。

 カールさんの経歴を調べる内に、突然現れて有力な商家に婿入りした、肉親が誰もいない、といったデータが出てきて。

 これは「迷い人」ではないのか、ということになったのだろう。

「帝国もその情報を掴んだわけですか」

「そうだろうな。

 当然、ソラージュ側が先に把握していただろうが、どうやら『迷い人』には手を出すなという国是があるらしく、特に何をしてくるわけでもなかった。

 だが帝国は行動したということだ」

 パネェ。

「その情報だけで、いきなり皇族に迎え入れたと」

「もちろん調査はしたようだ。

 ホスと会ったのだろう?

 聞いていると思うが、そもそも『迷い人』と認定されるためには、社会に対してある程度の影響を及ぼすほどの存在にならなければならんらしい。

 帝国やソラージュは、わしがそれに該当する成果を上げたと判断したのだろうて」

 そういえばユマ閣下が言ってたっけ。

 ギルドの総評議長にまでなった人なのだ。

 中興の祖とも呼ばれていたとか。

 ということは、このカールさんも自分で言っているような凡人どころか、とんでもない業績を上げた人だということになる。

 でもそれだけだ。

 ソラージュや帝国の上層部からみたら、単なる優れた業績を上げた個人というだけだしね。

 そんな人に帝国皇族の身分を与えて、どうしようというのか。

「皇族名簿に載って、何か変わりましたか?」

「特に何も。

 帝国側もソラージュ王政府もわしに表だって干渉してくるようなことはなかった。

 ただ、無言の圧力というか、むしろ援助は感じた。

 さりげなく背中を押してくれたり、何かやろうとするとスムーズに話が通ったりしてな」

 どっかで聞いたことがあるような。

「気のせいだったのかもしれんが、そのおかげでわしの仕事はうまくいくようになったし、最後には総評議長にまで出世することが出来た。

 望外の人生だったよ」

 うーん。

 カールさんの実力か、国の援助か。

 両方なんじゃないかなあ。

 ただ、目に見えて何かしてくるということはなさそうだ。

 「迷い人」は不可侵だとホスさんも言っていたしね。

「大体、判りました。

 つまり気にすることはないと」

 俺がまとめたつもりで言うと、カールさんは手を振った。

「実は、そうでもない。

 マコト殿は気がついていないと思うが、そもそも帝国の皇族とは何か、ということだ」

「皇族って……皇帝の一族ということでは?」

「違うな。

 当然だが、わしは帝国皇帝の血族とは何の関係もない。

 皇族名簿に載ったとしても、普通に暮らしている限りは何の意味も無いしな。

 帝国から何かを言ってくるというわけでもない。

 そうではなくて、皇族というものは資格なのだよ」

「資格、ですか。

 何の資格なのでしょうか」

「皇帝の、だ」

 皇帝。

 それって。

「そうだ。

 帝国の皇族に属する、つまり皇族名簿に載っている者だけが皇帝になることが出来る。

 まあ簒奪でもすれば別だが、ホルム帝国の仕組みはなかなかうまく出来ておって、皇族以外の有力者がのし上がることが非常に困難だ。

 皇族なら、そもそも簒奪する必要がない。

 よって、皇帝は皇族から出ることになる」

「……ということは、カールさんも皇帝になる資格があると」

「もちろん、皇帝に選ばれるためには帝国内部の多くの者から認められ、支持されなければならないから、わしなんぞには関係がない話だがな」

 カールさんはそう言って笑ったが、俺はそれどころじゃなかった。

 ということは、フレアちゃんやシルさんにも帝国皇帝になる資格があるのだ。

 フレアちゃんはいいとしても、シルさんって結構危ない立場なんじゃないのか。

 シルさんの実力というかカリスマは、多くの人を引きつける。

 ハマオルさんたちなんか、中央護衛隊を辞めてまで押しかけ臣下に収まったくらいだ。

 つまり、人の上に立つ資質があるのだ。

 だが後ろ盾がまったくない。

 これって、もの凄く危ない状態なんじゃないか。

 特に次の皇帝になりたがっている人から見たら、目障りというレベルじゃないだろう。

 そうか。

 だからシルさんは帝国を離れたのか。

 そして、アレスト市で対帝国警戒網を作ろうとしている。

 それはソラージュのためというよりは、自分やご家族を守るためなのかも。

 ソラージュ王政府はそういうシルさんの思惑を知りながら、自国に有利な展開を黙認しているということか。

 だけど、シルさんやフレアちゃんが火種であることは間違いないな。

 下手すると、その存在自体が帝国のソラージュ侵攻の理由になるかもしれない。

「どうかしたのかね?」

「……いえ、何でもありません」

 いかんいかん。

 今はカールさんの話を聞かなければ。

「マコト殿には気がかりがあるようだが、それとは別に、まだ気づいておらんことがあるぞ。

 マコト殿自身のことだ」

 何でしょうか。

「マコト殿は、もうすでに『迷い人』と認定されておるのだろう?」

「はっきりと聞いたわけではありませんが」

「聞くまでもない。

 短期間にこれだけの実績を上げ、ソラージュの国としての方向性自体に影響を与えかねないところまで来ているのだ。

 まず間違いなく、マコト殿は『迷い人』認定されておるよ。

 そして、帝国も既に気づいているはずだ。

 だから」

 だから?

「いつになるか判らないが、いずれは帝国から使者が来るぞ。

 マコト殿が皇族名簿に載ったことを知らせに、な」

 パネェ。

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