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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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21.帝国皇子?

 はっと気がつくと、ソファーに座っていた。

 正面にこの屋敷のご主人らしい人がいる。

 見回してみたが、ハマオルさんとあの執事さんがいない。

 俺、気を失っていた?

 いやきちんと座っているし、いつの間にかお茶が出ている。

 あるんだなあ、こういうの。

 いや、何となく記憶はあるのだ。

 執事さんとハマオルさんが話し合ってから出て行ったこととか。

「人払いさせて貰った。

 何、あの護衛の若いのなら心配はいらんよ。

 別室で待機して貰っているだけだ」

 カールさん、だっけ。

 東ドイツって、ドイツだよね?

 ああ、世界史で習った覚えがあるなあ。俺が生まれるちょっと前くらいまで、ドイツって東西に分裂していたんだよな。

 その東側ということか。

「失礼しました」

「こっちこそすまなかった。

 別の『迷い人』に会ったのは初めてかね?

 いや、実は私も初めてなのだが」

「はい。

 というよりは、私以外のまだ生きている『迷い人』がいることすら知りませんでしたので」

 それに、ホスさんの話では「迷い人」と呼ばれるには色々条件があるらしかったしね。

「カール・シュミットさん、でよろしいでしょうか」

「かまわん。

 カールと呼んでくれたまえ。

 マコト殿」

 何かやりにくいな。

「判りました。

 ところで失礼ですが、私が住んでいた世界には東ドイツという国はありませんでした。

 私が生まれる前に東西ドイツは統一されたはずです」

「ほう、そうかね!

 Sowjetunion(ソビエト)は文句を言わなかったのかね?」

「あー、ソビエト連邦って国はもうないです。

 今はロシアになっているはずですが」

「ほうほう!

 悪名高きSowjetunion(ソビエト)は消滅したか!

 いいニュースだ。

 もっとも、今となってはどうでもいいわけだが」

 最後の方は自嘲気味だった。

「カールさんは、いつ頃転移したんですか?」

「1960……何年だったか。

 もう50年くらい前だから、よく覚えておらんのだ。

 こちらで過ごした年月の方が遙かに長いしな。

 Ostdeutsche(ひがしドイツじん)だったことの方が夢のようだ」

 そんなもんだろうな。

 転移してきて半世紀も過ぎたら、地球のことなんか夢になってしまうだろうし。

「お聞きしてもよろしいでしょうか」

「もちろんだが、その前にこっちから聞いてもいいかね?

 地球の情報に飢えておるのだよ。

 もう何十年も時代遅れになっているからな」

「それはいいのですが、私はまだ生まれて四半世紀足らずですので」

 カールさんが地球にいた時代とは断絶があるぞ。

「かまわん。

 むしろ、わしにとっては未来から俯瞰的に観られて好都合だ。

 さてまず第一に、マコト殿は西暦何年から来たのだ?」

 タイムトラベラーじゃないんですけど。

「201×年です」

「なるほど。

 いや、地球とこちらとの時間の流れが一致しているかどうか、いまいち確信が持てなかったのだよ。

 しかしこれではっきりした。

 どうやら時間的には同期しているようだな」

 そうか。

 SFではよくあるよね。

 異世界で過ごすと時間の流れが違っていて、戻ったら白髪のおじいさんだったとか。

 あ、あれは童話か。

「21世紀か。

 するとあれだ。

 もう火星に植民地があって、エアカーや個人用ヘリコプターが普及していて、食料は錠剤なのかね?」

 何それ。

「月には到達しましたけど、まだ定住すら出来てません。

 アメリカが火星有人飛行を計画していると聞いた覚えがありますけど、結構先の話ですし。

 あと、エアカーや個人用ヘリもまだというか、無理です。

 個人用の電話機なら普及してますが。

 食べ物は変わってないと思います」

 しかし、カールさんって50年前に地球から飛ばされたんだろう?

 何か微妙に古くさいけど、考え方がSFなんじゃないのか?

「わしは空想科学小説(エスエフ)が好きで、そういう話を大量に読んでいたのでな。

 残念だ。

 21世紀になってもエアカーはないのか」

「どこかで読みましたが、エアカーの試作はされたらしいんですけど、騒音と強風を辺りにまき散らすので現実的じゃなかったそうです。

 車はまだ車輪で走っています。

 個人用ヘリも、あるらしいですが普及はしていません」

「まあ、そうだろうな。

 よしわかった。

 それはいい。

 ところでSowjetunion(ソビエト)がなくなったと言ったが、Kommunismus(きょうさんしゅぎ)もか?」

「そうですね。

 実質的になくなっているというか、お題目になっていると思います。

 中国なんかはまだ共産党が支配してますけど、内容はどうみても全体主義で資本主義ですし。

 日本にも共産党はありますが、共産主義革命なんか考えている人はほとんどいなくなっています」

「Kommunismus(きょうさんしゅぎ)も力を失ったのか。

 Sowjetunion(ソビエト)が消え、Deutschland(ドイツ)が統一されたということは、West(にし)-Deutschland(ドイツ)が東を吸収したということだな。

 つまり、Deutschland(ドイツ)は復活した?」

「はい。

 世界で4番目くらいの経済大国になっています。

 EUといって、西ヨーロッパは一種の連邦制になってるんですが、そこの盟主的な立場です」

 あまり詳しくないけど、多分間違ってないと思う。

 一応、俺だって新聞くらいは読むし。

「そうかそうか!

 grose(だい)-Deutschland(ドイツ)は復活したか!

 いいニュースだ」

 カールさん、言葉が時々ドイツ語になっているみたいだな。

 特に地球の固有名詞が。

 それ以外でも、何か聞き覚えがあるような発音が聞こえる。

 いや、俺も大学の第二外国語にドイツ語とったんで、ちょっとは知っているんだよね。

 発音にウムラウトが混じったりして。

 50年たっても、ソラージュ語になりきれてないらしい。

 やっぱ魔素翻訳のせいで発音とかの習得が進まないんだろう。

「しかしDeutschland(ドイツ)が世界第四位か。

 一位はAmerika(アメリカ)かね?」

「はい。

 二位を周回遅れにするくらい、ぶっちぎりの一位です。

 唯一の超大国ですね。

 第二位が中国で、第三位が日本ですが」

「ほお?

 China(ちゅうごく)は判るとしても、Japan(にほん)がその次というのはちょっと信じられないが」

 あー、50年前の常識ではそうなんだろうな。

 日本やドイツが戦争に負けてから、まだ20年くらいしかたってないんだもんね。

「ドイツも日本も、戦争に負けたことで最初からやり直して急速に発展したと習いました。

 アメリカ以外は、勝ったことで既得権益層がそのまま維持されてしまって、新しい時代に適合できなかったと」

「なるほど。

 それはおそらく正しいのだろうな。

 わかった。

 実にありがたかった。

 もっと聞きたい事はたくさんあるが、ここらでマコト殿にボールを渡そう。

 何かわしに聞きたいことは……ないはずがないか」

 それはそうだよ。

 そのために来たんだから。

「それでは、地球の話は後でいくらでもお話させて頂くとして、まずはカールさんのことを教えて下さい。

 転移した時の状況はどうだったんですか?」

「仕事帰りに街を歩いていて、気がついたら野原の真ん中にいた。

 パニックになったよ」

 俺と同じか。

 別に召喚されたとか、神様に選ばれたとかじゃないみたいだな。

「それから」

「なぜか朝だったんで、やみくもに歩き回って日が暮れる前にようやく家がある所に辿り着いたんだが、言葉は通じるものの、どうみてもDeutschland(ドイツ)じゃなかったからな。

 持っていた金は使えないし、親切な人に泊めて貰って、とりあえず畑仕事の手伝いなどをしていたよ」

 つまり、カールさんも最初から人に信用されたということだ。

 ホスさん言うところの「正直な」人だったのだろう。

「適応力があったんですね」

「わしはOstdeutsche(ひがしドイツじん)だからな。

 Stasi(ひみつけいさつ)慣れしとったもんで、理不尽なことでもとりあえず従う癖がついておった。

 Uberleben(サバイバル)は得意だ」

 シュタージの発音がはっきり聞こえた。

 アニメで出てきたけど、確か旧東ドイツの秘密警察だったっけ。

 つまり、突然どっかに連れて行かれてよく判らないことをさせられたり、強制労働とかを押しつけられる可能性を常に考えていたと。

 余計な質問とか、変な好奇心を抑える修行もしていたんだろう。

 それがカールさんを守ったらしい。

「しばらくはその家の居候だったんだが、そのうちに商売のコツやちょっとした工夫を披露したところ、金儲けの才能があると思われて、その街の商家に婿入りできた。

 まだ30前で、独り身だったから抵抗はなかったな。

 それからはコツコツと働いて、気がついたらソラージュ王都のギルド評議員になっておったわけだ」

 カールさんはにやにやしていた。

 途中をすっとばしたけど、色々あったんだろうなあ。

 でもまあ、転移者としては順調すぎるほど順調な人生か。

 あれ?

 でも、カールさんって「迷い人」ですよね?

 今の話には、そういう事が出てこなかった気がしますけど。

「わしもこのまま一生終わるのかと思っていたんだが、ある日突然、帝国から遣いが来た。

 来いというので出かけていったら、紋章院とやらでいきなり『あなた様は皇族名簿に載りました』と告げられてな。

 だから、帝国におけるわしの名は『カル・シミト・サリエル・ホルム皇子』だ」

 何それ?

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