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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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18.反チート能力?

 俺があまりの事にうち拉がれていると、ホスさんが続けた。

「そういうわけで、マコト殿はこれまで出会った大抵の人から積極的な好意を寄せられてきたはずだ。

 自分のことを尊敬し好意的な感情を持ってくれる相手を嫌う者はほとんどいないだろう?

 まして君は『心の壁』を持たないせいで、出会った相手に対して正直に自分を曝け出してしまっている。

 常に相手に対してラブコールをしているようなものだ。

 それが、君がモテまくる理由だよ」

 もう止めて(泣)!

 でもまあ、それなら判らなくも無い。

 ハスィーにしてもジェイルくんにしても、何で俺なんかにあれほど入れ込むのか訳がわからなかったけど、そういうことか。

 考えてみれば俺の知り合った人たちって、みんな能力があって重大な責任を負っている方ばかりだもんなあ。

 常に周囲の人と鍔迫り合いを繰り返しているような状態の所に何も隠してない、のほほんとした奴が出てきたら、それは心を許すかも。

 でも、俺ってそんなあんぽんたんに見えていたのか。

 心の傷を剔られるようだ。

 あれ?

 でも、俺に敵対してきた奴もいたよね?

 アレスト市ギルドのあの次席の人とか、警備隊の隊長とか。

 代官もそうだったっけ。

「最初から敵意を持っている場合は、そう簡単には塗り変わらないということだ。

 報告書で読んだが、アレスト市の領主代行官や警備隊隊長の場合は、君と会う前にすでに君のイメージが出来ていたと思われる。

 自分に敵対する者として、な」

 そうなのか。

 あと、プロジェクト次席の人についてはバレてないみたいだな。

 まあ、あれは俺と本人以外知らないことだし。

 次席の人が飛ばされたのも、ハスィーの怒りを買ったからだからね。

「ニュートラルな状態で君と会った者は、君の言動がどうあれ無意識では感じるはずだ。

 『この人は私を信頼してくれて、自分に好意を持ってくれて、認めてくれている』と。

 それだけで、普通の人なら大抵墜ちるだろう」

 そうなのですか。

 つまり、俺の場合は「心の壁がない」ことがチートになっていると。

 いや、俺以外の全員が「言葉や動作で相手の心を読む」「相手に心を読ませない」というチート持ちで、俺だけ何も無いということだな。

 反チート能力か。

 そんなのが出てくるラノベなんか、読んだこと無いなあ。

「それから」

 ホスさんが咳払いした。

 いかん。

 意識がどっかに行っていたかも。

「すみません」

「いや、私も急ぎすぎたかもしれない。

 こんな話を聞けば衝撃を受けることは判っていたのだが」

 でも失礼だよね。

 集中しないと。

「その状態の君に追い打ちをかけるようだが、言っておかなければならないことがある。

 報告書にあった、警備隊の隊長との一騎打ちの件だ」

 あれですか。

 もう二度とやりたくないんですが。

 出来れば忘れたいと。

「君も変に思っているのではないかな?

 荒事の専門家である警備隊長に、君が勝てたことを」

「あ、はい。

 それは不思議でした。

 本当なら、勝てるはずがないんですが」

 あの隊長さんが油断していたから、とも考えたが、ありそうにもないよね。

 相手は大会で優勝するほどの格闘のプロなのだ。

 俺のなんちゃって示現流が通じるとも思えない。

「実は、ここにも魔素翻訳が関係してくる。

 我々は魔素の影響で、言葉やそれ以外の動作による相手の情報収集を日常的に行っている。

 というよりは、もはや習慣と化していて、自分では意識しないほどだ。

 普通の人でもそうなのだから、警備隊の隊長を務めるほどの武術の達人なら、全身で決闘の相手を把握しようとしていたはずだ」

「そうなのでしょうか。

 私は夢中で向かって行っただけなのですが」

「おそらく、それが仇となったのだよ。

 その警備隊長は、君が発する暴力への衝動、威嚇をもろに受けたのだ。

 君は相手に向かっていきながら、大声で叫んだそうだね?」

「……はい。

 あれで自分を奮い立たせるというか、気迫を込めるというか」

「武術の世界では、肉体的な実力以前に『気迫』が勝負を決めることがあると聞いている。

 もちろん、その警備隊長も同じように君に対して気迫をぶつけてきたはずだが」

「が?」

「君には、それを感じる能力がなかったのだよ」

 何てことだ。

 そういうわけか。

 あの警備隊長は、俺のなんちゃって示現流が届く前に、既にダメージを受けていたということだ。

 それで動作が遅れて、俺の警棒をまともに受けてしまったと。

 チート能力を持つが故の敗北。

 俺には「心の壁」がないだけでなく、相手の気迫を感じ取る能力も欠けていたわけで。

 あーーーっ!

 思い出した!

 これ、アニメの「エヴァンゲリ○ン」に出てきた「A・T・○ィールド」じゃないか!

 ていうか、「A・T・フィー○ド」が存在しないが故の攻勢防御。

 こんな馬鹿な理由で負けた警備隊長さん、どもすみませんでした。

 武人のプライドを踏みにじる行為だなあ。

「ちなみに、報告書によれば当の警備隊長、そうオスト・セラスだったか。

 司法官の尋問に対して実に素直に答えているぞ。

 領主代行官の甘言に乗って君を辱めようとした事を強く反省していたと書かれていた」

 さいですか。

「特にヤジママコト近衛騎士については、絶賛と言っていい言葉で評している。

 あの方は、まことに近衛騎士に相応しい方であった、と。

 相対した時の気迫に飲まれて、一瞬身動き出来なかったそうだ。

 そして、近衛騎士殿は自分の気迫などものともせずに肉薄し、見事な一撃を加えて風のように駆け抜けたと」

 すみません。

 それ、誤解です。

 俺はやけくそになっていただけです。

 しかも隊長さんの気迫を感じられなくてスルーしてしまっただけで。

 こんな情けない理由で負けたと知ったら絶対傷つくよね?

 黙っていよう。

「とまあ、マコト殿の評判はすこぶるよろしい。

 現時点で積極的に敵対している者は、直接出会った人の中にはまずいないと言っていいだろう。

 ただし、評判や行動の結果だけを見てマコト殿を嫌ったり憎んだりしている者はいるかもしれないな」

 芸能組合の人たちはそうだろうなあ。

 タリさんも。

 それはしょうがないよな。

「私はこれからどうすればいいんでしょうか」

「ん?

 それは私の言うことではないな。

 マコト殿は近衛騎士なのだろう。

 近衛騎士は何者にも囚われない。

 自由なのだよ。

 偶然とはいえ、実にマコト殿に相応しい身分ではないか」

 ホスさんはそう言って笑った。

 無責任な!

「いえ、そうではなくて、王政府の方から何か要求があるのではないかと」

「特にないな。

 というよりは、『迷い人』もまた不可侵の存在なのだ。

 私は歴史を学んだからよく知っている。

 『迷い人』に手を出すということは、この世界の摂理に干渉することになってしまうのだよ。

 だから、それを知っている者たちは見守るだけだ。

 まあ、流れの中で精一杯足掻いてはみせるがね」

 何ですと?

 「迷い人」って、そんなラノベ的な存在なのでしょうか。

 今までの話では、偶然こっちの世界に転移してきてしまった運の悪い人としか思えないのですが。

「いや、言い方が悪かった。

 『迷い人』自身が超自然的な存在であるというわけではない。

 ただ、何らかの意図を持って干渉しようとすると、予測の付かない結果になりかねないということだ。

 かつて、『迷い人』をとある国が政治的に利用しようとしたことがあった。

 その結果は悲惨だった。

 その国は解体され、今なおその地には不穏な空気が残ったままだ。

 それ以来、『迷い人』に過度に干渉することはタブーとなっている」

 何ですかそれ。

 でも、俺と関わりあった人たちは自由に振るまっているみたいですが。

「個人が『迷い人』に協力したり、あるいは敵対したりすることは制御できないからな。

 それもまた『迷い人』の行動の一部とも言える。

 よって、ソラージュ王政府はマコト殿やその周辺がどう動こうが、公的には放置する。

 例え、マコト殿がソラージュを滅ぼそうとしようがだ。

 まあ、その場合は多くの者が個人的に対抗するだろうがね」

 しませんってば、そんなこと!

 ああ、そういえばララネル公爵殿下も似たようなことを言っていたな。

 あれって、戯れ言じゃなかったのか。

 でも、個人が対抗してくるんだったらジェイルくんとかユマ閣下に任せておけばいいし。

 いやいや、それ以前に俺はそんな恐ろしいことは考えないって!

「それはありがたい。

 くれぐれも、何か破壊的な方向に走らないで欲しいものだな。

 それなら私も近衛騎士の俸給を貰いながら、好きな研究ができるというものだ。

 これからもたまには会って話したいものだね」

 ホスさんは、そう言って笑った。

 そこで丸投げかよ!

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