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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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17.丸見え?

「理由をお聞きしても?」

「もちろんだ。

 私はそのために来たのだからな。

 言っておくが、私の行動は王政府の承認を受けている。

 マコト殿が知る時期が来たということで、むしろこれは政府の命令によるものととって貰っても構わない」

 何てことだ。

 俺って監視されていたのか。

「それは当然だろう。

 ここまで周囲を騒がせておいて、政府やギルドの関心を引かないと思っていたのかね?

 商人も同じだ。

 今やヤジママコト近衛騎士は注目の的と言って良い。

 ソラージュだけではないぞ。

 帝国や他の国もおそらくは動いている」

 やだなあ。

 でも、それよりはさっきのホスさんの言葉が問題だ。

 俺は黙ってホスさんが続けるのを待った。

「そう、『迷い人』になりそこねた人が長く生きられない理由だ。

 君も知っている魔素翻訳、あれが原因だよ」

「誰とでも言葉が通じることですか?

 それが危険だと?」

「違う。

 そうではなくて、内心や感情が伝わってしまうということだ。

 邪な考えや悪感情を持つ者は、その通りに受け取られるのだよ。

 誰かを騙そうとしたり、いやちょっとした悪意や利己的な考えを覚えただけでも、相手には判ってしまう。

 これが、どれだけ大変なことなのか判るか?」

 判る、か?

 うーん。

 でも、俺はそんなの感じないんですけど。

「それはマコト殿が異世界人、というよりは魔素がある世界で育たなかったからだ。

 逆に言えば、我々はすべて、生まれたときから魔素翻訳が通じる世界で生きてきている。

 それ以外の世界を知らないのだ。

 だからこそ、なかなかこの仮説に到達できなかったのだがね。

 現在でも大多数の私の仲間である学者たちに受け入れられないのも、それが理由だ」

「つまり、ホスさんたちは魔素があるのが当たり前の生活をしているということですか」

「そうだ。

 我々は、幼少より話すだけで心が曝け出される状況から身を守るために、無意識に心に壁を作る。

 これは意識して出来ることではないし、また成長してしまえば後から作り出す事が出来ない。

 幼少期の心の成長と共に形成されるからな」

「『心の壁』ですか」

 あれ?

 なんか、そういうのってアニメであったような。

「その『心の壁』は、魔素翻訳による内心の露呈を防ぐのに大いに役立っている。

 さらに言えば、これがあるからこそ我々は言葉というものを持つことが出来ている。

 意味不明の音声でも話が通じてしまえば、そもそも言語などというものは意味を失うからな。

 『心の壁』があることで、言葉を使ったコミュニケーションが必要となるわけだ」

 そうだろうな。

 俺に言わせれば、よく言語が廃れなかったと思うくらいだよ。

 魔素翻訳には距離制限があるから、そのせいかと思っていたけど。

「言葉での情報伝達はもちろん完全ではないし、むしろ意識して隠そうとするとかえって内心や感情が露わになってしまうがね。

 ただ、言葉によらなければ内心をまともにぶつけ合うだけになってしまう。

 それはもう、感情と変わらない。

 我々は、お互いにこの『心の壁』を持ち、かつ言葉を使うことで、かろうじて心の内を完全に曝け出し合うのを回避している。

 アルコールや麻薬のたぐいが避けられるのは、この『心の壁』が薄れてしまうからだ」

 「心の壁」ね。

 何だったっけ?

 喉に引っかかっているんだけど。

「でも、それだけで死にやすくなるでしょうか」

「例えば、突然こちらの世界に来た君の仲間が人に会うとする。

 出会って話す内に、色々と考えるだろう。

 どう利用してやろうかとか、助けてくれとか。

 こいつの持ち物を奪ってやろうとか。

 そういう感情が全部筒抜けだとしたら?」

 そうか。

 これは駄目だ。

 それでなくてもパニックに陥っている状態で、相手を騙してでも助かろうなどと考えたら、それだけで詰む。

「忌避されたり、誰にも相手にして貰えずに自暴自棄になって、ということですか」

「そうだな。

 暴力事件を起こして当局に捕えられるのならまだいい方だ。

 失礼ながら、こちらの世界はおそらくマコト殿の所と違って、ただ生きること自体が一人では困難な状況だ。

 迷い込んできた人が、誰の助けも借りずに生き抜けるほど安全ではないのだよ」

「それで、亡くなってしまうと」

「絶望的になればなるほど、危険な考えを持って会った者に接するようになるだろう。

 だが、その思いは筒抜けだ。

 そんな危ない者を受け入れるほどには、みんな優しくもないし、余裕があるわけでもないからな」

 そうか。

 地球でいうと、道を歩いていたらいきなり怪しい人に助けを求められるようなものだ。

 だがその相手は、露骨に利己的な考えをぶつけてくる。

 いや、別に悪感情というわけではなくても、表情や雰囲気と言っていることがまるで違っていたら、誰だって警戒心を抱くはずだ。

 しかも身分を証明できない外国人。

 当局に突き出されればいい方だろうな。

 そして、こっちの世界で警察の役割を担うギルド警備隊は、あいにくそれほど人権保護に熱心とは言えない。

 下手すると、簡単に取り調べた後は街の外に追放して終わりということになりかねない。

 騎士団に通報されればまだ助かる可能性はあるけど、情報統制されているとしたら、「迷い人」については上層部しか知らないことになる。

 都会や大きな市ならともかく、どこか辺境の村などに転移したらどうなるか。

 暗い想像しか出てこないな。

 あれ?

 でも、俺は本当に最初から優しくして貰ったけど?

 俺の怪訝な様子に、ホスさんは微笑みながら言った。

「マコト殿の凄い所は、そういう条件がすべてプラスに働いたことだ」

「といいますと?」

「君がこれまで辿ってきた経緯については、報告書を読んで知っている。

 司法官が詳細なレポートにまとめてくれていたからな」

 ユマさんか!

 それはそうだろうな。

 司法官として、担当地で発生した事件は政府に報告する義務があるはずだ。

 それを読んだということは、ホスさんも政府の人なのか。

「私は専門家として関わっているだけで、公的な権限があるわけではないのだがね。

 そういった情報にアクセスできる程度の立場にはいるのだよ。

 話を戻すと、マコト殿は最初に出会ったマルト商会にすぐに保護されたね」

「はあ。

 私みたいな風来坊を、やたらに好意的に扱って頂きました」

 実際、あの時にマルトさんに会ってなければ俺はマジで死んでいたかも。

「つまり、君はそのマルトという商人や、その他の人たちに即座に受け入れられたということだ。

 それも最上等の友人としてだな」

「どうしてなんでしょうか」

「もちろん、君がいい奴だからだよ」

 はあ?

 何の冗談ですか。

 俺、そんなナイスガイではないですけど。

「君はおそらく、嘘はつかない。

 出会った人に好意的に接するだけでなく、良い所だけを意識して行動する。

 さらに言えば、腹芸的なこともしないのではないかな」

「でもそんなことは、誰でもそうでしょう。

 私など、いい奴という評価を受けたことなんかありませんでしたよ。

 もっと人好きがする奴とか、みんなのアイドルのような人もいっぱいいましたし」

「そういう人ほど、表面と内心が違うわけだ。

 演技をしているということになる。

 だが君は、今こうして私と話していても実に素直だ。

 言動と内心に乖離が見られないし、私に対する好意が見え隠れしている」

 そうなのか?

 いや、確かにホスさんは凄い人でカッコいいし、尊敬できるなあとか思っているけど。

 だって欠点が見当たらないんだもんね。

「君のその性格が、いかなる経緯で生成されたのかは判らないが、君にとってはチートな武器であることは確かだ」

 チートかよ。

 性格が。

「そうなのでしょうか」

「そうだ。

 君は、おそらく出会った人すべてに対して長所を評価し、欠点を無視し、尊敬すべき人として接する。

 そして思ったことをストレートに発言する。

 これが、この世界では相手に対してどれくらい効果があるのか、判らないはずがないだろう」

 うーん。

 言われていることは判るんだけど、俺ってそんな性格してたっけ?

 まあ、黒歴史に属する過去の出来事によって、確かに俺は人の欠点を見るのを止めたんだけど。

 最初は意識してやっていたんだけど、いつの間にか習慣になってしまっているのかもなあ。

 でも、何度も言うけど日本では俺ってむしろコミュ障のボッチだったんだよ?

 なぜかというと、そもそもあまり人とは積極的に関わらないし、関わってもあまり動かないからだ。

 何かあっても「まあいいや」で済ませるし。

 つまらない奴、と思われて終わりだ。

 それが、こっちではいい方に出たと?

「魔素翻訳がなければ、いくら内心でそう考えていても相手には伝わらない。

 かえって、内心はどうあれ明るく振る舞う人に人気が出て、君のような正直な人は敬遠されるということだな。

 我々には想像出来にくいが」

 そうなのか。

 でも、まだ判らないというか、納得できないことがあるぞ。

 俺、そんなに口に出して相手を褒めたりしてないはずなんだけど。

 そう言うと、ホスさんは頷いた。

「マコト殿が誤解している事がある。

 魔素翻訳は、言葉を通じてしか伝わらないと思ってはいないか?」

「違うんですか?」

「違う。

 というよりは、そもそも言葉とは何だ?

 コミュニケーションの手段のひとつに過ぎないだろう」

「それはそうですが。

 でも、魔素翻訳は言語を持つ種族の間しか効果がないと聞きましたが」

 化け猫のニャルーさんやフクロオオカミのツォルたちには言葉があったから、あれほど明確な意思疎通が出来たわけだよね。

 馬のボルノさんですら、抽象概念を理解できなくても話が出来ていたし。

 あれは馬語? とやらがあったからでは。

「それは、言語を持つほどの生物なら情報伝達能力や理解力もそれなりにあるからにすぎん。

 言葉がコミュニケーション方法の一形態に過ぎないとしたら、別の形態もあるとは思わないか?

 身振り手振り、ちょっとした動作、表情、姿勢や視線の動きに至るまで、無意識のうちに意思を乗せて相手に語りかけている。

 それもまた、魔素翻訳の対象となるのだ」

 そうか。

 ボディランゲージ、だったっけ。

 つまり何も話さなくても、俺の身体が俺の考えを周囲に振り巻き続けているわけだ。

 それでか!

 俺の知り合った人たちがみんな簡単にこっちの心を読んでくる理由は!

 あれ全部、魔素翻訳で読まれていたということか!

 黙っているだけじゃ駄目だったって?

 常に心の中を垂れ流し!

 ストリッパーかよ俺は?

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