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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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16.迷い人の真実?

 お客様なのだが、ビジネス関係ではないので執務室じゃなくて応接室で会うことにする。

 万一の時のために、ハマオルさんが壁際にいてくれていた。

 待っていると、ドアがノックされてホスさんが入ってきた。

 ていうかホスさんだよね?

 年老いた穏やかな紳士を想像していたんだけど、どっちかというと初老のワイルドな冒険者というかんじで、とてもあのおっとりしたアドナさんの祖父とは思えない。

 だが、そのホスさんとおぼしき人は胸にかなり大きな赤い徽章をつけていて、近衛騎士だということはすぐに判った。

 だって、そんな悪趣味なアクセサリー、強制されなければ誰もつけないって。

「初めまして、ではないんだが覚えていないだろう。

 ホス・ヨランドだ」

 俺が立ち上がって迎えると、手を差し出してきた。

 口調も若いな。

 ああ、あの認証儀式で会ったと言っていたっけ。

 覚えてないけど。

 そこにメイドさんがワゴンを押して入ってきて、お茶をセットしてくれた。

 メイドさんが一礼して出て行くまで、俺とホスさんは黙っていた。

 めんどくさいなあ。

「ヤジママコトです。

 ヤジマは家名なので、よろしければマコトと呼んで下さい」

 同じ近衛騎士なんだけど、ホスさんの方が年上だし、見るからに風格があるもんな。

 俺みたいななんちゃって近衛騎士とは訳が違う。

「もちろんだ、マコト殿。

 私のこともホスと呼んでくれ。

 お互いに『様』は嫌だろう」

 やっぱり。

 なぜか「様」を嫌う人が多いんだよなあ。

 自分もそうなんだけど、生まれながらの貴族や王族ですらそういう人が多いのは不思議だ。

 ラノベとは違うな。

「ではホスさんで」

「それでいい。

 今日は忙しい所を時間をさいて頂いて感謝する」

「いえ、たまには商売抜きで人と会いたいと思っていましたので」

 商売じゃないよね?

「それは良かった。

 もちろん商売ではないが、もっと厄介かもしれんぞ。

 マコト殿が予想を超えた速度で大きくなるもので、今のうちに手を打っておかねば危ういと思ってね。

 『迷い人』の動向は、下手をすると世界を揺るがすことになる可能性がある」

 え?

 「迷い人」って、地球かどっかから迷って紛れ込んできただけの人のことじゃないの?

 しかも危ういって、この人畜無害なペーペーのサラリーマンの何が?

「意味がよくわからないのですが」

「それをこれから話す。

 悪いが、人払いして貰えないだろうか」

 尋常な話ではないらしい。

 しかし、このホスさんが暗殺者だったら二人きりになるのはヤバいのでは。

 どうも、俺の財産と借金の額を聞いてから疑心暗鬼に襲われているのだ。

 すると、ハマオルさんが言った。

(あるじ)殿。

 私はお話が聞き取れない距離でも、気配で状況を察知することが出来ます。

 それに、ソラージュ王国の近衛騎士ホス・ヨランド殿と言えば清廉潔白の義士と評判です。

 帝国とも浅からぬ縁がありますし、王国でも重要人物と聞いております。

 心配はいらないかと」

 ハマオルさん、ホスさんを知っているの?

「一度、帝都でお見かけしたことがあります」

「ああ、皇族名簿の件で帝都を尋ねた時のことか。

 君は帝国近衛団の者か?」

「中央護衛隊です。

 元でありますが」

「そうか。

 すまないが覚えがない」

「警護中に、皇弟殿下とお話されているお姿をお見かけしただけですので」

 何と、ハマオルさんの知人(違)か。

 ハマオルさんがここまで言うんだから、大丈夫だよね。

「それでは、お願いします」

「了解しました。

 (あるじ)殿」

 ハマオルさんはドアを開けて出て行った。

 あの調子だと、自分だけじゃなくて本気で応接室の周囲を人払いしてしまうだろうな。

 凄い人がついてくれているもんだ。

 何様だよ俺。

「あれほどの手練れが護衛か。

 しかも(あるじ)とは。

 君はまさしく『迷い人』のようだな」

 ホスさんの言い方が変だよね。

「『迷い人』は、私のような異世界から迷い込んできた者の総称ではないのですか?」

 だって、初めてアレスト市に行った時に割と早い目に迷い人だと言われたような気がするんだけど。

「ああ、それについては色々と複雑な状況があるので……人払いは済んだようだ。

 マコト殿、まずは君の誤解を解いておきたい。

 『迷い人』がどのような存在なのかということだが」

 判らん。

 俺は黙ってホスさんの言葉を待った。

「少し長くなるが、質問は自由にしてくれて良い。

 まず、気がついていないかもしれないが、君のようにこことは違う世界から迷い込んできた者すべてが『迷い人』と呼ばれるわけではない。

 世間的にはそう思われていて、我々もあえて訂正する気はないのだが、実際には違う」

「でも、私はこちらに来てすぐにそう呼ばれたような気がしますが」

「それについては、色々と考えられるな。

 中途半端な知識を持つ者が誤ってそう呼んだのか、あるいは真実を知る者があえて正しい用語を使ったのか。

 まあ、いずれにしても大した違いはないのだがね」

 ではなぜ?

「結論から言えば、『迷い人』とは異世界から来た人の中でも、我々の社会や世界に多大な影響を及ぼすほどの存在に対する呼称だ。

 よって、異世界からの訪問者であっても何の影響も残さず亡くなったり、あるいは市井に埋もれてしまう者については対象外となる。

 まあ、言ってみれば結果論だな」

 後付けか。

 なるほど。

 つまり、社会体制などに何か影響が出て、その原因が異世界人だった時にそいつが「迷い人」と呼ばれるわけね。

 とすると、「迷い人」とは呼ばれない異世界人がどこかでひっそりと暮らしている可能性もあるということか。

 案外、たくさんいるのかもしれない。

 こっちでは地球の何国人だろうと言葉が通じるし、文明の発達度からいってちょっとした発明とか道具なんかを作れば食っていくことくらいはできそうだからな。

 ホスさんが続ける。

「現実にはそれほど多人数ではないものの、無視できないほどの数の異世界人が現れているという証拠がある。

 オーパーツが今でも時々発見されているし、明らかに現在の我々の文明では実現不可能な発想や技術で作られた道具が存在しているからな。

 追跡しようとしても、いつも跡が途絶えてしまうのだがね」

「ということは、こちらの世界には『迷い人』と認定されるまでもない異世界人がかなり混じって暮らしているというわけですか。

 それにしては、そういった人の痕跡が見つからないのは変ではないのですか」

 俺が当然の疑問を呈すると、ホスさんは頷いた。

「それが、我々歴史学者のみならず学術界すべてにとって長年の謎だった。

 とはいえ、仮説はある。

 私が提唱したものだが、異端ということで反主流の扱いを受けているのだがね」

 異端の歴史学者ですか。

 ラノベ的だな。

 あれ?

 異端とか反主流と言っても、近衛騎士に叙任されるほど著名というか、王政府に評価されているんだよね?

 少なくともソラージュの近衛騎士については、確か日本で言うと文化勲章の受章者的な扱いだったはずだ。

 つまり、学者でいうと主流中の主流、功成り名を遂げた人に対する褒賞だったはずじゃないのか。

 失礼だけど、ホスさんってとてもそんな枯れた人には見えないんですが。

「考えていることは判るし、その通りだ。

 私の近衛騎士叙任は、いわば王政府の賄賂だよ。

 あえて体制側に取り込むことで、その説を広められたり、騒ぎを起こしにくくするということだな」

 何と。

 まあ、政治ってのはそんなもんかもしれないけど。

 でも、だとするとホスさんの仮説ってのはかなり危険なものなのなのかも。

 今の王政府というか、体制にとって。

 ホスさんは、そんな俺を見て笑った。

「さすがというべきか、頭が回るな。

 そうでなければ、ここまでにはなれないのは当然だが。

 マコト殿にとってはラッキーだったということだ」

 「ラッキー」かよ。

 本当は何と言っているのやら。

「話を戻すが、私を近衛騎士に叙任してまで封印しなければならない仮説とは何か、ということだな。

 見当くらいはつかないかね?」

「いえ」

 本当は、何となく判っていた気がするんだよね。

 考えないようにしていただけで。

 みんなが俺に優しい理由は判らないけど。

「残念だが、マコト殿の想像はおそらく正しい。

 もちろん仮説だが、状況証拠から言ってほぼ間違いない。

 自分で言うかね?」

「……いえ、お願いします」

 ホスさんは、姿勢を正した。

 迫力があるなあ。

 いやいや、集中しないと。

「おそらくだが、マコト殿と同じようにこちらに転移してきた人のほとんどは、転移から1週間以内に死亡している。

 故に、痕跡が見つかっても本人を発見することはできない、というわけだ」

 やっぱりか。

 くそっ!

 知りたくなかったよ!

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