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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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15.魅了?

 「ニャルーの(シャトー)」の営業は順調だった。

 順調過ぎるほどで、1週間もたたないうちに猫と人間の従業員の増員と、施設の建て増しが上申されてきた。

 いや、資金をヤジマ商会が出している形になっているので、そういった予算申請はこっちに来るんだよね。

 ジェイルくんが複雑な表情で決裁していた。

 俺がそういう決裁権を「大番頭」に押しつけたんだよ。

 これで、俺は一定金額以下の案件には関わらないで済むことになった。

 事後報告だけだ。

 ジェイルくんが渋い顔をしているのは、せっかく用意した赤字予定事業が黒字化してしまうことが確実になったからで、来年の配当が恐ろしいと呟いていた。

 贅沢な。

 北聖システムなんか、いつも売り上げ未達成で汲々していたのに。

 事業がうまくいったんなら、いいじゃないの。

「上手くいきすぎているので困っているんですよ。

 アンケート調査をしてみましたが、すでに常連客が出始めています。

 猫撫でにハマッた人がかなりいるらしいですね。

 しかもそういう人は比較的富裕層に多いようで、もう特別扱いの要求が出ています」

 特別扱いというと、あれか。

「はい。

 アレストサーカス団でもあった、割り増し料金を払って優先的に入場できるという制度です。

 無理ないんですよ。

 もう予約なしに行っても入れなくなっていますし、入場しても数時間待ちというケースが少なくないそうです」

 まあ、その分温泉に浸かったり人間の従業員にマッサージを頼んだりして、特に不満は出てないようですが、とジェイルくんは言った。

 それは良かった。

 でも数時間待ちって。

 そんなに猫を撫でたいのか。

 ソラージュの人って。

「マコトさんの指示で猫従業員を指名制にしたことが効いています。

 人気猫の稼働率がやたらに高くなっていて、一部では指名権の奪い合いから喧嘩まで起きているらしく」

 ああ、もういい。

 そんなことは聞きたくない。

 ジェイルくん、良きに計らっておいて。

「判りました」

 疲れる。

 幸い「ニャルーの(シャトー)」はヤジマ商会の直営事業ではないから、俺は関係ないということで逃げられる。

 キディちゃんたちは大変らしいけど。

 何でもあまりの忙しさにアレスト興行舎から増援が出たらしいし。

 アレスト市から呼び寄せる人もどんどん増えているそうだ。

 古参の従業員の出世ラッシュとか。

 聞きたくない。

 金は出すから、俺の目に付かないところでやってくれ。

 実際、「ニャルーの(シャトー)」ばかりに関わっている暇はなかった。

 あいかわらず出資希望者との面談というか接待が続いていたし、アレスト興業舎、じゃなくてセルリユ興業舎の事業についても王都のギルドとの折衝が大量に発生していた。

 ラナエ嬢は侯爵家の出だけど、そんなものは王都では大したアドバンテージではないらしい。

 だから、結局の所はギルドを総括している王太子殿下に頼ることになる。

 つまり、ミラス殿下のラミット勲章を持つ俺に案件が回ってくるんだよね。

 いくら働いても、俺の給料が上がるわけじゃないんだけど。

 ていうか、俺の給料や資産ってどうなってるの? と尋ねたところ、ジェイルくんは難しい顔でしばらく悩み、結局アレスト興業舎の元経理部長で現王都支店長のマレさんが呼ばれだ。

 マレさんは大量の書類を抱えて現れて説明してくれた。

「マコトさんの収入源は、現時点ではヤジマ商会の会長の他にアレスト興業舎の顧問職ということになります。

 それ以外にも色々と肩書きがあるはずですが、有給なのはこの2つだけですね」

 ララネル家の近衛騎士は別にして、とマレさんは言った。

「で、いくらくらい?」

「アレスト興業舎の顧問の給料は変わっていませんし、ヤジマ商会の会長職も立場の割にはあまり高給には設定されていないです。

 両方合わせて、ララネル家近衛騎士の俸給の十倍くらいでしょうか」

 つまり、俺がアレスト市のギルド上級職員として貰っていた額の二十倍というところか。

 それで高くないの?

 まあ恐れていたほどじゃないのでほっとしたけど。

「それとは別に、マコトさんはヤジマ商会の所有者(オーナー)ですので、資産は時価換算でこのくらいだと思います」

 心臓がマジで止まった。

 嘘だろう?

 日本円にして数百億円だと?

「もちろん、これはマコトさんがヤジマ商会の会長であるという条件における評価額です。

 純粋な資産価値で言うと、その十分の一というところでしょうか」

 それでも数十億だよ!

 あり得ん!

 でも、そんなの書類上の金だよね?

 現金は遙かに少ないのでは。

「マコトさんが所有している株には配当がつくわけですが、ヤジマ商会、アレスト興業舎、またヤジマ芸能その他を合わせると年にこのくらいですね。

 これは現金で振り込まれます」

 いいよ、判ったよ。

 これはイリュージョンだよね?

「ただし、ヤジマ商会の借入金がこれだけありますので。

 マコトさんが無限責任を負っているため、事実上はマコトさん個人の借金になります」

 もうやだ。

 帰りたい。

 日本で平サラリーマンやりたい……。

 マレさんにはお礼を言って帰って貰って、ついでにジェイルくんに頼んでその後の予定をキャンセルして、俺は自分の部屋に籠もった。

 ハスィーが心配してついてくれたので、俺はしがみついて泣き言をぶちまげてしまった。

「俺には無理だよ、そんな金。

 俺の本質はサラリーマンなんだよ。

 資本家でも経営者でもないんだ」

「マコトさんは立派な経営者ですよ。

 結果がそれを証明しています」

「いやそういうことじゃなくてね」

 ハスィーにも判って貰えないようだ。

 何でみんな俺のことをそんなに評価するんだ?

 俺なんか、何もしてないだろう。

 全部回りの人たちがやった成果だよ!

「マコトさんの悩みは正直よく判りませんが、こうやってわたくしを頼って下さったことは嬉しいです。

 だから言います。

 マコトさんは大丈夫です」

 ちょっと唖然としてしまった。

 これ、殺し文句じゃない?

 今ので完全に惚れたよ俺。

「ありがとう、ハスィー」

「いくらでも頼って下さい。

 わたくしはマコトさんの背中を支え続けます。

 そのために、わたくしがいるんですから」

 俺、泣いちゃったよ。

 もう日本に帰れないと思った時にも泣かなかったのになあ。

 それだけ心が凍りついていたのかもしれない。

 だから、今までやってこれたのかも。

 頭がぐるぐる回って、いつの間にか寝ていたらしい。

 目が覚めるとベッドに寝ていて、ちゃんと寝間着に着替えていた。

 ハスィーがやってくれたんだろうか?

 感謝しながら起きようとしたら、抵抗があった。

 天上の美貌を持つ娘が、俺の腕を抱え込んで隣に寝ていた。

 幸い服を着ていたので、記憶がないうちにヤッてしまったわけではないらしい。

 眠っているハスィーはあどけなくて、でも壮絶に美しいことには変わりはなかった。

 ラノベか。

 じゃなくて、本当にあるんだな、こういうの。

 でも不思議に襲うとか、そういう気にはなれなかったな。

 俺はハスィーの髪を撫でてから、もう一度横になって目を瞑った。

 次に起きると、もうハスィーはいなかった。

 良かった。

 元気になった時点であの体勢だったら、絶対に襲っていたぞ俺。

 しかも、ハスィーは喜んで受け入れてくれた気がする。

 恐れ多くて、のたうち回りそうだ。

 それにしても不思議なんだけど、どうして俺なんかがこんなにモテるんだろう。

 今まで考えないようにしていたけど、会う人みんながここまで俺に好意的って、どう考えても変だよね?

 今までに会った人で俺に敵対的だったのって、確かアレスト市ギルド警備隊のあの何とかいう隊長さんと、それからアレスト市の代官のトニさんだけだったような気がする。

 あ、あとギルドのプロジェクト次席の何とかいう人もいたか。

 名前を思い出せないけど。

 もうずいぶん昔のような気がするけど、あれから2年もたってないんだよな。

 でも他の人たちはみんな俺に好意的か、あるいはさらに好意的だったもんね。

 俺って日本ではむしろボッチで友達も少なかったし、間違ってもリア充とかじゃなかったのに。

 コミュ障気味ですらあったんだよ。

 よって、これまでの人生でモテたことはまったくなかった。

 美少女どころか、普通の人にも無視されるか淡々と対応されるだけだったんだよね。

 それがこっちに来たらいきなりだよ!

 ハスィーはもちろんだけど、それ以外の人もやたらに俺に優しい。

 ジェイルくんなんか、あれほどのリア充が俺に嬉々として従う理由はまったくないはずだ。

 やっぱチートのたぐいか?

 魅了(チャーム)の魔法がかかっているとか?

 それにしては熱烈に俺にアタックしてくるような人もいないし、訳がわからん。

 そう、好意的なだけで、美少女が抱いて抱いてと押し寄せてくるような深夜アニメ的な状況ではない。

 ラッキースケベもないしな。

 いやラノベじゃないんだから。

 ていうか、そんな能力ってありなのか?

 人に好かれるスキルとか?

 判らん。

 考えてもどうしようもないか。

 お金のことも、とりあえず忘れよう。

 もう年金どころじゃなくて、どうしようもないくらいの大借金だもんなあ。

 生活費を気にしなくてもよくなったらしいのは嬉しいけど、そんな大金が定期的に入ってくるとしたら、かえって危ないかもしれない。

 誘拐とか脅迫とか。

 ハマオルさんがいるから大丈夫と思うけど。

 それから数日後、朝練の後飯を食ってから書斎でぼーっとしていると、ヤジマ商会の使用人が来た。

 ちなみにハスィーは王太子を初めとして王都の有力者や関係がある貴族家回りで留守だ。

 ついて行こうかと言ったんだけど、かえって面倒になるからと断られてしまった。

 よって暇だ。

「失礼します。

 お客様がいらしております」

 そんな予定あったっけ?

「はい。

 近衛騎士ホス・ヨランド様のご予定が入っております」

 ああ、そういえば。

 アドナさんの祖父上か。

 急遽申し入れてきたんだよね。

 何の用だっけ?

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