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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?

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14.インターン?

 ジェイルくんは、返事を待たずにドアを開けた。

 どうでもいいけど、こっちでもノックってするんだな。まあ、閉まったドアごしに来訪を知らせる方法が他にあるとも思えないけど。

 ここは異世界とはいっても、やはり人間が住む社会であって、慣習的なものはほとんど同じなようだ。

 人の暮らしって、世界が違うくらいでは変わらないのかも。

 ジェイルくんに続いて部屋に入る。

 そこは、かなり豪華な内装の部屋だった。さしずめ応接室といったところか。

 凄いと思ったのは、ガラス窓があったことだ。こっちの世界でもガラスくらいはあるけど、日本みたいにそこら中に氾濫しているということはない。

 技術的に、まだ作るのが困難かつ高価なんだろう。俺が泊まっているマルトさんの寮の部屋には、窓はあってもガラスがはまってなかったし。

 だが、さすがギルドといったところか、こういった場所では出し惜しみをしていないようだ。

 部屋はそんなに広くはないが調度は豪華で、重厚なテーブルの周りに6脚ほどの椅子が並んでいた。

 奥の方の椅子にはマルトさんが座っていて、ひとつ前に知らない男がいる。

「掛けたまえ」

 マルトさんの許しを得てから、ジェイルくんが俺を促して対面に座る。いや、俺だってサラリーマンだから、上司や偉そうな人と会った時の礼儀は心得ているよ。

 許しが出るまで座っちゃ駄目とかね。

 失礼にならない程度に、マルトさんの隣に座っている男を観察する。

 あ、向こうもこっちをジロジロ見ているな。

 歳は、俺より少し上といったところか。こいつもイケメンだった。

 ジェイルくんの名前が判明したので、心の中でこいつをイケメン2号と命名する。

 髪は短く刈り上げていて、顔も細面だ。眉毛も細く、全体にシャープな印象がある。

 目は……いや、もういいや。

 いくらイケメンでも、男については関心がない。

 だが、特徴はあった。全身を覆うマントみたいなものをつけていて、体型がよく判らないのだ。顔だけ細身であとはマッチョとは考えにくいから、全体的にスタイルもいいのだろう。

 気にくわない。

 俺の思考を読んだのか、そいつは興味深そうに俺を見ていた。

「紹介しよう。ジェイルは知っているな? 隣にいるのが、ヤジママコトだ。ちなみにヤジマは家名だそうだ」

 マルトさんが、何も気にしていないような口調で言った。

「急に呼び出してすまなかったな。ヤジママコト、こちらはシル・コットだ。私の仕事上の知り合いで、君の就活について参考になるかと思って来て貰った」

 それはそれは。

「ヤジママコトです。マコト、と呼んで下さい」

「マコトか。シルと呼んでくれ」

 シル・コットと名乗った男は、手を差し出してきた。

 低くていい声だ。

 握手はこっちでも共通か。

 それにしても名前で呼べと?

 俺に合わせたのか?

 まあいい。シル・コットね。コットが家名だとすると、結構いい家柄ということになる。それもあるが、仕事に関係するんなら忘れるわけにはいかない。

 よし、覚えたぞ。

「シルは、冒険者チームの世話役というか、マネージャをやっている。ヤジママコトが冒険者に興味を持っていると聞いてな」

 ソラルちゃんか!

 マルトさん、違います!

 俺は冒険者になんか、まったく興味ないです。少なくとも就活対象としては、アウトオブ眼中です!

「はあ。ありがとうございます」

 ボソボソとお礼は言う。

 社畜だから。

「ですが、俺は……」

「ギルドのハスィー様から連絡があったのですが」

 ジェイルの奴が割り込んだ。

「ヤジママコトさんの就労許可は問題なく下りるそうです。ですが、業種がかなり限定されて、今のところ対象が屋外単純労働くらいしかないと」

 業種って指定されるの?

 まあそうかもしれない。

 日本でも、外国人が無制限に働ける訳じゃなかったはずだ。ハッサンたちは、あれでも高級技術者としてのビザで働いていたわけで、つまりそれなりの技術や資格がないと、つけない仕事があるわけか。

 というよりは、むしろ資格がない外国人が出来る仕事って限られているんじゃ?

「そうか」

 マルトさんは、短く言って俺を観た。

 わかってますよ。

 引きこもりは出来ないんでしょ?

 マルトさんは、後ろ盾にはなってくれても、仕事を保証してくれるわけではない。

 自分のところで働かせてくれないくらいだからな。その辺りは、結構厳しいんだろう。

 それに、今ジェイルの奴が言ったところによれば、どうも就業許可証には就ける仕事の指定があるようだ。

 つまり、ビザか。

 労働許可って、こっちにもあるのね。

「というわけで、とりあえずシルの話を聞いてみてはどうかね」

「はい。お願いします」

 よりによって、一番就きたくない仕事について紹介されるとは。ていうか、これって紹介なのか?

 シルさんにしても、得体の知れない外国人なんか、雇いたいとは思えないんだが。

「それでは、と。私は仕事があるので失礼する。ジェイル、後は頼む」

「判りました」

 マルトさんは、そう言って出て行ってしまった。後ろ盾が消えてしまった気分で、俺はため息をつく。

 しょうがない。

「改めて、ヤジママコトです。マコトと呼んで下さい」

「よろしく、マコト。ところで、何か聞きたいことがあるのか? お互い初対面だし、とっかかりがないと話しにくいのだが」

 シルさんは、口調は乱暴だが、思っていたより軟らかい態度だった。なんか、マント被っているもんで、ちょっと不安だったんだよな。

 イケメンだし。

「ああ、簡単に言いますと、こちらに来たばかりで何も判らないんです。故郷ではまったく違う仕事に就いていたもので、こちらで働くのに何が出来るのかすら判らなくて」

 マルトさんから、ある程度は聞いているはずだから、この辺までは話してもいいだろう。

「うん。そういうことなら、私の仕事、というよりは業界について説明しようか」

 いい人だな、シルさん。

 イケメンだけど。

「お願いします」

「うむ、了解だ。さてと、さっきちょっと聞いたと思うが、私は冒険者チームのマネージングをやっている。マネージング、判るか?」

「はい。世話役ですね」

 この魔素翻訳、実に便利だ。

 マネージングなんていう単語に聞こえると言うことは、まさにマネージャなのだろう。

 まあ、俺の業界だとマネージャといえば管理職のことだけどな。

 つまり、人を配置したり指示したりする立場だ。

「冒険者については、ある程度は判っていると聞いたが?」

「はい。昨日、マルトさんのお嬢さんと一緒に未来竜というチームの方と話しました」

「ああ、未来竜ね。堅実でいいチームだ。安定しているが、あそこはなかなか新しいメンバーは採らない」

「そう言ってましたね。今でも創設時のメンバーだけとか」

「冒険者は、安定した仕事が第一だからな。未来竜はマルト商会という大口の取引先を抱えているから、敢えて業務拡張する必要性を感じていないのだろう」

 なんか、会社の取引先の中小企業で取締役の人と話している気分になってきたな。

 そう、会社ってのは基本的には現状維持が第一なのだ。もちろん、常に発展の余地を残しておく必要があるけど、まずは安定した収入を確保するのが重要だ、といつも言われていたな。

 ここ、本当に異世界?

 いや異世界だけど。

 冒険者のチームとか平気であるし。

「私の所は『栄冠の空』といって、この街では大手に入るチームだ。業務内容は、主に街の外のトラブル対応だな」

 ああ、つまり本来の意味での冒険者に近い仕事というわけですね。

 間違いなく、荒事だ。

 俺は嫌だ。

「『栄冠の空』さんは、新人の募集はしているのですか?」

 ジェイルの奴が余計な口を挟みやがった。

 そっちに話を持って行くな!

「随時募集中、だ。いくつかのプロジェクトを同時進行させているから、その都度必要な人材を入れている」

 だから、俺は関係ないって。

 ジェイルも、こっちを観るんじゃない!

 いや、判ってますよ。

 紹介なんでしょ。

 俺の就職先の。

 シルさんが、口調を変えて言った。

「ところで、マコトはインターンという制度を知っているか?」

 知ってます。ていうか、こっちでもインターンってあるのか。

 そういう制度が。

 俺にインターンと聞こえるってことは、つまり研修でしょう。

 安い賃金でコキ使われるバイトとしての。

「知ってます」

「そうか。実は、マルトさんからマコトの正式な就業先が決まるまでは、『栄冠の空』でインターンをやってもらったらどうかという提案があってね」

 やはり、そうなるのか(泣)。

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― 新着の感想 ―
本当に異世界かって感じ笑
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