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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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13.ヤジマ邸夕食会?

 アレスト伯爵邸を辞してヤジマ商会に戻った俺たちは、俺の書斎で夕食まで今後の方針を話し合った。

 俺とハスィー、ジェイルくんにヒューリアさんがメンバーだ。

 アレスト興業舎の幹部が王都に来た以上、今までみたいに俺の自由には出来ないだろう?

 だが、それについては俺以外の全員が反対した。

「ヤジマ商会はマコトさんの会舎ですから、遠慮することはないでしょう。

 それはラナエ舎長もわかっているはずです。

 でなければセルリユ興業舎などという会舎を立ち上げる必要はありませんから」

 そう言うジェイルくんに、ヒューリアさんも賛成票を投じる。

「ユマは司法省の所属ですし、シルレラはアレスト市に帰るのですから、事実上王都にいるのはラナエだけです。

 そしてラナエはサーカスや騎士団・警備隊関係の事業移転で手が離せません。

 マコトさんがこちらで立ち上げた事業は、ヤジマ商会が独自に行うべきです」

 いや、俺が立ち上げたんじゃないけど。

 という言い訳は、もう通用しないんだろうな。

 確かに今ヤジマ商会やその子会舎がやっている事業は、基本的にはアレスト興業舎とは関係がない。

 舎員も、アレスト興業舎から出向して貰っている人たちを除けば、ヤジマ商会(と子会舎)が独自に雇用した者だ。

 うーん。

 やっぱ駄目か。

 ラナエ嬢が来るんだったら丸投げして楽になろうかと思ったんだけど。

 そういうわけで俺の野望は否定されてしまい、みんなが来るのを待って夕食会が始まった。

 ヤジマ商会の従業員に連絡して貰ったので、いつものメンバーに加えて新しく仲間に加わった人たちも集合してくれた。

 場所は急遽しつらえたメインリビングルームだ。

 元はティールームか何かだったらしい広い部屋で、そこにソファーとテーブルを運び込んでイザカヤ形式に改造したそうだ。

 さすがジェイルくん。

「いえ、いずれこのような部屋が必要になるだろうと判っていましたから。

 アレスト市のハスィー様邸における夕食会は有名でしたからね。

 自分も参加するようになるとは思わなかったですが」

 そんなに有名だったのか、あれ。

 まあ、俺も感じていたけど、最終的にはアレスト市の経済的な方針ってあそこで決定されていたような気がするくらいだったからな。

 司法官とギルド執行委員と有力な経済団体の幹部が毎夜集まっていたのだ。

 噂になるに決まっている。

「マコトさんの存在も大きかったと思いますが」

 ユマ閣下が言った。

 それはないだろう。

 むしろユマ司法官閣下の存在感が凄かったのでは。

 何せ、アレスト市の三大権力者の一人だったもんな。

 夕食会の間、別室で護衛の騎士隊が待機していたりして。

 ちなみにハスィーが律儀に彼らも歓待していたもので、この任務はメチャクチャ志願者が多かったそうだ。

 傾国姫を身近で拝見できて、美味い飯も食えるんだから当たり前か。

 そういえば、何気にユマ閣下も夕食会に来ているな。

 もちろんノールさんも一緒だ。

 同席を勧めてみたが、断られた。

「私は遠慮させて頂きます。

 従者ごときが参加できるような場ではありませんので」

 ノールさんだって近衛騎士だから貴族なのになあ。

 ジェイルくんだっているのに。

 まあ、ノールさんなりの美学か何かがあるのだろう。

 アレスト市と同じく、ユマさんのお付きの方と一緒に別室で歓待させていただこう。

「ありがとうございます。

 若い者たちが喜びます」

 ノールさん、俺に対してその敬語は止めていただけませんか。

 背中がムズムズするので。

「ユマ閣下をよろしくお願いします」

 ノールさんは露骨に話を逸らせた。

 こないだから変だよね。

 まあ、そんなことはいい。

 俺としてはあの楽しい夕食会にまた参加できる、というよりは俺が開けることが嬉しい。

 あそこでは結局ハスィーがずっと費用を負担していたから、今度は俺が。

「あら、あの夕食会はみんなでお金を出し合っておりましたよ」

 ラナエ嬢が言った。

 仕事を早く片付けて来てくれたのか。

「そうなのですか?

 私は払った覚えがないのですが」

「マコトさんの分は、ギルド上級職員の給与から天引きしていたはずです。

 他の項目に紛れて気がつかなかったのではありません?」

 知らなかった。

 ていうか、俺の給料ってほとんど使い道がなくて、口座に積み上がっていくだけだったからなあ。

 支給額のチェックなんか、もちろんしてないし。

 そういえばアレスト興業舎での昼飯の費用も天引きしてもらっていたっけ。

 大した金額じゃなかったから、忘れてしまっていたな。

「この夕食会の費用も、参加者の収入から差っ引けばいいんじゃないか?」

 シルさんが豪快に言った。

 もうそんな金はどうでもいいと言わんばかりだ。

 いくら貰っているんだろう。

 舎長だからな。

 シルさんも早めにやって来て、フレアちゃんの部屋で話し込んでいた。

 フレアちゃんは全身で喜色を表していて、敬愛するお姉さんに会えてよっぽど嬉しいみたいだ。

 無言の圧力で、フレアちゃんの夕食会参加も決まった。

 まあ、言われなくても一緒に食べるつもりだったけどね。

 帝国の皇女殿下をハブるなど、できるはずがないだろう。

 同じ邸に住んでいるのに。

「そういえばジェイルくん」

「何でしょうか」

「これから毎晩一緒に飯を食うんだから、いっそ君もここに住み込めば?

 まだ部屋は余っているはずだし」

 ジェイルくんはうろたえて、回りのみんなを見たけど助けは来なかった。

「従者は住み込みが基本ですわよ」

「マコトの右腕、いや頭なんだから離れていてはいざという時に役に立たないぞ」

「わたくしからもお願いします」

 逆らえないよね。

「……判りました。

 近日中に越します」

 よし。

 これで面倒を丸投げできる存在がいつでもこの屋敷にいることになるわけだ。

 俺の精神的な負担が少しは軽減されるはずだ。

 いや、マジで疲れるんだよこの頃。

 ハスィーにフレアちゃん、ヒューリアさんまで一緒に住んでいるんだからね。

 間違いが起こる確率はゼロだけど、女性軍の勢力が圧倒的で、この際少しでも男率を上げておきたい。

 ハマオルさんやサリムさんは逃げてしまって役に立たないし。

 それ以外はみんな使用人で、俺に会うと頭を下げてじっとしているばかりなんだもんなあ。

 いい加減にして貰いたい。

 そういうわけで、ヤジマ邸での初めての夕食会は盛況だった。

 出席者は俺、ハスィー、ヒューリアさん、フレアちゃんの常駐メンバーに加えてシルさんとラナエ嬢のアレスト/セルリユ興業舎組、ジェイルくん、それにユマ司法管理官閣下だ。

 ちなみにユマさんの敬称は「閣下」でいいらしい。

 もの凄く偉くなったような気がするので、ちょっと心配だったんだけど。

 もっとも、「閣下」より偉いというともう「殿下」や「陛下」くらいしかない。

 「猊下」や「聖下」は宗教的な称号だし。

 閣下というのは君臨ではなくて支配する人の最高峰の称号だからね。

 実を言えばユマさんの場合、まだララネル公爵家の名代が解除されていないらしいので、本当は「殿下」なのだ。

 でもそれは公的な立場であるとも言えるので、夕食会では身分は忘れようということになった。

 だってそれを持ち出したらシルさんとフレアちゃんは露骨に「殿下」だし、そんなことを言い合っていたら和気藹々とした雰囲気にはならないだろう。

 幸いにしてシルさんもフレアちゃんも呼び方その他にはまったくこだわらないタイプなので、全員が「さん」付けということで収まった。

 それでもジェイルくんは居心地が悪そうだけど、慣れて貰うしかない。

 今まで俺が一人で味わってきた悩みを分けてあげよう。

「それでは、とりあえず集まれたことを祝って乾杯」

 俺の合図で、全員がグラスを合わせる。

 入っているのはお茶やジュースだけど。

 こっちの世界では魔素の関係で酔っ払いは禁物だから、アルコールは出ない。

 酔っ払ったら本音が出てしまって、それが魔素翻訳でダイレクトに伝わってしまうかもしれないからね。

 酒は一人で味わうものなのだ。

 少なくとも中流階級以上では。

「マコトなら酒を飲んでも同じだという気がするが」

「そうですわね。

 マコトさんはいつも本音で話していらっしゃいますし」

「だから信用がおけるのですわ」

 何かいきなり俺の品評会みたいになっているけど、勘弁して下さい。

「ところで、ユマはずっと王都なのか?」

「任期中はその予定です。

 私も司法省を離れて早く皆さんのお仲間に加わりたいのは山々なのですが」

「まあそう言うな。

 司法省にお前がいることで、マコトがずいぶんやりやすくなるはずだ。

 むしろそれを狙っていたんじゃないか?」

「さあ、どうでしょう」

 シルさんとユマさんが言葉の火花を散らし合っているけど、この程度ではじゃれ合いだな。

 普通の人だったらどの一撃でも轟沈しそうなパンチの応酬だけど、この方たちにとってはジャブにもなってないのだろう。

 公爵の名代と帝国皇女だし。

「ハスィーはどうしますの?」

 別の場所ではラナエ嬢が会話をリードしていた。

「まだ決まっていませんが、ヤジマ商会で何らかの立場をいただければと」

「ハスィー様には、ヤジマ商会の渉外担当役員をお願いしたいと考えています」

 さすがジェイルくん、貴顕に対しても堂々たるものだ。

 一時期、ジェイルくんはラナエ嬢の片腕的な立場にいたからね。

 もう慣れているのかも。

「お姉様、今夜は一緒に寝て頂けますか」

 フレアちゃんはシルさんにべったりで、ユマさんは苦笑してヒューリアさんと話し始めた。

 うーん、これだけの人数になると、全員で会話というわけにはいかないな。

 もうサークルの宴会状態だ。

 まあいいか。

 俺は、隣に座っているハスィーが勧めてくれた何かのシチューを受け取った。

 俺、今リア充してる?

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