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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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12.防衛力強化?

「よろしいのではないでしょうか」

 ジェイルくん、いいの?

 だって元アレスト伯爵閣下で、現貴族院議員だよ?

 そんなもの凄い人をヤジマ商会なんかで雇ってどうするの?

 ジェイルくんは苦笑した。

「それを言ったら、ヤジマ商会やその配下の企業には肩書きだけでも凄すぎる人がたくさんいますから」

 それはそうか。

 侯爵令嬢や現役の帝国皇女までいるよね。

「フルー様の人脈は貴重です。

 ヒューリアさんの伝手はどうしても若い世代に限られますからね。

 今後のヤジマ商会には、フルー・アレスト様のような方が必須と言えるかもしれません」

 俺たち、つまり俺とジェイルくんは例によってアレスト邸のトイレに避難してきていた。

 ハスィーは男子トイレには入れないのでリビングに残っている。

 何を相談しているのかというと、唐突すぎるフルーさんの雇用希望宣言だ。

 でも、貴族院議員なんだよ?

 しかも辞めてうちに来るという。

 日本で言うと、創業して1年程度のベンチャー企業に30年くらい国会議員をやっていた人が入社するようなもんじゃないか。

 とてもうまくいくとは思えないんだけど。

「ヤジマ商会が今まで大した抵抗を受けないで業績を伸ばし続けて来られたのは、マコトさんもご存じの通り、既得権益層の縄張りに踏み込まなかったからです」

 ジェイルくんが説明を始めた。

 いや、俺はご存じじゃないけど。

「今まで誰もやっていなかった分野に新しく産業と雇用を生み出してきたため、既存の業者の利益を奪うことがなかったわけです。

 ヤジマ芸能は例外ですが、あれもこれまでにない芸能形態を創造したわけで、ただそれによって既存の芸能が凋落したことで反発があったのですが」

「それで攻撃されたわけか」

「はい。

 でも、産業構造を変えるほどのことではありませんでした。

 今までの演劇や芸能もそのまま残ってますからね。

 だからあの程度で済んだとも言えます。

 ですが、これからは違います」

 違うのか。

「今後ヤジマ商会が発展していくと、どうしても既得権益層とぶつかることになるでしょう。

 今までみたいに好き勝手やるのではなく、利害の調整が必要になります。

 そのためには、フルー様のような経験とコネが豊富な方にサポートして頂くのが一番です」

 好き勝手か(笑)。

 確かにそうだな。

 うん。

 よく判らないけど、フルーさんのような人材がいないと難しくなるということは判った。

 でも、フルーさんでいいの?

 親戚をコネ入社させたようにしか見えないんじゃ。

「だからいいんですよ。

 これが何の関係もない貴族階級の人だったら、今後我も我もと売り込んでくる人に押し込まれる恐れがあります。

 あの貴族の係累を雇ったのに、なぜ私を雇ってくれないのかという理屈ですね。

 フルー様は、会長の妻の祖父というコネで、どうしても断れなくて、という形で採用したと言えば、そんなコネがない人を断れますから」

 そうなのか。

 でも、ヤジマ商会なんかに入りたい人って、そんなにいるのかなあ。

「マコトさんにはお知らせしてませんでしたが、ヤジマ商会やアレスト興業舎には入舎希望者が殺到しています。

 何せ、現在ソラージュで一番発展している会舎ですからね。

 将来性も十分で、今入舎すればほっといても将来は安泰と考える人も多いでしょう。

 貴族や大商人が、自分の係累や息のかかった者を押し込もうとしてきて、断るのが大変なんですよ」

 知らなかった。

 苦労をかけてスマン。

「マコトさんに直接言ってこなかったのは、前例が無いので誰もそんなことをあえてやる勇気がなかったからでしょう。

 マコトさんには色々とバックがついてますし、特に王太子に無断でそういうことをしたら、どんな反応があるのか不明ですから」

 そうなのか。

 俺、そういう政治的なことは全然判らないけど、ラミット勲章の効果って意外に有効なんだな。

「まあそれはいいとして、フルーさんの採用をお勧めします。

 決断するのはマコトさんですが」

 そんなこと言って。

 判りました。

 お迎えさせて頂きます。

 俺とジェイルくんが用を済ませてリビングに戻ると、歓談していたアレスト家の人たちが一斉に俺たちを見た。

 しょうがないなあ。

「フルーさん、先ほどの件、歓迎いたします」

「おお、それは嬉しい。

 老骨ですが、ヤジマ商会の発展のために尽くしますぞ」

 いかにも好々爺的に返してくるフルーさん。

 この海千山千の政治家を雇わなきゃならんのか。

 経営って厳しいなあ。

「ハスィーもいいね?」

 同じ会舎に祖父がいるというのはどうなのか。

 しかも、現時点では上司というよりは同僚か部下になる可能性が高い。

「説得されてしまいました……」

 憂い顔もメチャクチャに綺麗だけど、それ以上に可愛くて萌えるな。

 俺、本当にこの美しいエルフの旦那になるのか。

 未だに間違いじゃないのかという感覚が強いぞ。

「マコト殿が『ハスィー』と呼び捨てにしたぞ」

「それは夫なのだから当然でしょう」

「この間は『さん』がついていたから心配していたのだが、大丈夫のようだな」

 外野が五月蠅いなあ。

 ハスィーも真っ赤になっているし。

 アレスト家の人たちって、意外というか当然というか、ミーハーだもんね。

 領地の統治をやらなくてもいいと、貴族ってそっちの方向に向かうのか。

「考えていたのですが」

 突然、フロイさんが立ち上がって宣言した。

 ハスィーの兄上で、次のアレスト伯爵閣下になる人だ。

 現アレスト伯爵閣下であるフラルさんをそのまま若くしたようなイケメンで、俺より若く見えるんだけど、エルフだからね。

 もう妻と息子もいるんだよな。

 その父親であるフラルさんも30くらいにしか見えないんだから、感覚が狂うぜ。

「伯爵位を継いだら、私たちはアレスト市に移ろうと思います。

 自分が統治することはないにしても、我が伯爵家のルーツですから。

 私もアレスト市で育ちましたしね。

 フレロンドにも、故郷を作ってやりたいのです」

 フレロンドくんはフロイさんの息子で、まだ一歳くらいだったっけ。

 そういえばハスィーもアレスト市で育ったとか言っていたな。

 そのおかげでアレスト市のギルドなどにも知り合いが大勢いて、仕事もやりやすかったのだろう。

 確かに幼い頃からその土地に馴染んでおくことは、領地貴族にとっては重要なことなのかもしれない。

 でも、ララネル公爵殿下に聞いたアレスト伯爵の使命、フロイさんは知っているんだろうか。

 知らないはずはないか。

 当事者だもんね。

「そうだな。

 私もそう思って、お前たちをアレスト市で育てた」

 フラルさんが言った。

「だが、時期が悪くないか?

 帝国の動きが怪しくなっている今、お前はともかくフレロンドまで最前線(フロント)に連れて行くといのは」

 ああ、やはり判っていた。

 その覚悟がないと、アレスト伯爵は継げないんだろうな。

 その言葉に対して、フロイさんは決然として応えた。

「判っています。

 フレロンドもいずれはアレスト伯爵を継ぐ身です。

 ここで逃げることは、決してフレロンドの将来のためにはならないでしょう」

 きついなあ。

 貴族って、そういう覚悟が常に必要なんだろうな。

 特に世襲貴族は血の宿命から逃れられない。

 でも、負担を軽減することは出来るかもしれないよね?

「アレスト興業舎が守りますから、大丈夫です」

 気がついたら、俺が割り込んでいた。

 またかよ!

 最近出てこなくなっていたから消えたのかと思っていたけど、要所要所で無責任に俺の身体を乗っ取って厨二的な発言をするもう一人の俺は健在だったらしい。

 責任とらされるのは俺なのに!

「アレスト興業舎が?」

「詳しくは話せませんが、アレスト興業舎では軍事的な意味ではない防衛力を強化しています。

 アレスト興業舎舎長のシルレラ皇女殿下が先頭に立って動いておりますから、少なくとも万一の場合はご子息を避難させることが出来る程度の早期警報が可能です」

 俺も口からでまかせを!

 どう責任取るんだ?

 ジェイルくんが俺を不思議そうな表情で見ているけど、これは俺じゃないんだよ!

 俺だけど。

「ありがとうございます」

 フロイさんが嬉しそうに言って一礼する。

「さすがはマコト殿ですね。

 頼りになる義弟が出来て、嬉しく思います。

 これからもよろしくお願いします」

 美形の義兄がそう言って握手を求めてきた。

 もう仕方がない。

 シルさんに強要してでも、アレスト市の守りを固めて貰うしかない!

「マコトさん、なぜ知っているんですか?」

 ジェイルくんが小声で聞いてきた。

「シルレラ様は確かにアレスト市を中心とする対帝国の警戒網を構築中だとおっしゃっておられましたが、マコトさんは知らないはずですよね?」

 そうなの?

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