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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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8.誓約?

 俺はそろそろと足を動かして、何とかドアを押して閉めることに成功した。

 これでヤジママコト近衛騎士の艶聞拡散をとりあえずは阻止できたと思いたい。

 誰にも観られてないといいんだけど。

 これからどうすれば?

 ラノベだと、こういうシーンはカットされたりスルーされるんだけどな。

 場面が切り替わってリビングで寛いでいたりして。

 あるいは風呂上がりとか。

 まだ昼前だぞ!

「ハスィー。

 昼飯を一緒に食べよう」

 やっと声が出たと思ったら、この上もなく散文的な台詞だった。

 しかし、この場合は最適だったかもしれない。

 ハスィーさん、いやハスィーはこっくり頷くと、やっと俺の背中を締め付けるのを止めてくれた。

 助かった。

 エルフって、力が強いのね。

「あの……マコトさん」

 ハスィーが何か言っている。

「嬉しいんですけれど……少し苦しいというか」

 忘れてた!

 俺も、ハスィーの背中を両腕で締め付けていた!

 手を離して両腕を自分の背中に回す。

「ご、ごめん!」

「いえ。

 わたくしの方こそ取り乱してしまって」

 両手で頬を押さえるハスィー。

 壮絶に可愛い。

 いかん!

 マジで押し倒しそうだ。

 書斎の床が二人の初めての場所ってのは、いくら何でもヤバいだろう!

「とりあえず座ろう」

「はい」

 意識してハスィーの方を見ないようにしながら、ソファーに向かい合って腰掛ける。

 何とか落ち着いたか。

 お互いに。

 酷い罠だった。

 シルさん、恨むぞ!

 突然、ハスィーが言った。

「ごめんなさい。

 ラナエがここで待つようにと言うものですから。

 待っている間にだんだん不安になってきてしまって」

 ラナエ嬢の方だったか。

 つくづくトリックスターというか、人を嵌めるのが好きな人だな。

 まあいいけど。

 ハスィーを本気で抱きしめることができたし。

 役得というレベルのご褒美じゃなかったからね。

 でも、ラノベとかで出てくる「いい臭いがした」とか「柔らかくて感動」とか「胸の感触が」とかいうのは嘘だね。

 何も感じなかったぞ。

 いや、頭の中がグチャグチャで、それどころじゃなかったからだけど。

 ていうか、お互いに恥ずかしくて身動きがとれないんですけど、どうしよう?

 そうだ飯だ。

 俺はぎこちなく立ち上がると、ドアを開けた。

 案の定、すぐ近くに誰だったか名前は忘れたけど男の使用人の人が待機していた。

 見られたな。

 しょうがない。

「食事を二人分、頼む」

「承知しました」

 有能らしく、無表情で頷いてくれた。

 ヤジマ商会の使用人は、ジェイルくんが厳選した切れ者ばかりだと聞いている。

 そういう人を雇えるくらい、余裕があるらしい。

 金があるっていいよね。

 ぎくしゃくとソファーに戻ると、ハスィーがまったく同じ姿勢で俺を見つめていた。

 顔が赤い。

 まいったなあ。

 何とかしたいけど、飯が来るまではどうしようもない。

 ドアがノックされた。

「お待たせしました」

 早いなおい!

 ワゴンを押した使用人の人が入ってきて、ソファーのテーブルに食器をセットしてくれた。

 確かリリアさんと言ったか、メイドさんだ。

 女性の名前はほぼ自動的に覚えるんだよね、俺。

 結構美人で、さらに有能この上もない人だけど、やっぱりハスィーを見た途端に一瞬硬直した。

 ハスィーの容姿って、インパクトがありすぎるからなあ。

 男でも女でも同じで、許容量を超えた美貌を初めて見ると、どうしてもそうなる。

 しかしリリアさんはさすがで、その後は淡々と作業を続け、最後に一礼して出て行った。

 沈黙。

 困る。

 しょうがない。

 俺はハスィーを見つめて言った。

「食べようか」

「はい」

 食事にかかったけど、マジで味がしない。

 こんなことは初めてだ。

 つまり、少なくとも俺は心と身体が常態に戻ってないということだな。

 よし。

 今のうちか。

 俺は食器を置いた。

「ハスィー」

「はい?」

「食事中ですまないけど、言っておく」

「……はい」

「結婚してくれ」

 ゴクッ、とハスィーが口の中のものを飲み込む音がはっきりと聞こえた。

 吹き出さなかったのは、さすがというべきか。

 ゴホゴホゴホッと咳き込むハスィーを、すばやくテーブルを回り込んで抱きかかえ、背中をさする。

「ごめん!

 いきなり過ぎた!」

「……いえ……わたくしこそ醜態を……」

「水を」

 美貌を歪めて水を飲み干したハスィーは、大きく息をつくと俺に飛びついてきた。

「嬉しいです!

 申し込んでいただけないのかと!」

「いや、俺たちもう婚約しているのでは」

「……あれは、わたくしがマコトさんを罠に嵌めたようなものですから。

 婚約破棄されても、仕方がないと思っていました」

 ハスィーが俺の腕の中でしゅんとなった。

 この状況、ラノベに近くなってきたような気がする。

「嵌めたって?」

「マコトさんにはっきりと聞かないで、既成事実みたいに話を進めてしまいました。

 ギルドの負債は、わたくし自身のものですのに。

 それを押しつけるような形になってしまって」

「いや、それで俺が助かったんだし。

 そもそも、俺をここまでに引き上げてくれたのはハスィーだから」

「……それだけですか?」

 睨んでくる。

 ハスィーも普通の女の子だったか。

 こっちに来てからスーパーウーマンばかり見てきたもので、この美貌のエルフも何か超絶的な存在みたいに思っていたけど、そうでもなかったみたいだな。

 良かった。

 いや、もちろん桁外れの人材であることは間違いないんだけどね。

 普通の女の子は、いくら伯爵家の令嬢だったとしたって、十代でギルドの執行委員にまで上り詰めることなんかできるはずがない。

 増して、自分の身をカタにしてギルドから大金を引き出し、アレスト興業舎を作ってしまうなんてことは。

「ハスィーのことは、好きだし尊敬している。

 俺の後ろ盾で味方だ」

「それだけ?」

 言わせる気か。

「愛してる」

 あーーーっ!

 何だよこの少女漫画展開!

 でもラノベじゃないよね?

 ラノベの主人公は、こんなこと間違っても言わないぞ。

 もし言うとしたら、魔王との決戦直前とか、ヒロインが瀕死の重傷でもうアカンという状態の時だけだろう。

 ある意味死亡フラグ?

「わたくしも、マコトさんを愛しています」

 ハスィーがきっぱりと言った。

 いや、何か違うような。

 ラノベやアニメだと、潤んだ瞳とか甘い吐息とかの形容詞がついてくるシーンだろう。

 今のハスィーって、むしろ何かの決戦の前みたいな壮絶な覚悟が瞳の中に見えるんだけど。

「わたくしにこんなことを言える資格があるのかどうか判りませんが、それでも機会を頂けたことを感謝します。

 ハスィー・アレストは、全身全霊を持ってヤジママコトさんにお仕えいたします。

 どうか、おそばに置いて下さい」

 やっぱ何か違うよ。

「……それ、誓いの言葉なの?」

「はい。

 (あるじ)と決めた方に対する、誓約です」

 それは結婚とか愛とかじゃないよね?

「ハスィー、聞いてもいいか」

「どうぞ」

「俺の世界だと、結婚ってのは他人だった男女が一緒になり、協力して頑張っていこうということなんだけど、こっちでは違うの?」

「同じですよ?」

「いや、でも(あるじ)とか、仕えるとかはちょっと違和感がある気がするんだけど」

 ハスィーは俺の腕の中で微笑んだ。

「今のは結婚の誓いではないです。

 わたくし個人の誓いです。

 これからは、マコトさんのために生きるということです」

 ちょっと待った!

 それがどうして結婚と一緒に出てくるの?

 重いんですけど!

「簡単です。

 それがわたくしの望みだからです。

 結婚していただけるのはこの上もない喜びですが、それがなくても今の誓いを聞いていただけたら、それだけでいいと思っていました。

 婚約を解消されたら、何とかしてこの誓いだけでも受けて頂けたらと考えていたのですが、良かったです」

 よく判らん。

 何か、こっちの結婚ってあまり大したことがないような気がしてきた。

 それより重要な事が色々ありそうだ。

 でも、これってつまり、この美しいエルフが俺のものになるってことでいいんだよね?

 違う?

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