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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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7.熱烈?

「今日は挨拶がてら報告に来たんだ」

 シルさんが言って、お茶を飲んだ。

 相変わらず豪快だな。

「報告ですか」

「おう。

 アレスト興業舎がヤジマ商会の子会社になったことと、セルリユ興業舎の設立についてだな」

 セルリユ興業舎?

「王都セルリユを地盤とするヤジマ商会配下の会舎です。

 アレスト興業舎の王都版ですわね」

「それを作ったわけですか」

 俺、知らないよそんなの。

「まだギルドに登記しただけで、実体はございません。

 アレスト興業舎の王都支店を基盤にして立ち上げる予定です。

 人員の大半は、アレスト興業舎から異動することになりますわ」

 ラナエ嬢、こともなげに言うけど、それって民族大移動なのでは。

「まあ、アレスト興業舎の新体制を整える必要もあるし、しばらくかかるだろう。

 ちなみに、私は状況を確認したら早々にアレスト市に帰る。

 私の活動は向こうが本筋だ」

 シルさん、それって野生動物関係ですよね。

「そうだ。

 野生動物の群れはソラージュの辺境にしかいないからな。

 アレスト市だけじゃない。

 今後はソラージュの主要地方都市にも拠点を構えて、野生動物との協定の締結と協力を拡大していくことになる」

 凄いことになってらしいな。

 俺には関係ないけど。

「そんなことはないぞ。

 ヤジママコト近衛騎士は、フクロオオカミの名誉長老格に位置づけされているから、何か重要な時には駆り出されることになっている」

 私はマラライク氏族の長老格だがな、とシルさんが自慢そうに言ったけど、そんなの知らないって。

「フクロオオカミだけじゃないです」

 シイルが口を挟んだ。

「マコトさんがいなくなってから、色々な野生動物がアレスト興業舎に来て、サーカスや郵便部、警備部の活動に参加するようになっています。

 フクロオオカミたちがマコトさんの事をよく話すので、他の野生動物もみんなマコトさんのことを知ってます」

 何てことを!

 そんなの、シルさんだけで十分じゃないか!

 あるいはロッドさんとか!

「そうは言ってもフクロオオカミに乗って山脈を駆け抜け、帝国の難民を救助したのはマコトということになっているしな。

 あれはフクロオオカミだけじゃなくて、もはや野生動物たち全部の伝説だ。

 『難民を救え! フクロオオカミ山岳救助隊2』の絵本もベストセラーだしな。

 『傾国姫物語』と同じくらい売れている」

 やーめーてー!

 ラナエ嬢、ハスィーさんだけじゃなくて、俺まで売ったのか!

 ラナエ嬢を睨むと、あさっての方を向いている。

「そういったことは別途お話するとして」

 ラナエ嬢が平然と話を変えた。

「近況の報告をさせて頂きます。

 ジェイルさんやマレさんなどからお聞きになっていると思いますが、アレスト興業舎はギルドの負債を解消してヤジマ商会の傘下に入りました。

 それに伴って、既にいくつか人事異動を行っております。

 ジェイルさん、もうお話されました?」

「私のヤジマ商会大番頭就任と、マレさんのアレスト興業舎王都支店長就任くらいですね」

「そうですか。

 実は、その後の役員会でわたくしのセルリユ興業舎舎長就任と、シルレラ皇女殿下のアレスト興業舎舎長就任が決まっております」

 そうなんですか。

 俺には関係なさそうですけど。

「これからも人事がかなり動くぞ。

 例えばこのシイルは先行してセルリユ興業舎に異動だ。

 セルリユサーカス団の立ち上げスタッフになる」

 シイルもこっちに来るのか。

 もういるけど。

「セルリユ興業舎のサーカス事業部に配属になる予定のシイルです」

 シイルがはにかみながら律儀に言った。

 おいおい。

 何か色っぽいんだけど。

 しばらく会わないうちに、いきなり成長したのか?

 そういえば背も高くなっているし、体つきも……。

 いかんいかん。

 雑念を払ってからシイルを見ると、真っ赤になって絶句していた。

 しまった。

 こっちの人たち、みんな心を読むんだった。

「……それ以外にも、異動が多数ございます」

 ラナエ嬢が受けて、シルさんが何事もなかったかのように続ける。

「最終的にはソラージュ王都の拠点がやはり我々の本拠になるわけだから、野生動物との協定に関すること以外の主力事業はこっちに移す予定だ。

 つまり、主要なスタッフは時期は色々だがいずれはセルリユ興業舎に移ることになる。

 現在、アレスト市に残る連中を大わらわで訓練しているところでな」

 大変ですね。

 残念ながら、俺は協力できませんが。

 やる能力もないし。

「おいおい、マコトらしくないな。

 というよりはマコトらしいか。

 安心しろ。

 マコトには期待していない」

「そうでしょうね」

「誤解するなよ。

 マコトもこっちで立ち上げた事業で手一杯だろう。

 というより、よくもまあこの短期間にここまでにしたもんだ。

 それだけじゃない。

 王都の主要な貴族や王太子とまで友誼を結んで、資金を集め放題というじゃないか。

 正直、呆れてものも言えんよ」

「本当ですわ。

 わたくしの予想より数段上を行っておられます。

 それにしても、どうやってミラスに取り入ったのですか?」

 あいかわらず誤解されまくりだなあ。

 それにしても人のことを何だと思っているのか。

「取り入ったわけではないですよ。

 あれはそもそも誤解だったと聞きました。

 ミラス殿下も状況をうまく利用していたことは、ラナエさんもご存じでしょう?」

 ラナエ嬢が視線を逸らせた。

 あっ、やっぱご存じか!

 「傾国姫物語」とか平気で作っておいて、そっちこそよく言うよ。

「……とりあえずはそういうことになります。

 当面はヤジマ商会とセルリユ興業舎は別途事業展開を行うことになると思いますが、落ち着いたら人事交流させて頂きたいと考えております」

 ああ、そうか。

 ラナエ嬢やシルさんにとっては、ヤジマ商会って別の会社なんだよね。

 やっている事業も違うし、お互いに発展途中でよそ見をしている余裕がないと。

 別にいいけどね。

 こっちはジェイルくんがいれば何が来ようが平気だ。

 アレスト興業舎の資本はヤジマ商会が握っているから、どうとでもなるし。

 いや、多分そのうち人事交流とやらで乗っ取られるだろうけど、別に構わない。

 というよりは早く引き継いで欲しい。

 面倒なんだよ!

 俺は週休2日制の9時17時で働きたいだけなのだ。

 誰か雇ってくれ。

 もうこの際、正社員でなくてもいい。

 無理だろうけど(泣)。

「今回はこのくらいでいいだろう。

 我々も王都に着いたばかりで、ゴタゴタしているからからな。

 とりあえず、本日はオーナー様への表敬訪問ということにしておいてくれ。

 以上だ」

 シルさんがそう言って立ち上がった。

 ラナエ嬢とシイルも続く。

 もう帰っちゃうんですか。

「昼食を一緒にどうですか?」

「誘いは嬉しいが、マコトには先にやることがあるだろう。

 お前の書斎に行け。

 我々は先に飯を食っている。

 ジェイル、一緒に来い」

「はい」

 シルさんたちとジェイルくんが話しながら出て行き、俺は応接室に取り残されてしまった。

 何なの?

 俺の書斎に何かあるのだろうか。

 仕方なく自分の部屋に向かう。

 それにしても、今日は忙しい日だ。

 ユマさんだけじゃなくて、シルさんやラナエ嬢、シイルにまで会ってしまった。

 みんな王都に来てたんだなあ。

 それだけじゃなくて、シルさん以外はこっちに居着きそうだし。

 考えながら、何気なく書斎のドアを開ける。

 光に目がくらんだ、気がした。

 いや違う。

 壮絶に美しいものが立っていた。

「ハスィーさん?」

「……マコトさん!」

 いや、凄いね。

 しばらく見てなかったから、その破壊力を忘れていたよ。

 アレスト伯爵家も美形ぞろいで凄かったけど、ハスィーさんはそれと比べても格が違う気がする。

 美人とかそういうレベルじゃなくて、マジで圧倒的な芸術作品のようにしか思えないのだ。

 観ているだけで涙が出てくるレベルというか。

 でも、そんなことを思うのは失礼かもしれない。

 ハスィーさんだって人間、いやエルフだし、感情があるのだから。

 無理矢理に舌を動かして、お久しぶり、と言おうとした瞬間、ハスィーさんが俺の胸に飛び込んできた。

 視界が金色の髪で塞がれる。

 俺、棒立ち。

 うおおっ!

 どうすれば?

「……会いたかったです!」

 ハスィーさんもテンパっているみたいだ。

 俺の背中に両手を回して、ぐいぐい締め付けてくる。

 いや気持ちいいとかはないよ?

 パニクッていて、そんなことはまったく感じられない。

 でも手が勝手に動いて、ハスィーさんの背中を抱きしめていた。

 いかん。

 せめてドアを閉めないと。

「ハスィーさん」

「呼び捨てにしてください!」

 それかよ。

 しょうがない。

「ハスィー、ちょっとドアを閉めたいんだが」

 返事がない。

 それどころか、俺の背中に回ったハスィーの両腕の力がますます強くなっていく気がする。

 どうしよう?

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