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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

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5.妨害工作?

 舞台では、あるチームが一曲演っては引っ込んで次が出てくる、というパターンが繰り返されていた。

 よく疲れないな。

 若いって素晴らしい。

 でも観客の方が疲労したのか、歓声が収まってきたところでお開きとなり、司会者が出てきて閉演を告げると、観客はゾロゾロと退館していく。

 この辺りはスムーズで、客も慣れているらしい。

「公演ごとに入れ替えしています。

 午前の部はこれで終わりですね」

 午後の部では別のチケットが必要というわけか。

 がっぽり稼いでいるなあ。

「そうでもありません。

 人件費が思ったよりかかるので、公演だけでは収支とんとんです。

 グッズの売り上げでもっているようなものです」

 それは地球の方法論に近いな。

 まあ、これだけの設備を維持して、しかも回すには結構金がかかるだろうし。

 それでもあれだけの観客がいて収支がぎりぎりということは、入場料はかなり抑えてあるとみた。

 セレス芸能が赤字化したり、他の劇場の入場料が高くなっているのもそのせいなんだろうな。

 薄利多売じゃないと大衆芸能は広まらないし、それだけでは芸能を維持できない。

 勢い、芸能は高収入の人にしか観られないものになってしまって、底辺が広がらないから少ないパイをみんなで奪い合うような状況になる。

 一部の人気俳優にばかり金が集まって、それ以外は駄目だとか。

 大変だなあ(他人事(ひとごと))。

 でも、それってアーティストの宿命なのかもね。

 地球というか日本でも構造的には似たようなものだし。

 ただ、日本の場合は売れなくてもバイトでもやれば食っていくことは出来るんだけど、こっちでは売れなければ露骨に生活の危機なんだよね。

 普通の人は、ただ生きていくだけで精一杯なのだ。

 アーティストみたいな、ある意味博打というか趣味みたいなことをやる場合、下手すると文字通り命を賭ける必要がある。

 そんな状態では、いいものは出来ないと思うんだよな。

 いや歴史に残る大傑作とか、天才が苦しみ抜いた末に生み出す芸術ならともかく、みんなが楽しめる芸能だからね。

 そこまでやる必要はないと思うのだ。

 そう思って生活費の保証をしたんだけど。

「みんな、そのことは判ってますよ。

 マコトさんというか、ヤジマ芸能に感謝しています。

 実際、売れ始めたアーティストにはよそから高給をちらつかせての引き抜きの話が来るんですが、ほとんどが断ってます。

 たまに応じる者もいますが、それで売れ続けるかというと、駄目ですね」

「駄目って、売れないってこと?」

「はい。

 本人の実力もそうですけれど、バックアップ体制が全然違うらしいです。

 ヤジマ芸能は専任のマネージャがいてサポートしてくれますし、基本的に本人の希望を最大限入れてマネージングします。

 ウケなかったらマネージャを交えて検討して改善もします。

 他の芸能プロは、それがないということで」

 芸能プロって言ったよ!

 ていうか、俺の脳が魔素翻訳でそう聞いたんだけど。

 そうか。

 つまり、ヤジマ芸能も芸能プロダクション化しているわけね。

 まあ、プロデューサーだのマネージングだの言い始めた段階で、そうなることはわかりきっていたけどなあ。

「そのため、芸能組合が露骨な妨害工作に出てきたということですな」

 ノールさんが言った。

「妨害ですか」

「はい。

 今回の騎士団の臨検もその一環です。

 ユマ様の命令で私が調査したところによれば、最初はヤジマ芸能のアーティストたちの芸能活動を妨害しようとしたようです。

 あぶれ者などを使って、広場などで演奏中にヤジを飛ばしたり、難癖をつけて喧嘩に持ち込もうとしたりですな」

 そんなことになっていたのか。

 知らなかった。

「騒ぎが大きくなった段階で警備隊に介入させて、ヤジマ芸能の評判に傷をつけたり、活動停止に追い込むつもりだったと思われます」

「マコト殿の命令で、それは私の方で排除いたしました」

 ハマオルさんが口を挟んだ。

 いや、俺知らないけど?

「『小学校』の初期課程を終えても、それ以上には進みたがらない者たちを勧誘して、警備関連の技能を仕込みました。

 最初は暇を見てやっていたのですが、ジェイル殿が正式な教育課程として立ち上げて下さり、現在ではヤジマ警備の初期教練になっております」

 それも知らないぞ?

 ていうか、ヤジマ警備って何?

「マコト殿の命令ですよ?

 ヤジマ商会に警備課を作り、私どもが教官となって、警備要員を育てるようにと」

 あれか!

 でも俺、あの時はヤジマ商会の屋敷の警備がハマオルさんだけでは大変だから、その部下を育てればいいと思って言っただけのような。

「ヤジマ商会の警備を専門に行う組織として、ヤジマ警備を立ち上げたわけです。

 今のところ舎長はジェイル殿が兼任しておりますが、そのうちに私の仲間に任せるとの言葉を頂いております」

 ジェイルくん。

 俺の知らないところで大活躍だね。

 別にいいけど。

「そのヤジマ警備、ですか。

 その舎員がアーティストたちを守ってくれていたわけですか」

「はい。

 人数を揃えたところで、実習のつもりで行ったところ、これがアーティストの皆さんに大好評で。

 現在では、野外で活動するアーティストには全員警護をつけております」

 それはそうだよね。

 自分たちを守ってくれる人なんだから、感謝しないわけがない。

「騒ぎが始まる前に収束してしまえば、警備隊が介入する口実がなくなりますからな。

 無理に介入すれば、それは警備隊の指揮官の問題になります。

 芸能組合の息のかかった連中もいたようですが、早々に手を引いたようです。

 自分の職を賭けてまでやることではないですから」

 裏でそんな攻防が起きていたとは。

「ということで、アーティストの活動の妨害がうまくいかないと見るや、今度はギルドの営業許可の取り消しを試みたようですな」

 ノールさんが続けた。

 まだあるのか。

「しかしそれは、マコト殿が王太子殿下を通じて既に手を打っておられたことで頓挫しました。

 もっとも芸能活動の許可を取り消すような前例が出来てしまうと、芸能組合の活動にも支障を(きた)しかねないので、すぐに諦めたようです」

 それは良かった。

 あれはジェイルくんの指示なんだけどね。

 マジでラナエ嬢二世だなジェイルくん。

 そろそろ二つ名が必要か。

 ということでギルド方面も挫折して、次は騎士団?

「地区担当司法官への告訴がありました。

 これも、なかなか苦労しておるようです。

 ヤジマ芸能には今のところ明確な法律違反が存在しませんのでね」

 それで、風紀紊乱とかを言い立てて騎士団の臨検に持ち込んだわけか。

 とりあえず営業停止にして、それを喧伝するつもりなのかもな。

「まったく馬鹿にしております。

 司法制度は、そのような恣意的な利用が出来るものではありません。

 組織体制そのものが、外部からの影響を排除するように組み立てられていることを、知らないとしか思えませんな」

「でも、臨検はされていますけど」

「司法官は、訴えがあれば調査する義務があります。

 たとえ戯れ言だと判っていてもです。

 地区の司法官の命令で、騎士団が調査を行います。

 騎士団は司法官の命令で動きますので、制度上は第三者が直接騎士団を動かすことは出来ないわけです」

 あの偉そうな騎士の人が担当者か。

 騎士長とか言っていたな。

「そういえば、ノールさんはあの騎士長とお知り合いなんですか?」

「トーラスは私が中央騎士団にいた頃の同僚です。

 杓子定規ですが、なかなか優秀な男で、騎士長昇進も当然でしょう。

 彼が臨検隊の指揮官ということは、担当司法官も判っておるようですな」

 なるほど。

 職務はきっちりやるタイプか。

 命令された以上は、臨検も定石通りにやるつもりだったんだろうな。

 でもユマ閣下が介入して、配下の騎士が喜ぶだけの公演の見学になってしまったと。

「ユマ様の口添えもあって、今回の臨検結果は白と出るはずです。

 まあ、それがなくても大丈夫だったでしょうが。

 しかし恣意的な司法制度の悪用は許せません。

 司法管理官が動くような事態を招いたわけですから、今度はどことは言いませんが司法官に告訴した側に調査が入ることになるでしょうな」

 すまん、芸能組合の誰か。

 ユマ閣下に目をつけられた時点で、君達はもう負けなんだよ。

 つくづく、味方で助かったぜ。

「マコト殿を敵に回したのが間違いでしたな」

 俺のせいなの!?

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