表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第五章 俺が真の迷い人?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

268/1008

3.公演?

 腑に落ちない所はあったが、こだわるほどのことでもない。

 俺はソラルちゃんやハマオルさんと共に劇場(こや)に入った。

 この劇場(こや)はヤジマ芸能がまだセレス芸能だった時代に作られた建物で、日本の体育館のような構造になっている。

 かなり贅沢な作りで、二階部分の壁は大半がガラス戸になっていて、採光はまあまあだ。

 俺の感覚だとそれでも暗いので、磨いた金属を並べて外光を取り入れ、舞台に送り込むことで相当な明るさを維持できるようにした。

 また、舞台の後ろは反響板になっているので、普通にしゃべってもかなり声が増幅されて館内に響くようになっている。

 これはヤジマ芸能がこの施設を引き継いでから行った改造で、例によって俺の何気ない一言を拡大解釈したジェイルくんが作らせたものだ。

 いくらかかったか知らない。

 技術自体はあるんだけど、たかが劇場(こや)に採光のために高価なガラスを多用するとか、巨大な磨いた金属の反射板を備え付けるとか、普通はやらないよね。

 でもヤジマ芸能ではやってしまうのだ。

 俺が知らないところで。

 俺の借金なのになあ。

 まあいいか。

 俺たちは、ソラルちゃんの案内でボックス席に入った。

 これはこの劇場(こや)でオペラみたいな劇をやっていた頃の設備で、今はあんまり使われていないらしい。

 出し物の性格上、ショーを観るのにいい場所とは言えないからね。

 でも、舞台と観客の様子を同時に伺うには便利な場所であることは確かだ。

「この席を使うお客さんはいないの?」

「チケットを売り出していないんです。

 全部自由席にしてしまいましたので。

 その方が事務上も簡単になりますし」

 ヤジマ芸能の舎長はジェイルくんだけど、実質的に運営しているのはソラルちゃんなので、かなり自由にやっているらしい。

 それで利益が出る上に上手く回ってるんだから、凄いもんだよね。

「そろそろ、始まりですな」

 ノールさんが言って、俺たちはちょっと身を乗り出した。

 ボックス席には座席があるので、俺とノールさんが座っている。

 ソラルちゃんとハマオルさんは、後ろで立ち見だ。

 ジェイルくんはあの偉そうな騎士を案内しているのだろう。

 あれ?

 ユマ閣下は?

「ユマ様はトーラスについております。

 反応が見たいのと、何かあったときの用心のためでしょうな」

「ノールさんは、ユマ閣下のおそばにいなくて良いのですか?」

 それが不思議なんだよね。

 ノールさんはユマ閣下の「近衛騎士」のはずなのに。

「司法管理官ともなれば、随行の二人や三人は常に周囲を警戒しておりますからな。

 私の手の者を配置してありますので、大丈夫です」

 出た!

 「手の者」!

 ノールさんも近衛騎士だから、そういう人がいるんだよね。

 ユマ閣下がアレスト市の司法官だった時はノールさん自らが護衛をやっていたみたいだけど、今は配下の者に任せているわけか。

 それに、どうも司法管理官ってノールさんが簡単に説明してくれたような、単なる司法官の一種じゃない気がする。

 動くときにはお付きの人がいるような、相当偉い立場なんじゃないのか。

 大臣とまではいかないが、例えば警察署長とか上席検事が公的な場合は絶対に一人では行動しないように、常にさりげなくボディガードがついているみたいな。

 みんな、どんどん出世しているんだなあ。

 ユマ閣下の場合は、例の帝国の難民問題をうまく処理したこととか、フクロオオカミを騎士団の運用に活用したとかの実績が買われているんだろうな。

 こっちの世界ってコネ社会ではあるんだけど、いったん組織の内部に入ってしまったらあとは実力次第でどんどん上っていけるんだよね。

 もちろん、実績を上げられないと駄目だけど。

 ユマ閣下の場合も最初の司法官就任は家柄と「学校」の成績だろうけど、それ以上の能力(実績)を内外に見せつけた結果だろう。

「それを言ったら、マコト殿が一番ではありませんか」

 ノールさんが言ってきた。

「近衛騎士身分というだけではなく、もはや王都でも有数の実業家という評判ですぞ。

 短い間にここまで行くとは実に驚くべきことです」

 ノールさん、こんなキャラだったっけ?

 俺の中のノール近衛騎士像が崩れていく気がする。

「いやその。

 私は武辺しか能のない無骨者ですので、このような戦場で重きをなせる方を尊敬してしまうのです。

 ユマ様も凄まじい方ですが、マコト殿は勝るとも劣らない、いや失礼ながらそれ以上かもしれないと考えております」

 やめてーっ!

 全部ラッキーと勘違いなんですから!

 騎士団や冒険者を整然と指揮するノールさんこそ、俺の憧れなんですよ!

「そう言っていただけるのは嬉しいことですが、私がユマ様のお役に立てるのは局地戦というか、現場の対処だけです。

 マコト殿やユマ様が駆ける天上のフィールドでは、かえって邪魔になるのではないかと心配している次第で」

 やっぱこの人、思考の基本が戦闘なんだな。

 いやそうじゃなくて、ノールさん何か悪いものでも食べたんじゃないですか?

 天上のフィールドって何?

 まあ、俺にはそう聞こえるというだけで、実際には何をおっしゃっているのか判らないんですけど。

「始まりますよ」

 ソラルちゃんが言うと同時に、ファンファーレが響いた。

 するすると幕が上がり、舞台いっぱいに立っている女の子たちが現れる。

 歓声と口笛。

 ポーズを決めていた女の子たちは、楽隊が大音響で演奏を始めると同時に一斉に動き出した。

 目まぐるしく入れ替わる位置と手足の動き、そしてある時は同時に同じ方向に、また互い違いに踊るように移動する女の子たち。

 うん、テレビで観たAK○より凄いぞ。

 身体能力が違うのだ。

 こっちの人たちは、基本的に生活において肉体を行使するのが当たり前になっている。

 どこかに行くにしても基本的に歩くしかないし、掃除洗濯にしても全部人力だ。

 何より、テレビやゲームといった娯楽がないので勢い身体を使った遊びが当たり前になる。

 いや、ここで踊っている娘たちは、ほとんどが幼い頃から遊びではなくて生活のために働いてきたはずだ。

 日本のアイドル志願者とは比べものにならないほど、真剣に身体と心を使ってきた人ばかりなのだろう。

 でも、ここから観ていてもみんな楽しそうだな。

 切羽詰まった様子がない。

 やっぱり生活費が保証されているというのは大きいな。

 アーティストは、まず自分が楽しまないといいものが出来ないからね。

「なるほど。

 だからなんですね」

 ソラルちゃんが言った。

 何?

「最初は、ヤジマ芸能でみなさんの生活費を保障している理由が判らなかったんですけれど。

 芸能の質をより高めるための施策だったとは。

 マコトさん、やっぱり凄いです」

 また勘違いしている人がいるみたいだけど、俺は単に食うや食わずやではいい出し物が出来ないだろうと思っただけなんだよ。

「そう思えること自体が、特別なのですよ。

 ヤジマ芸能、何としても守らねばなりませんな」

 ノールさん。

 よく判らないけど、あまり無理しないで下さいね。

 ヤジマ芸能が潰れようが司法官から公演禁止通達が出されようが、どうにでもなりますから。

 そもそもダンスショーはヤジマ芸能の出し物の一部でしかないですし。

 ていうか、司法管理官の補佐役の人が民間企業に入れ込んでいいんですか?

 その時、踊っている女の子たちが歌い出した。

 マイクなんかないので生声だけど、結構響く。

 踊りながら歌うって、凄い疲れるんだけどな。

 だからボーカルとかいう人はいなくて、全員で歌うことになる。

 まだセンターとかトップとかいう概念がないんだよね。

 ロイナさんやシリーンさんは中央にいるけど、それはリーダーだからだ。

 そのうちに個々の女の子たちの人気に差が出てくるだろうから、だんだんと立ち位置とかも決まってくるだろうな。

 観客の歓声が凄い。

 女の子たちの歌声がよく聞き取れないほどだ。

 最前列の騎士団の人たちも何か叫んでいたりして。

 観ていると、ユマ閣下がこっちを向いてにっこりと笑った。

 あー、騎士団の臨検、終わったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ