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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第四章 俺がプロデューサー?

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24.インターミッション~ノール・ユベクト~

 私はユベクト家の四男として生まれた。

 ユベクト家は貴族でこそないが、代々軍務省で軍人として栄達を重ねてきた一族で、私の父親や祖父、また兄たちもすべて軍人だ。

 先祖には何人か、近衛騎士もいる。

 もっともソラージュの軍は平和が続いてきたこともあって規模が縮小され、仕事といえば国境警備や騎士団の手が届きにくい辺境の治安維持くらいになってしまっている。

 だが、有事の際には急速に大規模な軍の編成を行うことができるよう、指揮や編成の技能に特化した職業軍人も一定数必要ということで、我がユベクト家のような軍職を専門とする一族が存在するわけだ。

 とはいえ、平時の軍では手柄の立てようもなく、ここ数十年は無駄飯食らいと陰口を叩かれながら、定年まで勤め上げては退官して悠々自適、という人生を重ねることが当たり前になっている。

 祖父や父親もその例に習い、特に合戦や戦闘に従事することなく、かなりの高位まで上って退官後は年金生活だ。

 イベントといえば時々発生する「魔王」の被害対処くらいだが、これも実際にはすべてが終わってから後始末に行くことが多く、特に危険ということもない。

 魔王は突然発生し、急速に被害を拡大させるので、動きが遅い軍では対応できず、冒険者や騎士団が動いて終わってしまうことが多いからだ。

 そういうわけで、若く血気盛んだった私は父親や兄たちの制止を振り切って騎士団に入団した。

 兄たちの話を聞く限り、このまま軍人になっても父や祖父と同じような退屈な人生で終わることが確実と思われたからだ。

 私は大柄で健康、幼い頃から続けていた武術や馬術の鍛錬も仲間たちから抜きんでいたこともあって、思い上がっていたこともある。

 今考えれば、赤面する他はない。

 軍つまり軍務省は、騎士団を擁する司法省とは対立しつつも協力関係にある。

 軍務省に顔が利くユベクト家のコネで、首尾良く王都中央騎士団の見習い騎士となった私は、数年で順調に正騎士に昇格した。

 だが、騎士団も考えていたような組織ではなかった。

 特に中央騎士団は半ば官僚組織と化しており、王都の利権を争うギルドや大商人の草刈り場になっていた。

 もちろん、当時の私のような下っ端騎士にはあまり関係がない問題ではあったが、このまま行けばいずれ私も様々なしがらみに囚われることは確実だ。

 幸い、司法省はそういった誘惑から騎士団を守るために、正騎士は定期的に異動させて地方の騎士団で数年間修行を積むという制度を維持していた。

 まだ健全であろうという風潮が残っていたのは喜ばしい。

 まあ、たかが数年間離れていても、また戻ってきて誘惑に曝されるのは確実なのだが。

 それでも、このまま王都で腐っていくよりはマシだと考え、私は命じられるままにララネル公爵領の騎士団に赴任した。

 ララネル公爵家は領地の統治を領主代行官に任せず、領主が自ら施政を行っている貴族領で、領都ラルシェは王都の小型版と言えるほど発展していた。

 驚いたことに、実際にララネル領を統治しているのは代替わりしたばかりのララネル公爵のライトール殿下ではなく、その若い奥方であるという。

 若いとは言ってもすでに三人のお子様をお産みになり、これで貴族の義務は果たしたとばかりに公爵殿下を差し置いて得意な統治に邁進されているという不思議な方だということだった。

 騎士団の任務として、初めて公爵ご一家の護衛の任についた時のことは忘れられない。

 長女のユマ姫様が、私を見るなりとことこと近寄ってきて言ったのだ。

「ノール・ユベクト正騎士殿ですね?

 初めまして。

 私はユマ・ララネルです」

 十歳にもならない幼い姫君ながら、何とも言えない威厳と迫力があって、私は思わず片膝をついてしまった。

 顔の位置を合わせて、貴顕に対する礼をする。

「は。

 ノールでございます」

「やっぱり。

 ユベクト家の伝統は素晴らしいものですわ。

 あなたが軍人にならずに騎士を選んだのも、ユベクト家本来の正しい姿勢と思いますよ」

 何なんだ、この姫君は!

 そう思ったが、それ以上に私は感動していた。

 判って下さっている。

 軍ではなく騎士団を選んだ私の気持ちを。

 実際には自分でもよく理解していなかったその衝動を、ユマ姫様は見事に看破されていた。

 その場ではそれだけだったが、しばらくしてララネル公爵家から私に話があった。

 ララネル家の衛士にならないか。

 どうして私をそこまで買って頂いているのか判らないが、名誉なことではあった。

 だが、騎士団と比べてララネル公爵家はそれほど魅力的な職場とは言えない。

 特に私が所属しているのは中央騎士団で、このままいけば私でも昇進することは確実だろう。

 何といっても国家公務員なのだ。

 それに比べて、ララネル公爵家の衛士は言ってしまえば私兵に過ぎない。

 何の保証もない。

 例えばララネル家のどなたかのご機嫌を損ねてしまえば、すぐに首になってしまうかもしれない立場だ。

 普通なら断る。

 だが、私は即断した。

 ユマ姫様がいらっしゃるのだ。

 それだけで、十分に魅力的な職場ではないか?

 騎士団からはずいぶん引き留められたが、私の決意は固かった。

 そして、ララネル公爵家はそんな私に報いてくれた。

 私はユマ姫様のお付きというか、家庭教師兼護衛役となり、職務遂行のためにララネル家の武術指南役に鍛えて貰った。

 ユマ姫様の勧めで、ララネル公爵領代表として王都の武術大会に参加し、数年後には何とか優勝できるまでになった。

 教養については、家庭教師であるはずの私がユマ姫様に教えられているような状態で、ここまで大地の恵みに贔屓される存在がいることに感嘆するばかりだった。

 もっとも武術や護身術については一向に上達せず、それどころか日常生活でもたびたびトラブルを起こされるほどで、天は二物を与えずとはよく言ったものだ。

 そんなある日、ララネル公爵殿下から唐突に近衛騎士に叙任された。

 武術大会における幾多の優勝による栄誉を称えてと説明されたが、後に公爵殿下が明かしてくれた。

「ノール。

 君とユマとの絆についてはよく判っている。

 だが、ララネル家の衛士という立場では、君の力を存分には発揮できまい。

 よって近衛騎士として、今後は思うままに動いてはくれまいか」

 なるほど。

 さすがはユマ姫様のお父上だ。

 ユマ姫様の唯一の弱点、つまりご自分の身を守る力の無さを私にカバーさせようということか。

 もちろんでございます。

 喜んでお引き受けいたします。

 私は近衛騎士となり、自らの意思で職務に邁進することになる。

 実家や親類から何か言われないうちに、私はララネル公爵家の係累から妻をめとり、完全に取り込まれたことを内外に示した。

 ユマ姫様が「学校」におられる間に子をなし、貴族としての近衛騎士ノール・ユベクトを確立させると、私は完璧なユマ姫様の近衛騎士となるべく、自らを鍛え直した。

 そして「学校」から戻ったユマ姫様の従者として共に様々な場所を巡り、様々な方に出会ったのだが。

 まさか、あのような方が存在していようとは。

 いや、私はあくまでもユマ姫様の近衛騎士だ。

 ヤジママコト殿も近衛騎士で、私と同格ではないか。

 だが、どうやらユマ姫様はヤジママコト殿に付き従うご様子。

 つまり、そのユマ姫様に従う私も、結果的にはヤジママコト殿に従うことになるのでは。

 それは、実にありがたいことではないか。

 いやいや。

 もちろん、私の忠誠はユマ姫様だけに向けられているとも。

 そのはずなのだが。

 まあ、いいか。

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