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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第四章 俺がプロデューサー?

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22.ブレイク?

 それからしばらくは、平穏な日々が続いた。

 問題と言えば、俺の知らないところでヤジマの名がどんどん増殖していることだ。

 いや問題とは言えないか。

 例の「ニャルーの(シャトー)」の改修を請け負ったのも「ヤジマ建設」とやらで、ジェイルくんが経営不振に陥った王都の建設会舎をいくつか買収して統合したと。

 もちろんヤジマ商会の子会舎で、その株? をギルドの証券取引所? で売り出した所、飛ぶように売れたということだった。

 でもヤジマ商会がまだ8割くらいの株を持っているので、経営権は揺るぎもしない。

 つまり利益は総取りだ。

 アコギなんてもんじゃないぞ。

「そんなことはありませんよ。

 これが証券取引だけならそうかもしれませんが、ヤジマ建設を初めとする子会舎はそれぞれ実在していて営業しているんです。

 まあ、現時点では赤字ですが、将来性は十分ということで」

 昔、日本でバブル崩壊っていう大事件があったけど、その最初の頃ってそういう言い訳が横行していたらしいよね。

 まあいい。

 俺は知らない。

 全部秘書、じゃなかった大番頭がやったのだ。

 それにしても、今の俺の借金はどれくらいになっているんだろう。

 ヤジマ芸能だけを見ても、3桁の人数に生活費を支給した上で会舎経営をしているんだよね。

 金が湯水のように出て行っているはずだ。

 もはや、かつてのハスィーさんの借金なんか利子程度になってしまっているのでは。

 いくら稼いでも、取り戻せないんじゃないのか?

 ていうか、そもそも採算が取れているの?

「うーん。

 マコトさんは超一流の経営者と思いますが、そのネガティヴ思考はちょっと。

 それが経営センスというものなのかもしれませんが。

 判りました。

 現状を見てみましょうか」

 しばらくたって珍しく予定が空いた日、俺はジェイルくんに連れられて王都の中心部というか、繁華街のような場所に出かけた。

 そういう場所はそれでなくても混雑するので、馬車の乗り入れは禁止されている。

 もともとお忍びというかヤジマ芸能のプロデューサーモードなので、俺とジェイルくん、ソラルちゃん、それにハマオルさんが目立たない馬車で近くまで行って、そこからは徒歩だ。

 奥に進むに従って、どんどん人が増えていく。

 休日の秋葉原とか原宿みたいだぞ。

 王都って、こんなに人がいたのか!

「こうなったのは最近です。

 もともとこの辺りは芸能地区で、旅芸人や吟遊詩人の稼ぎ場所だったんです」

 ソラルちゃん、なぜそんなに詳しいの?

 君もアレスト市から出たことなかったはずだけど。

「ヤジマ芸能、今は私が運営しているんですよ。

 自舎の芸能活動は把握しています」

 ああ、そういえばヤジマ芸能のアーティストたちも街に出るようになったんだっけ。

 そのためのテストまでしていたのに、気づかなかった。

 何がプロデューサーだ。

 このところ、あまりヤジマ芸能に行ってなかったからなあ。

「ギルドに申請して、ここの使用権を確保したんですよ。

 最初は他のアーティストたちと交代だったんですが今は、ね」

 もの凄い人混みだった。

 しかもみんな叫んでいる。

 よく見えないが、先の方で何かやっているらしい。

 歌だ。

 演奏付きだ。

 内容はわからないけど、聞き覚えがある。

 これ、サマトくんとレムリさんのユニットじゃないか!

「何だこりゃ?」

 聞いたつもりだったが、回りが五月蠅くて自分でもよく聞き取れないほどだ。

 ソラルちゃんは俺の手を引いて、いったん人混みを抜け出た。

 ジェイルくんとハマオルさんが、俺を守るように囲んでくれている。

 過保護じゃないの?

「ヤジマ芸能のアーティストの演奏です」

 やっと会話できる程度に喧噪から離れたところで、ソラルちゃんが言った。

「あの二人が?」

「それと他の何組か、人気があるグループが出ます。

 あと前座としてロイナさんとイレイスさんのグループがダンスを」

 いつの間にそんなことが。

「マコトさんの決裁は済んでますよ。

 稼げるようになったグループは街で芸能活動可ということで」

「いや、俺は街角で演奏くらいはしていいと言ったつもりだったんだけど」

 するとソラルちゃんがため息をついた。

「最初はそうだったんです。

 でもアイムさんの曲を演るようになると、始まった途端に人が集まりすぎて、その場所の交通が遮断されてしまうようになってしまって。

 王都の警備隊に苦情が持ち込まれて、街角での演奏を禁止されてしまいました」

「それで、マコトさんを通じて王太子殿下に依頼して頂き、ギルドから広場での芸能活動許可を取ったわけです」

 ジェイルくんが割り込んだ。

「場所がとれたので、何組かをセットにして演って貰うようにしたところ、さらに客が増えました。

 最近では追っかけも出ています。

 もう既に、あの広場でも交通渋滞が酷くて周辺住民から苦情が出ているくらいなので、近々にもっと広い場所を確保しなければならないと考えていますが」

 ブレイクしていたのか。

 でもあの状態では、客から金は取れそうにもないなあ。

 客の方も、落ち着いて演奏を楽しめまい。

 俺は思わず言っていた。

「だったら野外コンサートだな」

「コンサート、ですか」

「うん。

 郊外の広い土地で演るんだよ。

 入場料を取って。

 セレス芸能の劇場(こや)を屋外にしたようなものだな」

 ソラルちゃんが目を丸くして俺を見ていた。

 ジェイルくんは獰猛に笑っている。

 いかん。

 またやったか?

「それです。

 やりましょう」

 ジェイルくんが即断した。

 ああ、やっぱそうなるのね。

「ソラルさん、いいですね?」

「あ、はい。

 野外コンサート、ですか。

 でも郊外だと、お客さんが集まらないのでは」

 仕方がない。

「あらかじめ宣伝するんだ。

 出演するアーティストのリストを書いたポスターをギルドや街角に貼って、入場券を事前に販売する。

 それも一度じゃなくて、定期的に開催する」

「ソラルさん、メモ」

 ジェイルくんが短く言って、ソラルちゃんが弾かれたようにメモ帳を取り出した。

 俺はそれに構わず、思いつくままに話し続ける。

「コンサート会場が広くなると、後ろの方のお客さんには演奏がよく聞こえなくなる。

 反響板なんかを用意して、音がよく響くようにして。

 混乱を避けるために、警備員が必要だ。

 一定間隔で立たせて、喧嘩などの仲裁を。

 トイレと救護班もいるな」

 いや、アイドルのサクセスストーリーもののラノベとかで読んだことばかりだけど。

「野外コンサートには座席はいらないから。

 立ち見の方が盛り上がる。

 会場の入り口で物販もいいな。

 アーティストのサインが入った小物とか、旗なんか売れるかも。

 あと、入場券の半券で猫喫茶が割り引きになるようなサービスも導入したいね」

 ジェイルくんもメモ帳を取り出していた。

 目にもとまらぬ速さで記録している。

 俺も止まらない。

「雨の日にも、よほどひどくなければ中止にしない。

 場合によってはそっちの方が盛り上がるから。

 舞台だけ、簡単な屋根をつけて。

 だけど、もっと小規模なコンサートはヤジマ芸能の劇場(こや)でやってもいいね。

 そっちは予約じゃなくて、毎日開催する。

 コアなお客さんを呼び込むために、握手会なんかもいい。

 ダンスチームがメインで」

 どこまでいくんだよ、俺。

 そんな調子でしゃべり続け、ついに息が切れて止まった時にはソラルゃんとジェイルくんの手からメモ紙が溢れそうになっていた。

「……凄い。

 マコトさんの本当の姿、初めて見ました」

 ソラルちゃんが言った。

 いや、これは躁状態になっただけで。

「ソラルさん、今のスタッフでやれますか?」

「無理だと思います。

 どれひとつとっても、人手不足で技能・経験不足です」

「そうですね。

 スタッフを増員します。

 ところでソラルさん、どうしますか?

 マコトさんの秘書をしながらでは、とても出来ない仕事ですよ。

 専従になっても厳しいでしょう」

 ソラルちゃんは、ぐっと詰まった後、絞り出すように言った。

「……やります。

 やらせて下さい。

 マコトさんに少しでも近づきたいんです」

「いいでしょう。

 遠回りでも、そちらの方が近道です」

 二人は何の話をしているんだ?

 まあいいか。

 俺がしゃべり疲れてぐったりしていると、ハマオルさんが支えてくれた。

「どこかで休んで行きましょう、(あるじ)殿」

「はあ、すみません。

 お茶でも飲みたい気分です」

 疲れた。

 振り返ると、ヤジマ芸能の誰からしい演奏が始まったらしく、歓声が聞こえてきた。

 サマトくんとレムリさんたちだけではないらしい。

 いつの間にあれほど演れるようになっていたのか。

 プロデューサー失格だな。

「そんなことはないです」

 ソラルちゃんが頬を赤くして言った。

「マコトさんは、立派なプロデューサーさんです!」

 それはもういいから!

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