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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第四章 俺がプロデューサー?

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20.猫喫茶一号店?

 キディちゃんから猫喫茶の開店準備が整ったという連絡を受けたので、視察に行くことになった。

 俺もジェイルくんも忙しくて、報告は定期的に受けていたけど実務はキディちゃんにほぼ丸投げにしていたから、どうなったのかは実は不明だ。

 ジェイルくんによれば、他のプロジェクトと違って実験的な意味合いが強いので、当面は赤字が続いても別に問題ないということだった。

 だから気にしてなかったんだけどね。

 てっきり住宅街にあると思っていたんだけど、案内されたのは郊外の何もない場所だった。

 何これ?

 健康ランド?

「ここら辺は湯量は少ないのですが、温泉が出ます。

 それに川から引いた水を加え、ボイラーで炊いて大浴場を作ったわけです。

 もともとは某商会所有の温泉施設だったのですが、採算が合わなくなって廃業し、負債のカタにギルドに差し押さえられていた物件です。

 それを安く譲り受けました」

 ムルトくんが説明してくれた。

 つまりは銭湯か。

 そういうものって、こっちにもあったのか。

「なぜ廃業に?」

「一つは、料金設定を高くしすぎたことでしょうね。

 中層以上の比較的富裕層をターゲットにしていたようですが、それらの人たちはすでに自宅に風呂があるわけです。

 つまり、わざわざここに風呂に入りに来る必然性がない。

 それ以下の収入しかない人は、料金が高すぎて来る余裕がない。

 当初は物珍しさから結構賑わったようですが、すぐに赤字続きになり、負債に耐えきれずに手放すことになったと」

 また曰くありげな物件、というか事業か。

 セレス芸能と同じだな。

 で、それが何で猫喫茶になったの?

 キディちゃんが当然のように言った。

「マコトさんが言ったじゃありませんか。

 猫喫茶の目的は『癒やし』だと。

 癒やしと言えば温泉でしょう」

 いやいやいや!

 俺はそんなことは言ってないよ!

 癒やしの意味が違う!

「そうかのう。

 猫を撫でるだけでは、大した癒やしにはならんと思うのじゃが。

 アドナもわしを撫でる時には、ソファーにゆったりと座っておやつなどを囓るぞ」

 いや、アドナさんはそうかもしれませんが。

「ま、出来てしまったわけですから。

 とりあえずご覧下さい」

 ムストくんが爽やかに言って、でかい扉を開けた。

 苦笑しているジェイルくんや、物珍しそうに辺りを見回すフレアちゃん、化け猫のニャルーさんを肩に乗せているキディちゃんが続く。

 そういえばフレアちゃんはここの副店長になる予定だけどダンス教師役に忙殺されて、途中から猫喫茶事業を離れたっけ。

 まあ、仕事は開業してからだしな。

 自分の職場になるんだから、それは気になるだろう。

 その様子を横目で見ながら、俺はアドナさんと一緒に踏み込んだ。

 やっぱり。

 昔行ったことがある健康ランドのエントランスにそっくりじゃないか!

 カウンターがあって、履き物を入れるロッカーもある。

 客はそこでガウンみたいなものに着替えるらしい。

 喫茶店はどこに行った?

「喫茶スペースはこちらです。

 お客様は、まず受付で担当猫を指名します。

 指名料は別にかかります」

 壁一面に、猫の絵姿と名前を描いたポスターみたいなものが張ってあった。

「待機している猫の絵ですね。

 お客様はここから好みの猫を選びます。

 接客中だった場合は、お待ち頂くことになります」

 それって何てキャバクラ?

「待って頂く間や、先に身体を癒やしたい方はこちらの浴場にも入れます。

 使用料はかかりません。

 特別料金をとってマッサージなどを行うことも考えています。

 まあ、その辺りは営業しつつ随時整えていく予定です」

 つまり、猫喫茶の使用料に無理矢理温泉の入浴料が含まれているってことだよね?

 アコギだ。

 それにしてもムストくん、やたらに詳しくない?

 君って仲介業者じゃなかったっけ。

「いやあ、自分でも意外だったんですが、のめり込んでしまいまして。

 他の仕事は休業して、ここしばらくはヤジマ商会の猫喫茶事業の立ち上げにかかり切りになっています。

 自分でも少し投資をしてしまったほどです」

「そういえば、ムストさんは『ニャルーの(シャトー)』の株主でしたね」

 ジェイルくんがのほほんとして言った。

 何、その猫のような名前は?

「わしは嫌だったんじゃが、ギルドに事業登録するのに舎名が必要だと言われての。

 そんな名前の会舎、聞いたことないわい」

「だって、私の名前は使うなとお父様に禁止されたんですもの。

 ニャルーが代表兼第一号店の店長なんですから、その名前をつけるのは当然でしょう」

 アドナさんが押しつけたのか。

 まあ、確かにアドナさんの父上は商人だそうだから、その娘の名前で事業を始めたらめんどくさいかもしれないけど。

 それにしても「ニャルーの(シャトー)」とは。

 ん?

 ニャルーさんが代表なの?

 アドナさんじゃなくて?

「いや、それがですね」

 ジェイルくんが苦笑した。

「アドナさんのお父上から、アドナさんの代表就任を拒絶されてしまいまして。

 ヨランド家の事業と露骨に関係しているように見えるからということです。

 で、ニャルーさんを代表として申請してみたら、通ってしまったんですよ。

 改めてギルドの会舎登録会則などを調べてみたら、確かに人間以外の生物が代表になってはならない、という規則はありませんでした」

 いや、それはないだろう。

 想定外だし。

 ああ、ひょっとしたらスウォークの人たちが代表になることもあるのかもしれないな。

 あの人たちも人間じゃないからなあ。

 それに、ひょっとしたらハスィーさんやシルさんみたいなエルフやドワーフも人間には勘定されていないのかも。

 ニャルーさんがブツブツ言っていた。

「おかげで、わしも家名がなければならぬと言われてしもうた。

 猫に人間の家名をつけて、何の意味があるというんじゃ」

「そうか。

 ギルドに登録するわけだから、家名がないと駄目なんですね」

 税金とかかかってくるからな。

 家名なしの代表なんか、許されるはずがない。

「すると」

「今はニャルー・ヨランドで登録されています。

 まあ、税金の支払い以外では使わないとは思いますが」

 猫に家名がついて、会舎の代表を務める?

 何かとんでもないことになっているような。

 まあいいか。

 知らなかったことにしよう。

 もうこれ以上、面倒なことには関わり合いになりたくないし。

「『ニャルーの(シャトー)』はヤジマ商会が大株主の会舎ですよ。

 他にはヨランド家とムスト商会が若干、株を持っているだけです。

 つまり、事実上はマコトさんの会舎です」

 こっちにも株ってあるんだ。

 いや、魔素翻訳でそういうものが株に変換されているんだろうけど。

 もういいよ。

 早く見回って帰ろう。

 それから俺たちは、猫喫茶ならぬ総合健康猫施設「ニャルーの(シャトー)」を見て回った。

 喫茶店のはずなのに、立派なレストランも作られていた。

 プールや映画館がないのが不思議なくらいだ。

 もはや猫喫茶とは言えない。

 ただ、俺が散々しゃべり散らした猫喫茶のコンセプトは見事に実現されていて、それには感心されられた。

 例えば喫茶店のスペース以外にもソファーなどで寛げる場所もあった。

 個室も用意されていて、猫と二人? きりで過ごせるようにもなっている。

 どうもラブホテルの臭いが濃厚だったけど、接待役は猫だからなあ。

 間違いは起こらない、と思ってしまおう。

「客層は、以前の事業と同じく比較的裕福な中流階級を想定しています。

 家族連れでも来られるように、アクティビティも重視しました。

 ただ、うまくいくかどうかはやってみないことには」

 ムストくんが自信なさそうに言ったが、ジェイルくんが笑い飛ばした。

「大丈夫ですよ。

 マコトさんが関わった事業がうまくいかないわけがないんです。

 むしろ客が来すぎて従業猫が過労で倒れたりしないように気をつけて下さい」

「それはもう。

 ニャルーさんの説得で、予定より遙かに多くの猫が集まってくれまして。

 当面はローテーションで回す予定ですが、今のところ猫が足りなくなるようなことにはならないと思いますよ」

 それは良かった。

 アレストサーカス団の時は酷かったからな。

「営業開始はいつ頃になりますか?」

 ジェイルくんの問いに、ニャルーさんが首を傾げた。

「猫は今すぐにでも大丈夫と思うのじゃが、人間の従業員がなかなか集まらなくての。

 そもそもこういった施設を運営した経験がある者がおらん。

 入浴設備の担当は、前の施設に雇われていた者などを雇用したのじゃが……」

「それはそうですね。

 判りました。

 キディからも支援要請が出ていますし、アレスト興行舎から何人か出しましょう。

 ギルドを通じて人も集めることにします。

 ヤジマ芸能からも、余興要員兼従業員として回せると思いますよ」

 さすがジェイルくん!

 そうか。

 確かに健康ランドには芸能の娯楽が必須だしな。

 いやいや、温泉地の安っぽいホテルじゃないんだから!

「よろしくお願いします」

 ムストくんもアドナさんもいいの?

 ていうか、ニャルーさんが代表でホントにいいのか?

 猫だよ?

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