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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第四章 俺がプロデューサー?

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18.芸能活動開始?

 当面の問題が片付いてしまうと、というよりは先送り出来ると、俺がヤジマ芸能に常駐する必要がなくなった。

 時々顔を出すだけにして、それ以外の時間はヤジマ商会で過ごすことにする。

 俺を訪ねてくる貴族の使いの人や、商人さんたちの相手をするのだ。

 ジェイルくんも一緒なので、ヤジマ芸能の指揮はソラルちゃんに任されることになり、舎長代理の肩書きがついたらしい。

 ジェイルくんがとりあえず舎長ね。

 やっぱりヤジマ芸能にはほとんどいないけど。

 会長兼オーナーは俺というかヤジママコト近衛騎士だけど、そいつは基本的にヤジマ芸能の活動にはタッチしないことになっている。

 「マコト」は雇われプロデューサーさんで、他にも仕事があるので非常勤という扱いになっているらしい。

 だけど現場の指示は俺が出す必要があるんだよね。

 他にそんなことをする人がいないから。

 従って、俺がヤジマ芸能に行くといつも何人かが駆け寄ってきて相談を持ちかけられることになる。

 ソラルちゃんはヤジマ芸能自体の運営(事務)を担当しているだけで、芸能活動についての指示は俺の専管事項ということになっているのだ。

 一番多かったのは、ユニットについての相談だった。

 サマトくんとレムリさんのコンビは順調に仕上がり、既に街に出て活動を始めている。

 伴奏付きで歌うという斬新なスタイルが受けて、人気は急上昇中だそうだ。

 見たことないけど。

 もちろん彼らはヤジマ芸能のタレントなので、彼らが集めた金はヤジマ芸能の収入になる。

 二人には、固定給の他に歩合で払う契約だ。

 結構稼いでいるらしいよ?

 このユニットはヤジマ芸能所属のアーティストということを明白にしていて、つまりヤジマ芸能が活動している証拠となっている。

 とりあえず、これでギルドの営業許可についてはクリアだ。

 もちろん、そこで終わるはずはなかった。

 ヤジマ芸能に所属(登録)している他のアーティストたちが、これを黙って見ているわけがない。

 俺の所にユニットを組みたいという希望が押し寄せたわけで。

「俺の指示がなくても、自由にやってくれてかまわない」

「ですが、どうやったら」

「色々試してみればいいんじゃないかな。

 人には相性があるから、お互いにうまくやっていけそうだと思ったら、試しに組んで練習してみれば」

 俺が丸投げすると、彼らは真剣な表情で頷いた。

 早速、楽器を弾けたり吹けたりする人と歌える人の集団お見合いみたいなものが開かれらしい。

 そのうちに、みんなで一斉にではなくて自由に組み合わせを試すようになったようで、うまくいったんじゃないかな。

 でも、やってることは大学の軽音のサークルとかでバンド仲間を募集しているのと同じだけど。

 急増コンビやトリオで街に出て、散々叩かれて逃げ帰ってきたグループもいるようだった。

 やっぱ練習してからじゃないとね!

「マコトさんはああおっしゃいましたが、今後の芸能活動は許可制にします。

 ヤジマ芸能の名で街に出るのなら、従って下さい。

 ちなみにご自分の責任で活動するのは自由ですが、楽器などは自前で用意して頂きますし、契約しないのでしたら登録を解除させて頂きます」

 ソラルちゃんが布告すると、さすがに無謀な挑戦は減ったようだった。

 その代わりに定期的に審査会が開かれて、ヤジマ芸能の代紋を背負って街に出るにふさわしいかどうかをテストすることになった。

 これに合格すると、今までの生活費支給から契約舎員として固定給払いになり、儲けた分の歩合を自分のものに出来るようになる。

 固定給は安いんだけどね。

 ちなみに、収入を誤魔化したら問答無用で首だ。

 アーティストとしての適格審査会の審査員は俺、ジェイルくん、ソラルちゃんで、活動内容にダンスなどが混じる場合はヒューリアさんとフレアちゃんも加わる。

 週に一度くらい開催し、そのたびに新しいユニットが誕生しては街に解き放たれる。

 ユニットが増えてくると、街でかち合うこともあった。

「マネジメントが必要ですね。

 何人か雇っていいでしょうか」

 ソラルちゃんの申告で内勤の人が雇われたんだけど、もともとヤジマ芸能に登録されていた人たちばかりだった。

 つまり、アーティストというよりは裏向きの仕事をしていた人たちなんだよね。

 芝居をやるにしても、俳優以外に監督、脚本、演出、大道具小道具といった仕事が必要なんだけど、そういう人たちも残っていたのだ。

 よそに行っても雇って貰えないから。

 不満がないかどうか聞いてみたら、意外にもみんな大喜びだった。

「私たち、むしろこういった後方支援がしたかったんですよ」

「監督や演出って、つまりはマネジメントですからね。

 王都全体を舞台に見立てて、アーティストを配置したり演出したり出来るんですから、こっちが天職という気もします」

 そうなのか。

 だったら、やって貰おうじゃないの。

 ということでマネジメント部が立ち上げられ、それらの人たちをマネージャーとして配置することになった。

 だんだん芸能プロらしくなってきたなあ。

 この分なら、プロデューサーさんは誰か他の人にやって貰ってもいいかも。

「駄目です。

 ヤジマ芸能はマコトさんの会舎ですから、プロデュースにマコトさん以外のイメージは持ち込めません。

 決めるのはマコトさんです」

 ジェイルくんの一言で、俺の野望は瓦解した。

 少しでも楽になりたいだけなのに!

 しょうがない。

 俺は、今やヤジマ芸能を代表する人気ユニットとなっているサマトくんとレムリさんを呼んだ。

「そろそろオリジナル曲を導入したい。

 誰でも知っている歌ばかりでは、飽きられるからな」

「そうでしょうか」

 サマトくんは不満そうだったけど、レムリさんは顔を輝かせた。

「そうですね。

 今までになかった歌は歌ってみたいです」

「ということで、ヤジマ芸能の作詞作曲担当のアイムだ。

 持ち歌が大量にあるから、選んでくれ。

 何だったら、歌いたいイメージを言って発注してくれてもいい」

 そう言ってアイムさんに引き合わせる。

 まあ、もともと同僚ではあるんだけどね。

「アイムです。

 色々ストックがありますから、使って下さい。

 何だったらお二人にふさわしい歌も作りますが」

「なお、アイムの作った曲を使う場合は、その日の歩合の一割をアイムに払ってくれ。

 これは君達の収入からの天引きになる」

 著作権ビジネスの導入だ。

 サマトくんはあいかわらず不満そうだったが、試しに何曲かアイム謹製の曲を演ってみたところ、客の食いつきが違ったそうだ。

「凄いです!

 これからは全部、アイムさんの曲で歌います!」

 レムリさんは興奮して叫ぶし、サマトくんも意見を百八十度変えて言った。

「何というか、俺たちにぴったりの曲ってあるんですね。

 演奏の傾向や癖なんかも織り込めるなんて、こんな作曲って出来るんですね……」

 よし。

 アイムは、たちまち売れっ子になった。

 他のユニットからも発注が殺到し、ストックはたちまち底を突く。

 さらに俺の依頼で新しく作詞家や作曲家としてやっていきたいと志願した人たちを弟子に取って、アーティストより忙しくなったらしい。

 本人は楽しそうだけど、このままでは身体を壊しそうだから、マネージャをつけて体調管理をお願いした。

 順調だなあ。

 やっぱ基本は丸投げだよね!

 一方、ロイナさんとイレイスちゃんたちのダンスチームは、さすがに苦戦しているらしかった。

「仕方ありませんわ。

 技能というものは、そんなに早く向上したりはしませんから。

 増して、これだけの人数がまとまって動けるようになるまでには時間がかかります」

 ヒューリアさんの意見もあって、彼女たちには我慢して貰っている。

 幸い、本人たちはこの新しい形態の芸能に興味津々だった。

 もともと一人(ソロ)では売れそうにない人たちだからね。

 新しい技能を無料で教えて貰えるどころか、生活費まで出るというのに、不満は言えないということらしい。

 もっともユニットが次々にデビューするのに焦った人たちが、何人かチームを抜けたらしいけど、それは仕方がない。

 本人の自由だ。

 ロイナさんも、随時チームの欠員募集をしている。

 さらに俺の指示で、研修生グループというか、ダンスの受講生も加わった。

 無料で教えて貰えるんだから、参加しない理由はないということで。

 でも遊び半分でやられても困るから、出欠や受講態度をチェックして目に余るようなら出席停止処分も行われているらしい。

 その辺りはもう、ソラルちゃんやヒューリアさんたちにお任せになってしまっている。

 ジェイルくんも、もはやヤジマ芸能の舎長とは名ばかりで、ヤジマ商会の大番頭としての業務にかかりきりだしな。

 ジェイルくんがマレさんに泣きついたかどうかしたらしく、アレスト興行舎の王都支店から何人か派遣されてきたようだった。

 どんどん人が増えている。

 アレスト興行舎の舎員はサーカス運営の経験があるからね。

 でもなぜか女性ばかりなんだよなあ。

 ヤジマ芸能もアレスト興行舎と同じく、女の城になりつつあるような。

 まあいいか。

 華やかで、ア○マスみたいだし。

 でもプロデューサーさんの仕事してないよね、俺?

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