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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第四章 俺がプロデューサー?

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17.依頼?

 悪いけどハマオルさんにはそのまま待って貰って、俺は奥の部屋に行った。

 この前は僧正様が3人も待ち構えていてビビッたっけ。

 今回は一人だけど、誰なんだろう。

 スウォークの人の個体識別なんか、とても出来ないよね。

「私はカリです。

 マコト殿」

 カリ様って、男性だったっけ。

 いやラヤ僧正様以外は二人とも男性だったから、そうなのだろう。

 あまり違いがわからないけど。

「して、本日はどのようなご用件ですかな?」

 カリ僧正様は、少しせっかちのようだな。

「いえ、特にお願いしたいことはないのですが、定期的に僧正様方にお目にかかっておきたかったので」

「ほう」

 カリ僧正様は、少し驚いたように目を見開いた。

 うん。

 俺もスウォークの人の表情が読めるようになってきたりして。

「むしろ、これだけお世話になっているのですから、私の方から教団のために何かできることはないかと思いまして」

 これは本心。

 だって、どう考えても俺って教団にお世話になりっぱなしだもんな。

 この店(というかチェーン店?)の食事代だけでも結構奢られているし、教団のサポートがなければうまくいかないどころか進退窮まっていたケースもあった気がする。

 何より、相談役になって頂いているのだからお布施か何か包まないと駄目なのでは。

「なるほど。

 ですが、これは私どもが好きでやっていることなので。

 むしろマコト殿にはご迷惑をかけているので、こちらから何かして差し上げなければと」

 いやいやいや!

 それは変でしょう!

 ていうか「好きでやっている」というのは何?

「マコト殿。

 ラヤからどうお聞きになっておられるのか知りませんが、我々スウォークは基本的に我が儘で自己中です。

 何かする場合は、したいからするのであって、別に奉仕しようとか人様のお役に立とうなどと考えているわけではありません。

 教団も、そのための組織です」

 「自己中」(笑)。

 なにそれ。

 俺の中のスウォーク像が崩れていく。

「でも、スウォークの方々は昔から人類を導いてきたと」

「そうしたいと思って実行したスウォークがいたのでしょうな。

 それらのスウォークが何を考えていたのかは判りませんが、決して利他主義からの行動ではなかったはずです。

 ですから、マコト殿が気になさることはありません。

 かくいう私も、マコト殿とこうやってお話したいから、しているのですよ」

 そうなのか。

 まあ人類じゃないからな。

 むしろ、これだけ意思疎通ができること自体が奇跡と言っていいほどだ。

 フクロオオカミや猫は一応ほ乳類なので何となく納得できるけど、スウォークっては虫類? なんだし。

 でも困ったな。

 俺としてみると、だからといってずっと借りを作りっぱなしというのは気分的に嫌だ。

 俺が考え込んでいると、カリ僧正様が遠慮がちに言った。

「そこまでおっしゃられるのでしたら、マコト殿にひとつお願いしたいことがあります」

「何でしょうか。

 大抵のことはお受けしますが」

 まさかアレとかではないだろうな。

 だったら断固拒否だ!

「ありがとうございます。

 実は、我々マコト殿の担当スウォークの居場所として、この部屋をキープするのが少し困難になってきておりまして」

 この部屋を、俺のために確保していたって?

 何なんだよ、それ!

「では、私の方でカリ様方のお部屋なり建物なりを用意すればよろしいでしょうか」

 ヒューリアさんあたりに頼んで、適当な建物を借りるか買うかすればいいか。

「それでも良いのですが」

 カリ僧正様は、ためらいがちに言葉を繋いだ。

 遠慮している?

 失礼だけど、ラヤ僧正様とはずいぶん違う。

 スウォークの人も、個体差があるんだな。

「その……建物の構築は教団が手配しますので、土地を少しお借りできないものかと」

 土地か。

 ヤジマ商会って、庭が結構広いんだよね。

 ちょっとした小屋とか、2DKくらいの建物程度ならかまわないか。

 ヒューリアさんに聞いてみよう。

「判りました。

 ヤジマ商会の空いている土地を使えるかどうか、確認してみます」

「本当ですか!

 ありがとうございます」

 カリ様って、ほとんど人間?

 ラヤ様しか知らなかったから、ああいうのがスウォークなんだと思っていたけど、本当に個体差が大きいらしい。

 まあ、人類だって人によって全然違うんだから、当然だね。

 SFやラノベだと、は虫類系のキャラはクローンか何がで没個性的というか型にはめたような存在として描かれることが多いから勘違いしていたようだ。

 ここは現実(リアル)だからな。

 それから少し当たり障りのない話をして、俺は席に戻った。

 代わりにハマオルさんが呼ばれたけど、すぐに帰ってきた。

 近況を聞かれただけらしい。

「教団といっても、組織はあってないようなものですからな。

 私などはラヤ僧正様には恩義がありますが、その他の方々にはあまり馴染みがありませんので」

 そうなのか。

「ラヤ様とは親しいのですか?」

「ラヤ僧正様は、私の育ての親と言ってもいいお方です。

 私が独り立ちするまで、救護院で導いて下さいました」

 ハマオルさんはきっぱりと言った。

 そういえば、ハマオルさんって孤児だと言っていたっけ。

 教団で育てられたのか。

「救護院で字も習ったのですか?」

 だったらそれってもう「小学校」なんじゃないか?

「本当の基礎だけでしたな。

 お使いや教団の仕事のお手伝いなどもしておりましたので、まったくの無知文盲では役立たずということで数字の数え方や基本の文字は教わりました」

 それにしては、今のハマオルさんって結構読み書きできるみたいですが。

「後は必要に迫られて覚えましたので。

 冒険者として隊商や旅芸人の護衛で旅する間、師匠から習っておりました。

 冒険者は金勘定や契約書の文言に無知ではやっていけません」

 そういえば「栄冠の空」でも字を覚えることを推奨されていたっけ。

 独学用の絵本なんかも用意してあった。

 俺もソラージュ語はそれで覚えたんだよね。

 結構厳しい稼業みたいだな、冒険者って。

 俺とハマオルさんは、それから適当に時間を潰してから店を出た。

 いつもの事ながら食事の代金は教団に払われていた。

 これ、何とかした方がいいかもなあ。

 昼飯を奢られ続ける近衛騎士って恥ずかしいのでは。

 もう高級レストランで飯を食うくらいの収入はあるんだから。

 ヤジマ商会に帰ると当然だがジェイルくんが待ち構えていて俺は仕事に忙殺された。

 情け容赦ないもんなあ。

 まあ、やることと言えばジェイルくんが選んだ人とお話するだけなんだが。

 先方が訪ねてくるので、俺は応接室でその相手をすればいいだけだ。

 時々頷いて最後に握手して終わり。

 契約条件なんかは別室でジェイルくんたちがやってくれる。

 それで大金が入ってくるんだから、どう考えても詐欺だよね。

 本当にいいのか?

 でも、もう引き返せないしな。

 ハスィーさんの借金もこれで返せたのだと思うと無碍にもできないし。

 考えないようにしよう。

 何、北聖システムでも俺は言われた通りに働いていただけだしね。

 そうやって楽なようで疲れる忙しい一日が終わり、夕食の時間が迫った頃になってヒューリアさんとフレアちゃんが帰宅(笑)した。

 疲れているところを悪いんだけど俺は早速ヒューリアさんを呼んで貰った。

 俺の書斎じゃなかった執務室でお話する。

 カリ様の依頼の件だ。

 俺はこの土地の所有者というわけではないからね。

 貸し主に断っておかないと。

「というわけで、教団の建物用の土地を用意したいんです。

 いいでしょうか?」

「それはもちろん、マコトさんの指示なら吝かではありませんが」

 ヒューリアさんの答えは歯切れが悪かった。

 やっぱ難しいか?

 数瞬ためらった後、ヒューリアさんは頷いた。

「判りました。

 何とかします」

「良かった。

 どのくらいの面積が必要で、場所はどの辺りがいいか、カリ僧正様にお聞きして手配してくれませんか」

「了解しましたわ」

 ヒューリアさんは、なぜか俺の顔を惚けたように見つめて言った。

「僧正猊下から直接ご依頼があるなんて……それがどれくらい名誉なことなのか、マコトさんは判っておられますか?

 ……おられないようですわね」

 そう言われてもね。

 ぶっちゃけ、カリ僧正様と話してスウォークのイメージがかなり変わったからなあ。

 スウォークだろうが何だろうが、あの人たちも「人間」だったんだよな。

 別に神秘的とか、人類とはまったく別の生命体とかいうことはない。

 ていうか、もろに普通の人くさかったもんね。

 特に、カリ様の「スウォークは自分勝手で好きなことしかやらない」と言われたことが大きかった。

 人類や野生動物を導いたのだって、そうしたかったスウォークがいただけなのだ。

 別に人類より階梯が上の存在なんかじゃない。

 何かほっとするよね。

 軽小説(ラノベ)じゃなくて良かった。

「土地の件については至急手配します」

 ヒューリアさんは慌ただしく去った。

 いつもの丸投げだけど、これで完了。

 俺って楽なもんだなあ。

 本当にこれでいいのか?

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