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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第四章 俺がプロデューサー?

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14.買収?

 俺は女の子たちが食事に行ったのを見計らって水シャワーを浴び、着替えてから劇場(こや)に行った。

 ジェイルくんは、少し離れた場所に作った幹部舎員用? のテーブルで俺を待っていてくれていた。

 ソラルちゃんやハマオルさんたちも一緒だ。

「何だ、先に食べてくれていいのに」

「そうはいきません。

 マコトさんがいないと始まりませんから」

 そんなもんかね。

 改めて見渡しても、誰もこっちを注目していない。

 良かった。

「シチューとパンなんだね」

「アレスト興行舎での経験から、不特定多人数の食事にはこれが一番いいことが判っていましたので。

 大量に作れば安く上がりますし、複雑な料理というわけでもないのですぐに出来ます。

 ただ、今回は急な注文でしたのでいささか値が張りましたが」

「それはすまない」

「いえ、明日からは長期契約で安くあげます。

 というよりアレスト興行舎に習って、こちらで内製化しようかと思っています。

 ヤジマ商会で適当な業者を買収してもいいですし」

 ジェイルくん、君もラナエ嬢に迫ってきているよ。

 あの人は、いきなりケータリング業者を丸ごと雇ったかと思ったら、その技術を盗んで最終的にはアレスト興行舎で事業ごと吸収してしまったからなあ。

 俺がアレスト市を離れた頃には、アレスト興行舎はケータリング業者としても市内でも有数の売り上げを叩き出していたもんな。

 まあいいか。

 俺には関係ないし。

 食事にかかる。

 俺には仕出しと聞こえたけど、ジェイルくんたちが実際に用意したのはむしろ炊き出しだった。

 日本でも大晦日あたりに都内某所でやる奴だ。

 ヤジマ芸能の人たちはホームレスではないけど、それでも一食分浮くというのは大したことらしい。

 劇場(こや)に臨時に並べた長テーブルとベンチで、がやがや話しながら食べるのも新鮮らしくて、みんな楽しそうだった。

 もちろん女の子たちだけじゃないよ?

 「小学校」の生徒たちや、絵本読みをやっていた教師役の人たちも揃って食っていた。

 これはいいな。

 ヤジマ芸能の一体感が高まりそうだ。

 もちろん、俺が何も言わなくてもジェイルくんはその効果を認識しているだろう。

 任せてしまっていいよね。

「それにしても、マコトさんの指示に従っているだけで何もかもうまく行ってしまうというのは、いささかまずいのではないかという気もします」

 ジェイルくんが食べながら言った。

 何それ?

「いえ、商人や経営者として、何も考えなくてもよくなってしまうのではないかと。

 このままではおいて行かれそうで。

 マコトさんに従うだけの存在など、いくらでも沸いてきますから」

 人をゴキブリみたいに(笑)。

 いや、ハマオルさんもソラルちゃんも、何深刻な顔で頷いているの?

 そもそも俺の指示って何よ。

 ドリトル先生とかもの○け姫とか呟いただけで、大騒動に発展したのは俺のせいじゃないだろう。

 大体、ヤジマ商会とやらも俺が関知しないことであって。

「私どもも、マコト殿の意を汲んで行動できるよう、さらに精進が必要ということですな」

 ハマオルさん、何を言っているの?

「でも、それでは結局はマコトさんの指示待ちになってしまうのではないでしょうか。

 むしろマコトさんがやっていない部分でさらに努力するべきなのでは」

 ソラルちゃん、言っていることは正しいけど、前提が間違っている。

 俺は何もしてないって。

「そうですね……。

 ああ、そういえばご報告することがありました」

 ジェイルくんが食べる手を止めて、俺に向き直った。

 今ここで言わなければならないことなの、それ?

「正式に報告するほどのことでもないので。

 前にギルドに依頼していたヤジマ商会の使用人の件ですが、無事に正式雇用出来ました。

 全員、身元が確かで能力も保証付きです」

 ソラルちゃんも頷いている。

「ええと、接待要員や屋敷の維持担当者なんかのことだったっけ」

 確か、ソラルちゃんの部下ということになるのかな。

「そうですね。

 これまでアレスト興行舎の職員で回してきたヤジマ商会の屋敷のご用ですが、これからは専任の使用人が担当します。

 給仕や御者なども、新しい人が来ていますので」

 ということは、何て言ったっけか、あの小僧たちもそういう雑事から解放されたということか。

 いかん。

 また名前忘れた。

 すまん、君達。

 可哀想過ぎるな。

「トムロとテムなら、先日マコトさんの指示で正式にアレスト興行舎の正規職員に抜擢されて、今はヤジマ芸能に出向になっていますよ」

 ジェイルくんありがとう。

 そうそう、トムロとテムだった。

 自分で教師に任命しといて名前忘れるなんてなあ。

 本当にスマン。

 見るとその小僧たち、いやトムロくんとテムくんは「小学校」の生徒たちに混じって和気藹々と食べていた。

 見習いが取れたのか。

 良かったな。

「マコトさんが引き上げたんですよ。

 連中、夜も寝られないくらい喜んでました」

 つくづくスマン!

 まあいいか。

 今が幸せなら。

「そう言えば思い出しました」

 ジェイルくんが何気なしに言った。

「アレスト興行舎を、ヤジマ商会で買収しました。

 今朝連絡が来まして、ようやく正式にギルドの譲渡契約が完了したそうです」

 何それ!

 聞き間違いだよね?

「ええと……。

 それって、ヤジマ商会がアレスト興行舎の親会舎になったってこと?」

「そうです。

 いずれは合併というか、アレスト興行舎の業務譲渡ということになると思いますが、とりあえずは完全子会舎にしたわけですね。

 まだしばらくかかりますが、いずれはアレスト興行舎の幹部もヤジマ商会に異動することになると思います」

 そうなのか。

 すると、ラナエ嬢やシルさんもこっちに来ると。

「すぐには無理でしょう。

 野生動物関連の事業はまだアレスト市がメインですし、いずれにしても辺境で行っているので、機能が王都に移るのは先のことになります。

 まあサーカス団などは王都での展開も予定していますが。

 実は、ラナエ舎長代理の指示で既に王都郊外の用地取得交渉を行っています」

 いつの間に!

 猫喫茶だの「小学校」だのの事業化を進めつつ、さらにヤジマ芸能を立ち上げながら、そんなことまでしていたのか!

 ジェイルくん、君って超人?

「私ではありませんよ」

 ジェイルくんが、慌てて手を振って否定した。

「キディが補充要員としてアレスト市から赴任したでしょう?

 同時にアレスト興行舎の王都支店(・・・・)担当者たちも着任したんですよ。

 現在、それぞれ専任で業務を行っています」

「支店になったの?」

「はい。

 私は出張所長の任を解かれて、正式にヤジマ商会に移籍しました」

 知らなかったよ!

 そんなことになっていたのか。

 いつの間に。

 こないだソラルちゃんが「展開が早すぎて」とか言っていたけど、そういうことか。

 すると、今のアレスト興行舎王都支店長は誰なんだろう。

「マレさんです」

 茶髪のマレさんか!

 いや髪の色はどうでもいいか。

 あの人、経理部長じゃなかったっけ。

「一時的な役職らしいです。

 アレスト興行舎の本舎機能が王都に移るまでの繋ぎ人事だと聞いています。

 まあ、半年か一年くらいだと思いますが」

 大事(おおごと)だろう、それ。

 こんな場所で炊き出しの飯食いながら聞く話じゃないよね。

 でも、まず最初に気になることを言われたような。

「もう一度聞くけど、ヤジマ商会がアレスト興行舎を買収したって、つまりギルドの借金を返し終えたってこと?」

 すると、ハスィーさんの借金もなくなったわけか。

「もちろんです。

 全額、キャッシュで支払いましたよ。

 長引けば長引くほど、利息が嵩みますからね。

 なお負債を解消したのはギルド出資分だけです。

 その他の出資者には、そのままアレスト興行舎の株主として残って頂いています」

 株主か。

 つまり、こっちの世界にも資金を出して事業体の支配権を握るという仕組みがあるんだろうな。

 俺が知っている株式会社と同じシステムじゃないとは思うけど、つまりはそういうことだろう。

 出資金に応じた割合でその事業を所有する。

 それはいい。

 問題はそこじゃない。

 俺は恐る恐る聞いた。

「ギルドに払った金って、やっぱあれ?」

「そうです。

 ヤジマ商会の資金ですよ。

 だから、アレスト興行舎の最大株主はヤジマ商会ということになります。

 つまり、マコトさんですね」

 にっこり笑ったジェイルくんに、俺はどん引きした。

 それ、資金じゃないってば!

 俺の借金なんだよ!

「マコトさん。

 借金は資産です。

 借金できるということは、それだけの信用があるということですから。

 出資して頂いた皆さんがマコトさんを信用しているからこそ、これだけの資金が集まったんです。

 紛れもなくマコトさんの力ですよ」

 自信満々に言わないで!

 俺が巨額という言葉では語り切れないほどの大借金を背負ったことには変わりはないんだよ!

 俺みたいなペーペーのサラリーマンに、そんなの耐えられるわけがないでしょう!

「大丈夫ですよ。

 それ以上に儲ければいいだけから」

 無理!

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