12.スポ根?
俺は、改めて少女たちを見てみた。
可愛い娘が多いな。
それに細身というか、いかにも活発そうな子ばかりで、おっとりしていたりふくよかなタイプはいない。
「一応、動いて貰ってあたしが納得できた人だけ、残しました。
あと、トムロさんとテムさんに聞いたら家がちゃんとしている人の方がいいというので、ヤジマ芸能で働いてもいい、と親に許可を貰った人にだけ、来て貰って」
素晴らしい!
予想外だったけど、イレイスちゃんはリーダーの素質あるよ!
それにしてもトムロとテム、君たちも凄い。
もう名前覚えるしかないなあ。
ていうか、御者を外してヤジマ芸能に来て貰おうか。
「わかった。
それでは、と」
俺は、少女たちに向き合った。
まだビクビクしているな。
「俺がヤジマ芸能の現場を担当しているマコトだ。
このイレイスの直接の上司だと思ってくれ。
ということはつまり、君たちの上司になる。
わかったか?」
はい、とかわかりました、という呟きしか聞こえなかったので、声を大にしてもう一度言う。
「わかったらちゃんと返事をしろ!」
「「判りました!」」
よし。
俺は体育会系じゃないんだけどね。
アニメとかで、似たようなシーンを見たことがあるし。
我ながら似合ってないけど、まあ小中学生の指導と思えば。
「最初に聞いておくが、君たちは本当にヤジマ芸能でやっていく気があるのか?
遊びじゃなくて、仕事だぞ?」
誰も何も言わない。
「答えは?
そこの君!」
一番前の、中学生になったばかりくらいの少女を指さすと、その娘は俯いていた顔を上げて言い放った。
「あります!
全部断られて、もうここしかないんです!
何でもやります!」
ありゃ。
思ったより厳しいなあ。
アレスト市でもそうだったけど、王都も仕事がない子供がたくさんいるのか。
「うん。
君は?」
「ヤジマ芸能では、字をただで教えてくれるって聞きました!」
「イレイスさんみたいになりたいんです!」
「仕事が欲しい!」
まあ、動機は色々だけど、本気だということは判った。
「よし。
では、ここにいる者はとりあえず『仮登録』とする。
どういうことなのか、聞いているか?」
最初に何でもやると言った少女が答えた。
「はい!
最低賃金がいただけて、字を教えて貰えると」
「それだけじゃないぞ。
命令に従わなかったり、サボッたりしたら即首だ」
「もちろんです。
あたしたちも、世の中甘くないことは判っています」
凄えな。
北聖システムに入社するときの俺より、覚悟が出来ているんじゃないのか。
改めて見回すと、そこにいる少女たちは全員、食い入るように俺を睨み付けていた。
怖いよ!
気を抜くと、こっちが凹まされそうだ。
「まだ『仮』だからな。
ヤジマ芸能はやる気がない奴は雇わないが、やる気だけでも駄目だ。
将来的に実績を上げられると、俺を納得させろ!
字を覚えるとか、生活費が貰えるというだけでのんびりやろうなどと考えている奴がいたら、即首だ!」
「はい!
プロデューサーさん!」
またかよ!
実際には何と言っているのか知らないけど、俺の脳が魔素翻訳による呼び名を固定してしまったんだろうな。
もうそれはいいや。
それより問題は、これからどうするかだよなあ。
何も考えてない。
こんな早く、人を集められるとは思ってなかったんだよ。
でも考えてみたら、アレスト市と同じで職も金もなくて字を覚えたい人はいくらでもいるんだろうな。
そんなおいしい条件で募集したら、すぐに集まるよね。
まあいいか。
とりあえず入舎試験だ。
「イレイス、この子たちは動けるんだな?」
「はい」
「ならばテストだ。
君が先頭に立って、ヤジマ芸能の回りを走ってこい。
そうだな。
とりあえず十周だ。
始め!」
鬼畜だ!
俺だったら、この時点でヤジマ芸能辞めるよ!
だが、誰も疑問には思わなかったようだ。
「じゃあ、行くよ!
ついてきて!」
イレイスちゃんが叫んで走り出すと、少女たちが続いた。
このくらい、当たり前なのか?
「それはそうですよ。
あんなにおいしい条件を並べられた後なら、何を命令されても従います。
イレイスはちゃんと考えてますね」
ジェイルくんが言ってきた。
「何を?」
「メンバーの選定ですよ。
トムロたちから聞いたんですが、最初に職がない人という条件で集めたそうです。
まあ、昼間に広場にいるような子は基本的にはそうなんですが。
それでいて、一応両親が揃っていてとりあえずまともに生活できている者を選んだと」
「どうやって調べたんだろう」
「服を見れば判るそうです。
家庭が乱れている者は、汚れたりほつれている服を平気で着ているそうで。
これは私も知らなかったので、経験しないと判らないことなのでしょうね」
そうか。
そういえば、シイルたちもそうだったもんな。
青空教室に集まった子供たちは、みんな貧しかったけどきちんとした格好をしていた。
礼儀正しかったし。
そういう、ソフト面でのサポートを受けられない子供は駄目なのだろう。
いずれはそっちの子も助けたいけど、今はその余裕がない。
ていうか、ホトウズブートキャンプで鍛え直したのは、そういう連中だったっけ。
ちょっと思いついたので言ってみる。
「ジェイルくん。
こっちでも舎員食堂が出来ないかな」
「ほう。
なぜでしょうか」
「アレスト興行舎でも、給料払ったり字が覚えられたりということより、昼飯が出るという事実が大きかった気がするんだよね。
ヤジマ芸能に登録すれば、あるいは『小学校』に入れば飯が出る、というのはインパクトがあるんじゃない?」
ジェイルくんは頷いて、大きく微笑んだ。
「さすがマコトさんですね。
思いつきませんでした。
すみません」
「いや、これって事業とは関係ないし。
俺の我が儘みたいなもんだから」
「それでも非常に有効と思います。
やりましょう。
ソラルさん」
「はい。
早速今日からですね?
今から作っていたのでは間に合わないので、仕出しを入れます。
明日からは、アレスト興行舎方式で。
それでよろしいですか?」
「許可する。
トムロとテムを使っていいから」
打てば響くなあ。
このコンビ、マルト商会の会長の片腕と跡取り娘だからな。
有能さは証明済みだ。
予算についても、いいようにやってくれるだろう。
俺はそういうのには関わらない。
何もできないしな。
俺の借金が飯代くらいで目立って増えることもないだろうし。
ソラルちゃんがトムロたちを呼び出して何か指示しているのを見ていると、ドアから女の子が続々と入ってきた。
最後にロイナさんがドアを閉めて、俺たちの前に整列する。
入れ替わりにソラルちゃんたちが出て行ったけど、まあ関係ないか。
「ロイナ組、着替えてきました!」
うん、見れば判るよ。
全員、動きやすそうな服になっている。
化粧も落としてきたようで、かなり幼い顔も混じっていた。
ロイナさん自身が素朴なイメージの少女になっているな。
そして、他の娘たちは全員、ロイナさんと同世代かその下だ。
イレイスちゃんのグループとは、かろうじて被らないか。
何か某アイドルグループのメンバーと研修生みたいだな。
いや、俺もよく知らないけど。
「よし。
それでは条件を言うぞ」
俺は、それからイレイスちゃんのグループにしたのと同じ内容を話した。
結果も同じだった。
誰も立ち去ろうとはせず、大半がより熱意を込めて野望を語ったのにはちょっと驚いた。
ロイナさんのグループの人たちは、ある程度ヤジマ芸能で仕事するというか、アーティストとして立つことについての覚悟や方向性をより強く持っているようだ。
つまり、本格的な仕事として考えている。
年長組だから、将来の希望がはっきりしているんだろうな。
いいね。
「では、君たちにもイレイスたちと同じ事をして貰う。
ロイナ、駆け足!」
「判りました!
行くわよ!」
「「はい!」」
スポ根ものかよ!




