表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第四章 俺がプロデューサー?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

246/1008

5.一期生?

 第一次審査の合格者は、まず整理券番号をヤジマ芸能の事務所前に張り出した。

 文盲の人も多いので、合わせて合格者名を呼ぶ。

 これは審査するときに聞き出した。

 その上で、自己申告で名乗り出て貰った。

 ハマオルさんの忠告で、偽物が入り込むのを防ぐためだったんだけど、案の定受験者じゃない人が何人も見つかった。

 聞いてみたら、合格者から整理券を金で買い取ったらしいんだよね。

 売った人にはいい小遣い稼ぎに見えたらしい。

 合格出来た実力がある自分なら、次のオーディションでも受かるだろうから、とりあえず整理券を金に換えればいいやということで。

 もちろんそいつらはブラックリストに載った。

 もう一生、ヤジマ芸能では雇うことはない。

 そのリストも張り出した所、反省していますから許してくれという奴が泣きついてきたけど、これはハマオルさんが追い返した。

 そんなの当たり前だろう?

 ビジネスは信用が第一だ。

 そういう趣旨のことを宣言した上で、第二次審査を行うことにしたのだが、その前に一次審査の合格者全員に「登録」と告げた所、驚喜された。

 元からヤジマ芸能にいた人は、実は大部分が一次審査に受かっていたので、条件は変わらない。

 もっとも一次審査に落ちた人でも引き続いて在籍はできるので、その人たちはラッキーだな。

 まあ、先行者利益ということで。

 先行きは不明だけど。

「間違いないで貰いたいんだけど、これは単にヤジマ芸能に『登録』されるだけだ。

 すぐに仕事があるとか、ヤジマ芸能が営業を支援するとかではない。

 最低限の生活費は出すけど、第二次審査に受からなければ本格的に売り出されるわけではないから」

 そう言ったんだけど、そんなことはどうでもいいらしい。

 オーディションにとりあえず「受かった」ということ自体が感激だということだった。

「俺たち、今まで断られてばかりで」

「しかも実力を審査されたわけでもなかったんですよ!」

「コネがないだけでハネられないなんて、始めてなんです!」

 この人たち、今までよほど不採用通知を受け取り続けていたみたいだな。

 俺も就活で似たような経験があるから判るけどね。

 まだ本採用じゃないんだけど、少なくとも頭から否定されなかった、という事実だけでも嬉しいのだろう。

 さらに言えば、前のセレス芸能では「来る者は拒まず」だったので、実力を評価されたわけではないのが逆に不満だったらしい。

 人間、どの時代どんな世界でもそういう心は同じか。

 まあそういうことで、次の審査では「何をやりたいか」を自分なりに宣言した上で、それについて実演して貰うことにした。

 実は苦肉の策で、今のヤジマ芸能にはそもそも芸能関係のノウハウ自体がない。

 本格的な芝居なんかは出来ないし、アイドルにしても俺のアニメやゲームのあやふやな記憶だけでは動きようがないわけだ。

 だから、アーティスト自身のスキルを何とか活用できないものかと思ったんだけどね。

 これは失敗だった。

 当たり前だ。

 人間、自分のやりたいことがはっきり判っている人なんて、ほとんどいないんだよ。

 しかも、やりたいことが得意とは限らない。

 3日間ですべての候補者について審査を行って、俺とジェイルくんは再び頭を抱えることになった。

 バラバラだ。

 方向性がない上に、正直すぐにでもセルリユでプロとして通用する人はごくわずかしかいない。

 いや、上手い人は多いんだけど、それって今までの芸能活動的に上手いだけで、それだったら出て行ってしまった人たちの方が上なのだ。

 そのままでは、多分負ける。

「やはりここは、マコトさんが考えている方法でやるしかないのでは」

 ジェイルくんがそう言うので、俺は俺の目から見て「ひょっとしたら、やれるんじゃないの?」と感じた人たちに集まって貰った。

 まずロイナさん。

 もと旅芸人の女優で、ハマオルさんの知り合いだけど、歌・踊り・演技を満遍なくこなせる。吟遊詩人の真似事までできるのだ。

 どちらかというと幼い感じの美少女だけど、化粧すると驚くほど大人っぽくて色っぽくなるという、俺の(アイドル像の)理想に近い人だ。

 次にサマトくん。

 楽士の弟子だった演奏家で、大抵の楽器はこなせる上にイケメンだ。

 軽業師のイレイスちゃんは小柄な美少女で、年齢も中学生になったばかりというところか。

 この三人はもともとセレス芸能にいて、ヤジマ芸能に残ってくれた人なので、信頼できる。

 オーディションで目についた人としては、レムリさんというおっとりした美人、この人は歌手だ。

 あとアイムと名乗った女性。自分で吟遊詩人の落ちこぼれと言っていたけど、即興で話を作る能力が素晴らしかったので来て貰った。

 とりあえず、この5人を一期生の二次審査合格者として本採用すると告げたのだが、5人とも頷いただけで、歓喜するというようなことはなかった。

 なぜ?

「まだ稼げると決まったわけではないので。

 むしろ、ご期待を頂いた分緊張が増しました」

 ロイナさん、プロですね。

「今まで伴奏しかやったことがないので。

 ソロと思うと自信が」

 サマトくん、ソロでやる気なの?

「あたし、軽業しか出来ませんよ?

 それにこのメンツ、バラバラで何をするのか」

 イレイスちゃん、君は軽業が出来るじゃないか。

「あたくしは歌えればそれで」

 レムリさんが一番強気というか、落ち着いていていいな。

「……」

 アイムさん、吟遊しないでいいですので。

 集まって貰ったはいいけど、見事に共通点がない。

 それに、こっちの世界のアーティストの悪い癖で、自分から何かやろうという気がなさそうだ。

 まあこれは仕方がないわけで、こっちの世界では職業に関わらず、基本的には上が命じたことを下の者が淡々と行う、というスタイルなんだよね。

 師匠が命じて弟子が従うという方法論が蔓延していて、独り立ちしていない人は自分からどうしたい、ということを言わない。

 だけど、それじゃ困るんだけどなあ。

 でも仕方がないか。

 まあ、最初は背中を押されて始めるのはよくあることだし。

 それに、この5人は技術や技能は十分にあるのだ。

 舞台さえ整えば、やれるはずだ。

「改めて自己紹介すると、俺が君たちを任されたマコトだ。

 指導役、いや上司だと思ってくれ。

 とりあえず、俺が命じたことをやってくれればいいから。

 あと、判らないことがあったら遠慮なく質問して欲しい」

「「了解しました」」

 全員、異論はないようだ。

 良かった。

「マコトさん、でいいですか」

「いいよ。

 逆に『様』なんかつけて呼ぶなよ」

 俺がヤジマ芸能のオーナーだということは秘密だ。

 ヤジマ芸能の舎長はジェイルくんということになっている。

 アレスト興行舎の王都出張所長兼務で。

 俺が近衛騎士だということは、誰にも言ってないからバレてないと思う。

 近衛騎士として会っていたのはタリさんだけだしね。

 ジェイルくんの提案で、ひとまず俺が現場指導することになったんだけど、それがオーナーだったらやっぱりお互いに気まずいだろうということだ。

 そりゃそうだよね。

 親会社の会長が自分の上司になったりしたら、現場はやってられないよ。

 でも、新生ヤジマ芸能のコンセプトをそのまま実行できるのは俺しかいないからなあ。

 ていうか、失敗したら責任とらされるのも俺だし。

 というわけで、俺はプロデューサーとしてこの人たちを指揮しないといけないんだけどね。

 正直、何をしていいのか判らん。

 だが何かをやるしかないわけで。

 ジェイルくんもハマオルさんも無表情で黙っているだけだし、仕方がないか。

「君たちはヤジマ芸能のアーティストとして、新しいことをやって貰う。

 時にはユニットを組んで活動したり、グループで演って貰うこともあると思う」

 早速ロイナちゃんが手を上げた。

「質問です」

「どうぞ」

「ユニットって何ですか」

 ああ、そういう概念がまだこっちにはないわけね。

 日本でも新しい概念だったっけ。

 概念がないんだから、魔素翻訳では伝わらないことになる。

「それぞれ別の事をしているアーティストが、一時的に組んで活動するときの呼び名だよ。

 例えば歌手のレムリと楽士のサマトが一緒に舞台に上がるとかね」

「あたくしと、サマトさんがですか?」

 レムリさんが首を傾げた。

「ああ、楽器の演奏をバックに歌手が歌うんですね」

 サマトくんの方は、劇場(こや)で演ったことがあるだけに判っているようだ。

 ってことは、こっちの歌手って基本アカペラか?

「でも、そういうのって劇中歌というか、大きな流れの一部なのでは」

「その部分だけ切り取って、舞台で演ると思ってくれればいい。

 それをメインにして活動するわけだ」

「……なるほど」

 サマトくんは納得してくれたようだけど、残りの人たちは顔が? のままだった。

 先が思いやられる。

「てことは、あたしらもユニットとやらでやるわけですか?」

 イレイスちゃんが焦って聞いてきた。

「いや、そうとは限らない。

 これからじっくり、その辺を詰めていこうと思う。

 いいな?」

「「判りました!

 プロデューサーさん!」」

 それかよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ