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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第四章 俺がプロデューサー?

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1.スタッフ?

「なるほど。

 ここが最初の校舎になるわけですか」

 ジェイルくんが感心したような声を出した。

 むしろ呆れているのかも。

「せっかくでかい建物があるんだからね。

 当分、公演は出来ないだろうし」

 セレス芸能、じゃなくてヤジマ芸能の劇場(こや)は、改築工事の真っ最中だった。

 いや撤去工事と言った方がいいか。

 座席を取り外して運び出しているのだ。

 作業しているのは、本職の大工さんたちを除けば全員がもとセレス芸能、今はヤジマ芸能の舎員たちだ。

 文句もあるだろうけど、全員黙々と働いている。

 公演をやらなくても給料は払う、と言ったのが効いているな。

 しかも固定給だ。

 今までは歩合制というか、売り上げの一部を分配する形だったので、ひどい時には無配ということもあったらしい。

 それでもみんな芸能が好きなので、よそでアルバイトしたりして凌いでいたという。

 そのあたりは日本と同じだな。

 いつの時代、どの世界でもアーティストは大変だ。

 当たればでかいんだけどね。

 そんな人は宝くじに当たるより少ない。

 でもみんな夢をみて頑張るのだ。

 だから、とりあえず生活が安定したことで今はおとなしくしているけど、これでいつまでも公演をやらないと、また反乱が起こるだろうな。

「でも、いつかは公演を再開するんですよね。

 そのときはまた席を作るんですか?」

「いや。

 多分だけど、もう座席はいらないと思う」

 想定しているのは立ち見だ。

 その方が大量の人を収容できるし。

 ていうか、俺の妄想なんだけどね。

 俺だって必ずうまくいくと思っているわけじゃないけど、これまで通りにやっていたら駄目なことは判っているんだし。

 だったら博打を打ってみるのもいいんじゃないかと。

 失敗してもいいというのが俺のモチベーションだ。

「さてと。

 じゃあスタッフを揃える算段をしようか」

「スタッフですか」

 ジェイルくんが首を傾げている。

 セレス芸能は、これまできちんと公演をやっていたのだ。

 スタッフなら揃っているはずだと言いたいのだろう。

 だけど、俺の考えているやり方には不十分なんだよね。

 それに、今までいた裏方の大半も出て行ってしまったしな。

 いずれにしても、人員の補充は必須だ。

 俺とジェイルくんは、ヤジマ芸能の事務所に戻ってソファーで向かい合っていた。

 フレアちゃんとサリムさんはキディちゃんと一緒に猫喫茶の件で店舗予定地を見に行っているし、ヒューリアさんは別件で出張中だ。

 ソラルちゃんもアレスト興行舎の方で何か用事があるとかで、ここにはいない。

 珍しくジェイルくんと二人きりだなと思ったら、視界の隅にハマオルさんが見えた。

 さりげなく、俺の見えるか見えないかの位置にいるんだよね。

 あの距離ならおそらく一瞬で詰められるんだろうな。

 帝国の護衛って凄い。

「人集めということは、ギルドですか」

 ジェイルくんが七つ道具のメモ帳を取り出しながら聞いてきた。

「いや、今回はハローワークを通すとうまくいかないと思う」

「直接は難しいと思いますよ。

 ハローワークでも、ギルド経由でないと募集は出来ないんですが」

 厳しいなあ、こっちの就職は。

 俺も経験したから知っているけど、こっちのハロワって日本のとは機能的に違うのだ。

 日本の場合、募集要項が掲示されて、就職したい人がそれを見て希望することになっているんだよね。

 つまり、原則としては誰でもどんな職にも応募は出来る。

 受かるかどうか、というか受け付けて貰えるかどうかは別だけど。

 しかし、こっちのハロワって就職希望者側からのえり好みが出来ないのだ。

 ハロワがやるのは、希望者の条件を聞いてリストに載せることだけだ。

 それも「何をやりたい」じゃなくて、「何が出来るか/実績があるか」という条件で。

 こっちの世界では徒弟制度が行き渡っているせいで、素人を採用してから研修という方式がほとんどない。

 そもそも学校がないので、新卒採用などあり得ない。

 警備隊とか騎士団みたいな実践的な技能を磨き上げていく職すら、最初にある程度の技能がないと採用されない。

 まして民間団体やギルドの場合は、日本で言う中途採用というか即戦力としての採用しかしないことになっている。

 しかも採用はコネだ。

 ハロワの役目というのは、何のコネもない人にギルドというコネをつけてやる程度の効果しかないことになる。

 だから、今までにない技能や雇用者が必要としていないような能力を持っていても、そういう人たちは最初からハロワの対象外になってしまう。

 いや、多分登録はできるだろうけど、いつまでたっても誰からも声がかからないだろうな。

「つまり、マコトさんが望んでいるのはハロワに登録されていないような人ということですかすか?」

 ジェイルくんが、額に手をやりながら言った。

 呆れているんじゃなくて、何か考えているらしい。

「そうなるね。

 例えば、芸能の技能者を募集しても俺が求めている人材は集まらないと思うんだ。

 それに、多分そういう人たちには既存の業者からの通達が行っているんじゃないかなあ」

「それもそうです」

 ジェイルくんが渋い顔になった。

 旧セレス芸能の俳優たちが出て行った後、それとなく調べてみたら、どうも王都の芸能関係者に対して「ヤジマ芸能に協力するな」という指示が出ているらしいことがわかったのだ。

 その指示を出したのは、王都の芸能組合みたいなところらしい。

 もっともこの組合の構成員は芸能関係者じゃなくて、既得権益者つまり企業だ。

 大手の芸能団体が組んで作っているようで、つまりそこに睨まれたら芸人や俳優は王都で何も出来なくなってしまう。

 昔のヨーロッパの組合(ギルド)のようなもので、自分たちが認めた者にしか、仕事が出来ないようにしているのだ。

 ヤジマ芸能に残ってくれた人たちは、実はその時点でアウトになってしまっている。

 まあ、どっちにしても俳優や芸人としては食っていけない人たちなんだけど。

 だからとりあえず生活を保障してくれるヤジマ芸能に留まっていてくれているわけで、俺たちには大変な責任がかかってきてしまっている。

 彼らを見放したら、のたれ死にしてしまうかもしれない。

 現実は厳しいよね。

 こんなラノベあったっけかなあ。

 確かに芸能事務所を運営するような話はいくつか思い出せるけど、みんな超絶美少女だとか完璧なタレントを有する主人公のプロダクションのサクセスストーリーばかりで、今の俺みたいに売れない芸人を大量に抱えて進退窮まっているような話はなかったと思うけど。

 ジェイルくんがニヤッと笑った。

「……なるほど。

 判りました。

 で、どのような人材をお望みですか?」

 何笑っているの?

「思い出したんですよ。

 シイルたちを集めたときも、そうでしたね。

 マコトさんは、普通の人なら思いもつかないような所から突破口を見つけてくる」

 いや、シイルたちの時はホントに偶然なんだけど。

 まあいいか。

「多方面から攻めるつもりなんだよね。

 今いる人たちの教育も並行してやるし」

「『小学校』をここで始めると」

「その芸能部門というか。

 もっとも、初等教育は共通にしようと思う。

 ヤジマ商会に所属する人は、最低限読み書きが出来るようにしておきたいんだよ」

 もともとは警備関係を強化するために考えた学校だけど、教官をハマオルさんたちだけに限定する必要がないことに気づいたんだよね。

 シイルたちは、絵本で基本的な読み書きを習うと後は自分たちで教え合って実力を伸ばしていったわけで。

 同じことが王都でも出来ないはずがない。

 芸能関係も同じで、例えば演劇にしても歌にしても、読み書きができるだけで全然違ってくると思うのだ。

「では、まず現時点でヤジマ芸能に留まっている人たちの選別ですか。

 読み書きできるクラスとそうでないクラスに分ける、と」

「単位制にしようと思っているんだ」

「単位、ですか」

「うん。

 アレスト興行舎でもそうだったけど、テストをして合格したら読み書きの実力があるとして採用していたよね。

 あれと同じで」

「なるほど」

 ジェイルくんの持つペンが目にもとまらぬ速さで動いている。

 いつ見ても凄いなあ。

「では、読み書きに合格した人たちは何を?」

「それは本業だろう」

 うん。

 無謀なのは判っているんだけどね。

 これしかないと思うんだよ。

 でも、自分では出来ないから探さなければ。

 教える人を。

 無理?

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