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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第三章 俺がベンチャー・キャピタリスト?

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21.インターミッション~ヒューリア・バレル~

 実を言えば、シルレラとはずっと連絡を取り合っていました。

 皇弟殿下が亡くなった後、命を狙われたシルレラの失踪の手引きをしたのもバレル家です。

 バレル家が用意した船で密かに海に出て、直接この王都セルリユに着いたシルレラは、しばらくバレル邸に滞在していました。

 私はその時すでに「学校」に通っていたのですが、出来るだけ時間を作って一緒に過ごしたものです。

 シルレラは、昔より遙かにかっこよくて凛々しくなっていたこと以外は変わっていませんでした。

 私が幼い頃に憧れた王子様(違)のままでした。

 その後シルレラは世界を観てくると言って旅立ち、あちこち回ったようですが、結局はアレスト市で冒険者のチームに落ち着きました。

 そんな仕事がシルレラに合っているとも思えませんでしたが、シルレラなりに考える事があったのでしょう。

 バレル家は状況に応じてシルレラをサポートしつつ、特に干渉はしない形で過ごしてきました。

 私だけでなく、バレル家はシルレラおよび亡き皇弟殿下には返そうとしても返しきれない恩があります。

 ですが、ただそれだけで無条件でシルレラを援助するわけではありません。

 バレル家は商家で、商家は何らかの利益がなければ動かないからです。

 もちろん、シルレラ自身に何の価値もなかったとしても、バレル家はある程度の援助はしたでしょう。

 しかし、それはせいぜいどこかに匿うといった程度で納まったはずです。

 さらに言えば、将来的にもし禍根を残すようなら切り捨てることも選択肢にあったでしょう。

 お父様は、そのくらいの決断はする人ですから。

 では、なぜフレアのような火種以外の何物でもない皇女殿下を預かることになったのか。

 簡単です。

 アレスト興業舎が存在していたからです。

 正直、シルレラの名前だけでは駄目でした。

 帝国の皇族名簿に名前が載っているとは言っても、シルレラ自身は何ら後ろ盾のない冒険者にしか過ぎません。

 というか、しばらく前まではそうでした。

 アレスト市にアレスト興業舎なるギルド関連団体が立ち上がり、シルレラがそこに移ったという話を聞いたのはいつ頃だったでしょうか。

 商人は情報が命です。

 しかもバレル家は、主に帝国とソラージュ間の貿易で利益を出しているのですから、その流通の要であるアレスト市で何が起きているのかは、常に把握しておく必要があります。

 アレスト興業舎の活動を注視していたのは、バレル家だけではありません。

 目端の利く商人や大貴族なら、ギルドを通じての情報収集に余念がないのは当然です。

 中には直接、諜報員(スパイ)を送り込んだ所もあるかもしれません。

 アレスト興業舎は、一部では最初から注目の的だったのです。

 「傾国姫」が「迷い人」を保護したというか、配下に加えたという情報は、ソラージュの目端の利く一部社会を震撼させました。

 どちらも、単体では商業的にはそれほど注目するべき存在ではありません。

 ですが、その両者が結びついたとなれば、商売の枠を越えて大事(おおごと)になる可能性があります。

 しかも、場所は帝国との国境に近い孤立した街。

 おりしも帝国には不穏な気配が漂い始めている。

 何が起こるかと戦々恐々とする我々や、そしてソラージュ上層部はさらに恐るべき事実を突きつけられました。

 アレスト興業舎が、尋常ではない発展ぶりを見せていたのです。

 まったく新しい形態の行楽施設の開業や、野生動物の雇用、さらに警備隊や騎士団にまでそれらを戦力として組み込むという、まさにパラダイムの移行を予感させる出来事が続けざまに起こっている。

 そして、その中心にはかの「迷い人」がいる。

 もっとも、それらの情報はソラージュのごく一部で囁かれているだけで、まだほとんど知られていません。

 商人はもちろん、貴族も情報の価値を知っているからです。

 情報を握った者は、決してそれを広めたりはしない。

 しかも、現時点ではまだアクションを起こすだけの判断材料がない。

 アレスト市という孤立した場所でのエポックであり、下手に動けば内実をさらけ出してしまう可能性もある。

 そのような膠着状態の中で、バレル家は独自に動きました。

 シルレラから連絡が届いたからです。

 何と、シルレラはアレスト興業舎において幹部の地位を占めることに成功し、かの「迷い人」とも近しい関係を築いているとのこと。

 それだけではなく、シルレラ自身が台風の目になりかねない状態になりつつあると。

 かつてシルレラが関係した帝国の軍人や官僚が、密かにシルレラの元に集結しつつあるというのです。

 暴走に近い状態ですが、それは逆にチャンスでもあります。

 バレル家は決断し、帝国皇女の亡命受け入れという賭けに乗りました。

 というより、気がついた時には断れない状況になっていたのですが。

 シルレラは相変わらず(したた)かです。

 もちろん成算はありました。

 帝国皇女の亡命は、当然ですがソラージュ王政府の知る所になります。

 とりあえずは帝位からは遠い皇女とはいえ、現皇帝陛下の血の繋がった姪という皇族なのです。

 そんな大事(おおごと)を秘密に進めることなど、できるはずがありません。

 ストップがかからなかったということは、王政府も認めている、というよりは黙認するというサインでしょう。

 つまり、バレル家は王政府公認というか、非公認の事業を行うことになるわけです。

 王政府に恩を売り、シルレラに恩を返すチャンス。

 さらに、噂の「迷い人」とお近づきになる絶好の口実が出来る。

 タイミング良く王政府が「迷い人」に対して召喚命令を発し、彼は王都に来ることになりました。

 さらに運が良いことに、シルレラからは妹をその「迷い人」の保護下に移すように、という要請が来たではありませんか。

 ここは打って出るべし。

 フレアを誘導、といっては言葉が悪いですが、うまくその気にさせてインパクトのある出会いを演出し、「迷い人」と接触させる。

 バレル家は表にでることなく、シルレラの要請も果たせる。

 それはうまくいったのですが。

 私がマコトさんに会ってしまったのが運の尽きでした。

 恥ずかしくて死にそうでした。

 色々と工作したことがマコトさんにバレたら、生きていけません。

 すぐさまとって返し、お父様に方針変更を直言しました。

 何を馬鹿な、と最初は相手にしてくれなかったお父様は、マコトさんに会わせるとすぐに方針を変えて全面的なバックアップを約束してくれました。

 それからは、誠心誠意尽くすしかありません。

 ヤジマ商会の屋敷は、実はすでにバレル家が買い取って寄贈する形で、非公式ですがヤジマ商会つまりマコトさんの所有になっています。

 維持運営費はアレスト興業舎持ちですが、バレル家もヤジマ商会への資本参加がかなったので、とりあえずは良いでしょう。

 バレル家はたかが男爵家ですが、資金力はなかなかのものですし、王都における地盤もあります。

 言わばホームグラウンドですから、ララネル家やミクファール家を向こうに回しても、決して引けを取るものではありません。

 さらに駄目押しとして(ヒューリア)がヤジマ商会に就職し、マコトさんのおそばに仕えるという賭けにも勝ちました。

 強引すぎる勝負でしたが、人の良いマコトさんなら勝算ありと踏んだ私は、やはり黒いのかもしれません。

 お許しを。

 ということで、大きなアドバンテージを得た私ですが、油断は出来ません。

 意外なことと言えば、王太子殿下がマコトさんにラミット勲章を授与しました。

 そこまでマコトさんを信頼するとは。

 いえ、やはりミラスもマコトさんに取り込まれてしまったと考えた方がいいでしょう。

 もっともミラスは策士ですから、それを利用して何か手を打ってくる可能性があります。

 油断は出来ません。

 さらに、今はアレスト市にいる「学校」の元仲間達もいずれは王都に出てくるでしょう。

 「略術の戦将」や「完璧(ザ・パーフェクト)」は、すでにマコトさんを取り込んでいる/取り込まれているはずです。

 マコトさんとは、それまでに彼女たちに匹敵する親密さを成立させておかなければなりません。

 特に注意すべきはシルレラです。

 いえ、「傾国姫」が最も恐るべき存在である事は間違いないのですが、それはもう仕方がないわけで。

 アレは規格外ということで、私の相手とは思っておりません。

 それよりはシルレラです。

 私にとっては、彼女と競えること自体が勲章と言ってもいい。

 さあ、シルレラ。

 かつての子分の成長ぶりを見せて差し上げますわよ! 

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