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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第三章 俺がベンチャー・キャピタリスト?

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20.見切り?

 ジェイルくんは、チッチッと舌を鳴らした。

 マジでジェイルくんの性格が変わっている!

 こんな男じゃなかったのに!

 すると、ジェイルくんは照れたように笑ってきちんと座り直した。

「いや、ちょっとワルぶってみましたけど、難しいものですね。

 止めます」

 良かった。

 どうしようかと思った。

「それで、タリさんは何を?」

「私の想像ですが、多分合っていると思います。

 セレス芸能の譲渡は本当です。

 負債を解消したことで、財政的には健全。

 ですが、赤字体質であることは変わってません。

 このままいけば、損失が出るばかりです。

 しかもおそらく、タリはセレス芸能に属している人たちにも手を回しているでしょう」

 ?

 意味が判らない。

 それはそうとして、タリさんの呼び方が呼び捨てになっているぞジェイルくん。

「ヤジマ商会がオーナーになった途端、主要メンバーが脱退するはずです。

 劇場(こや)で上演されていた劇に出ている人たちが、軒並みついていけないとか言って」

「それは、ヤジマ商会というか俺が、こういう業種の経営について素人だから?」

「そうですね。

 それもありますが、おそらく事前にタリから言い含められているでしょう。

 オーナーが元に戻ったら、もっと好条件で受け入れると」

 オーナーが戻る?

 タリさんに?

 ……ああ、そうか。

「なるほど。

 主要メンバーが抜けて、今まで通りの営業すら出来なくなったセレス芸能は機能停止。

 俺たちは素人だし、アレストサーカス団の成功経験があるといっても、王都では通用しない、と」

「はい。

 しばらくは足掻くでしょうが、どんどん損失が積み上がって嫌気がさしたところに、タリの息のかかった誰かが買い取りを持ちかけてくる。

 もちろん、思い切り値切ってです」

「で、ヤジマ商会は損失を出して撤退。

 タリさんは元のさやに収まると」

 絵に描いたような陰謀だな。

 損をするのは俺だけだ。

 タリさんも俳優の人たちもめでたしめでたし。

「それだけではないでしょう。

 いらない人たちを切ることも出来ます。

 かくしてリストラにも成功する」

「ああ、そういうことね。

 こないだ会ったハマオルさんの知り合いのロイナさんみたいな人も切れるわけだ」

「はい。

 かつてのセレス芸能は来る者は拒まずでやってきたようですが、今やそれが重みになっています。

 稼げない芸人や俳優を抱えて、でも今更切れない。

 そんなことをしたらセレス芸能の名が地に落ちるどころか、タリは王都にいられなくなりますから。

 でもいったんオーナーが変われば、問答無用で不必要な部分を切り捨てられます」

 うーん。

 ありそうというか、多分正しいんだろうけど。

 何より全部合法的なのが凄い。

 こっちに俺しかいなかったら、成功していたかもね。

 まあ、俺だけならそもそもセレス芸能なんかには関わらないけど。

 でも、ヤジマ商会は俺だけじゃない。

 ジェイルくん(とユマ閣下)がいる。

 それだけで、万が一にも敗戦はあり得ない。

 「略術の戦将」って、そういうことか。

 ユマ閣下を味方に出来なかった方が負けるんだな。

「あ、うん。

 大体判った」

「それは良かった。

 で、どうします?

 名前を変えますか?」

 こだわるなあ。

「いいんじゃないの?

 ジェイルくんの言うとおり、もうセレス家とは関係ないんだし」

「判りました。

 では『ヤジマ芸能』で登記し直しておきます」

 どうでもいいけどね。

 疲れた。

 自由にやってよ。

 数日後、ようやくすべての譲渡手続きの完了を確認した俺は元セレス芸能、今はヤジマ芸能を訪ねた。

 ジェイルくんやヒューリアさん、ソラルちゃんにキディちゃん、それに好奇心いっぱいでくっついてきたフレアちゃんなどヤジマ商会の幹部一同も一緒だ。

 それ以外にもハマオルさんやサリムさんたち護衛や、給仕じゃなかった御者の小僧を含めたアレスト興行舎の王都出張所職員も含めた大部隊が揃っている。

 これは舐められたらアカン、というヒューリアさんの意見に従った結果だったが、元セレス芸能に所属する俳優や芸人の皆さんたちの反感を増大させる結果になってしまった。

 芸能のことなんか全然判ってないよそ者が乗っ取りに来た、と誤解されたらしい。

 ジェイルくんが「オーナーが変わったので」という趣旨の宣言をした途端、前の方に並んでいた俳優の人たちが文句をつけてきた。

 曰く、素人に劇場(こや)の経営など出来るはずがない。

 曰く、タリさんをどうした。

 曰く、金に任せて俺たちを支配できると思ったら大間違いだ。

 面倒なので自由にしゃべらせておいたら、シナリオ通りにいかないことに苛立ったのか、リーダーらしい中年の俳優の人が宣言した。

「我々はセレス芸能のアーティストである!

 ヤジマ芸能などという、訳のわからない団体に所属することは断る!」

 こっちでもアーティストっているんだ、とかぼんやり考えていると、ジェイルくんが進み出て言った。

「それは残念です。

 こちらも、無理に引き留めようとは思いませんので出て行きたい方はご自由に」

 それ、挑発だから!

 ジェイルくん、いつの間にそんな恐ろしいスキルを身につけたんだ?

 リーダーの俳優さんは引っ込みがつかなくなったのか、決然として門から出て行ってしまった。

 続いて、主要メンバーらしい人たちが出て行く。

 全体の半分くらいがいなくなったところで、ジェイルくんがさらに挑発した。

「もういないんですか?

 ヤジマ芸能では、これまでとは違った方法で経営を行います。

 皆さんのスキルも役に立たないかもしれません。

 適応できない人は、辞めてもらうことになりますよ」

 それで、残った人たちのさらに半分が出ていった。

 閑散としてしまった庭を眺めながら、俺は別の心配をしていた。

 出て行った人たち、これからどうするんだろう。

 タリさんの話では、今更別のことが出来るほどのスキルはないはずなんだけど。

「……ひとつ、聞いていい?」

 突然声が上がった。

 聞き覚えがある。

 そう、ハマオルさんの知り合いだった女優のロイナさんだ。

 後ろの方にいた彼女は、つかつかと前に出てきてジェイルくんと向き合った。

 化粧を落とすと、美人というよりは可愛いタイプの美少女だった。

 歳も思ったより若くて、キディちゃんやソラルちゃんと同世代かな。

 栗色の髪に茶色の瞳という、平凡な配色ながらむしろ落ち着いた魅力を放っている。

 もっとも今は、緊張のせいか表情が硬い。

「何でしょうか」

「聞きたいことは二つ。

 あたしたちは何をさせられるのか。

 そして、生活の保障はしてくれるのか」

 ロイナさんの後ろにいる人たちが大きく頷くのが判った。

 その大半が、まだ若い少年少女だ。

 つまり技術や芸が未熟で、ここ以外ではやっていけない人たちなんだろう。

 セレス芸能ですら、上演していたような劇には脇役でしか出演できないクラスだ。

 出て行きたくても出来なかった人たちだね。

 ジェイルくんは頷くと、俺に向けて大きく手を振った。

「それについては、これからヤジマ芸能の現場を担当されるマコトさんからお話があります」

 え?

 俺?

 いきなり無茶ぶり?

 みんなの目が一斉に俺に注がれる。

 元セレス芸能の皆さんだけでなく、後ろのアレスト興行舎の人たちも俺に注目しているようだ。

 こっちは興味津々だけど。

 セレス芸能組からは不安が伝わってくるな。

 「誰?」とか「現場担当って?」とかの囁き声が聞こえる。

 正体はバレてないか。

 それもそのはず、こっちの世界には写真のたぐいもないし、名前を聞いただけではおいそれとは確定できないんだよね。

 ヤジマはこっちでは珍しい家名だけど、マコトって何かよくありそうだし。

 だからヤジマ商会、つまりヤジママコト近衛騎士が新しいオーナーだと知っていても、今ここに平民の格好で立っている俺がそいつだとは、思いもよらないのだろう。

 貴族がお付きもなしに、そんなに簡単に出てくるはずがないという常識があるし。

 つまり、俺はここではただのマコトで通せる。

 さすがジェイルくん。

 俺は覚悟を決めて進み出た。

 しょうがない。

「ヤジマ芸能に赴任したマコトだ。

 これまではアレスト興行舎にいた」

 嘘じゃないよ。

 みんな真剣に俺を見ているが、気にしないようにして続ける。

「ところで今のロイナの質問だが、答えは簡単だ」

 ロイナさんがぎょっとしたように目を剥くのが見えた。

 まさか自分の名前を覚えられていたとは思っていなかったんだろうな。

 俺の特技、というよりはもう呪いを見くびって貰っては困るよ。

 一度でも会って聞いたことがある美人の名前は覚えるのだ俺は。

「生活費は保障する。

 儲けが出るまでは最低限度になるが」

 安堵と失望が混ざったような空気が流れた。

 そうだろうな。

「そして何をさせられるか、だが」

 俺は言葉を切って、みんなを見回した。

 うん。

 高齢者や中年はあまりいないな。

 何とかなるかも。

「まず学校に行って貰う」

 みんな、そんなに一斉に凍らなくてもいいんじゃないの?

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