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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?

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10.チーム?

 少しぼやっとしていたらしい。

 あ、あの、とソラルちゃんが焦って声をかけてきた。

「あ、ごめん。ちょっと考え事をしていた」

「はあ。それで、次はどこに行きましょうか」

 困ったな。

 考えつかない。

 まあ、ものは試しだ。とりあえず行ってみよう。

「冒険者っているんだよね」

「BOukeeNSHUw? あの、そのような職業はありませんが」

 え?

 ないの?

「おかしいな。あるって聞いたんだが」

「どんなお仕事なんですか?」

「いや……そうだな。魔物と戦ったり、盗賊を退治したり、ダンジョンを」

 いかん。

 俺のイメージの冒険者はそれか。

 そんなの、こっちにいるはずがないだろう!

 ラノベじゃないんだから。

「違った。そうだな。大組織に属さず、自由な立場で人の手助けをしたり、困難な仕事を代行したりする仕事かな」

「ああ、冒険者ですね。はい、そういう職業はあります」

 ややこしいな。

 俺の言葉は同じでも、ソラルちゃんに伝わる意味としては違ってくるわけか。

 そして、俺にはそのどっちも同じように聞こえる。

 気をつけないと何か、えらい誤解を受けそうだな。

「冒険者ギルドというのはあるの?」

「そういうものはないですね。チームを作ったり、個人がそれぞれ勝手に活動しているみたいで」

「じゃあ、その冒険者はどうやって仕事を受けるんだろう」

「ギルドからの斡旋とか、あとはコネですね。貴族や大手の商人が個人的に使っている場合もあります」

 ラノベとは違うらしい。

 冒険者が集まる酒場とか、依頼がたくさん貼ってある掲示板のあるギルドとかはないのか。

 つまり、冒険者という職業は、こっちでは相対的にそれほど大きな力を持っていないし、産業としての規模も大きくないということなのだろう。

 さらに言えば、こっちの冒険者って日本で言う日雇いバイトとか町の便利屋さん的な扱いに近い気がする。

 あるいは私立探偵とか。

 日本の場合、探偵も便利屋も別に免許もいらないし、誰にでもなれるし、料金も勝手に設定できるらしいしな。

 その代わり、何の保証もないし仕事にしくじれば干されてしまうけど。

「それに、冒険者といってもピンからキリまであって、大人数で組織的に活動しているところから、副業や職のない人が臨時でやっているものまで色々あります」

 ピンキリという用語もあるのか。いや、それに類することわざか何かが。

「そうか。じゃあ、冒険者になるというのは別に何の制限もないと」

「はい。そもそも自分が冒険者です、と名乗る人もあまりいませんね。食い詰めた人がやる仕事だと思われている節もありますし」

 ひどい言われようだな。

 ラノベに出てくる冒険者が聞いたら泣くぞ。

 冒険者登録をしたら謎な技術で作られたカードが貰えて、そこに今までの実績とかが自動的に記録されるとか。

 冒険者にはランクがあって、高ランカーの冒険者は国の偉い人と対等に話せるとか。

 冒険者のカードは万能の身分証明書だとか。

 ドラゴンを倒すと英雄になるとか。

 若者はみんな憧れているとか。

 そんなのは全部ないわけだ。

 さらに言えば、国やギルドから当てにされているということもない。

 ギルドから仕事を斡旋して貰えるらしいから、無視されているわけではないんだろうけど、業者のひとつとしてだろう。

 さらに言えば、他の業者の担当外の仕事や、微妙な要件を一手に引き受けていると。

 別名、おこぼれ拾いという。

 そんなものに、ランクなんかあるはずがない。

 日本というか、地球でもアルバイターや個人事業者にランクなんかないもんね。

 資本金や売上高、あるいは知名度とかである意味ランク付けはできるけど、それが評価に直結するわけでもない。

 あくまで業者なんだから、仕事の実績が一番。いい仕事をすれば、次にもいい案件が回ってくるわけで、それと同じだな。

 しかし食い詰めた人がやる仕事か。

 嫌だなあ。

 暴力的な仕事とか、回ってくるんだろうな。

 あと、間違いなく肉体労働系だろうし。

 あれ?

 だったら、災害時とかの対応では、冒険者ってのはどうなるんだろう。

 ラノベだと、万一の時には冒険者も強制的に動員されることになっている場合が多いけど。

「そういうことは、まずないと思います。あったとしても、まずは傭兵団に話が行きますから。その傭兵団が臨時で募集するくらいかと」

 だろうな。

 でも、また新しい言葉が出てきた。

 傭兵団。

 いるんだ、傭兵って。

 でも、戦争がないのにどうして?

「傭兵団は、騎士団や警備隊の手の回らない問題に対処するための組織ですね。ギルドにも加盟してますよ」

 それ、本当に傭兵?

 くわしく聞いてみたら、ソラルちゃんの言う「傭兵団」は、俺の認識だと「警備会社」に相当することが判った。

 なぜ警備会社と翻訳されないのかというと、文字通り傭兵だからだ。

 ソラルちゃんの認識では、ちょっとした警備もやるけど、荒事もこなすらしい。小規模の紛争とか、貴族同士の諍いがエスカレートしたあげくの合戦なんかにも、助っ人として参加することがあるとか。

 そういうのは、あるんだなあ。

 でも、めったにはないので、普段やっていることは俺の認識する警備会社そのものだ。魔素も翻訳に困っただろうな。

 そういえば、聞いたことがあるな。

 ヨーロッパやアメリカでは、民間軍事会社がプロの戦闘員を雇って、依頼国のかわりに戦争したりしているらしいけど、それと同じようなものなんだろう。

 俺の認識だと、確かに「傭兵」だ。

 冒険者が関わってくるのは、合戦の助力を請け負った傭兵団が、臨時で兵隊を集めるために冒険者を募集するときくらいらしい。

 まあ、戦国時代の足軽だな。

 よって、冒険者がいきなり傭兵団を指揮するとかは、まずない。

 冒険者といっても、チート能力があるわけではないし、一般人よりは多少暴力沙汰に慣れているくらいで、組織内で動くのはむしろ下手だ。

 だから、とにかく人数を集めるために呼ばれる場合がほとんどらしい。

 映画のモブ用のエキストラみたいなものか。

 ソラルちゃんは、説明を終えるとまじまじと俺を見て言った。

「冒険者に興味があるんですか?」

「いや、全然」

 誰がそんな危険で将来の見込みがなくて不安定な職業につきたがるか。

 もしやるとしたら、万策尽きてもう行き倒れるしかないという状況くらいだろうな。

 デスクワーク専門の俺が冒険者とか傭兵団なんか有り得ないだろう。事務仕事も出来ないし、警備や戦闘のスキルもないとしたら、やっぱあれか。

 盾役とか荷物運びとか。

 で、魔物が出たら生贄として放り出されて、俺がやられている間に他の重要なメンバーが脱出するんだよね。

 いや魔物なんかいないそうだから、有り得ないか。

 荷物運びはいるかもしれないが、盾役などという職種はまずないだろうな。

「じゃあ、冒険者が集まる場所とかないのかな」

 いや、気になるじゃないか。

 俺には関係ないとしたってさ。

 せっかく異世界に来たんだし、後学のために見ておきたいというか。

 あと、切羽詰まった時のために。

 考えたくないけど。

「冒険者が集まる場所……」

 ソラルちゃんは悩んだ。

 まあ、普通の生活ではほとんど関係がないからな。

 俺だって、いきなり「私立探偵が集まる場所」とか「街の便利屋さんがたくさんいる所」とか聞かれたら固まる。

 しばらく頭を抑えた後、ソラルちゃんは急に言った。

「あ、そういえば、冒険者のチームを知っています」

 可愛い。

 いや、頭を抑えて悩むって、漫画的な表現だと思っていたけど実際にやるんだ。

 これまでの人生で、女の子がそんなことをしているシーンなんか見たことなかったからなあ。それはつまり、女の子に縁がなかったということと同義だけど。

 そんな俺の葛藤を無視してソラルちゃんは続ける。

「ちょっと前、うちの会社で冒険者さんに臨時で仕事を依頼したことがあって、その時に知り合ったチームがあります。小規模だけど、信用できるチームらしいです」

 「うちの会社」って言った!

 俺の魔素の翻訳機能が更新されたらしいな。

 つまり、マルトさんの商会だか何だかは、俺の常識の中では会社になったわけだ。

 で、今言った冒険者さんは「チーム」だ。

 実に興味深い。

 魔素って、どうなっているんだろう。

 まあいいか。

「そのチームの人たちに会ってみたいんだけど、会える?」

「そうですね。この時間帯だと、誰もいないかもしれませんが、あまり遠くないので拠点に行ってみますか?」

 会社の所在地じゃなくて「拠点」か。

 ますます日雇い臭くなってきたな。

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