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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第三章 俺がベンチャー・キャピタリスト?

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16.資本提携?

 どういうことだ?

 まあ、話としては判らなくもないけど。

「ええと、つまり私というかヤジマ商会に、御社の経営に参加しろと?」

「資本参加でも提携でもよろしいのです。

 恥ずかしい話ですが、セレス芸能は資金繰りに行き詰まっておりまして」

 それからタリさんが語ったことは、日本でもよくある話だった。

 もともとセレス家は地方領主の家柄で、男爵家だそうだ。

 やっぱタリさんって貴族家の出か。

 王太子府でも、雰囲気に溶け込んでいたもんなあ。

 あの雰囲気は、平民では出せないよね。

 例えば俺とか。

 タリさんは三男で、実家が割合に裕福だったことから十分な教育を受けたが、これといって得意な分野というものがなかった。

 三男では爵位を継ぐ可能性は低いし、かといって役人として身を立てる気にもならなかったタリさんは、遺産相続の前渡しという形でまとまった資金を実家から引き出して、王都に出て商売を始めることにしたという。

 もともと芸能関係に興味を持っていたタリさんは、当時バラバラに仕事をしていた旅芸人や吟遊詩人たちをまとめてプロデュースすることを思いつき、そういった仕事をやっていた商人から権利を買ってセレス芸能を立ち上げた。

「最初はうまくいっていたのです。

 そういった事業を行っている者は他にはおりませんでしたし、わたくしが権利を買った商人も親から何となく相続しただけで、あまり本気になってはやっていなかったようで。

 一時は王都中の芸能関係者がみんな集まってきて、わたくしも調子にのって常設の劇場(こや)を立ち上げたほどでした。

 ですが」

「が?」

 ある時、人気の出た芸人や吟遊詩人たちが一斉にセレス芸能から脱退した。

 というよりは、引き抜かれたらしい。

 うまい商売になると踏んだ別の芸能関係の商人が、高給で誘ったということだった。

 セレス商会では特に決まった給与というものはなく、売上げから等分して出演者に払っていたので、売れっ子たちには不満が溜まっていたのだそうだ。

 それはそうだよね。

 トップアーティストが新人と同じ給料だったら、誰だって嫌気がさすだろう。

「人気のある人に多く払うということは、出来なかったんですか?」

「来る者は拒まずで、多くの芸人を使わざるを得ませんでした。

 もちろん、出演しない者には給与を支給しませんが、そうすると日々の生活にも困窮する者もおります。

 しかも、そういった者たちが別に下手だとか困りものというわけではないのです。

 わたくしは彼らを見捨てられず、人気がある者と組ませて出演させるようにしていたのですが、それが仇となってしまったようです」

 うーん。

 やっぱ貴族家のぼんぼんだなあ。

 殿様商売って奴?

 俺はもちろんIT企業のサラリーマンだったから芸能関係には詳しくないんだけど、そういうのをテーマにしたラノベとかアニメは結構見ていたからね。

 アイ○スとか。

 人気がすべて。

 駄目なら去るしかない。

 そういう世界だってことは聞いている。

 A○Bなんか、選挙までやっていたもんなあ。

 上位以外は切り捨てというか、少なくとも日が当たらない立場に追いやられる。

 ソラージュだって同じだろう。

 芸能関係の事業が流行らないのも、損益分岐点が辛いからだろうな。

 ゼロサムゲームで、しかも得る者が徹底的に得る上に、その数がごく少ない仕事だ。

 得られない者はマジでゼロなのだ。

 自分が抱えている芸人? が売れるかどうかなんて、判らないだろうし。

 タリさんの場合、そもそも来る者は拒まずという前提条件が間違っていたんだろうなあ。

 日本だって、タレントを募集する時はオーディションやるもんね。

 やりたいという人を全部抱えていたら、そんな事業は破綻するに決まっている。

「今はどうなっているのですか?」

「同業者、というか人気芸人を引き抜いた者が、わたくしの劇場(こや)と似たようなものを作りまして、客は皆吸い取られてしまっています。

 こちらも興業を続けてはいるのですが、そもそも人気がある者のあらかたが抜けたため、閑古鳥が鳴いている始末で。

 少数ながら根強いファンが来てくれているのですが、いかんせん赤字がかさむばかりの状態です」

 まあ、そうだろうな。

 で、俺にどうして欲しいと?

「お願いです!

 知恵でも資金でも結構です。

 マコト様の助力が必要です!

 このままではセレス芸能は倒産し、登録している芸人の多くが路頭に迷うことになります。

 現在でもろくに給金を払えず困窮している者も多いのです」

 いや、そうそっちに都合のいいことばかり言われてもなあ。

「所属している人たちは、もともと個人で芸能活動をやっていたんでしょう?」

 セレス芸能を辞めてももとに戻るだけなのでは?

「現在の王都は、わたくしが始めた劇場(こや)型の芸能活動が主流になりつつあります。

 路上や広場で活動しても、以前のような収入が得られるかどうか。

 さらに、大半の者は今更芸能以外の仕事ができるほどのスキルを持っておりませんし」

 まあ、転職できる人はとっくにやっているだろうしね。

 劇場(こや)を作ってしまったことで、そういう人たちの収入を絶つことになってしまったとタリさんは嘆いているけど、それは違うんじゃないかな。

 多分、そういう時代になってきているんだよ。

 王都は識字率も高いし、情報の伝達や拡散はアレスト市なんかとは比べものにならないだろう。

 集約型の第三次産業が発達する環境が整ってきていると言える。

 そういう意味では、タリさんはいち早くパラダイムの変化を嗅ぎ取って劇場(こや)を作ったわけで、経営センスはなかなかのものなんだろうな。

 でも、いかんせん商売では殿様だったということで。

 それからタリさんの愚痴とも懇願ともつかない話が続いたので、俺は辟易しながら聞くことは聞いた。

 何か用があればお断りできたのだが、ジェイルくんは帰ってこないしソラルちゃんたちも逃げたのか用があるのか、顔を出さない。

 しょうがなく、俺は後日タリさんの劇場(こや)とやらを訪問することを約束して帰ってもらった。

 こっちにも都合があるので、日付は決めなかったけど。

 疲れた。

 夕食前に帰ってきたジェイルくんは、ムストくんに猫喫茶第一号店の候補地を探すように指示したことを報告した。

「張り切ってましたから、すぐにでも結果を出すのではないでしょうか」

「それは凄いね。

 で、実はジェイルくんがいない間に訪問者があってね。

 ほら、王太子府の待合所で話しかけてきた人がいたでしょう」

「ああ、タリ・セレスといいましたか。

 芸能関係の事業者でしたね」

 知っているのか!

 あの時、ジェイルくんは場を外していたと思ったんだけど。

「後でヒューリア嬢に聞きました。

 マコトさんに関係することは、すべて報告するように言ってあります」

 それも怖い気がするけど、まあジェイルくんならいいか。

 ソラルちゃんは俺の秘書で、ヒューリアさんが社交秘書だとしたら、ジェイルくんはそれらすべてを束ねる大番頭といったところだからな。

 それを聞いたジェイルくんは、うれしそうだった。

「大番頭ですか。

 いいですね。

 これからはヤジマ商会の大番頭と名乗ることにします」

 いや、ジェイルくん冗談だから!

 俺の抗議をすらっと流して、ジェイルくんは言った。

「それで、セレス氏は何と?」

「事業がうまくいってないということで、資本提携か経営参加して欲しいって」

 俺がタリさんとの会話の内容を説明すると、意外やジェイルくんは即座にニヤリと笑った。

 何?

「いいですね。

 本当にもう、マコトさんの経営センスには脱帽です。

 運もありますが」

「え?

 ジェイルくん、乗り気なの?」

「もちろんですよ。

 すでに事業体として存在していて、ある程度の実績もある。

 ギルドから営業許可をとる必要もない。

 ヤジマ商会の新事業としては最適ではないですか」

「でも赤字だという話で、しかも根が深そうなんだけど」

「だからいいんですよ。

 この際、資本を出して事業ごと乗っ取ってしまいましょう」

 過激だ!

 ジェイルくんって、こんな性格だった?

「乗っ取るってことは、ヤジマ商会でその仕事を引き継ぐってこと?

 でも、負債が凄いらしいよ」

「今、ヤジマ商会には投資したいという貴族や大商人が押し寄せています。

 その金の使い道が必要なんですよ。

 赤字結構ではないですか。

 失敗してもいいんです。

 いったん投資したら、大金であればあるほど抜けられなくなりますからね」

 悪魔だ。

 ジェイルくん、ラナエ嬢を越えたかも。

 俺、どうなっちゃうんだ?

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